何れ死ぬであろう私が鬼滅の世界を生き抜いた話。 作:蔓桔梗
最初はお兄ちゃんだけのはずだったのに…いつの間にか出来てた。
それもこれも、しのぶさんは姉であり妹なんだなあと思っちゃったせい。
悲鳴嶼さんとは時折、近況を報告し合う仲だ。
と言ってもそこまで仲は良くない。と思う。
悲鳴嶼さんは善い人だ。
私たち姉妹を鬼から助けてくれた。死んだ両親のことを悲しんでくれた。
私たちのように大切な人が鬼に奪われる人をこれ以上増やしたくないと鬼殺隊に入ることを決意した時、彼はその道の険しさを説いてくれた。
それでも、私たちの決意がブレないと理解したら何をすべきなのか教えてくれた。
応援してくれていたんだと思う。
私たちが鬼殺隊に入隊できたことを知ると涙を流して喜んでくれていた。姉が柱に就任した時も。
悲鳴嶼さんは引くくらい涙脆いけど、とても優しいお人好しだ。
誰かを鬼から救ったことなんて多くあるだろうに私たちがどんな風に過ごしているか聞いたり、鬼殺隊に入りたいと言った時には可能な限りの便宜を図ってくれていたようだった。
だけど私はそんな悲鳴嶼さんを姉を死なせないための手段として利用した。
恩人に対してするべきでない事くらい解っていた。
恩を仇で返すようなことをしていると自覚している。
それだけ私は必死だった。
それなりに長い付き合いをしていたのだからきっと、悲鳴嶼さんだって分かっている。自分のことを利用したのだと。
姉が亡くなったきり、付き合いが悪くなったのに彼は今までと変わらずに近況を報告し、尋ねてくる。
本当にお人好しすぎる。
悲鳴嶼さんには返しきれない恩がある上に利用したことに対する負い目もある。
だからこそ、悲鳴嶼さんの滅多にない頼みを聞かない訳がなかった。
ーーーーーー新しく取った弟子の体を診てほしい
それが悲鳴嶼さんの頼みだった。
検診するくらいならお安い御用だ。
だが、そもそも悲鳴嶼さんに弟子はいただろうか??
最新話まで追いかけていたわけではないので単に私が知らないだけかもしれない。
重要なのは
継子と言っていないことはそういうことだろう。
私も
柱の候補ではないが違うものの後継者か、単に直々に教えているだけなのか。
どちらなのかは知らないが、どうでもいいか。
『悲鳴嶼さんの弟子』に心当たりはないし、どうせ私の知らない人だろう。
「こんにちは、悲鳴嶼さんの紹介で来ました。不死川玄弥です」
なーんて思っていた時期もありました。()
右頬から鼻にかけて走る傷跡。
どこからどう見ても主人公の同期である不死川玄弥くんですね。
え、マジで悲鳴嶼さんの弟子??
初登場時、すぐ死にそうなモブ(失礼)だったのに??鬼殺隊最強な悲鳴嶼さんの弟子??
あーでも、鍛治の里で念仏唱えていたし、納得かも?
記憶を探ると煉獄さんの訃報時に悲鳴嶼さんと一緒にいたような…いないような…
そりゃ、悲鳴嶼さんが体を診てほしいと言うわけだ。
だって彼、鬼喰ってんだもん。
どういう原理で無事なのかは全くもって知らんが下手こけば鬼になるかもしれないリスキーな行為を知ってそのまま放置する訳がない。
やってきたのが彼である時点でいろいろ察したが、悲鳴嶼さんからの手紙には弟子向かわせたから診てほしいとしか書いてないので何も知らないという体で事情聴取しなければならない。
私が鬼絶対殺すマン(偽)だったから良かったものの本当の鬼絶対殺すマンだったらどうする気だったんだ。
鬼殺隊最強の弟子でカバーできると思ったのか。悲鳴嶼さんの熱い信頼に涙が出てくる。
残念、それでもヤるヤツはヤる。
例えば肉親とか、知性のかけらも理性もなさそうな知的ヤンキーとか、ツンギレ長男とか、不器用ブラコンとか。
ひえ〜ん、悲鳴嶼さんお人好しすぎるよぉ。ついでに言葉が足りなさすぎますよぉ。
内心、盛大に涙を流しているとあちらも悲鳴嶼さんが言葉が足りないことがよく解っているようで一からお話ししてくれた。
「いろいろ追い詰められて気がついたら鬼を喰っていた??」
話してみると意外と常識人だった。最初、瞬殺されそうなモブだと思ってゴメンって内心謝っていたのに!!
お兄ちゃんと一緒で見た目と中身違うねーとちょっとほっこりしていたのに!!!
