えっ?錬金術って釜かき混ぜるだけじゃないんですか? 作:どか0623
「カッシュくん、本当にこれ貰ってもいいの?」
「モチのロンだ。そのために持ってきたしね」
襲い来る眠気を気合で抑え込み、俺はアトリエへとやってきた。目的は、完成した燃えるリボンをロロナちゃんに渡すこと。
これを使えば、きっと――いや、おそらく、かなり出来のいい錬金炭が作れるはずだ。
確証はないが、そこそこ自信はある。なにせ、この燃えるリボン、自分で言うのもなんだが素晴らしい出来なのだ。
火打ち石ほどの小さな火種で着火すれば、手持ち花火のような勢いで数分燃え続ける。それも、わずか1センチ程度の欠片で、だ。
ロウで固めたおかげで燃焼時間は延びているようだが、火力は少し抑えられてしまっている気がする。
いずれは爆弾系の材料にしたい。だから、リボン状に成形する方法はもっと模索しておかないと。
「うわぁ、ありがとう」
「いえいえ。それじゃあ、城の課題、がんばってね」
「え、もう帰っちゃうの? 立ち話もなんだし、中で一緒にお茶でも飲まない?」
「そうしたいけど、俺も城に仕事を受けに行こうかと思っててさ。……ほら、モタモタしてたら割のいい仕事なくなっちゃうかもしれないし」
魅力的な申し出だったが、ロロナちゃんの課題を邪魔したくない。ここは適当な理由をつけて帰ることにした。
帰る前に、燃えるリボンの使用上の注意を説明していると――背後から気配を感じた。
「誰だお前は。そこにいると私がアトリエに入れないではないか」
「あっ、師匠。おかえりなさい!」
とっさに振り返ると、そこにはロロナちゃんの錬金術の師匠、アストリッドが立っていた。
+
「……燃えるリボン、か。ふむ、初めて聞くアイテムだな」
ティーカップを傾けながら、アストリッドは燃えるリボンをじっと見つめる。
本当はアイテムを渡したらすぐ帰るつもりだったのに……。
ロロナちゃんが俺を紹介し、「珍しいアイテムをもらった」と師匠に見せたら、なぜかアトリエに招かれてしまった。
断ろうとしたけど、アストリッドの鋭い視線に負けた。あれはズルい。
「少年は雑貨屋をやっているんだったな。他にもこういったものがあるのか?」
「えっと、そうですね。あると言えばありますけど、無いと言えばない……かな」
「なんだそれは」
本人にその気はないのだろうが、アストリッドの口調はどこか高圧的に感じる。普通に質問されてるだけなのに、詰問されてるような気がしてしまう。
ほんわかな空気を生み出してくれるはずのロロナちゃんは、今は調合に夢中だしなあ。
「それは、うちにある材料を使って俺が作ったんですよ。なので――」
「お前が作った? ……ほう、それは中々面白いな」
思いがけない食いつきだった。
確かに珍しいアイテムかもしれないが、天才と名高いアストリッドが興味を示すほどのものだろうか?
「私はこれでも研究熱心でな。この大陸にある鉱石や植物は熟知している。しかし、このアイテムに使われている素材は見たことがない」
「見ただけで素材まで分かるんですか?」
「天才だからな。それで、少年はどこでその素材を調達し、それを扱う知識を得たんだ?」
「あー、それは……」
正直、両親がどこで素材を集めていたのかは俺も知らない。知識も、本で学んだことが大半だ。
だからといって「分かりません」と答えるのも、どうかと思うしな。
まあ、適当でもいい気がするけど……ロロナちゃんの師匠だし。今後のことを考えると……う~ん。
……まあ、いっか。隠すようなことでもないし、聞いてみたいこともある。
「アストリッドさん。実は俺は、この世界の人間じゃ――」
こうして俺は、難しく考えるのをやめて、アストリッドに自分の状況を包み隠さず語り始めるのだった。
+
「ふむふむ、なるほど。どうやらお前は頭がおかしいらしいな」
一通り話し終えた直後の感想が、それだった。
あまりにストレートな物言いだが、この荒唐無稽な話を聞かされた相手の反応としては、まあ妥当なのかもしれない。
「し、信じてはもらえませんか」
「当たり前だ。雑貨屋なんかより、その誇大妄想を活かして本でも書いてみたらどうだ。売れるとも思えんがな」
呆れているのか、バカにしているのか。どちらにしても、普通は信じないよな。
アストリッドはお茶を啜りながら、調合中のロロナちゃんの背中をちらりと見る。
「……その話が本当だとして。お前は今後、どうするつもりだ?」
「それはもちろん、ロロナちゃんを全力でサポートします。それが自分のためでもありますから」
「……そうか」
信じてはいない――そう言ったはずなのに、アストリッドは何か思うところがあるようだった。
しばらくロロナちゃんを見つめていたかと思うと、ふいに口を開いた。
「お前の話が真実かどうかはどうでもいい。目的が一致しているなら、それで構わん。……まあ、私としては嘘であって欲しいというのが本音だがな」
「ん?」
「いやなに、自分たちの世界が誰かの創作物だなんて、気分の良い話ではないだろう。たとえそれが真実だとしても、やはり気分は悪い」
「……ああ、すみません」
ある日突然、自分の人生が誰かの作った物語の一部だと知らされたら、どんな気持ちになるだろう。
努力も失敗も、全部“筋書き通り”だったなんて――冗談じゃない。
信じる信じない以前に、俺はもう少し配慮すべきだったのかもしれない。
「気にするな。話半分……いや、十分の一くらいにしか信じていないからな」
十分の一か……それ、意外と高くない?
