何の為に剣を振るうか 作:虹眼の代替竜
フラグを建築中
「へぇー、ここがレッド寮かぁ」
真新しい赤いアカデミアの制服を着た少年が、明らかにボロボロな建物を前に感嘆の声を上げた。
「俺の部屋は、ここか!」
少年は、これまたボロボロな寮の部屋のドアを勢いよく開ける。
「うわわ!? な、なんスか!?」
いきなりの突撃に室内の小柄な少年が驚いて目をむく。
「お、同室の奴か。俺は
「うわー、元気な人っスねー。おいらは
「翔か、よろしくな!」
「よろしくお願いするっス」
「翔は新入生か?」
「そうっスよ」
「よし、一緒に探検に行こうぜ!」
「え? 探検って」
「よし、しゅっぱーつ!!」
「ちょ、ちょっと〜!?」
元気な少年/遊城十代は、同室の少年/丸藤翔の腕を引っ張り走り出した。
真っ先に目に入ったアカデミア校舎に向かって。
◆◆◆◆◆◆
僕が他の新入生に先んじて入寮してから1週間が経った。
特に目立つような行動をしなかったのが功を奏し、変に突っかかってくる生徒はいなかった。
丸藤先輩とのデュエル以降、校舎には近寄っていないので他寮の生徒と遭遇していないから、という理由も大いにあると思うが。
「そういえば、日程では今日が新入生の入寮日のはず」
そうすると、ここイエロー寮もそのうち騒がしくなるだろう。
先輩方も何かしら準備をしなければならないのか、先ほどから忙しなく作業している人が見て取れる。
「それなら、校舎は逆にガラ空きかも」
下手に質問しては手伝いを言い渡される恐れがあるので、僕はこっそり寮を抜け出し校舎に向かった。
◆◆◆◆◆◆
「ここはエリートであるオベリスクブルーの生徒が使うデュエルフィールドだ。貴様らのようなオシリスレッドが入っていい場所ではない!」
自分たちを恫喝する青い制服の男子数人に対し、遊城十代は不敵な笑みを浮かべて挑発する。
「へっ、じゃあどっちが強いか試してみよーぜ!」
「貴様! オシリスレッドの分際で!」
「まあ待て」
安い挑発に乗らない冷静さを、もしくは驕りを持って取り巻きを止める、
「面白い。この
「おっ! お前がデュエルしてくれるのか? よっしゃ、早くやろうぜ!」
明らかに見下す言動をしている相手だろうと関係なく、デュエル優先の
「あなた達、ここで何をしているの?」
今にも2人のデュエルが始まりそうな時に、それを諫める透き通った声が室内に響いた。
「て、天上院クン」
先程まで余裕ぶっていた万丈目は、突如現れた人物を見るや否や相好を崩す。
その人物は、中等部からアカデミアにいる者なら誰もが知っている有名人。
女子生徒の中でも抜群の強さを誇り、またその見目麗しさから数多の男子生徒の憧れの
「もうすぐ歓迎会の時間よ。早く寮に戻った方がいいわ」
「ふ、ここは天上院クンの顔を立てて引くことにしよう」
そう言い残してデュエルフィールドを後にする万丈目とその取り巻き達。
「あなた達も。レッド寮は遠いから急がないと間に合わないわよ」
「マジか!? やべーな、急ぐぞ翔! ダッシュだ!」
「ま、待ってよ〜、アキニ〜」
自分以外誰もいなくなったデュエルフィールドで、天上院明日香は独り
「まあ、ここで待ってても来るとは限らないか」
そのデュエルフィールドは、先日丸藤亮と霧遊響也が使用したものであった。
◆◆◆◆◆◆
「うーん。ゾロゾロとブルー生が来たからつい隠れたけど、ここどこだろう?」
絡まれたら厄介そうな雰囲気だったから、とっさにドアが開いてた部屋に入って隠れたのだが。
「ここは、講義室かな。大学形式の机の配置だし」
と、室内を見回していたら、一番後ろの席に誰か突っ伏していた。
(うおっ!? び、びっくりした……)
その人物は、どうやらこちらの存在に気付いていないようだった。
(というか、泣いてる?)
