木目津学園   作:あかまふる

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続きました。
今回のメインはどのCPでしょうか。


Tough Times Bring Opportunity.

1.

竈門炭治郎は高校二年生の少年である。

大正時代、つまりは前世の自分の記憶を持つ男。そして周囲の誰にでも分け隔てなく優しくできる、心優しい少年である。

そんな彼には禰豆子という妹がいる。彼の一つ下の高校一年生。学年でトップクラスの人気があり、毎日のように靴箱に入っているラブレターは竃門炭治郎の悩みの種である。

そんな妹、禰豆子には好きな人がいた。大正時代において彼女の夫であり、そして俺の大切な友人でもある我妻善逸である。風紀委員である彼は前世ほど泣くことはなくなったものの、まだ恥を晒すことはしばしばある。善逸、お前は前世の記憶が戻ってもそこだけは変わらないのか。

二人の仲に関しては前世の頃より俺も認めており、善逸が家に挨拶をしに来た時には味方になってやろうと考えている。

だがしかし、本日、今現在、その気持ちが揺らいでしまっている。禰豆子の部屋に英和辞書を借りようと入った俺の目に飛び込んできたものは

 

 

 

 

 

 

 

 

「えっ、ぜ、全裸?!じゃなくて善逸?!」

『幸せ!!うわぁぁぁ幸せ!!』

 

全裸で禰豆子の布団で寝ている善逸の姿だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

2.

所変わって学校の体育館裏、そこには3人の女性がいた。

一人はこの学園の看板とも言える生徒の胡蝶しのぶ。

一人は去年のミス木目津学園でしのぶに次ぐ2位を獲得した栗花落カナヲ

そして最後の一人は

「ど、どどどどうしよう……?お、お兄ちゃんに善ちゃん人形のことがバレた……っ?!もういっそ金属バットで頭殴って記憶喪失させるしか……っ!!」

今年度ミス決木目津学園一位を期待されている竈門禰豆子である。

彼女は数十分前までは部活動に勤しんでいたのだが、唐突に現れたカナヲから現在自宅にて炭治郎が善ちゃん人形を見つけてしまったことを報告され、しばらくこの状態である。

カナヲから救援要請を受けやってきたしのぶは、いつも通りの笑みを少し崩して彼女を見やる。

「なるほど、炭治郎君に善ちゃん人形のことがバレてしまいましたか」

「はい。家に帰ってからどうやら辞書を借りに禰豆子ちゃんの家に言った際に発見されてしまいました」

勤めて冷静に報告する彼女にしのぶは一つ確認をする。

「ところでそれを何故まだ学校にいたカナヲが知っているのかしら?」

「先日師範からいただいた愛情機(別名:GPS機能搭載超小型盗聴器)の三号機からその様子が聞こえましたので」

「なるほど、わかりました」

カナヲの言葉に理解し、しのぶは一息つくと、両の手を大きく叩く。

「起こってしまったものは仕方ありません。それよりも今は今後について、いえ、炭治郎君になんと説明するかを考えましょう」

そうしのぶが言うと、禰豆子は俯いていた顔を上げてしのぶを見る。その目は未だ光を灯しておらず、長い髪が前へと垂れているので若干ホラーであるが、そのことを気にする者はここにはいない。

「時間もあまりありませんし、一人ずつ案を出しましょう」

いいですか?と問うと、二人は首を縦にふる。こう言う場合一番初めに誰が発言するか少し話し合う必要になるが、そこは胡蝶しのぶ、「それでは私から時計回りで」と自分からスタートする。

「私としては、炭治郎君をこちら側に引き込む、というのがベストではないかと」

「こちら側、というのは」

返すのは禰豆子、そしてしのぶは説明を始める。

「私たちの味方、ということです。せっかくの機会ですし3人がかりで炭治郎をきょ……説得してこちら側についてもらい、今後は義勇さんや我妻君のスパイとしてお手伝いをしてもらうんです」

それは確かに理想的な話ではある。だがしかし、

「し、師範、それはつまり、私の事も……だ、駄目です!そんなこと知られたら私炭治郎に嫌われちゃう……」

そう、この作戦は炭治郎がこの三人の考えに納得しなければ成立しない。そして炭治郎はこの三人のうちの一人、栗花落カナヲの好きな人であり、当然ながら本日も彼女の部屋の布団には炭治郎を模して作られた人形が寝ている。

世間一般における男子は自分のそんな人形を持つ女性を、例えその女性がめっぽう美人だとしても、よく思うだろうか?