話を進めていく内に雲行きがどんどん怪しくなり、鬼を喰った理由となった時には真顔になるしかなかった。
「はあ???馬鹿なの??しかもそれを続けている??やっぱり馬鹿??」
最初から鬼喰えるって知ってる訳ないもんな!!
鬼とはいえ、元人ぞ??ある種の人喰いだもんな!正気でできるはずが無いよな!!!
やはり、鬼滅の世界の人間はどこかおかしい。
救いは村田さんと後藤さんしかいない。尚、彼らからは怖がられている模様。悲しみ。
「すいません…でも、鬼殺隊を辞めるわけにはいかないので」
「…
呼吸の適性がない。それは呼吸を使って鬼を討つ鬼殺隊にとって大きなハンデとなる。
代々剣士を輩出している煉獄家の千寿郎くんが鬼殺隊士になることを諦めたレベルなのだからそれは推して然るべきだ。
「……それでも、俺は辞めません」
「鬼殺隊は剣士でだけで成り立っているわけじゃないわ。後衛に周ろうとは思わないの」
呼吸を使わずに鬼を殺そうだなんて自殺行為だ。
それを解っていても尚、鬼殺隊を辞めようと思わないのならば他に選択肢はある。
鬼殺隊には隠という存在がいる。
剣の才能がなかったが、それでも鬼殺隊を去らずに戦いたいと願った者によって構成されている。
才能のない弟くんにとっては今後、生き残るために現実的な選択肢だ。
だけど、悲鳴嶼さんの弟子をやっている時点でその選択肢を選ぶ気はないし、今後も変えるつもりはないだろう。
「……」
だが、彼が返すのは無言で私はため息をつくしかない。
「それは、不死川さんが関係しているのかしら」
私が不死川兄弟についてある程度は知っているが、詳しことは知らない。
そこの話を読む前に私は”私”となったからだ。
一応、公式ファンブックチラ見したことと人伝に聞いた話と実際に会ってそうではないかと思っているがそれだけだ。
「それは…」
「兄弟喧嘩に首を突っ込むつもりはないわ」
まさか聞かれるとは思ってなかったらしく、私の指摘に息を飲んだ。
いやいや。まさか隠し通せると思ったのか。
不死川はクッソ珍しい苗字なんだぞ。
この世界はなさそうで本当にある苗字をよく採用されている。主要人物である鬼殺隊士の上位とか、主人公の同期とかがそのいい例だ。
そんな中、親戚でもないのに苗字が被ると思うか?あるわけないだろ。
観念したように話をしようとするが別に聞きたわけじゃない。おおよそは知ってるし。
私が言いたいのはそういうことじゃないのでバッサリ切り捨てる。
「生き残るために手段を選ばないことは責められることではないわ。だけど、それを日常とするのは間違っている」
私は生き残るためには何をやってもいいと思っているし、出来るのかはともかく実際に推奨しているのでそのことについて否定する気は一切ない。
だが、鬼喰いはダメだ。
鬼絶対殺すマン(ガチ勢)にその姿を見られただけでブッコロ案件だ。
実際に主人公が介入しなければ彼の両目はお亡くなりになっていた。
その力に頼ってばかりいたらいつまで経っても話し合う場を作ってはくれない。むしろ引導を渡すためにさらに苛烈になるだけだ。
「あなたがここに入ったのは不死川さん…お兄さんが関係しているのではと何となく察するし、何をしようと思っているのかも…まあ、ね…」
だからこそ、悲鳴嶼さんは彼を放っておけなくて弟子にした。
素晴らしき兄弟愛だとかいって滂沱の涙を流している姿が容易に想像できる。
「でも、それはあなたの命をドブに捨ててでもやるべきことなの?
生き残るために必死で手段を選べない状態で為せることなの?」
顔を両手で挟んで彼の目を見て言う。
絶対に逸らすなんてことはさせない。お互いのためにもそれだけはさせてはならない。
「考えなさい。それがどういう意味なのかを。あなたが不死川さんを家族だと思っているのなら尚更」
愛しているが故に。
家族であるからこそ。
この兄弟はどうしようもなく不器用だ。
互いを思っているから、変な方向に入れ違う。
本当に夕方時に河川敷で殴り合ってこいと思う。
「じゃあ、約束通り検診を始めましょうか」
今までの話はなかったように私は検診を始める。
私はさっさと殴り合いしてでも本心ぶちまければいいと思っているが、これ以上は他人である私が踏み込む領域ではない。
私の言葉にどう思い、考え、選択していくのかは彼ら次第だ。
ただ、これからの出来事を知っている私としては後悔のない選択を。としか言えない。
残された時間は少ないのだから。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー貴方も、私も。