「ガルパンはいいぞ」ただその一言に尽きる   作:琴介

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・されど後輩は笑顔で想ひ

 オレンジペコは、初めて感じる空気の中に居た。

 試合が始まって既に十数分。己が搭乗する隊長車は、スタート地点として陣取っていた丘陵(きゅうりょう)を越えた先、森林エリアへの入り口を見ている。

 現場は静寂。別働班からの接敵報告は未だ聞こえてこないが、

 

:ノレク『スコーンが割れた、というよりは、初めから不揃いなモノが運ばれてきたという感じでしょうか。――あッ、BC組の車輌がスリップして自由組の隊列に突っ込みました』

 

 といった具合に、マチルダⅡの車長をはじめとした別働各班から相手側の状況が上がって来る。続いて、通信の向こう側から響いて聞こえてくるのは、

 ……砲撃音、それも連続したものですね。

 だが、その飛ぶ先はこちらのチームではないようで。続けて上がって来る報告の内容から結論付けるに、

 

「BC自由学園、以前からチーム内での派閥争いが激しいとの噂を耳にしていましたが、とうとう試合の最中に撃ち合うようなムードにまで……」

 

 今回の対戦相手。BC自由学園は、大会常連校の中でも特殊なタイプの校風だ。元々はマジノ女学院の分校筋であった高等部、BC高校と自由学園の二校が学園艦の老朽化を理由に統合を強制され成り立ったせいか、現在でも生徒達の仲が非常に悪いと聞く。

 この辺り、今もってそれぞれが旧来の校章(シンボル)やら制服(タンクジャケット)を使い続けている姿勢はある種の伝統と化しているようだが、

 

「流石にこうもあからさまだと、むしろ仲が良いのではないかと勘ぐってしまいますね」

 

 とはいえ、BC自由学園はかつてのベスト4常連校だ。ここ数年は初戦敗退となっていても油断してはいけない相手。地力はある、と先日のミーティングでアッサムは言っていたのだ。

 ならば己は、判断を仰ぐ。戦車道連盟から共有された会場の地理図、その端末の液晶各所に報告で上がって来た情報を簡単にも書き込みつつ、

 

「ルクリリ様によると相手の隊長車輌は林間エリアを抜けた先にいるのでは、との事ですが、ここからどう動きましょうか」

 

 聞く。が、いつもなら格言が来るタイミングで今日は反応がない。

 アァー、とオレンジペコは察した理由の答え合わせのつもりで横を見て、

 

「ダージリン様……? あの、次の指示を頂きたいのですが……」 

 

 声をかけた先。車長席に座るダージリンが、空になったティーカップを片手に息を吐いた。

 

「この試合が終わったら、一度、アールグレイ様とお話をする時間を設けるべきですわね……」

 

 あ、駄目ですねこの人試合に集中してません。

 

 

   ~~

 

 

 ……いえ、集中していないというよりは、集中できていないという方が正しいのでしょうね……。

 ダージリンの意識が散漫している理由は、まあ明らかだ。

 

「アールグレイ様ですよね」

 

 試合の直前に現れた我が校のOG。身をもって経験した第一印象としては、強烈で個性的な、身振り手振りの賑やかな女性だった。加えて彼女は、我らが隊長ダージリンにとっては何やら特効的存在らしく、先程の対面でも効果が発動したようで、

 

「ねえペコ? 砲弾を持って来てくれるかしら。――ええ、先が鋭いものほど好ましくてよ。なるべく急いで」

 

 何に使うのか嫌な予感がとてつもないコールを鳴らしたので全力でお断りした。その向こうでアールグレイ様が「スターゲイザァ――!」と謎ポーズを決めていたが、こちらは浅間流の家元代理が懐から取り出した〝騒音〟と書いた付箋を彼女の額に張り付けて対応して頂けて自分としては凄く助かりました。

 そしてそんなこんなのやり取りの最中。試合時間が目前である旨の通達に運営委員がやって来たので、家元代理達には観覧スペースへ移動して頂き、また後程と、そういう運びになったのだ。

