1日くらい誤差の範囲だと思いますがどうでしょうか。
(意訳:2月に投稿間に合わなくてごめんなさい。
でもまあ、無理もないか、とエリカは思った。
実際、自分だって黒森峰に入るまでは彼女と同じような認識を持っていた。
しかし入学してからは、中等部一年ながらも副隊長を任された妹の方に突っかかった事が契機となり、紆余曲折を経て西住流への認識を改めている。そんな自分からの言とするならば、
「現実って、想像力を軽く超えていくのよね……」
……噂に聞くような人達じゃないわ。
「逸見さん逸見さん、ソレ思考と言葉が入れ替わっているように聞こえるのは私の気のせい……?」
「そこは許容ということにしておきなさい」
というか、
「もしここで私が〝ええ、怖い人ですよ〟って答えたらどうするのよ」
「わ、私達の気持ちは変わりませんけど!」
ねえ皆!? と彼女が顔を向ければ近くの三人は頷く。その向う、会話には参加していないが内容を察しているらしい他の面々も一瞬だけ反応が見えた辺り、
……随分と慕われてるわねえ。
これがかつて友達の少なさに悩んでいた子の現状というのが何とも妙で。まあ
……自業自得じゃない。
そう感想を言うと、小等部からの付き合いであるツインテがこう言った。
「エリカちゃんはそういう性格だからなあ! 妹さんとの仲もそういうところだもんねえ……!」
語彙力の低さにちょっと引いた。
ともあれ己はみほの友人達に頷きを返す事にして、しかし噂を基にした想像力は初見における先入観となるため、不安を和らげる方向で言葉を選ぶ。
いい? と前に置いて、
「人の噂ほど当てにならないモノは無いわ。もし本当に家元や隊長が噂に聞くような人物なら、例え身内が所属するチームが試合に勝とうともわざわざ祝勝会の現場にまで足を運ばない」
「それはまあ、……確かにそうかな?」
「ええ。中には家元は次女に見切りを付けた、なんて内容もあるみたいだけど、どこをどう見たらそんな噂が立つのかしらねえ」
「やっぱり根も葉もない噂なんですね」
当然でしょう、と装填手の言葉に首肯する。彼女らの実像を知る自分からすればただの戯言だ。
しかし世間一般からはそうでもなく。西住流の戦車運びに加え、家元や隊長のビジュアルも関係しているのか西住流のイメージは「怖くて冷たい」で浸透している。
……その辺り、デフォルトが無表情なのがいけないわよねー。
大洗の彼女達が変な認識を持ってしまったのは恐らくそこが原因。というか、西住に関わる噂のほとんどが人物像に対しての内容だった気がして、
……そう考えるとみほの存在は貴重じゃないかしら……?
上の二人とは真逆と言っても過言ではない性格と表情。あ、これもう三人揃えてイメージアップを狙って宣伝写真でも撮って配る方がいいんじゃないかしら。並びとしては「家元・みほ・隊長」の順番。衣装は休日の私服Ver.で是非。破壊力マシマシね……。
みつるに提案でも……、とエリカはメモを残すために端末を開いた。そして、
「あら」
と、気付いたのは隊長からの新着で、
:姉の方『もうすこしじかんがかかりそうだ』
変換ミスってるの可愛いです隊長。
ではなくて。メッセージから察するに離れでの話し合いが長引いているようだ。
……ホント、こういうところを表に出して頂ければ……。
まあ周りの知らない一面を自分は知っている、なんて妙な優越感に浸ったりもしているので何とも言えないが、惜しいと感じているのも事実。とはいえ性格を変えてくださいというのも無理な話で、あのビジュアルに性格だからこその西住流家元と我らが隊長である。
どうしたものか。と、少し考えて、しかしここで自分が悩んでも仕方が無い事だと結論に至り、
「――そうよね、こういう時こそ適材適所よね」
とりあえず、という具合に全てを
そして注文から戻ったみほには端末を見るように促して、
「隊長達、離れから上がって来るの遅れそうだって」
「あー、難しそうな雰囲気だったから、何となくそうなるような予想はしてました」
「まあ私達が聞くような話じゃないでしょうね。あのメンツなら、立場に相応の内容でしょうし」
「お母さんの事だから、きっとみつるくんに無茶言ってるんじゃないかなあ」
そうね、とエリカは言う。
「きっと今頃、家元の無茶に隊長も乗りだして、いつものようにアイツが振り回されている時間帯だわ」
~~
「みつる! みつる! 待って! 待ちなさい! 一人で帰る事は許しません! みほにあのように言った手前、帰れない私達を置いて行くつもりですか……! ほらまほ! あなたもみつるを止めなさい! 帰らせてはいけません! というか止めるのを手伝ってお母さんからのお願いです――ッ!」
