えっ?錬金術って釜かき混ぜるだけじゃないんですか? 作:どか0623
蜂の巣の表面を少し“ナイフ”でカットする。
本来なら、このまま斜めにした板などに置いておけば、ハチミツが自然に垂れてくる。だが、今回は器材があるので、それを使ってみることにする。
その器材とは――“遠心分離器”。名前の通り、遠心力を使って物質を分離する装置だ。
理科の授業で、ビーカーに泥水を入れて放置すると層に分かれる――あの実験を思い出してほしい。
要するに、あれの発展版だ。
もっとも、ハチミツの場合は比重の軽い蜜が外側へ行くけど……まぁ、それは気にしなくていいだろう。
準備しておいた蜂の巣を遠心分離器の容器にセットすれば、あとは簡単だ。
全力で取っ手を回すのみ!
……ああ、最近ずっと腕を酷使しているからキツいなぁ。
まだ会ったことはないけど、ハゲルさんにお願いしたら、自転車のペダル式に改造してくれないかな。今度、挨拶がてら話してみよう。
雑念を交えながら取っ手を回すこと数分。もういいだろうと蓋を開けると、甘いハチミツの香りが鼻をくすぐった。
……今度から食品系をメインにしてもいいかもしれないな。
クラフトとか、燃える砂とか、星の砂とか――あの辺の苦労を思い出して、少し複雑な気分になる。
+
買い置きしてある“ミルクの樹液”をコップに注ぎ、ハチミツを加えてのどを潤す。
はぁ~、甘くて美味しい。
やっぱり、一仕事終えたあとの糖分は格別だ。いや、一仕事どころか、もう5日間も全力でやってるけど。
無心で何かに打ち込むのは得意な方だと思っていたが、やっぱり慣れない作業は疲労の蓄積が段違いだ。
散らかり放題の作業台に目をやり、思わずゲンナリする。
あれはあとで片付けるとして――燃えるリボンのほうはどうするかな。他に火薬系のアイテムを調べるべきか、それとも大人しく燃える砂だけ渡すか……。
うーん、それでもいい気がしてきたなぁ。
そもそも燃えるリボンを使えばいい錬金炭ができるってのも、ただの憶測に過ぎないし。
アイテムとしてのレベルが高いからといって、必ずしも上質な素材が錬金できるとも限らない。
結局、だらだらと1時間くらい休憩してから、ようやく後片付けを始めた。
+
作業台の片付けを終え、ついでに店全体の掃除にも取りかかる。
商品棚、床、カウンターを順に拭き掃除し、次は台所。
遠心分離器の中に残ったハチミツをスプーンでできるだけ瓶に移し終えたら、今度は水洗いだ。
「さて、これで最後か」
問題は――遠心分離器に残った蜂の巣の処分方法だ。
生ごみってこの世界だと厄介なんだよな。ビニール袋がないし、紙袋は水分で破けるし。
俺は普段、庭の小さな畑に埋めて堆肥にしている。ひとり暮らしでごみの量も少ないから、今のところ腐敗臭とかも問題ない。
でも、本来はもっと細かく刻んで、乳酸菌とかで発酵させてから土に混ぜるのが正しいらしい。量が増えたらちゃんとした処理が必要になるだろう。
しかも今回は蜂の巣だ。ハチミツを搾った後とはいえ、そのまま土に埋めたら虫が湧くだろうな。
面倒だけど、ごみ処理施設まで持って行くしか――
……ん?
そういえば、蜂の巣を使ったアイテムが本に載ってたような。
本棚から“――――の理論”と、表紙が擦れて読めなくなっている本を取り出し、ページをめくる。
――あった。
この本によると、蜂の巣から“ロウ”が作れるらしい。いわゆる“蜜蝋”ってやつだ。
蜜蝋は巣そのものを使うので、ハチミツをとったあとの搾りかすでも問題ない。
捨てるのはもったいないし、せっかくだから作ってみるか。
【用意するもの】
1. 片手鍋
2. 蜂の巣(搾りかす)
3. 目の粗い布 ×2(今回はゼッテル)
4. 金属の容器(鍋に収まるサイズ)
まず、片手鍋に水を張って弱火にかける。
沸騰したら、蜂の巣をゼッテルで包み、四隅をしっかり縛る。あとで取り出しやすいように、紐は長めにしておくと良い。
縛った包みを鍋に入れて煮込む。すると、蜜蝋が溶け出して湯が茶色く濁ってくる。
蜜蝋の融点は70度前後らしいので、長時間煮る必要はない。
いい感じに溶けたら、包みを取り出し、冷めて固まる前に中身を絞り出す。
――激アツなので火傷注意!
絞り終えたら、鍋を火から下ろして冷ます。
すると、表面に3センチほどの厚さで蜜蝋の層ができる。これを金属の容器に取り出せば、ロウの原型は完成だ。
でも、このままじゃ不純物が残っているので、ろ過を行う。
鍋の濁った水を捨て、新たに水を張って再び火にかける。
その間に、金属容器に移した蜜蝋をもう一枚のきれいな布で包んでおく。
湯が沸いたら、蜜蝋入りの金属容器を鍋に入れて湯煎する。
しばらくすると、蜜蝋が再び溶け、布の中から透明な液体として容器に流れ出す。
これでろ過は完了だ。
「ふぅ」
額の汗をぬぐい、慎重に金属の容器を湯から取り出す。
ろ紙じゃなく布で代用したから完全とは言えないが、不純物はかなり取り除けたと思う。
ほぼ透明なロウの出来栄えに、ひとり頷いて納得する。
我ながら上出来だ。それにロウなら、火薬とはいかないまでも、良質な錬金炭の材料になりそうだ。
そこまで深く考えていたわけじゃないが、思わぬところで収穫があったな。
錬金炭って、たしか蜂の巣も材料にできたはず。だったらロウなら文句なしだ。
……いや、待てよ?
燃える砂と星の砂。この2つを混ぜて、ロウで固めれば――燃えるリボンと同じになるんじゃないか?
うん、悪くない。
そうと決まれば、ラストスパートだ!
待っててよ、ロロナちゃん!
キミに最高の素材をプレゼントしてみせるぜ!
「オラオラオラオラ!」
作業には一切関係のない掛け声をあげながら、俺は謎のテンションでアイテム作成に没頭するのだった。
ようやくリボン完成(リボンとは言ってない)
ちなみにロウもリリーのアトリエでは遠心分離器を使うのですが、やはり鍋の方が簡単そうなので”片手鍋”に変更しました。