「ガルパンはいいぞ」ただその一言に尽きる   作:琴介

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紅茶のようで紅茶でない
しかし紅茶な内容であると
此処に記しておきますわよ!

配点 (何言ってんだコイツ)


・徹夜明けの不審者

「朝も早くからお邪魔致しますよ、と」 

 

 白雲の少ない澄んだ青空の下。浅間、と表札の下げられた門前だった。

 一つの影が、軽い動作で門を潜る。

 敷石のアプローチに入るのは男物の黒いスーツを着込んだ姿だ。

 長身に金の長髪。女子、とそう呼べる年代の少女だった。

 足元。等間隔に置かれた幅のある石を順に踏むようにして進んでいた彼女だが、

 

「あら!」

 

 と聞こえた声に身体を向ける。

 右側だ。手入れの行き届いた庭木の向こうから、一人の女性が現れた。

 

「伯爵ちゃん、久しぶりだねえ! 前に会ったのは春先だっけ?」

「ええ、お久しぶりです。それと朝早くにお邪魔して申し訳ありません」

「いいよいいよー、うちは営業時間とか決まってないからいつでも大歓迎! あ、もしかして正面から来たのは、みっくんに御用事かな?」

 

 はい、と少女が頷いた。彼女は数機分の影が空から降りていく屋敷の向こう側を見て、

 

「元々は裏の駅から伺うつもりでしたが、彼に会うならこちらの方が早いかなと思いまして。向こうだと繋いでもらうのに少々時間が」

「ああうん、裏からだとちょっと手間だもんね。解かるよー」

「家元もですか」

「うちって身内でも容赦ないとこは容赦なくてねえ。まあ私はそういうの様式美だと思うタイプだから別にいいかなって。あ、利用者として不便あるなら意見送っていいよ? その辺り、改善の余地ありで募集してるし」

 

 そうですね、と少女は笑みを作った。

 

「この後、直接言ってやることにします」

「――そうだ、そうだった! 引き留めてごめんね。こっちから来たのって急ぎの用事だったんだよね?」

「急ぎというほどではないですが、……今日、私の後輩が公式試合なんです。その観戦がてら、彼と顔合わせをさせておこうかと今朝方に思いつきまして」

「サプライズだねえ! 確か聖グロのOGだったけ、その時の後輩?」

「ええ、二人にかましてやるつもりです。一時とはいえ代行としてチームを率いていた身ですから、大人しくはしていられませんよ」

 

 いいね、と女性の方が身を動かした。少女の肩を軽く二度叩き、

 

「みっくん、まだ公式試合の観戦行けてないってボヤいてたからきっと喜ぶよ! ありがとね! あの子、今はまだ寝てると思うけど別に遠慮しなくていいからね? 徹夜終わりだからって寝てんじゃねえよ、って起こしちゃって!」

「いいんですか」

「家元権限で許可だしちゃうよー」

「彼、貴女と似たようなもので家元代理ですが」

「なら母親特権ということで」

 

 それじゃあ、と家元が少女の横を抜けて屋敷裏の駅へと繋がる左側の庭へ入っていく。そして彼女は、あ、と振り返って、

 

「私のこと聞かれたら、お友達に誘われて朝ごはん食べに行ったって伝えておいてー」

 

 またねー、と手を振る家元の後ろ姿は庭の先へと消えていく。それを見送った少女は、一息を入れて、

 

「――さて行くか」

 

 浅間宅へ、歩を進める。

 

 

   ~~

 

 

 みつるが寝起き早々に理解したのは、紅茶の香りだった。

 柑橘系の落ち着いた香り。出どころの確認のため布団に埋まった身を起こしてみれば、見覚えのある金髪碧眼が枕元に座っていて、

 

「やあ、お早う御座います! ハイ、早速だがここを見て――、ハイ、今ピカッとしたね? じゃあ早速だけど寝起きで人を見間違えることってあると思うが、君の目の前にいるのは最近入ったばかりの美少女お手伝いさんで――」

「なあソレ、グラサンしてなかったら使った本人まででっち上げじゃねえ?」

「おっとこれはついうっかり!」

 