「いやです帰ります帰ってお仕事の続きに戻らせて頂きます! そういった母親の構えは俺じゃなくてウチか島田のママンにしてくれませんか! あとまほ、西住ママンに頼られたのが嬉しいからって回り込んで抱き着くな……!」
「いちさんにはもう既に迎えに来てもらった時に聞いてますー! そうしたら「うん、そういうのはみっくんに聞くといいよ!」って! 「私、感覚で動くタイプだから!」って! それにちよきちなんて私と大差ないでしょう! あ、まほ! 良いですよ、そのままみつるの動きを止めおきなさい……!」
「ママン! ママン! さては答えに困ったから俺にぶん投げたな!? 息子的にはその感覚が必要だと考えるんですけど! それからまほ! そんなワックワックした表情でマウント取りに位置を変えるな端末を引き抜くな……!」
「感覚って! 私が感覚でやったら失敗するでしょう! それともアレですか! みつるは私にかつての失敗を繰り返せと言うのですか……!?」
「それみほが小等部だった頃の話じゃないですか! まだ引きずってんですか! ――あ、俺も同じ立場だったら引きずりますごめんなさいだからそんな涙腺決壊二歩手前みたいな表情しないでお願いします……! え、何だまほ、端末に新着? いったい誰から」
:島田流『急募!! 娘に大学生活の話を聞いて鬱陶しがられない方法――』
:擬音系『公式戦初陣の祝勝会に特別講師の私が呼ばれていない件について』
「参加すなやああああああああああああああああああああ!」
~~
「肩書があると大変よねえ」
「そうだねー」
みほは、エリカが端末に何かを打ち込みながら苦笑するのに同意した。まずはというところで柑橘炭酸の入ったグラスに口を付け、
「それで何の話を? お母さん達がどうのって聞こえましたけど」
「西住流にはお馴染みのことよ。ほら、初対面って噂から想像力が働くでしょう?」
エリカの言葉に、なるほど、と自分はここまでの流れを理解した。
西住流にとってお馴染みの噂。つまり、母や姉に対するイメージの話だ。
「まあでも、仕方ないかなあ。お母さん達ってデフォルトが無表情だから」
「……いやあのお二人、身内からもそういう認識を……」
「中身はそうでもないんですけどね。むしろ感情豊富というか、表面に出てないだけで喜怒哀楽はハッキリしていますし」
でも、と己は続ける。
「ビジュアル面で怖いイメージを持たれちゃってますけど、それってある意味では正しいなあ、って思ったり」
「……えっ。みぽりんが認めるって、やっぱり御家族は怖い人なんじゃあ……?」
いえそういう事ではなくて。と、端末の画像一覧から母と姉が写ったものをチョイス。しかし、ちょっと写りがイマイチだったのでみつるとの
そして周囲の皆が見える位置へと端末を持って行き、
「この画像、昔に甘味処へ行った時の写真なんですが、皆さんが聞いた噂のイメージと比べてどうです?」
「あんみつ美味しそう!」
「おっと麻子さん早かった! 確かにここのは黒蜜と粒あんの甘さのバランスが素晴らしくて、くどさを感じず最後の一口までペロリといけます……!」
「いやいやそうじゃないでしょう。というか一番の感想がそれってアンタねえ……」
「しかし、とても大切な事だと、私はそう思います。何よりもまず注目するのはみほさんの御家族の手前、種類の違った甘味であると」
「五十鈴殿、五十鈴殿、流石にまだ先ほど注文した品が全て来ていないので追加は控えませんか。私のシャーベットお分けしますから、少しこちらで食べ方の研究でも」
まあ! と現状を存分に楽しんでいる華さんを誘導してくれた優花里さんはグッジョブだと思います。ともあれそんな二人を横目に沙織が写真を見、あー、と納得を口にした。
「確かにこの写真見てると噂でのイメージ変わる変わる。一気に怖さがほんわかにチェンジって感じかな?」
「コレ、次から雑誌の取材記事とかで見かけた時に〝ああ、この前甘味に目を輝かせていた人か〟って認識になると思うと複雑よね……」
それはまあ仕方ない。怖いイメージを持たれるよりは数倍マシでもあるし、身内としては許容の範囲内だ。ただ、既に二人を知っているエリカの経験を聞けば、
「私の場合、初見こそ噂のイメージから入ったけど、実際に会って話して得た感想がこうだったわ。〝みほの御家族だものね……〟」
「いやあ、えへへ、……自慢の家族です」
「今の褒められてないよ?」
あれえ? と首を捻るが周囲の反応は頷くだけ。なるほど、と己はエリカからの感想を心の中で三度繰り返し、
「――つまり、私は、お母さんやお姉ちゃんに良く似ているって、そういう……!」
「ウンウンソウダネ、ソウイウコトダネ――」
「逸見さんってみぽりんに対してはダダ甘過ぎない?」
そうだろうか。そうだったのか。そっかあ……。エリカさんが私にダダ甘……。
……いや、そんな、エリカさんったらもう、素直じゃないんだから……!