『栗花落さん。これって……俺なのか?なんで俺が裸でカナヲの布団で……ま、まぁ、栗花落さんにだって変わった趣味の一つや二つあるもんな、うん。……じ、じゃあまた』

「ダメーーーーッ!!!!」

想像上の炭治郎の反応に顔を蒼ざめて反対するカナヲ、対する禰豆子はというと、

「そ、それはやっぱりカナヲ義姉さんが可哀想じゃないでしょうか?」

「そうですか?炭治郎君なら交渉材料によっては十分可能性があると思いますが?」

「いえ、流石に私も兄に命と引き換えにこちらにつけ、とは言えませんよ?他の案も考えましょう?」

カナヲは自分のことを考え反対してくれる禰豆子をまるで女神を見るかのように感謝しつつ見つめる。

「そうですか?それでは次はカナヲ、あなたの番ですよ?」

何処か納得がいかないといった風で、しかしそこは年長者として進行を進める。話を振られたカナヲは少し考え、そして口を開いた。

「雨の中段ボールの中で寒そうにしていたから飼っていた、というのは」

「しのぶさん、やはり先ほどの案でいきましょう」

「あらあら、となると多数決で……」

「ちょっ、待って!二人とも待って!な、なんでそうなるの?!」

義妹と師匠の二人による唐突な死刑宣告にカナヲは懸命に呼び止める。何せこれを放置してしまうとしのぶの案が採用となり、それはつまるところカナヲの現状を余すことなく炭治郎に報告されてしまうのだ。それはもう必死だった。

「カナヲ義姉さん、流石にその案はないです。私てっきり考えることを放棄したのかと思いました」

「カナヲ、諦めなさい。これはあなたの責任ですよ?」

「うぅ、私なりに一生懸命考えたのに……」

二人の容赦のない反論にしょげる彼女ではあるが、これは彼女が悪い。

さて、と言うのはしのぶ。

「それでは禰豆子さん、貴方の番ですよ?」

そう進行を続けるしのぶの言葉に、禰豆子は口を開き、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

3.

「カナヲ、急な用があるから家に来て欲しいって言ってたけど何なのだろう?」

 

数十分前、カナヲから家に来るように連絡があった。正直家にいた善逸そっくりの何かについて禰豆子を問い詰めたかったのだが、声がえらく緊張しているようだったから何かあったのかもしれない。でなければ記憶を持たない彼女は、現在では少し仲のいい男友達であろう俺を自分の家にあげたりはしないだろう。

男手が必要なのだろうか、それとも何か相談事だろうか?なんだなんだ考えるが、カナヲが俺を呼んだいるんだ。理由はそれだけでいい。

「ここ、だよな?」

そしてたどり着いたのは世間一般での一軒家の二倍はあるであろう家だった。当たり前ではあるが、蝶屋敷ではないのか、そう考えてしまう。目の前にあるチャイムを押そうとすると、後ろから声がかかった。

「炭治郎君、そのまま入ってきていいですよ?」

「うわぁっ?!」

呼吸を感じるほど近くで放たれた耳元を包み込むようなその優しい声色、その声に驚いて飛び退くと、俺の後ろであったところには元蟲柱でありカナヲの師匠でもあったしのぶさんがいた。記憶がないと聞いているので昔の反応見たさにしたイタズラではないのだろうけれど、どの時代においてもしのぶさんは変わらないのだろう。そう考えていると、彼女から声がかかった。

「相変わらずの反応で少し安心しました。お久しぶりですね、炭治郎君」

 

————えっ?