 タハー、と目の前の女は額に手をやってポーズを決めるが楽しそうでいいですねー。

 じゃなくて。寝起きで頭が回ってねえ、と眠気を飛ばすように頭を振って、ちょっと目が覚めた気がしたので彼女に問うてみる。

 

「……なんで? いやホント、え、なんでいるの?」

「ああ、ちょっとした私用について来てもらおうかと思ってね、お邪魔させてもらったよ。いわゆるデートのお誘いってヤツだ。勿論、首を縦に振ってくれるだろう?」

 

 ちょっと何言っているか解らなかったので横に振ってみた。すると彼女が一度頷き、

 

「有り難う。みつるなら了承してくれると信じていた」

「現実見ろよ」

「ハハハ辛辣だね……!」

 

 気にするな寝起きだ。ともあれ、

 

「……今日、約束あったかな」

「いやないよ? 全く。そもそも前回会ってから連絡すら取ってないだろう?」

 

 そうだよな……、と徐々に冴えてきた頭で今日の予定を思い出す。

 確か寝る前に整えた流れとしては、

 ……月一の関係者連絡会を十時から。終わり次第、大会決勝とエキシビションでの展示飛行に関する打ち合わせを戦車道連盟と、それから各学園艦への空輸スケジュールの調整で……。

 あっ、またお昼ご飯忘れてる……。と、一部の抜けが発覚して徹夜テンションを反省。時間の区切り付けてないとか正気か俺。というか、

 

「――いまなんじ」

「八時三十六分」

 

 と彼女が端末の表示を見せてくれるが、背景画像が紅茶を飲んでいる自撮り姿というのは突っ込んでもいいのだろうか。一緒に写る後輩の表情が味わい深くて何ともまあ……。だが、

 

「起こしてくれたのには感謝だけど何の御用だよ。不法侵入ということで人を呼ぶぞ?」

「ハハハ成程、今度は女スパイをご所望ということだね! もちろん私は構わないよ」

 

 また意味の解らない事を言い出したので枕元の端末へ手を伸ばす。そして連絡先の一覧から〝駅:警備処〟という表示を叩いて、

 

:3 る『部屋に不審者が』

:駅の人『家元から連絡貰ってるので問題ございません。顔パスです』

 

 なら仕方ないか、と納得しかけて寝起きの頭は危険だと思った。まあ相手も相手であるし、この際それでも構わないのだが、

 

「来るなら来るって事前に連絡が必要だと思うんだ、俺」

「いやあ、その点は済まないと思っているよ。何せ思いついたのが今朝だった」

「じゃあその思いつきを聞かないという選択肢で」

 

 却下しよう、と女が言う。

 

「ちょっと後輩にOGとしてサプライズを仕掛けようと思い至ってね。どうだろう、協力してくれるかね?」

「これからお仕事があるんでお帰りください」

「たまには息抜きも必要だと思うがね、みつる? ――おっと偶然にもここに試合観戦の同行者を探している金髪系美少女が」

「いやだから仕事なんだって。この後、久しぶりにママンも参加の連絡会あるし」

 

 すると、ああそうだ、と彼女が思い出したような仕草を取った。

 

「家元なら先ほど、御友人に朝食を誘われたとかでお出かけになったよ?」

「……はい?」

 

 

   ~~

 

 

 みつるは言われた意味を理解できなかった。

 否、言葉としては理解している。母が朝早くに出かけたというのだ。それも友人に朝食を誘われたとかで、伯爵の言から予想するに今頃は愛機で空の上。もしくは既に合流していて朝食に入っていると思われるが、

 ……いや、ちょっと、今日の連絡会は三か月ぶりに参加するって……。

 嘘でしょうママン。ママンが参加するって言うから合わせて家元判断が必須の案件を徹夜でまとめたんですよ……。俺メッチャ頑張ったのに。今まで後回しにして積んでたものをやっと消化できるって、やっとの思いで寝る時間を削ったのに……!