教卓側のドアから入ったので頭頂部しか見えないが、微かな嗚咽が聞こえた。
何と声をかければいいのか分からないが、放っておくわけにもいかず、
「あ、あの……」
と小声で話しかけると、『ビクッ!』と跳ね起きて目をまん丸に見開いた。
女の子だ。
肩にかかる程度の桜色の髪に、同系統の色のリボンをカチューシャのように巻いている。
数秒の思考停止の後、その子は弾かれたように駆け出し、
「へぶっ!!」
盛大にずっこけた。
「だ、大丈夫?」
なんとなく居た堪れなさと罪悪感を感じつつその子に近付いてみると、デッキまでもを床にぶちまけてしまっていた。
向かう途中の僕の足元にも飛んできていたカードを拾って集める。
デッキの中身を見られたくないデュエリストも多いので、カードの表は極力見ないように努めたが、ある1枚が見えてしまった。
『真六武衆─キザン』
「六武衆、か」
元の世界の遊戯王プレイヤーならば、このカード1枚だけでデッキの大まかな構成は把握できるだろう。
遊戯王、こちらの世界ならばデュエルモンスターズというカードゲームにはカード名の一部が共通する『名称テーマ』という概念がある。
例えば今の『真六武衆─キザン』の効果には
自分フィールド上に「真六武衆─キザン」以外の「六武衆」と名のついたモンスターが表側表示で存在する場合、このカードは手札から特殊召喚する事ができる。
と記されている。
この効果で特殊召喚するためには他の『六武衆』モンスターが必要で、それらも『六武衆』に関する効果を持つものが多い。
そうやってデッキ構築をしていくと、個々人で配分や一部のカードは異なるが、『六武衆デッキ』と称するべきものができあがる。
このカードのように効果の条件に名称の一部が指定されている場合は、汎用以外そのテーマカードで固めるのが安定して強い。
なかなかの強テーマ、と感心していると、
「……アンタもズルいとか思ってるんでしょ」
他のカードを拾い集めていた女の子が、諦めたように、悲しげに呟いた。
「どうしてですか?」
「ふぇ?」
しかし、僕が想定外のセリフを言ったことでその子はポカンと呆けてしまった。
「別に僕らは同じデッキ同士でデュエルするわけではないでしょう? それならば、誰がどんなカードを手に入れられるか、どんなデッキを構築するかは、それこそ人の数だけ可能性があります。六武衆は珍しいカードですが、それを手に入れられる
おそらくこの子は、『珍しくて強いカードを使っている』という理由でデュエルした相手や観戦者から非難を受けたのだろう。
だから、僕は伝えるべき言葉を口にした。
かつて、言ってほしかった言葉をあげた。
「そのデッキは、君だけが作れる君のためのデッキだ。それがズルいなんて、絶対にあるもんか」
「ぅあ、ああぁ、うああぁぁぁんっ!!」
女の子が僕に縋り付いて泣き出す。
僕はその子の背中を優しく撫で続けた。
「……ごめん。ありがと」
しばらくして落ち着いたその子は、どこかスッキリした声音でそう呟いてから去っていった。
(たぶん『ごめん』は制服に関してかな)
僕の制服の肩から胸元にかけては、その子の涙(彼女の名誉のために涙だけということにしておく)で盛大に濡れていた。
安堵と羨望の入り混じる感情を持て余しながら、僕もその講義室を後にする。
「あ」
「ん?」
再び女子生徒と遭遇。
ただし、さっきとは別人。
女子にしては高めの身長、ロングの薄茶の髪、凛々しい顔つき。
ああ。
「天上院明日香か」
言ってから(あ、やべ)と思ったが、
「あら、亮から聞いていたのかしら? まあいいわ。ようやく探し回っていた成果が出たようね」
丸藤先輩のおかげでどうにかなりそう。さすがカイザー。
しかし『探し回っていた』か。
厄介事の予感がヒシヒシとする。
「霧遊響也、私とデュエルしなさい」
きりゅー君はタッグフォース未プレイ
次回デュエル予定
霧遊響也 vs 天上院明日香