 

今しのぶさんはなんと言ったんだ?「相変わらずの反応」?「お久しぶりです」?俺は今世において、しのぶさんとは直接話したことはないはずだ。ましてやこんな近距離でのイタズラをされたことなんてあるはずがない。しかし彼女の口ぶりからするとまるで自分と以前にもこのようなやりとりをした、と言っているようだ。

「詳しい話は中でしますので、少々散らかってはいますがどうぞ」

「あっ、えっと、ご丁寧にありがとうございます。それでは、失礼いたします」

考える間も無く家に入るよう促され、俺はそれに従い中に入る。あぁ、なんだか懐かしい匂いがする。藤の花の匂いだ。だがしかし、そんな匂いの中で一つ、見知った、いや、匂い知った香りがある。

「この匂いは……」

「こちらです」

彼女の開けた扉の中に入り、あぁ、やっぱり、と思う。

「禰豆子、ここで何をしているんだ?」

「えっと、ただいま?おかえり?」

「いや、そもそもここは俺たちの家ではないのだからどちらも違うだろう」

「そ、そうだね、あははは……」

なんだろう、この居心地の悪さ。我が家ではないのだから当たり前なのかもしれないが、それにしても禰豆子との会話が気まずい。まぁ俺も俺で禰豆子の部屋であんなものを見つけたのだから大分気まずいのだが。

禰豆子との気まずい空気に包まれている中、しのぶさんが声をかけてくれる。

「今日は禰豆子さんから炭治郎君に大事なお話があり、こうして家に来てもらいました。一人では勇気が出ないとのことでしたので私が一緒に、カナヲのメールは私が彼女の携帯を少々拝借して送りました。。騙すような真似をしてしまい申し訳ありません」

そう言うとしのぶさんは頭を下げる。そんなしのぶさんに禰豆子はあたふたしながら頭をあげるように声をかけ、それに俺も便乗する。

「しのぶさんも禰豆子のためにしてくれたことなんですよね?でしたら俺はお礼を言う立場です。ありがとうございます」

そう言うとしのぶさんは「いえいえ」と言い席につくので俺も案内された席に座る。

さて、気を取り直して、

「それで禰豆子、話っていうのは何だ?」

俺の禰豆子に対するは質問は家に帰ってからでもいいだろう。何せここにはしのぶさんもいるのだ。流石にここで話すわけにはいかない。そう結論付けると同時に、禰豆子は口を開いた。

「私、……鬼、だったんだよね?」

「——ッ?!」

俺は驚きのあまり言葉を失う。鬼、その存在は現代にはもういない。大正時代に鬼舞辻無惨を倒した事で全滅したのだから、その存在は一部の例外を除き、知られていないはずだ。

だというのに彼女は、自分が鬼であったと言う。それは正しく、そして間違っている。今世において彼女、禰豆子は当たり前に人として生きてきた。しかし、前世においては違う。鬼舞辻無惨によって鬼として俺とともに旅をしていたのを俺は覚えている。しかしそれは、俺が前世の記憶を持っているからだ。しかし禰豆子は違う。禰豆子は前世の記憶を持ってはいないはずだ。前世の記憶を持っていれば、鬼となってしまっていた彼女は平静を保つことなんてできないはず。だから安心していた。あぁ、禰豆子は人として生きられるんだ。そう考えていたと言うのに……。

そこまで考え、俺の頭は真っ白になった。

 

 

 

 

 

 

 

 

4.

計画通り。内心私は某死のノートの主人公さながらに高笑いしている。

私は今お兄ちゃんとともにしのぶさんとカナヲ義姉さんの家へと来ている。目的は竈門炭治郎に善ちゃん人形に関する記憶を抹消すること。そのため、私は体育館裏でしのぶさんにどうするか聞かれた際にこう答えた。

「シリアスな空気でお兄ちゃんの頭の中を真っ白にした上で別の記憶を上書きします」

これはつまり、鬼であった辛い時期(禰豆子としては過去の自分を別人と割り切っているため、そして泣き虫で甘えん坊な善逸との記憶の方ばかり覚えていたためにそこまで辛い記憶ではない)の記憶を持っていることを話すことで兄の思考を更地にし、そして「それでも私は不幸じゃなかったよ。だってお兄ちゃんがずっと守ってくれたんだもの」的なことを言い感動の記憶を上書きすることで善ちゃん人形の記憶を消し去り、家に帰って即善ちゃん人形を天井裏に隠す、という作戦だ。我ながら策士すぎて恐ろしい。カナヲ義姉さんはこの話をしている時に何故か全く別の方を向いて頭を抱えていたけれど、まぁ作戦は知っているであろう。しのぶさんに関してはしっかり聞いていたようで、継子へのスカウトを受けました。

さて、私が記憶を持っていることは話した。お兄ちゃんは案の定うつむき頭を抱えている。おそらくその頭の中は私のことでいっぱいいっぱいで善ちゃん人形のことはないだろう。