 

「それなのに、友人と朝ごはんって……!」

 

 ちょっと寝起きの変なテンションに火が付いたので直接確認する事にした。すると向うからの反応は即座に帰って来て、

 

:浅間流『ホントごめんね! でもちょっと今しほちゃんと千代ちゃんが茹でタマゴを取り合いで手が離せなくって!』

 

 何その状況見たい。というかその面子で朝食か……。

 その場に居なくて良かったと、心底そう思った。参加していたら今までの経験からしてろくな目に遭わないのは確実だ。だが、巻き込まれなかったという事実に、母の不在を「うん、……そういう人だもんな」で流そうとする思考は寝起きのテンションということにして、

 

「まあ、いつものことか」

「何だか諦め入ってないかね?」

「今更言っても、って気持ちにはなった。ママンの自由飛行で予定崩れるの今日が初めてじゃないし。そもそも予定通り働いてくれるなら代理はいらない……」

「苦労してるね」

「心労だよ疾風女。一応、お前も原因の一つに含まれてるから自覚しとけ?」

「なら、私の関係として原因が一つや二つ増えても誤差という訳だ」

 

 お前な……、と半目で見ても相手は気にしない。彼女は、まあまあ、と両手の平を前後に振ってこちらの肩を叩き、

 

「安心し(たま)え。――どうせ私が増やさずとも他の誰かが増やすよ」

 

 ちょうどいい位置に枕があったので投げたら避けられて開いた襖の向うに飛んで行った。すると庭先から声が挙がって、

 

「ヘイ! 若様の枕一丁!」

「今日は天気良いからお洗濯だヨ――」

 

 たまたま通りがかったお手伝いさん方にはいつもお世話になっております。

 ともあれ自分は姿勢を戻した彼女に向かって、

 

「次、布団行くから躱せよ」

「フフフ、私の回避性能を試すつもりだね? 見くびってもらっては困るよ。これでも車長として表に出る身、躱すことに関しては自信があるとも……!」

 

 付き合いが良くてどうしたものだろうか。だが、外のお手伝いさん方も受け取りの体勢に入ったらしく素振りを始めていて、

 ……やらないとは言えない雰囲気に……! 

 朝から何やってんだろうな。と、そんな感想をしつつも期待に応えるため布団を投げようとしたら回避ムーブに入っていた女が端を踏んでいて悲惨な現場になり、結論から言うとお手伝いさん方の仕事を増やしてしまって申し訳ない。

 

「いやあ、寝起きの一杯を、と紅茶を淹れていたのをすっかり忘れていた……!」 

「お前、中途半端な位置にセット置いとくなよ! というか怪我は!? カップとか割れてないか、大丈夫か……!?」

 

 問題ないよ、と女が笑みを作った。彼女は、片付けに入ったお手伝いさん方の邪魔にならないよう座る位置を変え、

 

「いや失敬、どうやら久しぶりの再会で浮かれていたようだ」

「俺は久しぶりの再会に心臓バクバクなんだけど」

「なるほど。――つまり私は君にとって刺激的な女という事だね……!」

 

 日常に対する劇薬だよ、と返せば、彼女は更に笑みを強くする。

 

「いやハハハ照れるね。さあもっと褒めてくれ給え。ほら、私はいつでも受け入れ態勢だとも……!」

 

 褒めてないって。あと一瞬で感情が冷めたから諦めろ。

 と、そんなやり取りをしていると、己の端末が新着を鳴らした。内容としては箇条書きのようなもので、

 

:浅間流『今日の予定、ちょっと調整入れたから確認よろしく! 頑張ったよ!』

 

■みっくんの予定! 変更ばーじょん! 

・関係者連絡会の日程変更。別に忘れてたわけじゃないけどうっかりしていたので明日やります。ちゃんと参加するよ。

 :各方面には私から連絡と了承済み。時間は今日より早めの九時過ぎ辺り。

  皆でお茶しながら話し合いだヨ――。

・展示飛行の打ち合わせ。担当者を変更して母が代わりに行くよ!

 :しほちゃん千代ちゃんがちょうど用事があるからって、

  一緒に連盟本部行って打ち合わせしてくるね!

