エオルゼア紀行譚 作:黒衣銀鉱商店
「――こういう時は、どの神に祈れば良いんだ!?」
ふと放たれた相方の一言に引き止められる。
「そうだな、地下墓地の定番と言えばナルザル様だけれど、古の時を暴こうとしているわけだからアルジク様にお伺いを立ててるのも良いかもしれないね」
「ああ、両方行けただろう。その地下墓地の探索中に何かの怒りに触れて潰されそうになっていない状態ならな!」
「やめてくれよ、やっとミューヌさんのお茶の味を思い出せそうになった所なんだぞ僕は」
「現実を直視しろぉぉ!」
『ヴォォォ』
悲痛な叫びに呼応するように口を開いたスケルトンの頭を戦斧が容赦なく砕き、遥か後ろに置き去りにしていかれたそれは、
「なあ、さっきからそうやって走り抜き際に処理しているの、逆にアレを大きくしているだけだと思うんだけど」
「だから聞いただろ!どの神に祈れば良いんだって!」
「ああ、そういう――ただ、これ自体がナルザル様の神罰な気がするけどねっ、『
「ぬうんっ!」
前方から迫りくる矢を手早く呪術で朽ちさせ、追撃で古びた弓ごと両断され、確かに進路から弾き出されたはずのスケルトンが、吸い込まれるように骨塊に飛んでいったのを見届ける。
「チャンスは一度だけしか無いんだけど、取り敢えずやってみるよ」
「良いから早くしろ!埒が明かない!」
焦る声に背中を押され、なけなしの集中力を思考に割く。
大丈夫、いつもやっている事だ。杖に刻んだ文字を無意識になぞりながら、声色にエーテルを載せる。
「金色の貴婦人、審理の監督者、その威光地の底にも届かん。岩砕き骸崩す力を此処に、『ファイガ』!」
確かな重みと共に杖を振りかざし、先端の宝石から光が迸り――何も起きなかった。
「うーん、ダメだこれ。やっぱこの地下墓地の極性自体が異常なまでに霊極に傾いているせいか、属性エーテルに形を与えられない」
「アーゼマ様がサボったとかじゃないのか?」
「諸説ある」
「くそっ、こんな地の底でくたばるのはごめんだ!しかもスケルトンとかいう雑魚に押しつぶされて死ぬのは倍でごめんだ!うおっ!」
上ずった声をあげる相方に力づくで引き戻される。腕を離して貰い目を見張ると、足下に底が知れない落とし穴が広がっていた。
――後が無くなった。
相方と素早く目を合わせてから振り向くと、骨塊から無数の頭蓋骨が、その眼窩がこちらを射抜く。無機質な、しかし確たる視線を感じながら、記憶の奥底を叩く。
カンテラの光、カビ臭い書庫。大学の深奥で呪書を手にした時も、こんな視線をどことも知れず感じていた。
現実を過去にシンクロさせ、一頁一頁と必要な知識を選別していく。
「霊銀の帝王、砂時計の主よ、その御手を翻ら…せ…」
思念を紡ぐ毎に
「足を休め…溢れ落ちる…砂を…止め…」
ついにエーテルが凍てつく。押し流すための
ならば血肉ごと燃やし、口から吐き出し、声を放つ。
「因果から、我が身を…逃れさせたまえ!『スロウ』!」
瞬間、全身にこびりついたエーテルが目先に迫った骨塊に飛びかかり、凝固していき。
「氷天宮より御照覧あれ!」
豪胆な気合と共に振りかぶった斧で逆袈裟を決めに行く相方の背中を最後に、
自分の意識が体を置き去って行った。