「炭治郎君、禰豆子さんはね、しばらく前に記憶を取り戻していたんです。もちろん私も。けれどその事は言えなかった。言ってしまえば私たちの愛する人たちが思いつめてしまうから。けれど、禰豆子さんはお兄さんに嘘はつきたくない、そう言って勇気を出したんです」

そう言って涙を浮かべるしのぶさんに、兄は驚愕といった表情をしている。涙を流し、「そんな……そんな……」と壊れたラジオのように同じ言葉を続ける。あや、しのぶさん演技上手すぎません?私は今手に持っている目薬で涙を演出しようとしているのに、この人何も無しで涙を流し続けているんですが。

そしてお兄ちゃん、ごめんなさい!泣かせたくはないのだけれど、このままではお兄ちゃんってば善ちゃん人形のことで家族会議膝を開来そうで怖いから仕方がなかったの!

心の中で土下寝しながら、わたしは口を開いた。

「でもね、鬼であった頃の記憶は決して辛いことばかりじゃなかったよ?」

「……えっ?」

「だってさ、鬼になった後、一人だけずっとわたしの味方をしてくれた人がいたもの」

「優しくて鈍感で、家族思いの長男さん、自分のことよりも他人のことを優先に物事を考えてくれる、そんなお兄ちゃんがずっと側にいたもの」

そう言って涙(と見せかけた目薬)を目に貯める。

「一番辛い時、対雑な家族が私を守り続けてくれた。そして一人、また一人、鬼のわたしのことを人として扱ってくれる人が増えたの」

なお、風柱の彼の所業のみは許せなかったため、教室の机の上に彼の弟のヌード写真(ガチムチの男の人たちの顔に弟さんの顔の写真を貼り付けた系一六二ページ、「兄さん、ガチムチな俺でもいいかな?僕のヌードを見てくれよ特集」)を一〇冊ほど置いておいたところ愉快な噂が広まってしまったが、これは仕方のないことだろう。

さて、兄の涙で机の上に水たまりができ始めたので、そろそろ決めゼリフへといこう。

「だからね、私はお兄ちゃんに伝えたかったの。」

可能な限りの表情筋を総動員し、私はこう告げた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ありが「ごめんね禰豆子ちゃん!私が間違えてた!」……はい?」

「えっ?」

「あらあら」

私の私による私と善一さんのための有耶無耶にしちゃおう作戦、その最後の一手を遮ったのは誰が、それは見るまでもなかった。

「カ……栗花落さん?」

カナヲ、そう呼びそうになるのをすんでのところで止め、彼女のことを呼ぶ。お兄ちゃんとしてはカナヲ義姉さんとの距離はせいぜい仲のいい友達程度だと考えているが故の呼称である。

そんな彼の呼びかけに一瞬涙をこぼしそうになるが、それを堪えて禰豆子に、言葉をかける。

「私、あなたの力になりたい。だから後は任せて!」

「えっ、ちょっ、カナ」

「任せて!!」

私の言葉を無視し、カナヲ義姉さんはお兄ちゃんはと向き直し、肩をガッと掴んだ。兄としては何が起きているのかわからずあたふたしているが、そんなお兄ちゃんにカナヲさんは大きな声で、力いっぱい伝えた。

 

 

 

 

 

 

「あのね、禰豆子ちゃんも悪気があったわけじゃないの!好きな人と一緒にいたいのは当然でしょう?それが例え魂の宿らない人形であっても、そうして寂しさを紛らわせることしかできない人だっているの!最近の女子のほとんどは持ってるよ!私だって持ってる!そうすることでしか好きな人と一緒にいられないから!だから炭治郎、禰豆子ちゃんを怒らないであげてっ!これはいたって普通のことなの!」

 

 

 

 

 

 

そこまで話し終え、聞こえたのはカナヲ義姉さんの荒い息遣いだけだった。反応は三者三様で、私はこれまで順調だった作戦をあと少しのところでぶち壊されたことに対する絶望から顔を伏せ、しのぶさんはこれまでの一連のやりとりに限界を迎えたのか、口元とお腹をそれぞれの手で押さえて必死に笑うことを堪え、兄はよくわからないが顔を伏せている。そして当のカナヲ義姉さんはといえば、やり切ったと言わんばかりにこちらに清々しいほどの眩しい笑みを向けている。

