「ガルパンはいいぞ」ただその一言に尽きる   作:琴介

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ただいまです。


・伯爵女は笑顔で踊る

 ダージリンは、久しく感じていなかった危険を目の当たりにしていた。

 ……あ、相変わらずですわね、このお方は……!

 突如として発生した不審者。その人物を、己はよく知っている。

 

「アールグレイ様! いきなり現れて一体何なのですか……! というか下から覗こうとするのを止めてくださいまし!?」

「止めたら何色か教えてくれるのかね!?」

「教える訳ないじゃないですか!」

「なら当ててみせよう! 黒か! 白か! それとも赤!? あっ、意外を狙って紫というパターンもあるね! 全く君はいやらしい子だね……!」

「意味が解りませんわ――!」

 

 ではシースルーかね……!? と驚愕を表情にした狂人を張り倒してやろうかと思ったら五歩向こうに逃げられた。

 そして行った先、オレンジペコを前に隠れきれていないアッサムが見つかって、

 

「フフフ、リ・ボ・ン……!」

「な、何ですか! 何なんですか!? イヤア、こっちこないでください……!」

 

 言いながらオレンジペコを盾として差し出そうとするのはどうかと思うのだけれど。だが、上級生と卒業生に挟まれる形になった彼女の反応としては、

 

「誰か説明を……、誰か」

 

 ええそうよね、初見は理解が追い付きませんわよね……。

 ……私もそうでしたわ……。

 と、かつての体験を思い出して懐かしさを感じた自分がちょっと悔しい。

 とはいえ、このままでは可愛い後輩が新たな被害者となってしまう。もしかしたら既に手遅れかもしれないが、貴女の頼れる先輩に見捨てるという選択肢は無く。しかし、

 

「何と! 可愛らしい子が居ると思ったらダージリンのお世話係かね!? ――いやはや、少し見ない間にあの子は立派になったものだ。あ、私の事はアールグレイとでも呼んでくれ(たま)え。一先ずお近づきの品代わりに彼女が夜中マジ泣きした話でも一つ」

「ペコに一体何を吹き込んでますの――ッ!! アレはアールグレイ様が手の込んだ仕込みをしていたからでしょう! それに泣いていません、驚いただけです!」

「ああ、そういえば確かアッサムも一緒で揃って腰が抜けていたっけね! 当時の君達の表情は今でも覚えているとも、思い出深い夏の夜だった……」

 

 イヤア血濡れの金髪女ガッ、と傍らでアッサムが飛び火にダウンしたが当時を思い出したくないので見なかった事にする。

 

「あの夜の写真なら大切に保存しているよ、見るかね?」

「削除――ッ!」

 

 と狂人が手にしている端末を狙ったら躱された。そして、そのまま背後へと回り込まれ、

 ……来ますわね!?

 思い、スカートの前と横を手で押さえつつ急いで振り返る。

 

「いい加減に――」

 

 と、そこまで言ったところで、己は胸に感触を得た。

 ……え……?

 見れば、タンクジャケットのふくらみに、アールグレイの両の手指が浅く埋まっている。

 そして彼女は三度頷いて、こう言った。

 

「ごぉ――ぅかぁ――く……!」

 

 直後、自分は反射的に横蹴りを叩き込んだ。

 

 

   ~~

 

 

 ダージリンは思った。やはりダメか、と。

 放った蹴りは直撃していない。

 防がれた。

 空いた胴体を狙った今の一撃。我ながら不意を突いた瞬発だったと自賛するが、相手は在学時代から何かと理由を付けては格闘戦を仕掛けてくるような個性の塊だ。

 ……ああもう、ホント身体能力は無駄に高いんですから!

 留学して更にパワーアップしているように感じるのは気のせいだろうか。こちらの脚を片手で受け止めたまま余裕の笑みを浮かべている辺り、たいした抗議にもなっていないようで、

 

「いやはやまだ成長期なのかね!? ふか度が以前の二割増しか――!」

 

 胸に触れたままの方の五指が動いたのでつい反射的に頭突きをかましてしまったがイイ音鳴ったので恐らく痛み分け。お互いに蹲り、打った箇所を抑えて唸って、

 ……アー、石頭!

 ちょっとクラっとした。私、試合前の時間に何をしてるんだろう……。と、鈍い痛みに現実を見る。しかし、

 

「ウアハ――、私としたことが金髪美少女の感触に油断してしまったね! まさかダージリンに先を行かれるとは……、くっ」

 

 何柄にもなくショックを受けた雰囲気漂わせているのですか。というか、その属性で人を表すの止めてください、貴女も同じでしょうに……。

 

「美少女の部分を否定しない辺り心の強度が素晴らしいよ!」

 

 貴女の後輩ですから必然です。ともあれ、

 

「卒業してから今日まで連絡の一つもないと思ったら、試合の直前にいきなり派手に現れて……。全くもう、今度は一体どこに多大な御迷惑をお掛けしたんですか」

 