友人が素敵すぎてつい空いていた左手が彼女の背中を連打し始めたが仕方ない。照れ隠しという事でここは一つ。ともあれまあ、
「それはそれとして、です。――沙織さん」
「な、何でしょうかみぽりんさん」
何故敬語……、と思うが、今はそういう雰囲気ということで納得しておく。
周囲。沙織と同様に聞く姿勢となった皆に対し、いいですか、と頭につけて、
「確かに噂で聞くような一面を私の母と姉は持っています。でも、でもですね? それってやっぱり噂でしかなくて、実際に会って話したら印象変わると思うんですよ。言葉数は少ないけどフツーの人だねって」
「戦車道の大手流派トップとその後継者という肩書はフツーなのか?」
「麻子、ソレ、私も思ったけど声に出さなかったやつ……」
全然言ってくれていいのに……、と自分としては苦笑だが、ともあれそういう事だ。母や姉に向けられる「怖くて冷たい」イメージは、西住流を含めすべてが戦車道に関するものばかりとなっている。対して、他の一面に関する噂は、
「……驚くほどに聞かないんですよね。二人が私生活ではどうなのかとか、好きな食べ物は何だとか、そういったプライベートに関する噂って全然で」
そうですね、と優花里が言った。
「確かに私も色々と噂を見たり耳にしていますが、家元や黒森峰隊長のプライベートに関する内容はほとんど聞いた事ありません」
「ある種の有名人とかだと見る側が想像力で〝大体こんなもんだろう〟って勝手に話を回したり、面白がって尾ひれを付けていくものですけど、……私の身内の場合そういうの全然出てこないんですよね。何でだろう」
「決まってるじゃない」
と、聞こえたエリカの声が答えを告げた。
「――想像力が至らないのよ。特に家元、あの人がニコニコ笑顔で私生活では娘との距離感に悩む母親やってるとか、戦車道での一面しか知らない世間が考えつくと思う?」
「思えないです」
即答するとエリカが微妙な顔をしたがどういう感情だろうか。だが断言できる程度には彼女の言う世間一般を知っている。
「だって、あの二人、取材とか受けると緊張で無表情に拍車がかかりますから。お姉ちゃんはまだ喋る方ですけど、お母さんは定型文のような受け答えになりますし」
「以前に見かけた取材の映像、随分と手慣れているような印象を受けましたがアレで緊張していらしたんですね」
「はい、あの時のお姉ちゃんはお母さん風味で定型文を返していましたね。西住流の教えって引用しやすいものが多いですから、その流れだと思います」
「私、あの取材を後ろで様子を見ていて内心、変なボロが出るんじゃないかって気が気でなかったわ……」
おおう舞台裏……、と沙織が唸るが案外そういうものだ。
「でもまあ、大体そんな感じで、戦車道が関わらなければうちの母と姉はちょっと天然入った無表情系クールの一般人なので心配はないかと」
横でエリカが〝アレで天然がちょっと……〟と遠い目になったがスルー。私も言ってから表現軽かったかなと思ったけど娘で妹だしそういう事もあるのだ。だが、
「――大丈夫です」
己は言う。
「お母さんとお姉ちゃんは怖い人じゃありませんよ。ただそういう一面を持っているだけ、この場で皆さんにそれが向けられることはないと私が保証します」
というより、
「昔、私がまだ小等部だった時分にうちへ戦車の見学に来ていたお友達をお母さんがマジビビりさせちゃう事件があったので、……流石に向こうも意識しているかと」
「……あなた小等部ではちゃんと友達いたのね」
エリカさんちょっとうるさいです。中等部は特殊だったんですよ、特殊。ちゃんと小梅さんとかバウアーさんとかお友達いるもん。それに、
「大洗じゃ沢山いるから!」
「――ハイ! ハイハイ! みぽりんのお友達一号がここに居ますよー!」
~~
「では、私は弐番ということで此処に」
「じゃあ私は三番で!」
「なら私は四番でいい」
だったら、とアンコウチームの皆に続いて、カバさんチームが応じ、次いでアヒルさん、ウサギさんと来て最後にカメさんチームが手を挙げたのをみほは見た。
……ア――!
もう大好きです皆さん有り難う御座います。どうですかエリカさん、これが今の私です。NEW私ってヤツですよ……!