・各学園艦への輸送スケジュール調整。今回は明日の連絡会に併合します!

 :各校の空輸担当が向こうの担当者と調整をやってくれるそうです。

  みっくんはその最終確認を明日の連絡会で、って感じかな?

・母は昼食と夕食も外で食べてきます!

 :打ち合わせが終わったらそのまま二人とお昼食べて遊びに

  …………お出かけついでに遊びに行って来ます! ショッピング!

 :みっくんも食事はテキトーに済ませておきましょう。

 

:浅間流『つまり今日のみっくんはお休みです! 羽休め! 明日からガンバロー! 今日の私は友達付き合いダ――』

:西住流『ちょっと借ります』

:島田流『もしかしたら、うちの方から所在確認入るかもしれませんが、その辺りは上手い具合にお願いしますね?』

:西住流『あ、じゃあうちもそれで』

 

 おいママンズ……! と抗議を送っても反応はない。あるのは室内を片付けるお手伝いさん方の動作音で、隣に位置取る金髪碧眼に至っては、

 

「ハハハ私は部外者なので何も見ていないよ! 悔しかったら私の予定に付き合って休日を満喫するべきだね……! あ、昼食の当てはあるが夕食は任せるよ? ちなみに私はイタリアンの気分……!」

 

 今の一瞬で仕事が増えたように感じるのは俺の気のせいだろうか。だがまあ、

 ……珍しく気を遣わせてしまった。

 原因は恐らく隣の不審者の私用とやら。出かける前に顔を合わせているなら、彼女から話を聞いている筈だ。そこから西住島田の家元両名と合流したとなれば、

 ……あっちの二人に事情が伝わって、そこから仕事の調整に入ったか。

 

「まあ、ママンらしいといえばらしい」

 

 一人なら絶対にこうはならなかったよな、と今回は御友人様方に心の中で感謝しておく。そして、己は気持ちの入れ替えのために一度大きく息を吐いて、

 

「――仕方ないから今日は休日だ。降ってわいた隙間時間だが、せっかくだし消費のために可愛い年下系金髪美少女のお誘いに乗ろうじゃないか」

「おいコラ、人のセリフ捏造するなって」

「しかし否定はしないだろう? それとも何かな? ここまで来て、やっぱり〝仕事するから帰ってくれ〟と追い返すかね?」

「解って言ってるだろお前」

 

 当然だとも、と女が頷いた。

 

「まあ今回は私のお茶目心という事で勘弁してくれ給え。――それで? こちらとしては試合開始の時間もある訳だし、そろそろ誘いの返答を頂きたいのだがね。んン?」

 

 と、明らかに〝待ち〟のポーズを取った彼女は本当に素晴らしい性格だ。その向うで、片づけを終えたお手伝いさん方が布団を担いだ去り際に右手を回して〝巻いて、巻いて!〟とやって見せて、確かにその通りだと思う。

 故に己は、少しの間をおいてこう言ってやる。

 

「――仕方ないから今日は休日だ。今から時間の消費先を考えるのも面倒だし、その誘いに乗ってやる。次からは事前に連絡しとけよ? 調整効かせるから」

「ああ、今日はいきなりすまなかったね。――感謝である。これで、可愛い後輩達に名ばかりの先人ではないと示すことができるよ」

「またワケの解らない事を……」

「フフフ知りたいかね?」

「ハハハ知りたくないねえ……!」

 

 こっちは寝起きからお腹いっぱいなんで今日のところは勘弁して頂きたい。というか一つ確認として聞きたいんだけど、

 

「そのお誘いの試合観戦って、えっ、まさかアレか? アレなのか……!?」

「おやおや今更か……」

 

 まったく君は、と女がワザとらしい動きを作った。フフフ、と笑みも追加して、

 

「無論、この私が誘う試合なのだから、戦車道の試合に決まっているだろう。それも、私の可愛い後輩が当代の隊長となり挑む夏の全国大会だよ?」

 

 つまり、と彼女が言った。

 

