何れ死ぬであろう私が鬼滅の世界を生き抜いた話。 作:蔓桔梗
良いお年を。
「せっかくだもの。みんなでお花見しましょうか」
姉の一言によって花見は姉妹だけではなく、蝶屋敷に住む者全員でやることになった。
今日、この日に限って診療所は休業だ。
蝶屋敷の人は殆ど出払うので余程のことがない限り対応ができない。
隠には事前に言ってあるし、もしもの時に備えて場所は伝えているのでまあ何とかなるだろう。
隠の人は大喜びで御任せくださいと張り切っていた。
何故、嫌がる様子を見せずに喜んでいるのかは分からないが空回らないのならば別にいいか。
半日だけと言えども人が完全に出払うので薬や諸々の補充は完璧にしないといけない。それに加え、行くのは結構な人数になるのでお昼の準備だって大掛かりになる。
行く数日前から準備に大忙しだ。
他人に見せられないものもきちんと隠さなければ。
普段から厳重に管理しているが念には念を入れないといけない。もし見つかったら姉に追求されるのは確定事項だ。
姉はみんなが好きなものなら何でも、私は佃煮、妹はアオイが作ったものなら何でも。
妹の好きなものを見れば分かるだろうが普段はアオイが食事を作っている。
なほたちもいるがまだ小さいのでアオイが仕切っているのだ。
だが、今回は息抜きも含めているのでみんなで作ることになった。
みんなの好きなものをバランスよく詰め込む。
重箱に詰まったみんなの好きなもの。
豪華なその様子に歓声が上がる。
久し振りに作る料理はみんなと一緒に作っていることもあるが意外と楽しい。
なんて事のないことを話しながら笑って拗ねて、摘み食いしちゃダメよと釘を刺して。
重箱の中身が完成したら次はおめかしだ。
「髪、結構伸びたわね」
「そうかしら?」
「いつも纏め上げているから分かりずらかったのかも」
下ろした私の髪に櫛を通しながら言った姉の言葉に確かに同意する。
前までの私は肩にかかるくらいだったのに何時の間にか胸にかかるくらいになっていた。
数字にすると多分、10〜20センチとかそこらだろう。
「ねえ、しのぶ、カナヲ」
「何?姉さん」
「今日だけみんな髪型変えてみない?」
悪戯っ子のように笑いながら言う姉の言葉を聞いてまだ髪を下ろしている妹を見る。
「ええ、いいわね」
前々から思っていたのだ。人の髪を好きなようにいじってみたいと。
妹だって、姉だって綺麗だ。それに似合うように好きなようにやってみたいと。
それに何より、自分の髪はやりずらい。
途中で様子を見に来たアオイも巻き込んでお互いの髪をいじりあった。
髪が私より長い姉。くせっ毛が入っている私と違ってサラサラな髪。
そこまでヘアアレンジについて詳しくないので簡単なものしか出来ないがそれでも姉に似合いそうな髪型を想像するだけで楽しい。
ここにタブレットがないのが悔やまれる。あったら姉さんに一番似合いそうな髪型を探せたのに…
ただお団子にするのも味気ない、かといって複雑なものにすると私の技量が足りない。
しょうがないので編み込みしてシニヨンにしよう。
飾りはどうしようか。やはり私たちの代名詞である蝶は外せないな。
「〜♪」
「ふふっ楽しそうね、しのぶ」
飾りを軽く当ててあーでもないこーでもないとしていたら知らず知らずのうちに鼻歌がもれていたようだ。
「ええ、姉さんのこと思ったように着飾れるんだものとっても楽しいわ」
鬼殺隊士と言えども女の子だ。
オシャレは楽しい。他人を着飾るのはもっと楽しい。想像した通りに似合っていると嬉しい。綺麗だと、素敵だと言われるのはもっと嬉しい。
牡丹の髪飾りをつけて蝶の簪をさす。
1歩離れて姉の全体の姿を見る。
うん、薄紅色の着物に似合っている。
「じゃあ次はしのぶね」
出来上がりに満足していると今度は姉の番らしい。
櫛を片手に笑う姉にしょうがないなと鏡台の前に座る。
「しのぶはいつも髪を上げているから今日くらいは下ろしてみましょうか」
丁寧にとかされた髪は上だけ掬われてまとめあげられた。
ハーフアップだ。
そこに藤と蝶の簪がさされた。
「これは…」
私たちの手持ちにこんな簪はなかったはずだ。
なら、姉の持ち物かと言えば違う。だって姉の雰囲気に少し合わない。
「最近頑張っていたしのぶに贈り物」
姉は着物を新調するだけでは飽き足らず、簪も新しく買ったらしい。
みんなには内緒よ?と笑う姉にため息をつく。
「しょうがないわね…」
着物だけで十分よと言いたいところだが、姉が私のために簪を見繕ってくれたということが嬉しいのは事実。
「アオイとカナヲは終わった?」
照れ隠しのように話を逸らす。
アオイとカナヲは自分にやっているようにしたようだ。
2人が珍しい髪型にしているのはそれだけで新鮮だがせっかくの花見なのだ。
妹には紫陽花の飾りをアオイには桔梗の飾りをつける。
「みんなとっても可愛いわ」
「似合ってるわよ2人とも」
「お、お2人も綺麗です!!」
私たちの褒め言葉に顔を赤くしたアオイの頭を思わず撫でる。
「準備もできたし、行きましょうか」
重箱と敷物を、私たちはもしもの時のために剣を剣袋に入れて蝶屋敷を出る。
目的地である桜はそこまで遠くない。
料理を作った時のようになんてことのない世間話。
鬼も呼吸も、鬼殺隊の話も血なまぐさいものが一つもない平和な会話。
「わぁ…!満開ね」
「綺麗ですね…」
「……きれい」
成人しているのは姉だけ。姉も周りが未成年ばかりなので酒を持ち出そうという考えはなかった。
未成年ばかりの花見はピクニックのようだ。
と言ってもこの世界に来る前の私の家族は花見はすれどレジャーシートは広げなかったのでニュースで見た光景から想像したらだけど。
桜を見ながら話をしながらご飯を食べる。
食後の小休息に生えていた白詰草を摘んで花冠を作って妹の頭に乗せる。
「しのぶさん、作り方教えてください!」
「いいわよ。まずはこうやって…」
それを見たなほ達が花冠の作り方を聞いてきたので妹を巻き込んで作る。
「しのぶ、楽しい?」
「ええ、とても…」
なほ達が落ちている桜の花弁を拾って飛ばして桜シャワーの中で楽しそうに踊ってる姿に目を細める。
「とても、幸せだわ」
肩を寄せて頭に手を乗せてそっと撫でられる。
「そう、それは良かったわ」
「愛してるわ、しのぶ」
頬に手を添えられて額を合わせて姉はそう告げた。
「えぇ私も。大好きよ姉さん」
目頭が熱くなって涙が一筋流れる。
「頑張ってしのぶ。貴女なら出来るわ」
「ーーーっ」
その一言で息が止まった。
花の香りが漂ってギュッと抱き締められる。
「待って…!お願い……」
暖かい温度が、身体に伸し掛る重みが蝶となって消えていく。
「待って!!」
手を伸ばし起き上がると見慣れた景色が目に入る。
鏡台が目に入る。
映るのは後ろ髪がバッサリと切られた私。
置いてある藤と蝶の簪は姉の遺品整理の時に包み紙に包まれていたのを見つけたのだ。
「あぁ、そっか…夢か」