何れ死ぬであろう私が鬼滅の世界を生き抜いた話。 作:蔓桔梗
しのなりさんは上弦の弐絶対殺す派(ガチ勢)ですが無惨様絶対許さない派でもあります。
無惨様が存在しなければ鬼殺隊も上弦の弐も誕生しなかったので当然ですね。
「緊急招集―――ッ!!緊急招集―――ッ!!」
鎹鴉の伝令を受け、山を駆ける。駆ける。
「産屋敷邸襲撃ィ!!」
間に合ってほしいと思う。でも、それは無駄だとも思っている。
だって、
お館様は、彼女たちは――――――
ドンッ!!
爆ぜた。
火薬によって威力が上がった爆発音と木と肉の焦げた匂い。そして熱風が私に襲いかかる。
――――――自らの意思で心中するのだから。
それが最善の選択だと信じて。
鬼舞辻無惨と心中しようとする。
それは知っていたがまさかこんな大掛かりな爆破だと思わなくてしばらくの間、呆けてしまう。
どこからあんな火薬を手に入れたのだろうと場違いなことに思考を巡らせかけて今はそんなことを考えている場合ではないと頭を振り、産屋敷邸跡地を目指して駆ける。
ここから最終決戦(?)の無限城編に入る。
どこがどうなって無限城で戦うことになるかは知らないが。舞台は産屋敷邸跡地としか言いようがないんだが。もしかして生えるの?無限城。
3分で終わる悪霊の家じゃん。
他の柱たちの気配がする。
一番乗りは悲鳴嶼さんだ。きっと自主的な警護ですぐ近くにいたのだろう。
「テメェかァアア!!お館様にィイ何しやがったァアーーーー!!!!!」
そして次点は不死川さんだ。
襲撃者に怒鳴るがそれは濡れ衣というか…する前にされたというか…。
不死川さんの怒鳴り声になんとも言えない顔になる。
それでも速度を緩めずに駆けていたので木々の合間から鬼舞辻無惨の姿を捕捉した。
上半身裸で有刺鉄線みたいな血鬼術みたいなものを操っている。
紙面越しではよく見た顔、直に会うのは初めましてな鬼の親玉にして全ての元凶。
その姿にギリッと奥歯を噛み締める。
私が一番殺意を抱いているのは姉を殺した上弦の弐である童磨だ。
だけど――――――
鬼が居なければ両親は死ぬことはなかった。
鬼が居なければ私たちはこんな殺伐とした世界に足を踏み入れることはなかった。
鬼が居なければ姉は死ぬことはなかった。
そう。鬼が、居なければ――――――――――――
こんなに苦しい思いしなくて済んだのに。
全ての元凶である彼が存在する限り、鬼は増える。
鬼によって誰かの悲劇が生まれる。憎しみと哀しみ、殺意の連鎖は止まらない。
苦しくて苦しくて、知らないフリをしたくても持て余してドロドロとして煮詰まることしかできない感情が心の奥底でとぐろを巻くしかない。
私が一番殺意を抱くのは、上弦の弐である童磨だ。
だけれどもそれと同じくらい私は、鬼舞辻無惨を恨んでいる。憎んでいる。
上弦の弐を殺したら次は鬼舞辻。
上弦の弐を殺す前にチャンスがあるのなら先に鬼舞辻を仕留める。
そうしなければ私は、鬼に大切な者を喰われ殺された私たちは、心穏やかに過ごせない。
「無惨だ!!鬼舞辻無惨だ!!奴は頸を斬っても死なない!!!」
「っ!!」
悲鳴嶼さんの叫びに刀を構える。
今、悲鳴嶼さんは何と言った?頸斬っても死なない?
さっすがラスボス。やめてくれ潔く死ねよ。
頸を斬っても死なないのならば、毒で殺す?