 

「いや、何してくれてるんですか?!」

「えっ?」

なぜ怒られているんだろうと言わんばかりの表情に私は言葉を止められず、頭で浮かんだ言葉が次々とこちから出てしまう。

「せっかくあと少しでお兄ちゃんをちょろまかせそうだったのに!」

「いや、でも、私は」

「よりにもよってなんで全て暴露しちゃうんですか!これで私の計画はおじゃんですよ!」

「赤信号、みんなで渡れば怖くないと思って」

「どう見てもあの人形は世間一般じゃありません!好きですけど!好きですけど!あれが世間一般になったら普通に怖いですよ!」

「で、でも、」

「でもじゃありません!いくらカナヲ義姉さんでも今日という今日は「……た……で……だ」ヒィッ?!」

勢いに任せて口から言葉を吐き出していると、ふと目があった。真っ赤な交際はどこか黒ずみ、口から放つは呪詛のごとき言葉。耳を傾けたくはないが、あまりの恐怖に周囲の音は彼の言葉のみとなる。そして聞こえてきた言葉は

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「カナヲに好きな人がいる?えっ、なんでだ?カナヲには俺がいるじゃないか?俺にはカナヲがいてカナヲには俺がいる。生涯愛し合うって誓ったじゃないか。なのにどこぞの男を好み、その人形を毎日抱きしめているって?なんでのんでなんでなんでなんだ?それにまだカナヲは好意を伝えていないんだろう?カナヲの行為に気がつかないような鈍感な奴なんか君にふさわしくない。カナヲ、君には俺しかいないんだ。俺には君しかいないように、君には俺しかいないんだ。他の男と結ばれてもどうせうまくいかない。いや、俺がそんか環境壊してやる。殺してしまえば俺がカナヲに嫌われてしまうかも知れないから二度と俺からカナヲを奪ろうだなんて思えないほどの後悔を刻んでやる。あとはカナヲか。カナヲは……、そうだ、箱に入れよう。禰豆子の時のように箱に入れて一緒に暮らせばいいんだ。一生俺の箱の中ですくすくと育てるんだ。わかってくれるまで何度でも愛してるって囁けばいつか目が覚めてくれるはず。カナヲは誰にも渡さない。俺だけのカナヲなんだ。他の誰の目にも届かない箱の中に隠して、一生愛してやるんだ。大好きだよ、カナヲ。愛しているよ。君さえいれば俺は何もいらないし何だってできる。ネェ、カナヲ?」

 

「お、おにい……ちゃん……?」

「あらあら、少しやり過ぎちゃいましたね」

 

しのぶさんが反省していると言わんばかりに苦笑いを浮かべるが、それどころではない。私はあんなお兄ちゃんを知らない。お兄ちゃんは優しくて家族思いでいつも笑顔でみんなに元気をくれる自慢のお兄ちゃんなのだ。けれど今目の前にいるのは、本当にお兄ちゃんなのだろうか?お兄ちゃんと呼ぶにはその目は鈍く光り、そしてその笑みは狂気を含んでいた。

一歩、また一歩とお兄ちゃんがカナヲ義姉さんの元へと近づく。

 

「カナヲ、行こうか?」

「い、行くって……何処に?」

「誰一人として俺たちの邪魔をしない静かなところを探そう。そうだな、どこか山奥に家を建てよう。すぐには無理だろうけど伊之助や善一もきっと手伝ってくれるさ」

「で、でも、学校が……」

「学校?あぁ、そうだね。カナヲはもう通わなくてもいいから退学届を出しに行こうか」

「な、何で……?」

「何でって、当たり前じゃないか。カナヲに纏わりつくハエのいるところになんて行かなくてもいい。君には俺がいればいいんだ。俺は君の全てを愛している。どれだけ言葉にしても足りないだろうから、そこは行動にして示しておこう。あっ、そうだ!これは聞いておかないといけないな」

「な、何?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「子供は野球かサッカー、どちらができるぐらい欲し」

「はーい!炭治郎君、こちらに注目でーす!」

私とカナヲ義姉さんがお兄ちゃんに恐怖し体を震わせていると、天の一声か、しのぶさんがお兄ちゃんに声をかけた。しのぶさんの声のする方を見ると、どこからだろう、スクリーンが折れていた。