「一部流れが解ってなくて周りにつられて手を挙げただけのようだけど」
「河嶋先輩はそういうタイプなので許容です」
名指しか!? と反応が聞こえたけど対応は会長達に任せておけば問題ない。
ともあれ、だ。何かと母や姉について語ってしまったと、己としては柑橘炭酸を喉に流しながら一息ついておく。
……家族会議しておいてよかったー……。
身内の話がここまで楽しいのは初めての経験。今までは西住の名を出すと戦車道関係者なら反応が一定になるし、そうでなくても無反応か警戒される。家柄か、と諦めを感じてもいた。しかし、
「大洗に移って、〝西住〟が通用しなくて新鮮で」
何やかんやあって戦車にまた乗るようになったけど。始めて間もないチームでは練習試合に負けて勝って。初の公式戦では強豪校から白旗判定を取った。
ここまで色々あったなあ。と、そう感想すれば、今日という一日が終わって行くのを実感する。加えて、妙に随分と長く話していたような錯覚もあって、
「……何だか、夢を見てるみたい」
言うと、隣の友人がこちらを向いた。うん、と自分は頷きを作って、
「私達の祝勝会って場ではあるけれど。エリカさんがいて、これからお母さん達もやってくる。……また戦車道で皆が揃うのって、本当に夢みたいで」
そうですね、と自分は続ける。
「黒森峰を出たあの日。こんな日はもう二度と来ないのかなって覚悟してました。――でも違ったんです。去年の出来事で落ち込み気味だった私の想像力なんて、現実は軽く跳び越えていくんだぞって」
ええ、勿論です。
「今日の出来事は一生忘れられない思い出になりました。試合も、家族会議も、祝勝会も。こうして楽しめるようになったのは、色々と吹っ切れたからかな」
「じゃあ、今日から再スタートかしら」
「はい、私の戦車道はここからまた始まるんです。どこに繋がっているかは解りませんが、きっといつか、もう一度エリカさん達と並んで歩める道だと胸を張れるようになります」
「言うじゃない」
「これでも西住の娘ですから」
そう、と笑みを作った友人は炭酸の入ったグラスを傾ける。そして、ふ、と口元を隠すようにした彼女が言う。
「今のセリフ。もう一度、今度はあの人達の前で言ってあげなさい。きっと手放しで喜んでもらえるわ」
え? と示された先を見る。
……あ。
料理を運び入れるため仲居達が開いた襖の合間。そこからこちらを伺う二人が居た。
母と姉だ。
向こうもこちらの視線に気づいたのか、右手の平を見せて到着を知らせてくれる。
「もう、見てないで入ってくればいいのに」
と思ったが、二人からすると大洗女子の皆とは初対面の現場だ。入りづらい気持ちも理解できる。ここは自分が迎えに出るべきだろうな、と皆に一言断ってから席を立ち、
「――いらっしゃい。お母さん、お姉ちゃん」
「ええ、遅くなってごめんなさいね。お邪魔させてもらうわ」
「帰らずにちゃんと来てくれたんだ」
「当然でしょう」
「でも、ちょっと考えたでしょ?」
「…………ちょっとだけ」
やっぱり、と己は苦笑する。
「あ、ところでみつるくんは? もしかして帰っちゃったの……?」
聞くと二人が横を見た。すると、
「……ここにいるぞー」
何故か疲労度マックスの彼が端末片手に顔を見せた。
そして自分は察した。
……コレ絶対二人が無茶言った結果だよね……。
いつもご苦労様です。ホントみつるくんには感謝の気持ちばかりだけど、今日くらいは私の我儘の延長ということで勘弁してもらおう。
「お疲れさま」
「……俺、帰って寝たいの。いいかなみほ?」
「ダーメ」
ですよねー、と彼が諦めの含んだ吐息を一つ。
「じゃあ十分でいいから休ませて。隅、そこの隅でジュース飲んでるから休ませて」
「許しません」
「
「だって皆に紹介するって言ったよ? なのに隅っこで一人はダメ」
「……俺に、大洗女子面々の輪に加われと」
「むしろ私達アンコウチーム?」
「わあい、死にそう……!」
「来てくれない?」
「行かせて頂きます」
みつる、お前……、と母姉が見慣れた反応をしていて相変わらずだ。
……うん、この久しぶりも、これからはまた当り前になって行くんだよね。
色々な意味でも今日は私の再スタートだ。きっとみつるくんには、これからも家族総出で迷惑を掛けていくと思う。だけど、昔に言われた言葉の通りだから許してね?
そして、背後から声が聞こえた。
エリカだ。更には今日一番で色めき立った大洗女子の皆を代表してか、沙織の声で、
「うわあ、男の人だ……! みぽりんが見知らぬ男の人と仲良さげだよ!? え、あっ、昔馴染みってそういう事かあ……!」
さて、母や姉はともかくとして。皆にはみつるくんをどう説明したらいいのだろうか。
何も考えてなかったなー。
とまあそんな感じで、長かった祝勝会はこれにて終了。
そして次回、紅茶女学院の彼女らが登場……!