 そこまでは、良かった。

 だが、残った自分達はそこからがちょっと面倒だった。

 まず何かといえば、ダウンしたアッサム様の再起動。去年夏に何があったのか委細知らないが、金髪の女性云々とうわ言のように繰り返している姿には相当に深く残った記憶の気配が窺えて。

 だからまあ、これに関しては、どちらかといえば金髪寄りの自分ではなく、色合い的にも差が明確な同級生がいるので、彼女なら刺激も少ないだろうと思い任せる事にしたのだが、

 

「どうしましたのアッサム様! 何か悪いものでも拾い食いしましたの……!?」

 

 いや違いますよう。というかその発想はありませんでしたね……、流石ですローズヒップさん……。その勢いのままアッサム様をお願いします。と、彼女に任せた直後に背後から何故ツナギ姿なのかを問いただす叫びが聞こえて人選は間違いじゃなかったと思いました。

 ともあれ自分は聞きなれた保護者と元気娘のやり取りに苦笑しつつ、いつの間にか補給班のもとへと歩いていたダージリン様を追いかける事にした。

 そして、何の用だったかと問えば、とてもイイ笑顔でこう言われたのだ。

 

「ええ、御守りに機銃の弾を一発頂こうかと思いましたの!」

 

 むしろ対OG用の護身用なのでは? と思考が走って最終的にダージリン様に限ってそんな物騒な手段は選びませんよね、という結論に至りましたがそういえば直前に砲弾を持ち出そうとしていましたよね……。

 ……普段とのギャップが凄まじい。

 今日は色々と初めての光景が多くて大変だ。ごく自然な動作で御守り(物理)を忍ばせようとしたダージリン様を止めるのには苦戦したが、良い経験をしたとも思う。

 それに、今まで見てきたダージリン様の姿がほんの僅かな一面であった事実にちょっと得した気分。これはもう他の先輩方から当時の話を聞くほかありませんね。だって気になりますし! あのダージリン様が振り回される姿って、想像するだけでも現在との差に茶葉が薄くなりますよ……!

 

「って、そんな事思ってる場合じゃないんですけどね……!」

 

 今は試合中でした。私としたことがかなりの脱線を……。だけどダージリン様やアッサム様も他事に気を取られているのでセーフ、ギリギリセーフです。

 ……いやアウトですよ……!

 自分でも何言ってるかよく解らなくなってきた。これもみんなアールグレイ様の影響なんでしょうか……。だが、

 

「あのっ、ダージリン様!」

 

 呼ぶ。声を出して、少し俯き気味だったアッサム様がビックリして照準器に頭をぶつける程度には車内に響いてしまったけど、それくらいは張らないと伝わらない場面だろう。

 故に己は言う。顔を上げ、此方を見たダージリン様に対し、通信用の無線を渡すようにして、

 

「皆さんが待っています。指示があれば、今すぐにでも動けるよう布陣も成されています。……アールグレイ様のことが気掛かりであるのは、勿論承知しておりますが、どうか試合の最中であるということをご留意ください」

 

 お願いします。

 

「今日は大切な夏季大会の初戦。相手はかつてのベスト4常連校、しかし我々が勝てない相手ではありません。今だって仲間撃ちをしているようなチームです、負けるはずがありません」

 

 だから、

 

「どうか今だけはアールグレイ様のことを忘れて――、あ、いえ、そこまで無理そうな表情をされるのは意外ですけど、まあお気持ちは解ります。 

 だけど、一旦あの方の事は横に置いておいて、ええ、確かに置いておいたら勝手に動き出して何かしでかすとか、そんな心配は解りますけど」

 

 でも何となく、先ほどの対面を思い出して、理解は出来ている。

 

「きっとアールグレイ様は、ダージリン様が見事に指揮を執って勝利する姿を見たいんだと思います。――だって、留学先から態々(わざわざ)帰国してまで観戦にいらしたんですよ?」

 

 そうです。

 

「――逆に考えればいいんです。ご自身の眼が届かない状況を気に掛けるくらいなら、いっそ速やかに試合を進行してアールグレイ様のもとへ駆けつけましょう!」

 

 そうすれば一石二鳥にもなります!

