何れ死ぬであろう私が鬼滅の世界を生き抜いた話。 作:蔓桔梗
「知っているか?人と鬼は仲良くなれるって馬鹿げたこと言っている女がいるぜ」
「はあ?人を喰う鬼と??狂ってんのか?」
「だよなあ。絶対、庇った鬼に食い殺されるよな」
鬼がどうやって増えるのか知った者は大抵、哀れむ。が、それだけだ。
だけど近しい人が鬼にされた時、「この子は違う」と言って庇い、喰われる。
最初は耐えられても限界に達すれば親も兄弟も関係ないのだ。その時に一番近くにいる腹を満たせる
―――鬼は哀しい生き物だ
ああ、確かにそうだ。人だったのに人を喰わねば生きていけなくなったのだ。
本能が理性を上回れば、大切な人をその手で殺め、生きる糧としてしまうのだから。
可哀想だと思う。
同情はする。
だけど、鬼が私の命を、大切なものを奪おうとするのならば私は躊躇いもなく鬼を殺す。
「『人と鬼は仲良くなれる』って言ってるくせに柱に就任できるほど鬼を殺すなんてお笑い者だよな?」
「しかも、最期は鬼に殺される」
「所詮、夢見がちな少女の戯言だからな。仲良くなれるのなら世の中、平穏だからな」
多くの隊員はその考えを聞いた時、鼻で笑った。
愚かな小娘の戯言だと。
―――パァアン
鬼を哀れみ、同情する心優しい姉がいなければ私も馬鹿げた考えだと一蹴しただろう。
大好きな両親を、姉を愛する家族を鬼に奪われたのだ。恨まない訳が無い。
――パァアン
だけど、一緒に両親が喰われた現場にいたのに、同じ思いを抱いたはずなのに。
姉は、鬼に同情した。可哀想だと哀れんだ。
―パァアン
姉のことを悪く言う奴を、侮辱する奴を見ると腸が煮えくり返るのではと錯覚するほどの怒りに駆られる。
パァアンッ!!
衝動に身を任せてぶん殴りたい。
パァアンッ!!!
だが、私も無理だと思っていたのも事実だから。人の事は言えない。
鬼を恨んでいる私では姉の想いを叶える事は出来ない。
胡蝶しのぶと違い、未来で姉の想いを叶える存在が現れると知っているから彼に託そうと無理に姉の想いを継がなかった。
鬼を恨む気持ちと鬼と仲良くしなければという使命感の板挟みになって愉快なことになるくらいならとすっぱり諦めたが今は別の意味で板挟みになって愉快なことになりそうだ。
かまぼこ隊は回復訓練に入ったようで今日も蝶屋敷は賑やかだ。
時々、遠くから様子を窺っているが彼は頑張っているようだ。
あとの二人は
よくやってくれているあの子たちを労うために用意したお菓子は食われ、裏山は荒らされ夜になれば泥だらけになった野生児が帰ってくる。
本当にしのぶさんは人に寛容だな。私だったら屋敷から叩き出す。
まあ、私だっていきなり怪我人を締め出す事はしない。
軽い忠告をして煽るように常中の道へ誘ってやろう。マジふざけんな。闇討ちしてやろうか。
いい頃合いなので座禅を組んでいる所に失礼しよう。
「一人でよく頑張っているわね。お友達は全然なのに」
いけない。いけない。好き勝手やられているところを思い出していたから皮肉たっぷりになってしまった。
彼はキョトンとしてから出来るようになったらやり方を教えてあげられるので!と元気よく返事した。
「…心が綺麗なのね」
彼だってあの二人がどう過ごしているのかを知っているのによく教えてあげようと思える。
私だったらきっちりと謝るまで教えないのに。心が広い。
「どうして俺たちをここへ連れてきてくれたんですか?」
「怪我が酷かったからよ。妹さんの存在は公認になったから拒む理由もないし」
「あとは…貴方に夢を託そうと思って」
「夢?」
いきなりのことに彼は驚く。それもそうだろう。
ついこの間、妹を斬ろうとしていたのに夢を託したいと話されるとは思わないだろう。
「ええ、『人と鬼が仲良くなれる』夢。きっと貴方なら出来るから」
私には無理だったけど鬼に同情し、姉と同じく慈悲深い心を持つ貴方ならば叶えられるだろうから。
「怒っていますか?」
人と鬼、仲良くなんて一言も口にしていないのに突然そう言った私に彼は驚いたりすることはなく、すんすんと匂いを嗅ぐともしかしてと聞いてきた。
怒っていないと言うこともできた。だけど感情でさえ嗅ぎ分ける彼にそう言っても意味はないと誤魔化すのをやめた。
「そうかもしれないわね…鬼に家族を、最愛の姉を惨殺された時から。鬼に大切な人を奪われた人々を見る度に」
あの時から身体の奥底でどろどろとした感情が渦巻いてじりじりと私の身の内を焼く。
ーーーー鬼を許すなと。
ーーーー憎き鬼を滅せよと。
心の何処かに巣食う私が蔑んだ目で囁くのだ。
「私の姉も貴方のように優しい人だったわ。自分が死ぬ間際まで鬼に同情し、哀れんでいたわ。私はそんなふうに思えなかったけど」
姉の最期が脳裏に浮かぶ。
最期まで鬼に対して恨み言一つ言わなかった。
鬼に殺されたのに鬼のことを哀れんでいた。
姉はどうしようもないほど優しい人だった。自分が醜いと思ってしまうほど慈悲深い人だった。
「竈門炭治郎くん、どうかその想いを貫き通して。貴方が頑張ってくれていると思うと私は、安心して自分の道を進めるから」
読者から胡蝶しのぶに成った私はもう、あの物語の結末は知る事は出来ないけど『これは、日本一慈しい鬼退治』と言われているのだから、きっと―――。
そんな彼に託せば多分、悔いなく
真顔で瓢箪を黙々と破裂させたり、特定の隊員に対してのみ辛辣な蟲柱がいたりいなかったり…。
〜おまけ〜
しのぶ:「困ったわね…戸棚のお菓子をなほたちに渡そうと思っていたのにないなんて…」
しのぶ:「ねえ、そこの黄い髪の坊や。お菓子、知らないかしら?」
善逸:ビクゥウ!!「いえ、知らないです!!」
しのぶ:「そう。そうよねぇ…頑張っている幼い子供のご褒美を勝手に食べる鬼殺隊士なんていないものね?」ニッコリ
炭治郎:「しのぶさん、何か困っているんですか?」
しのぶ:「そうね。最近、裏山が荒れていて。きっと野生の獣の仕業だと思うから罠を張ったわ」
しのぶ:「人間ならすぐに気づくし、大丈夫だと思うけど修行で裏山を使う時は注意して頂戴」
炭治郎:「はい!気をつけます!!」
しのぶ:「これは初歩的な技術だからできて当然だけど会得するには相当な努力が必要よ」
伊之助:「うっ…」
しのぶ:「まあ、できて当然だけど。」
伊之助:「ぐっ…」
しのぶ:「え、もしかして出来てないの?伊之助くんなら簡単かと思っていたんだけど出来ないの?出来て当然なのに?ああ、でも仕方ないわね。出来ないなら」
しのぶ:「仕方ない。仕方ない」ニッコリ
伊之助:「はあ〜ん?出来るっつうの!当然に!!ナメるんじゃねえよ!」
しのぶ:「出来るって信じているわよ。善逸くん」
善逸:「〜〜〜〜〜っ!!」
しのぶ:(ただ微笑んでいっただけなのにチョロい…)