P「男性が苦手な彼女と」雪歩「恋を知らない彼」 作:HOXU8
雪歩が、握手会に向けての特訓を決意したその日。
この日雪歩のスケジュールは終わっており、後は自宅に帰るだけだったので、俺は車で彼女を送っていくことにした。
雪歩は助手席に座るだけでも怯えていたが、なんとか座ってもらい、車を発進させた。
隣に座っているだけでも精一杯な彼女が俺に話しかけるわけもなく、俺は自分から雪歩に話しかける。
「雪歩、本当に良かったのか?ライブ前の大事な時期でもあるし、お前にとって辛い期間になるだけかもしれないんだぞ?」
「だ、大丈夫です。せっかくの初ライブなんですから、わ、私も最後までみんなとお仕事したいですから……」
良かった。返事はしてくれるようだ。
「そうか……」
「プ、プロデューサーは何で私にこんな提案をしてくれたんですか?」
話しかけてもくれるみたいだ。相変わらずこっちは向いていないが。
「…………何でだろうな」
「?」
それは正直な気持ちだった。一体俺は何故、彼女がただ苦しむだけかもしれないのにこんな事を申し出たのだろう。
「……まあそのうち話すさ」
嘘だった。自分でも分かっていないのに。
丁度、信号が赤になったところで俺は話題を変える。
「まずは男の人と目を見て話せるようになる事だな」
「め、目を見て話す…ですか?」
「ああ。俺が雪歩と話す時はお前はいつも下向いてるだろ?俺は事情も知ってるし、気にならないがお客さんはそうはいかないだろ?」
「た、たしかに……」
信号待ちの間に、俺は雪歩の方に顔を向ける。
「ほら、こっちむいて。教えてくれよ。何で雪歩はアイドルになろうと思ったんだ?」
俺に前々から聞いてみたかった質問をしてみる。
すると、彼女はおそるおそるこっちを見ながら答えてくれた。
「わ、たし、ダメダメなんです。男の人もそうだし、他にも苦手な物ばっかりで……。そんな自分を変えてみたくて、アイドルに、なろうと思いました……」
それを聞いた俺は、自分でも何故なのか分からない。分からないが、彼女に嫉妬した。
信号が青に変わる。
車を走らせながら彼女の方を向くわけにもいかないので、前を見ながら俺は彼女に答える。
「立派な理由じゃないか…」
「立派…ですか…?」
「凄く立派だよ。自分のダメな部分を乗り越えるために努力しようと決心したんだ、それだけでも俺はお前を尊敬する」
「俺なんて逃げてばっかりなのに…」
「プロデューサー?」
俺は今どんな顔をしているんだろう。もしかしたら泣きそうな顔になっているのかもしれない。
自分が彼女に嫉妬した理由が分かったんだ。
俺は雪歩が羨ましかったんだ。自分のダメな部分を乗り越えようとする勇気を持っている事を。
俺は諦めて、今の自分を認めたフリをして逃げてばかりだったから。
「なんでもない…。とにかく良い理由じゃないか。もっと自信を持って話せばいいんだよ」
「ありがとうございます、プロデューサー…ふふ」
彼女が何故笑ったのかは分からなかったが、俺の言葉で彼女が笑ってくれたのなら俺はそれが嬉しい。
そんな事を考えている内に、雪歩の自宅に到着した。
「じゃあ雪歩、明日から毎朝迎えに行くからな」
「は、はい!よろしくお願いします…」
「おう。おやすみ」
「はい!おやすみなさいプロデューサー」
車の窓越しだったが彼女はちゃんと俺の目を見てそう言ってくれた。