何れ死ぬであろう私が鬼滅の世界を生き抜いた話。 作:蔓桔梗
すぐやったけどまだまだ不慣れで四苦八苦。
引き取った家族だけど蝶屋敷にいるのだからと妹に医学を教え込みながら今日も鍛錬に診察に研究です。
こう多忙な日々を送っていると季節が過ぎるのが早い。
今は秋の初め、服の隙間から流れ込んでくる冷たい風と紅く色付く樹に秋だなあと感じる。
蟲の呼吸を体得してから階級は少し上がったがやはり、鬼の頸を切るのに苦戦するせいかしばらく横這いだ。
姉は何と言えば良いのかオロオロしていたが、最終的には階級なんて気にする必要ないわと少々的外れなことを言っていた。
もともと階級はさほど気にしていなかった。正直、あの
私が気にしているのは頸を切るのに苦戦することだ。
姉の気遣いを嬉しく思いながらもどうすれば頸を切るのに苦戦しないか模索する。
一番手っ取り早くて確実なのは藤の花の毒に手を出すことだ。
しかし、それは心優しい姉がいるから躊躇われる。
それに胡蝶しのぶだって毒は諸刃の剣だって言ってたし。
投入時期見誤ると十二鬼月に完全に対応されそう。
姉の死亡フラグを叩き折るためには躊躇なんてしてはいけないと解っているのだけれど出来ればこれ以上、姉を悲しませたくないというジレンマ。
一度、毒に手を出してしまえば、完全な抗体ができて効かなくなってしまうまで使い続けることは目に見えている。
途中で止めるという選択肢はない。
お館様は鬼舞辻無惨を自分の代で殺すことにご執念だから。
私が彼の人の立場だったらそう判断を下す。
姉を悲しませたくはない。だけど死亡フラグは全力で叩き折りたい所存。
何というジレンマ。何という矛盾。
うーん…思考の袋小路にハマっている気がする。
こういう時って考え過ぎるのが良くないって言ってたよね?
ちょっと無心になるために素振りしてくる。
うんうんと鍛錬で悩み、診察をして任務をこなして、今度はうんうんと研究で頭を悩ます。
いくら胡蝶しのぶが医学および薬学に精通していたとしてもその知識を実践する私は医学のいの字もないので遠回りもしばしば。
原作ではその様子が一切ないのでこればかりは合っているのか不安になりながらも知識に身を任す事しかできない。
「しのぶさんは凄いって改めて実感するなあ…」
最初に彼女を見たときは笑顔であんなことを言うのでちょっと苦手だった。
まあ、その後で彼女のことを更に知ったので最初ほど苦手だと思わなくなったが。
ゴトリ、と何かが崩れる感覚で顔を跳ねあげる。
「……ああ、寝落ちたのか」
キョロキョロと周りを見回すとつい先ほどと寸分違わない景色。
だけど、照明であるロウソクの灯りが絞られている。
そこでようやく、自分が寝落ちしたことを自覚する。
羽織った覚えのない羽織と灯りを絞った覚えのない照明。
私が寝落ちしている間に姉が様子を見に来たのだろう。
どのくらい寝ていたのか分からないがもう就寝すべきだろう。
腕を上げて伸び上がるとバキバキと小気味いい音が鳴る。
寝る前にもし姉が起きていたらに一言お礼を言わなくてはと廊下をそろりそろりと歩いて姉と妹が使っている部屋に顔を覗かせる。
「……?」
そこにいたのはまだ起きていた姉ともう寝ている妹ではなく、寝ぼけ眼の妹と準備されているが使われた様子のない布団だった。
思わず浮かべていた笑みを固める。
きっとちょっと部屋を出ているだけだと部屋を見回す。
「………」
ない。
姉の刀も、蝶のような羽織も。
「ねえ、カナヲ。姉さんがどこに行ったか知っている?」
どうしようもなく嫌な予感がする。
声が震えないように、穏やかに聞こえるように努めながら所在を知ってそうな妹に問う。
「…見回りに行ってくるって」
この予感がどうか間違いであってほしいと心の底から願っていたが、儚く散った。
「……そう、明日も早いのだからカナヲはもう寝てなさい」
うんと素直に布団に潜り込む妹を横目に襖を閉めた。
日が登るまでにはまだ時間はある。
私は急いで部屋に戻ると最低限の物を引っ掴んで外に飛び出た。