少しだけ信じてくれていることに驚きながら、アストリッドの次の言葉を待つ。
「それで? そんなつまらん話をしたってことは、何か私に頼みごとでもあるんだろう? ことのついでに聞いてやる」
「あ、はい。そうですね」
そうだった。くだらない話をわざわざしたのには理由がある。
ダメで元々。言うだけ言ってみよう。
「えっと、今の話が本当だという前提で聞いて欲しいんですが……俺が地獄に行かないで済む方法って、何かありませんか?」
信じてくれなくてもいい。ただ俺は、どうすれば地獄行きを回避できるかを知りたいんだ。
それさえ分かれば、あとは気楽に、なるべく楽して生きていくつもりだ。
「そう言われてもな。私はその神やら天使やらに会ったこともなければ、その“ゲーム”とやらも知らん。これだけの情報で判断しろと言われても、無理だ」
「……そう、ですか。あ、そうだ。神様に会うようなアイテムって、作れませんかね?」
「会ってどうする。直接聞けば達成条件とやらを教えてくれると思ってるのか? そんな親切な連中なら、最初から隠したりせんだろう。それに、そんなものは作れない」
「天才と呼ばれるアストリッドさんなら、ひょっとしてって……思ったんですが」
「ふむ、そうだな。たとえば少年、この紙に“すべてを焼き尽くす炎”を描いたとして、紙が燃えると思うか?」
「そんなわけないじゃないですか」
「その通り。私もそれと同じだ。天才アストリッドは、この世界においてのみ成立する存在。外の世界とやらでは、何の保証もない」
「な、なるほど……」
そう都合よくはいかない、か。
やっぱり自力で達成条件を探して、クリアするしかないようだ。
+
「できたー!!」
しばらくアストリッドと取り留めのない話をしていると、ロロナちゃんの明るい声がアトリエに響いた。
完成した錬金炭を嬉しそうに掲げ、そのままアストリッドへ手渡す。
「ほう、よくやったなロロナちゃん。これはかなりの出来だ。ここまでのものを作るとは……素直に褒めてやろう」
「えへへ、師匠に褒められちゃった」
「良かったね、ロロナ。あとはこれを量産して提出すれば、とりあえず課題はクリアできそうだね」
「うん。カッシュくん、ありがとう。あの素材のおかげだよ」
ああ……ロロナちゃんの笑顔がまぶしい。
しばらくは“燃えるリボン”を頑張って作り続けないとな。そのためには、また“星の砂”を作らなきゃ……。
「ロロナよ、少し錬金釜を使うぞ」
「えっ? あ、はい。どうぞ、使ってください」
お茶を飲んでいたアストリッドは、入れ替わるようにして錬金釜に向かい、調合を始めた。
「珍しい。面倒くさがりの師匠が自分で調合なんて」
ロロナちゃんが小声でつぶやいたその一言。……それ、聞こえたら怒られるぞ。
+
「完成だ」
ロロナちゃんと少しお茶をして、そろそろ帰ろうかな――なんて思った矢先のことだった。
調合を終えたアストリッドが、小さくそう呟いた。
「師匠、何を作ってたんですか?」
「だから“お姉さま”と呼べと、いつも言っているだろう」
「恥ずかしいから嫌です」
気になったロロナちゃんが、アストリッドの手元を覗きこむ。
「うわぁ、かわいい! 師匠、そのリボンどうするんですか?」
「え、リボン……?」
その言葉に反応した俺は、座ったまま聞いていた姿勢から即座に立ち上がり、慌てて二人のもとへ駆け寄る。
ロロナちゃんはアストリッドから真っ赤なリボンを受け取って、うっとりと眺めていた。
「ば、ばかな。そんなにすぐできるわけ……っ」
「正真正銘、お前が作った“燃えるリボン”。その改良品だ」
ありえない。俺はこれを完成させるのに、丸々5日以上かかったんだぞ!?
それを、たったの10分足らずで……? いくら天才でも、そんな馬鹿な――
「簡単だったぞ」
「うわぁんっ、お姉さまあぁぁぁ!!」
「お前は呼ぶな、気色悪い」
ショックのあまり膝から崩れ落ちた俺に、アストリッドは容赦ない一言を放つのだった。
次は何を作ろうか。
リリーのアトリエの攻略本とにらめっこ中です。