「――このアールグレイが母校、聖グロリアーナ女学院の第一回戦だ。そういえば君にとって今夏大会の初観戦となるそうだが、まあ感謝の言葉を大いに述べてくれても構わないよ! さあ、私はいつでもウェルカム……!」

 

 とりあえず今の言動をスルーできる程度には感謝しているので、今日一日は振り回されてやろうと思った。

 

 

   ~~

 

 

「何だか、とても不吉な予感がするは私の気のせいかしら。アッサム?」

「偶然ですねダージリン。今しがた私も不吉を感じ取ったところです」

「何故か、先ほどまでとても心地の良かった風がピタリと止んでしまったわ。私の気のせいかしら?」

「偶々ですね。この一帯の予報データによると今はちょうど凪ぎの時間帯です。――まあ嵐の前の静けさと、そう言い換えても差し支えはないと思われますが」

「そう……」

 

 と、ダージリンと呼ばれた少女は紅茶の注がれたティーカップに口を付けた。

 空は晴天だ。

 夏の日としては比較的に過ごしやすい気温だが、淹れたての紅茶を飲むにはやや暑さを感じる。直射となる日差しも相成って、ただ座っているだけでも薄っすらと汗が浮かんだりするのだが、

 

「あら珍しい、今日はアイスティーなのね。それにこの香りは……」

「はい、本日のブレンドはベルガモットを主とした柑橘系で整えてみました。夏の日中ですから、たまには趣を変えて爽やかさを、と思いまして」

 

 そう答えたのは、小柄な少女だった。明るい髪色の彼女は、簡単に摘めるペアリングとしてショコラの焼き菓子を用意しながら、

 

「先日の学院マーケットで農業科の方に良い茶葉を譲って頂いたのです。何でも航空系の道へ進んだOGからの紹介で、英国本土からの直輸入品だとか。……あの、お気に召しませんでしたか?」

「いいえ、とても良く出来ているわ。流石はオレンジペコ、顔の広さではアッサム以上ね。後で農業科にはお礼の手紙を書きましょう」

 

 

   ~~

 

 

 有り難う御座います、とオレンジペコは最後に自分用のアイスティーを準備しながら返答する。

 現場は、夏の公式大会の第一回戦会場。聖グロリアーナ側に振り分けられた丘陵(きゅうりょう)の近い陣地だった。

 周囲では試合の参加者が各々の車輌前で最終確認を行っている。といっても、この一回戦では車輌数に制限があるために主力の一部しか参加できず、惜しくも外れたチームメンバーが何をしているかといえば、

 

「お茶葉(ちゃっぱ)とお菓子の最終補給ですのよ――ッ!」

 

 元気がいいのは素晴らしい事だと私は思います。

 だが、非参加者の皆が各車輌に調整役として付いてくれているのは非常に助かっている。時々、若干一名というか、とても張り切っている同学年の動きが大きくて物資等を飛ばしそうになったりしているのだが、

 ……まあ、周りの皆さんがフォローしてくれていますし、私が行かなくても大丈夫ですよね。

 彼女に関しては、何故今日はツナギ姿なのかとか、もう少し移動の速度を抑えてとか思うところはあるけれども。周囲の方々には上級生が多いので問題はない。はず。

 ……もし何かあったら、その時はその時で考えましょう。

 元気のいい友人が向こうでマチルダⅡの車長に御菓子の小包を直撃させたような気もするがきっと見間違いだ。

 ともあれ己は、試合前のひと時として自分の淹れた紅茶を楽しむ二人を見た。

 ダージリンとアッサム。

 聖グロリアーナ女学院における戦車道の代表と、そんな彼女と並び立つ腹心参謀。この二人のブレークタイムに若輩の身である自分のスペースが存在するという事実に、

 

「やはり、未だ慣れないところはありますね……」

 