「なんですか、しのぶさん?今俺はカナヲと今後の生活について話し合っているところなのですが?」

お兄ちゃんが言外に邪魔をするなと伝えるが、しのぶさんはその様子に臆することなく話を続ける。

「これはきっと、炭治郎君も喜ぶと思いますよ?」

「俺が喜ぶ?」

「えぇ、きっと」

そういうと、しのぶさんは、いつの間にか手に持っていたリモコンを操作し、映像を開始した。そこには大きくこう書かれている。

 

 

 

 

 

 

 

 

【ドキドキ!カナヲの恋模様!】

 

 

 

 

 

 

 

 

「な、何これ?」

 

カナヲ義姉さんが呆然とする中、その映像は始まる。画面に映ったのは裸で市松模様の羽織のみを羽織ったカナヲ義姉さん。彼女は画面の中で手に持つものに懸命に話しかけていた。

 

 

 

 

 

『はぁ、やっぱり本物みたいに力強く手を握ってくれない』

 

 

 

 

 

『こんなに抱きしめてもあの暖かさは返ってこない』

 

 

 

 

 

『あの声で励まして欲しい』

 

 

 

 

 

『過去の私じゃなくて、今の私を励まして欲しい』

 

 

 

 

 

『例え付き合ったとしても、きっと炭治郎は私じゃなくて、過去の私を選んじゃう』

 

 

 

 

 

『今の私じゃ炭治郎の背中を見ることすらも叶わない』

 

 

 

 

 

『寂しいよ、炭治郎……』

 

 

 

 

そう、丹次郎の形をした人形に。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「イイイイィィィィィヤアアアアアァァァァァァァァーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーッッッッッッ!!!!!!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その日、近所の人はその家からこの世のものとは思えないほどの大声を聞いたとのちに語る。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

5.

「カナヲ、落ち着いたか?」

「うぅ、もうお嫁にいけない……」

「その時もどんな時も俺が貰うから安心してくれ」

「……お兄ちゃんも落ち着いてよ」

あの上映会から数十分、とても大変だった。

カナヲさんはスクリーンを何が何でも破ろうとして呼吸を連発し、兄は感極まったと言わんばかりに感激の涙を流し、しのぶさんはカナヲ義姉さんがスクリーンを破ろうとするのを止めながら大声で笑っていた。私?私はその間部屋のソファでただただ座っていました。

「それにしても、うまく事を運びましたね?」

「さて、何のことでしょうか?」

よくもまぁここまで白々しく返事ができるものだ。今日のことは結局、しのぶさんの計算通りに事が進んだだけなのだ。彼女の目的はお兄ちゃんを私たち側に取り込むこと、そしてそれはとある取引にて成功した。

「ところでしのぶさん、あの映像、あとどれぐらいあるんですか?」

「残念なことに私が記憶を取り戻したのが数ヶ月前ですので、まだ三二巻までしかないんですよ。写真集ならもう少しはあるんですけど」

「なるほど、それでは俺も頑張らないとですね」

そういうお兄ちゃんの手にあるのは先ほどの映像に加え合計三本のDVDを獲得していた。本日騙してしまったお詫びだそうだ。お兄ちゃんは数十分前の様子とは打って変わり、えらく上機嫌である。でもまぁ私としてもこの結果は喜ばしいものだ。何故なら、

「禰豆子、好きなものを自室に帰ってすぐ堪能したいのはわかるけれど、片付けはしないとダメだ。でないとうちの家族に見られて大変な目にあうぞ?」

「うん、今回のことで懲りました。私が家にいない時には屋根裏に居てもらうことにする」

「それじゃ、屋根裏を少し弄って善ちゃんの居心地のよくなるようにするか」

「手伝ってくれるの?!」

「当たり前だろ?人形とはいえ善逸は俺の友人だ。その友人がそのまま屋根裏に入れられるだなんて俺も嫌だからな」

「ありがとう、お兄ちゃん!」

そう、危惧していた家族会議が始まるどころか、お兄ちゃんが私の善ちゃん人形をみとめてくれたのだ。これで今後は家でもやりやすくなる。

さて、そんな感じでハッピーエンドを迎えたわけだが、一人だけ、ハッピーになりきれていない人がある。

「私、何でこんなに恥を晒すんだろう。おまけに炭治郎に気持ちもばれてしまったし、もう誰もいないところに身を隠すしか……」

ひっそりと隠居生活計画を立てる彼女の後ろ姿はとても哀愁が漂っている。まぁもし私が同じような目にあったとしても似通った反応になっていただろうと思うので触れないでおこう。

