何の為に剣を振るうか   作:虹眼の代替竜

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#01 上陸

──あんなヤツほっとこうぜ。

 

 

 何を間違えてしまったんだろうか。

 

 

──うわ、あいつこっち見てね?

 

 

 僕の周りには、誰もいなくなった。

 

 

──まだガッコ来てんのかよ。

 

 

 そして、周りから否定されるようになった。

 

 

──気持ち悪い。

 

 

 ああ、そうだな。

 とても──キモチワルイ。

 

 

 

 

 

 

 

 ◆◆◆◆◆

 

 

 

 

 

 

 

 

 何時間も揺られた(にっく)き船を降り、安定した陸地に足を着けた。

 

(ああ、足元が安定してるって素晴らしい)

 

 まだ揺れているような感覚が残っているが、視覚的には確かに上陸している。

 肩を回したりして身体をほぐしていると、校舎がある方向から白と青のカラーリングというなかなか派手な制服を着た男子生徒がこちらに近寄ってきた。

 

「久しぶりだな」

 

「ああ、丸藤(まるふじ)先輩でしたか。お久しぶりです」

 

「……あれから5年経ったが、その、調子はどうだ?」

 

 僕の知る限りではいつも毅然とした態度をとっている丸藤先輩が言い淀んでいる様子は、なんとも奇妙な感じがした。

 

「ここ1年はだいぶ調子が良いです。というかデュエルアカデミアに入学したんですから今更ですよ」

 

 僕は苦笑しながらそう答える。

 

「そういえばそうだな。まあ、なんだ。歓迎するぞ、後輩」

 

「はい、またよろしくお願いします」

 

 再び一緒の学校に通うことになった丸藤(りょう)先輩に歓迎され、僕の2度目の高校生活は始まった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 とどのつまり、僕は俗に言う『転生者』だ。

 と言ってもトラックに轢かれて死んだら神様に会ったとかではない。

 20歳を過ぎ大学生でいられるのもあと1年くらいかぁ、と友人と話しながら遊戯王カードで対戦して遊んだ帰り道、急に意識が遠のいて気づいた時には小さな子供になっていた。

 初めはパニックになり、子供ゆえに緩い涙腺から大粒の涙を流しながら泣いてしまった。すると両親らしき男女、というか昔の僕の両親そのままがやって来た。

 

 あれ、別人になったんじゃなくてタイムリープ系?

 

 予想外の状況からの更に予想外な出来事で、一周回って落ち着いた。

 きょとんとしている僕を見て『昼寝をして怖い夢でも見たのだろう』と両親は思ったらしく、

 

「よし、じゃあ響也(きょうや)が好きなビデオ観ようか!」

 

「そうね、今日は特別に夕ご飯までずっと観てていいわよ!」

 

 と、あやしてきた。

 

 僕はなんとも言えない申し訳ない気持ちになったけど、とりあえず今は落ち着く時間と情報が欲しいので「うん」と答えた。

 父がテレビの方へ行き、いそいそとビデオデッキを操作してから戻ってきた。

 ビデオの再生が始まり、製作会社のロゴであろう『KC』という……、KC?

 

 『まっさかー』と思っていたが、次にビデオ内容のタイトルが派手にレタリングされデカデカと画面に登場した。

 

 

【バトルシティ決勝トーナメント全試合総集編】

 

 

 あ、うん。

 ここ元の世界じゃないわ。

 

 こうして僕は若返り&遊戯王世界にトリップをしたのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 とまあこんな感じで、デュエルが強ければ大体のことはまかり通る遊戯王世界にいるわけだ。

 ちなみにデッキはこの世界に来る直前に友人とのデュエルで使用していたものが自室の机の上にぽつんと置いてあったので、それを調整しながら今現在も使用している。

 デュエルアカデミア、丸藤亮、という名詞から分かると思うが、ここは遊戯王GXの世界線かつ主人公達と同じ世代なのだ。

 

 僕は諸事情により他の新入生よりも1週間ほど早くアカデミアに来ている。そのため船着き場に『カイザー』と名高い丸藤先輩が来ていても騒がれる心配は少ない。

 

「よし、それでは行くか。顔見知りということで君を校長室まで道案内するよう頼まれている」

 

「なるほど。だから丸藤先輩がここにいたんですね」

 

 散歩中にたまたま会っただけかと思ってた。

 

「そういうことだ。今は春休みだから校舎にはデュエルフィールドくらいしか生徒はいない。一緒に行っても変な噂や妬みはないはずだ」

 

 お、さすがに自分が有名人だと自覚があるからこういう配慮はするのか。しかし『カイザー』ねぇ。

 

「僕もカイザーって呼びましょうか?」

 

「よしてくれ。君にカイザーと呼ばれるのは違和感しかない。今まで通り先輩呼びで大丈夫だ」

 

「了解です」

 

 などと雑談をしつつ歩いていると、目的の校長室の前に到着した。

 

「校長、例の新入生を連れて来ました」

 

「うむ、入ってくれたまえ」

 

 失礼します。と丸藤先輩と声を合わせて言ってから扉を開くと、ハg……スキンヘッドで髭が立派な男性がゲンドウポーズを決めていた。

 

「ようこそデュエルアカデミアへ。私は校長の鮫島(さめじま)といいます。まずは入学おめでとう。今は春休みなので校舎は静かですが、新学期が始まれば他の新入生も加わって賑やかになります。君の以前の状態と現状は資料で読ませてもらいましたが、どうしても君本人に確認したかったのでここへ呼びました。

症状(・・)は今はどうですか?」

 

「はい。今のところ特に不調はありません。受験会場でのデュエルも問題なくできました」

 

 僕の返事を聞くと、鮫島校長はゆっくり頷き、

 

「それを聞いて安心しました。今後体調不良などがあった場合は、保健の鮎川(あゆかわ)先生に相談すると良いでしょう。もちろん私や、気心の知れた丸藤君でもいいですよ」

 

 と穏やかに助言をくれた。

 

「長い船旅で疲れたでしょうし、今日はここまでにしておきましょう。君の寮は、着ている制服から分かるように『ラーイエロー』です。部屋には事前に送った荷物が届いているはずなので、ちゃんと今日中に確認しておくように。それではまた後日」

 

「分かりました。失礼しました」

 

「失礼しました」

 

 僕と丸藤先輩は校長室から退室した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……実際に会っても強者の雰囲気は感じられませんね。本当にあの少年が、カイザーと称される丸藤亮が負け越している(・・・・・・・)相手なのか……?」

 

 




タグにもありますが、主人公は『強め』なだけで、決して『最強』ではありません。デュエル的にも、人間的にも。

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