 正直、自分が選ばれた理由は知らない。ダージリンに聞いても答えは曖昧な格言で、アッサムからは本人に聞くのが一番だと躱されるのだ。

 しかし最近、解ったことがある。それは意外な一面で、

 ……ダージリン様って、時たま常識とのズレを発揮するというか、普段は淑女然としているのにいきなり突発的な飛躍をしますよね。

 当人もそれを自覚しているのか時折窓の外を眺めては〝フフフ反面教師……〟とか言い出してちょっと心配だ。現に、

 

「ねえアッサム? 私、何だかとても不安になる重なりを発見してしまったの。これは単なる気のせいかしら」

「ええ、単なる錯覚でしょう。今のはオレンジペコの気遣いです。私達はただ、彼女の淹れてくれた紅茶を楽しめばいいのです」

「ええ、そうよね! せっかくペコが美味しそうな御菓子まで用意してくれているのだから、試合前のひと時とはいえ、楽しまなければ失礼というものね……!」

 

 どうやら、今日は二人揃って飛躍してしまったらしい。原因としては自分の淹れた紅茶があるようだが、自身には想い当たるふしがなく。

 ……ここは様子見ですね。

 と己は自分用のアイスティーを準備して席に着く。できるだけ二人の邪魔にならぬよう音を立てずに焼き菓子も少量確保して、

 

「ん」

 

 聞く体勢を取る。

 ダージリンとアッサムは、こちらを気にせず話を続けている。内容としては丁度己の用意した焼き菓子の話題に入ったところで、

 

「――その通りですダージリン。私のデータによると、ペコの用意してくれたショコラは学園艦の一等地にある名店〝AE-KOKU〟の新作焼き菓子ですね。発売から間もなく、入手が困難な一品だそうです」

「まあ! それは素敵なペアリングね。アイスティーに焼き菓子ショコラ、この上ない組み合わせだわ。まさに王道、素晴らしいブレンドのアールグ」

 

 とダージリンが言ったところで二人が動きを止めた。そして、

 

「……本当に、素晴らしいブレンドのアイスティーを有り難う。ペコ」

「え、あ、ハイ? 有り難う御座います……?」

 

 ダージリンの向こうでアッサムが〝セーフ、今のはセーフです……〟と言い聞かせるように自前のPCを開いて閉じる。一体何が、と妙な雰囲気の中で、

 

「あの」

 

 と、オレンジペコが問いを投げた時だった。

 音が聞こえた。空気を強く叩くような、打性の音が連続して聞こえて来る。

 ヘリだ。遠目で見る空の先、こちらへと接近する機体は、腹部横のハッチを開いて、

 

「アハハハハハハハハ――」

 

 奇声を上げる影が現れようとしたがすぐに別の人影によって引き戻された。

 

「……今、一瞬、とてつもなく聞きなれた笑い声が聞こえたと思うのだけど。聞き間違いかしら。お願いアッサム、聞き間違いだと言って?」

「……私も、そうであって欲しいと、心の底から願っています。しかしながらデータを見ると今の声色は間違いなく」

「イヤア、私聞きたくない――」

 

 ちょっと今までに見た事のない二人の反応でどうしたものだろうか。だが、

 

「あ、降りてきますね」

 

 と、ややあって、着陸したヘリから降りて来たのは見知らぬ顔だった。

 金髪碧眼。長身で長髪。何故か男物のスーツを着、非情に申し訳なさそうな表情の男性を後ろに連れてやって来るのは、

 

「やあ息災かね、諸君!? 久しぶりの皆はこんにちは、お初の子達は始めまして! 聖グロOGのアールグレイだ! ちょっとキミたちの隊長に用があってお邪魔させてもらうよ!

 ――おやっ! そこに居たのかねダージリン! ようやっといつかの黒い高級下着に見合う女になったようだねダージリン……! 私は嬉しいよ!?」

「さ、最悪! 最悪ですね! 突発的に現れて急に何を口走っているんですか貴女は……!? あ、ちょっ、回り込んで下から覗こうとしない! ちょっとアッサム! 見ていないで助けなさいな……!」

 

 しかし、隣に居たはずのアッサムはいつの間にか背後に回っていてこちらを前へ送り出すように背中を押してしてくる。

 あの、私は身体が小さい方なのですが……。

 あっ。 

 

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