 すると、やはりというか、早速に復帰したアールグレイが背後を指さして、

 

「そこで他人のフリ決め込もうとしている彼」

 

 迷惑の自覚はあるんですね……、と声にしてもよかったがどうせ言っても無駄なので思うだけにする。

 

 

   ~~

 

 

 アールグレイの手招きを受けてやって来たのは、見覚えのある姿だった。

 

「ああ、そうだろうね、直接の面識はなくとも学院ですれ違ったことくらいはあると思う。私も当時は見かける度に〝男の不審者が中々に堂々! 私も負けていられないね……!〟と横並びに張り合おうとしたがマー航空系連中のガードが堅くてねえ」

 

 などと女の不審者が言ってるのを無視して、ダージリンは蹲った姿勢から更に膝をついて頭を抱えた。それも、唸りともいえる声を吐いて、だ。

 ……ウアアアアア、よりにもよって何という……!

 もうこの際、人前だとか後輩の目があるとか気にしていられない。そもアッサムは既にアールグレイの登場から普段とのギャップが発動しているし、私の可愛いオレンジペコはやっと理解が追いついて安定したのか状況把握のためにこちらを見て、

 

「えっ」

 

 ちょっと心が折れそうになった。が、彼女への説明は後回しにせざるをえない。

 何せ、アールグレイが迷惑を掛けた相手は大物だ。

 ……我々にとっての西住島田両流派の家元と同レベルじゃないですか!

 今、目の前で、元上役が妙なムーブ付きで絡んでいる人物。学院では度々見かけていて、しかし対面となるのは今日が初の男性は、

 ……浅間流家元代理、浅間・みつる……!

 一体どこでどう繋がりを得たのか小一時間ほどアールグレイを問い詰めたいところだが今は我慢する。下手に動いて家元代理に被害をかけてはいけないし、これ以上の面倒事は避けたい。

 落ち着いて、心を一定に保つのよダージリン。私は出来る。お世話係として振り回されっぱなしだったあの頃よりも成長したんだから。上手くやれる筈。

 そうだ。今の自分は聖グロリアーナを代表する立場にある。この程度で臆していてはペコ達後輩に示しが付かないだろう。

 

「……そうよね、その通りだわ」

 

 如何なる時も優雅。それが、聖グロリアーナの戦車道だ。

 ならば、当代の隊長である自分はどうするべきかと考えたけれどアールグレイ様相手では何を対策したところで斜め上に被害が拡大するような気がしてどうしましょう。

 ……アールグレイ様の存在有無がデカ過ぎます……!

 下手を打てばただでさえ交流が少ない航空科の方々との関係が悪化してしまう。

 最悪の場合、学園艦の必需ともいえる空路に頼った輸送交通に影響がおよぶ可能性もあって、コレもう卒業生のやらかしとして処理できないかしら。現役の私達は無関係、むしろ被害者でアールグレイ様の手綱を放したOG同窓会の落ち度です、って。

 ……絶対後から私の監督不行き届きとかで上層の方々からカウンター貰うパターンのヤツ……!

 どう転んでも巻き込まれる未来しか見えないのは自分の想像力の低さが原因だと思いたい。というか何故、未だに私が担当者扱いされるのだろうか……。

 

「それはほら、私に何か用がある時はダージリンへ話を持っていくよう卒業前に諸々へ伝えておいたからだろうね」

「やけに他学科から身に覚えのない備品の返却確認が多量に来ると思ったら……! どれだけ演劇科から衣装を拝借しているんですか! 確認依頼数がトップですよ!?」

 

 ンー、とアールグレイが少し考えた。それから満面の笑みで、

 

「忘れた!」

 

 

   ~~

 

 

 一瞬、なら仕方ありませんわね、と納得しそうになった自分のチョロさに戦慄した。

 

 

   ~~

 

 

 ……元々期待していなかったとはいえ、こうも堂々と開き直られるといっそ清々しいですわね……。

 深く息を吸って、吐いて、立ち上がり、仕切り直すつもりでダージリンは言った。

 

「まあ、行方不明の衣装に関しては、見つからないならないでまた作るからと、演劇科の方々からはフォローを頂いているのでこれ以上の追及は致しません」

「相変わらずの創作気質だねえ。私が衣装を借りるといつも〝型紙ロールバックでスケジュール切り直しヨォ!〟などと慌ただしかったが、いやはや代替わりしても健在のようだね!」

「それもう戻ってこないって諦め入ってませんの……?」

 

 しかしそれでいて、戦車道履修者と演劇科の方々との仲が今でも良好であるのはアールグレイの人柄によるところだろうか。それとも単に、向こうの懐が深いだけという可能性もあるが、

 ……まあどちらでも構いません。アールグレイ様ですもの。

 もはや納得の固有名詞として元上役を認識している自分は相当染まっていると思う。だが、流石にちょっと、こればかりは納得の前に確認しておきたい事がある。もしかしたら他人のそら似という可能性も微粒子程度にはあるかもしれないので、