 

「今、アールグレイ様はこの試合を見ているんですよ? ダージリン様が活躍なされば、試合に夢中になって周りへの被害も抑えられるはずです……!」

 

 

   ~~

 

 

:伯爵女『おいおいおい今の見たかねみつる! ダージリンだ、ダージリンが居たよそこに! あとアッサムも! すれ違いざまの一瞬だったがそっくりだったねえ……!』

:3 る『西グロの子達か。マー、やっぱ聖グロの試合だし見に来るよなあ』

:伯爵女『ほほう、――知っているのかねみつる』

:3 る『まあ、知らない相手ではないな。どちらかというと取引先のお嬢さんとか、そんな感じ。ほら、ダーサマタイプの子、うちの駅で扱ってるコーヒーの仕入れ先の一つだったりして』

:伯爵女『なるほど。もしかして彼女ら、コスプレが趣味なのかね?』

:3 る『コスプレ言ってやるな。推しに対して一筋なの』

:伯爵女『なら推しへの信仰とでも』

:3 る『紅茶信仰か……』

:伯爵女『だとすると聖グロはまさに宝庫だね。ちなみにみつるの信仰先は何かな? 私か!?』

:3 る『ガルパン』

:伯爵女『君はまた、そうやって意味の解らないことを言う……。素直じゃないねえ全く』

:3 る『ハイハイハイ、解らなくて結構ですよー。というか、あの子達が急いだ様子で観覧スペースに行ったって事は、もう試合始まっているのでは……!?』

:伯爵女『いやはや、――誰の所為だろうね』

:3 る『お前だよ! お前が通り掛けに出店で何か摘めるものが欲しいとか言い出して並ぶからな! ああもう、この位置じゃあ中継モニター見えないんですけどー……!』

 

 

   ~~

 

 

「大丈夫です、今ならまだ間に合いますよ……!」

 

 オレンジペコは、行けると確信した。

 ……ダージリン様の意識がこちらに向きましたね……!

 恐らく試合前の対面から彼女のほとんどの思考を占めていたであろうアールグレイ様。その存在比率を、少しは揺らすことが出来たのだろう。

 

「お言葉ですがダージリン様、――しっかりしてください」

「……今の私はしっかりしていないかしら」

「ええ、アッサム様と並んでいつも以上に意識の迷走が酷く表に出てます」

 

 アッサム様が「えっ、私も……?」と微妙な表情でこちらを見たが気付かなかった事する。

 

「先ほどから、それこそ家元代理達と別れてからずっとアールグレイ様がどうのと繰り返していて……。試合に集中していないのが丸わかりです」

「いえ、流石にそれは」

「いいえ言っていました。――そうですよね、ルクリリ様」

:ノレク『うえあっ!?』

「解って頂けましたか。ルクリリ様だってこう言っているんです」

「今の、どう聞いても急に話が飛んで来た時の反応では……?」

 

 アッサム様はちょっとお静かに願います。

 ともあれ自分は、いいですか、と前に置いて、

 

「ダージリン様、久しぶりに大好きな先輩と再会できたとはいえ」

「――待って。違う、違うのよペコ。私は別にアールグレイ様の事なんて」

「言い訳は聞きません! というか何を言い訳しているんですか、誰がどう見てもダージリン様がアールグレイ様のこと大好きなのは明らかじゃないですか!」

 

 えっ、と車内、ひいては通信端末の向うにまで確認を始めたダージリン様の姿は慌てていて新鮮だな、とオレンジペコは思った。しかし、

 

「ダージリン様! 大好きなアールグレイ様の話は後ほど聞かせて頂きます! だから今は試合に集中してください……!」

「し、試合を疎かにしてしまった事は認めます。けれどペコ? 私がアールグレイ様の事を大好きだなんて、それは誤解で、あの方はただ憧れた先で」

「聞きません! 後で聞きます! 今は試合が最優先です――!」

 

 とそこまで言ったところで、照準器を覗いていたアッサムがボソッと呟いた。

 

「珍しい。ペコの嫉妬ですね」

「――まあ! それは本当なの!?」

 

 ……き、切り替え早っ! アー、急に元気を取り戻しましたねダージリン様!?