毒で確殺は出来ない。だが、動きを緩めたり回復速度を遅くする事くらいは出来る。
それを狙うのなら出すのは最も攻撃数が多い蝶の舞――――――
刹那の思考で情報を処理して技を繰り出す姿勢に入る。
誤差はあれどその場に駆けつけた全員が技を繰り出そうとする。
即興だけど、どうにか敵にだけ攻撃するように合わせられるよね?むしろ合わせてくれ。切実に。
一抹の不安を覚えたがもうトップスピードに乗っているからどうにもならない。
「苦しんで――――死―ぇ?」
捉えた。
そう確信した瞬間、踏んでいた土の感触がなくなり浮遊感が私を襲う。
その感覚が襲ったのは私だけではなく、攻撃に移っていた全員だ。
見れば土を舐める炎の姿はなく、代わりに障子がそこにあった。
私たちが立っている場所は全て障子が開ききっている場所で下に向かって屋敷の景色が続いている。
――――――まさか。これが無限城?
驚愕に満ちながら鬼舞辻を見る。
その顔はどこまでも私たちを嘲笑い、見下すものだった。
「これで私を追い詰めたつもりか?貴様らがこれから行くのは地獄だ!!」
落ちる。墜ちる。
地面が突然なくなった私たちは無限城に落ちるしかなかった。
鬼舞辻の捨て台詞にビキリと血管が浮かび上がる。
「地獄だろうがなんだろうが絶対殺す」
私はもう止まれないし、止まらない。
覚悟はあの時に出来ている。
「まずは、上弦の弐。お前だ」
ピシャリと障子が閉まった。
私たちは無限城に、死地に招かれた。
体勢を変えて着地の衝撃を分散させる。
一回転し、刀を構えて辺りを見回す。
「鬼たちがいない…?」
不意打ちで変わった環境。
その環境に対応している時に急襲されれば一溜まりもない。
鬼でも人間でもそこに弱いのは同じなのだから狙わないわけがないと思っていたがどうやら違ったようだ。
感じない鬼の気配に息を一つついて刀を納めた。
「どうやら絶対、私に来てほしい場所があるようね」
後ろは壁。横も壁。道が続いているのは正面だけ。
様子を見るに一本道のようだ。
「鬼に誘われるなんて不愉快極まりないけど他に行ける場所はなさそうね」
しんと静まり返った廊下を慎重に進む。
いつ鬼と遭遇してもいいように、上弦の弐と遭遇してもいいように。
無限城で胡蝶しのぶは上弦の弐と戦う。
それだけは知っているがそれまでのことを私は知らない。
もし、辿り着く前に死んでしまったら。
もし、遭遇できなかったら。
言い様もない不安が私を襲う。
カタカタと小さく震える手を包む。
「ブレるな、私。貫き通すと決めたでしょ」
止まるつもりはない。
覚悟は当の昔に決めた。
そのために私は私の時間の大半を注ぎ込んだ。
生臭い血の匂いが鼻腔をくすぐった。
壁がなくなり開けた廊下の片側は蓮の池となっており、反対側は鉄の扉だ。
その扉の先から血の匂いが漂っている。
音が最小限になるように努めて扉を横に引く。
ボリ
ボリ
血の匂いが漂っていたことからそうではないかと予想していた。
だけれども、映った光景に思わず目を見開く。
部屋の中は蓮の池だった。
そこに渡り廊下ならぬ渡り橋がかかっており、先に続いている。
真ん中から響くのは咀嚼音。その周囲に散らばって倒れているのは女の子たちだ。同じ装束で血を流している。ピクリとも動かないその姿を見るにもう手遅れなのだろう。
「ん?」
喰べるのに夢中だったその背中は私の気配に気づいたのかぐるりとこちらを向く。
食べかけの手と口の周りについている血に思わず吐き気を催すがそんなことよりも私はある一点に目が向かった。
「わあ、女の子だね!後で鳴女ちゃんにありがとうって言わなくちゃ」
虹色の虹彩。
その中に刻まれた文字は『弐』。
「やあやあ、初めまして。俺の名前は童磨」
いい夜だねぇとにこにことのんびりとした口調に虫唾が走る。
上弦の弐の鬼 童磨
私の姉を殺した人物。
そして、私が最も殺したいと思っている鬼だ。
しのなりさん、ついに殺したくて殺したくて震えていた相手と邂逅。
小噺はまだ続くけど本編はもうちょっとで終わっちゃうんだな…