 

「あの、……そちらの殿方ですが」

 

 と、僅かな希望と疑問を込めて家元代理へ目を向ける。すると、アールグレイが小さく笑って、

 

「浅間・みつる、裏方系とか、そっち方面が凄い。何か困った時には便利だぞ」

「お前、やっぱ俺の認識ちょっと雑だよな? な?」

 

 家元代理が言う。ハア、と解りやすく息を吐き、

 

「裏方と言ってもたいしたことない事務系、基本的には関係者各位とうちの連中との調整入れてるだけだし、当然といえば当然で家元当人が居るから大抵の最終判断は向こう持ちになってる。

 だから、家元代理なんて肩書は面倒な確認手順を省くためのお飾り程度、これといって気にするようなものじゃない。……まあ、そのお陰で顔が広くなって便利になったのは否定しないけども」

「君が一緒だと移動が楽になるからねえ。つい余裕を持て余す」

「だからって移動中のヘリから飛び降りようとするな」

「ちゃんとパラシュートは装備していただろう」

「なら聞くけど使い方は」

「昨日、映画で見た! こう背負ってシュパッと」

「本気で止めに行って正解だったな……!」

 

 何をやらかそうとしてましたのアールグレイ様……。と、ダージリンは二人のやり取りに軽い眩暈を感じた。さらには、

 ……家元代理で確定ィ……。

 ちょっと胃痛が再発した。アールグレイ様が卒業して以来ですわね、お久しぶり、などと余計な思考で気を紛らわせつつ一息を吐いて、

 

「お初にお目にかかりますわ、浅間流家元代理。聖グロリアーナ戦車道、当代隊長のダージリンと申します」

 

 この度はうちのアールグレイがとんだご迷惑を、と先んじて頭を下げる。そして元上役が、ハッ、とした声色で、

 

「ダージリンママ……、良い響きだね……」

 

 しみじみ言われたので右手を顔の高さまで上げたら家元代理の背後に逃げられた。

 まあ何にせよ、と自分は無視を選択だ。今の一連で家元代理が「この不良娘……」と呟いていたのは非常に的を射た感想だったと思う。

 ただ、言うべきことは伝えておく。

 

「家元代理」

 

 ……我が校のOGが多大な御迷惑をお掛けした事、何卒平に御容赦を――。

 

「――我が校のOGがやらかした事に対する苦情は聖グロリアーナ同窓会の方へお願い致します。現役の私達は無関係なので」

「かなりぶっちゃけたねダージリン。私もびっくりだ」

 

 アッ、いけない。つい本音がポロっと……。

 

 

   ~~

 

 

「いやまあ、苦情と言われてもな……」

 

 挨拶も早々にぶつけられた言葉にはどう返答するべきか。

 みつるは、ちょっと悩んだ。別に自分は苦情を言いにこの場へやって来たわけではない、と。

 ……試合を現地観覧したいだけなんだよねー。

 理由はどうあれ休日となった本日。寝起きを襲撃しやがりましたアールグレイの誘いに乗ったのもソレが大半で、変人のやらかし云々なんて今さらの話だ。

 ぶっちゃけ迷惑を掛けられることには慣れている。正直、自分でも抱え過ぎで近い内に倒れるんじゃないかと思っていたがこの前の健康診断で医者からオールグリーンを笑顔で告げられてもう色々と諦めた。

 ともあれ健康体な自身に呆れを感じるものの、迷惑と苦情がイコールで考えられない思考はだいぶズレているな、と自覚はしている。

 ……そうだよな……、フツー、迷惑思ったら苦情言うんだよな……。

 身内(ママン)やら昔馴染み(西住島田)のお陰でその感覚を忘れてた。自業自得過ぎる……。以後は文句の一つでも言ってやろう、どうせ無駄だけども。

 だからまあ何であれ、いきなり文句の一つでもと言われても困るだけだ。ならば、

 

「聖グロリアーナ隊長」

「な、何でしょうか」

 

 呼んだだけで覚悟を迫られたような表情をされて悲しい。

 ……あーもー、こういう時って肩書あると面倒……!

 しかもそれを知っている相手だとなおやりづらい。俺にそんな権限無いんですよー、だから怖くないよー、などと内心で言い訳しながら気を取り直し、

 

「彼女、……アールグレイのことだけど」

「アッハイ、如何様でしょうか……!」

 

 そこまで身構えんでも、とは思う。先日に大洗の子達と顔を合わせたものだから、余計に反応の差を感じるが、

 

「――まあうんそうだな苦情とかないから全然気にしないでいいよ! 別にうちが不利益被ったわけでもないし、今に始まった事じゃないからな!」 

 

 すると聖グロ隊長が表情を消した真顔でアールグレイを見たので、一体何事だろうか。

 




ダー様ファンにDOGEZA案件になってしまいましてん。
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