 アッサム様は余計な事を言わないでください! 私が何に対して嫉妬しているというんですか、それは誤解で、ダージリン様に想われるあの方に嫉妬なんて――。

 

「違います! 嫉妬じゃありません! 別にアールグレイ様と再会してから私を構ってくれないとか、声をかけてもアールグレイ様が云々と私を見てくれないとかそんな事は一切これっぽちも思っていませんから……!」

 

 だが、言っている途中で自分が気付いた。

 ……うああああああ! 凄く自分に聞かせるための言い訳みたいになってますよ! 私!

 しかもビミョーに否定できない部分が駄々漏れていてどうしたものか。恥ずかしくて穴があったら砲弾を詰め込みたい気分です。だけど、

 

「アッサム、アッサム! 今のペコを見ましたの!? ぷくって、ぷくって膨れて否定していて決定的瞬間でしたのよ!!」

「アーハイハイ、解りましたから落ち着いてくださいダージリン。いいから試合に集中を。さもないとまたペコが怒りますよ」

 

 別に怒ってはいませんけど……、とは思ったが、まあ上役二人のテンションが戻って来たようなので良しとしよう。

 ……今の私、そのように膨れていたでしょうか。

 両の手を使って頬に触れてみる。柔らかい。自分で思うのも何だけど触り心地は悪くない。この柔さなら少し空気を入れるだけで確かにぷくっとなりそうだが、

 

「ふふふペコったらそんな仕草をして……。可愛いわね」

 

 今の一言で〝まあいいです〟と流してしまった自分はチョロいと思いました。

 

「――ダージリン。そろそろ前を見なさい」

「言われずとも顔を上げているわ。アッサム」

「なら指示を。ここまではオレンジペコが上手くやってくれたのだから、ここから先は私達の時間帯よ」

 

 勿論、とダージリンが言った。彼女は改めて通信用端末を手にして、

 

「まずは貴女達に謝罪を。――ごめんなさい、久しぶりの遭遇に冷静ではなかったわ。まさかの再会に心を乱されるなんて、私もまだまだ未熟ということね。

 それと、ここまでの試合運びに最大の感謝を。我がチームの事ながら、偵察から布陣、報連相までを機能させた一連の流れはお見事という他ないわ。これなら私達がいつ引退しても心配はいらないわね」

「ダージリン様っ」

 

 冗談よ、と彼女は笑った。

 

「少なくとも、今のまほさんがいる黒森峰を下して優勝するまでは、現役を退くつもりはないから安心して。それにまだペコの〝頼れる先輩〟でありたいもの」

「そういうところ、ますますアールグレイ様に似てきましたね」

「――アッサム?」

「何かしら」

 

 貴女ねえ、と言い合う二人の上役を見て、オレンジペコはふうと息を吐いた。

 ……何とか調子が戻りましたか……?

 見ているぶんには問題なし。ただ、言葉の節々というか、今のテンションにOGの影がチラ見えするのはまあ軽微な差分でしょう。

 悪影響ではない。むしろブースト方面に作用しているようなので、

 

「今日のダージリン様は凄いですよ……」

 

 何しろ普段よりも二割増し程度には機嫌が良い。BC自由学園の方々には申し訳ないがこれもまた戦車道、我らがダージリン様のテンションが行く先に勝利を頂きます。

 

「オレンジペコ」

「はいっ、ダージリン様!」

 

 と、彼女の言葉を待つ。そして、

 

「頼りにしてるわよ」

「――はいッ!」

 

 準備は出来ている。行きましょう、と己はグローブの裾を引き直し、

 

「いつでもどうぞ」

「ええ、行きましょう」

 

 さあ、とダージリンが笑みを作った。

 

「――Engage(前進)!」

 

 あ、その掛け声は初耳ですね! 心機一転、夏季大会デビューというやつですか!

 あれ、どうしましたアッサム様、そのように呆れた表情を……。え? 今のはアールグレイ様の使っていた掛け声? そうなんですか。

 へえ――――。

 




この世界のダー様はテンションの上下が解りやすい。
↑:要因はペコ。
↓↘→↗↑:原因は伯爵女
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