妹は見回りだと言った。ならば、そう遠い場所までは行っていないだろう。
付近の地理を脳内に思い浮かべながら姉が行きそうな場所を探す。
杞憂であればそれで良い。でも、どうしようもなく悪い予感は続く。
何処だ。何処にいる。
駆け回っても見つからない。空が段々と白んできて私の焦りが更に募る。
―――幸せの時が壊れる時、いつも血の匂いがする
主人公の言葉が脳裏を過る。私にとっての最悪の結末がチラチラと顔を覗かせる。
「姉さんは、姉さんは生きている。死んでなんかいない!」
声を上げて最悪の結末を振り払う。
どうか、どうかと。私の全てを捧げても良い。
だからどうかと願っていると風に乗って血の匂いがした。
速度を更に上げた先に倒れ伏している人を視界に収めた。
蝶のような羽織に地に散らばる濡れ羽色の長い髪。頭の両側にちょこんと居座る蝶の髪飾り。
「姉さん!!」
それが姉だと認識した瞬間、心が絶望に覆われた。
それでも、姉はまだ生きている。治療すればまだ間に合うかもしれない。
いや、もう間に合わない。運命を変えることなんて最初からできなかったのだ。
と正反対の言葉が囁くがそんなこと意識している暇なんてない。
「姉さん!」
「……しのぶ…」
姉を抱き起こして触診する。外傷はない。内部から攻撃されているんだから当然だ。
「しっかりして姉さん!今、治療するから…!」
治療すると言ったものの、今の時代では身体の内部の負傷を治療する技術はない。
どう頑張っても絶望的な状態だ。
「良いのよしのぶ…」
姉も私ほどではないにしても医療の知識は得ている。
己がもう助からないと解っているのだろう。
イヤだイヤだと頭を振る私にしのぶともう一度名前を呼ばれる。
姉の最期の言葉なのだと解ってしまって涙が溢れる。
「しのぶ…あなたは、鬼殺隊を辞めなさい」
ああ、同じだ。あの話と同じだとこれから姉が紡ぐ続きの言葉が分かってしまう。
「あなたは、本当に、本当に頑張っているけれど…多分しのぶは……」
言葉を切った姉は瞳を閉じて、その言葉の続きは言わない。
「しのぶには普通の女の子の幸せを手に入れてお婆さんになるまで生きてほしいのよ」
目を開いて代わりに胸の奥で望んでいた想いを紡ぐ。
それはしのぶの中にもあった想いだ。
鬼殺隊だなんて、鬼なんて全部知らないフリして家族みんなで幸せに暮らしたかった。
でも、それは家族三人が揃っていないと意味がない想いなのだ。
「嫌だ。絶対辞めない!」
「姉さんの仇は必ず…必ずとる。だから言って!!どんな鬼にやられたの!?」
叶わなくなってしまった幸せにいつまでも縋り付いてはいけない。
ならば、せめてその幸せを壊した張本人を殺したい。これ以上ないほど殺す。
「お願いよ、カナエ姉さん!!こんなことされたら、私……普通に生きられない…」
「………」
姉に致命傷を負わせたのは私の想像するヤツなのだろう。
それでももし、違った時のために私は姉を問い質す。
私の悲痛な叫びに姉はとうとう観念したように言葉を紡ぐ。
「頭から血を被ったような鬼だった…ニコニコと屈託なく笑う。穏やかに喋るーー十二鬼月だったわ…」
「姉さん、カナエ姉さん…ごめんなさい。でも、ありがとう」
握っていた手から力が抜ける。
細められた目は瞳孔が開き、流れていた涙が頬を伝って止まる。
「姉さんの望みを叶えられない不出来な妹で本当にごめんなさい…」
「こんな妹を大切に思ってくれて、愛してくれて…本当にありがとう」
そして、貴女を看取ったのが貴女の大切な
「間に合わなかったのか…」
鎹鴉の急電により、現場に急行した悲鳴嶼だったが、静まりかえった現場に己が間に合わなかったことを悟った。
「悲鳴嶼さん…?」
自分の名を呼んだその声は最近、よく話していた子供だった。
「キミは…」
「悲鳴嶼さん、姉さんの…カナエ姉さんの体温が…
柱である姉のことを心配し、姉と同じくらい強くなるのだと語っていた少女。
そんな彼女の未来が哀しいものになるのだと一体、誰が予想できたのだろうか。
突然の悲劇に悲鳴嶼は涙を流し、念仏を唱えた。