そう私が考えていると、お兄ちゃんがカナヲ義姉さんのところへ行き声をかけた。

「カナヲ」

「な、何でしょうか?私は今どこに隠れ住むかを考えているので忙しいのでありますが」

口調、その口調はどこから来たんですか?そう聞きたくはなるが邪魔をしてはいけない。そのまま私と隣にやってきたしのぶさんは耳を傾ける。するとお兄ちゃんはカナヲさんを抱き寄せた。これにはカナヲ義姉さんもびっくりしたようで、目をパチパチと大きく開閉させている。

「た、炭治郎?」

恐る恐るといった様子でカナヲ義姉さんがお兄ちゃんに話しかけると、お兄ちゃんはよくする優しい笑みを浮かべて返事をした。

「カナヲの気持ち、気付いてやれなくてごめんな?俺が過去の自分と現在の自分を一緒くたに考えていたからって、カナヲがそうとは限らないもんな。うん、ごめん」

「そ、そんな、謝らないで!わたしはただ我儘を言っていただけなの。だからそんな言葉をかけてもらえる権利は」

その言葉にお兄ちゃんは間髪入れずに返事をする。

「違うよ。男はさ、好きな女の子の事は何があってもわからなきゃいけないんだ。その子が嬉しい時、悲しい時、楽しい時、辛い時、そんな一瞬一瞬を一緒に喜び、悲しめるようにならないとその子を愛する事だなんてできないんだ」

だからさ、そうつなぎ言葉を紡ぐ。

「もっとカナヲの事を教えてくれ。例え辛く悲しいことでも、ひどく我儘なことでも、カナヲのことを俺は、誰よりも一番知りたいんだ」

「……うん、分かった。だから炭治郎も私に、あなたの気持ちをいっぱい教えて?どんな感情であろうと私、受け止めてみせる。……流石に子供は片手の指で足りるくらいがいいけど」

「ははっ、そっか。ならそうしよう。そして生まれてくる子たちにうんと愛情を注ごう」

 

 

 

 

 

なんだろう、この敗北感。

しのぶさんの作戦のおかげで私としのぶさんは成果を得たはずなのに、目の前の二人を見ていると何だか負けた気持ちになる。

というかカナヲ義姉さん、そんな兄でいいの?今でこそいいことを言ってるけれど、数十分前のあの病みに病んだお兄ちゃんを忘れたの?これから男性との中を誤解されるだけでアレが出るのなら私は今すぐ外に逃げ出す自信があるけど、カナヲ義姉さんは大丈夫なの?

そう考え、ふと思ったことがあった。それはカナヲ義姉さんのことだ。彼女は愛情機と言う名の盗聴器を取り付けたり人形をこさえたりするほど技病んでいたはずなのに、その割にあのDVDを見ると大慌てしていた。てっきりどっしりと構えてお兄ちゃんを誘惑するかと思っていたけど、そうしなかったのは……

「まぁカナヲはまだこちら側の人間ではありませんでしたからね」

「……当然のように心の中を読まないでくれませんか?」

そういった嫌な顔をすると、しのぶさんは笑みを浮かべた。

「そもそも何故カナヲが盗聴器を仕掛けたり人形をこさえたりするのが当たり前と思っていたかわかりますか?」

そう尋ねられ、私は考えようとしたが、間髪入れずにしのぶさんは答えを提示する。

「それはですね、彼女が恋を知らないからです」

「恋を知らない?でも義姉さんはお兄ちゃんと」

「彼女が知らないのは恋に必要な駆け引きです。以前の時代では彼女は炭治郎君と出会うまで誰とも恋をしていませんでした。何せ彼女は捨て子ですからね。そんな過酷な環境で暮らせば恋にうつつを抜かす時間もないでしょう」

「炭治郎君と出会ってから、彼女は確かに成長しましたが、恋愛に関しては時代のせいか成長しませんでした。恋愛を始める前に炭治郎君に告白されたらしいですし。そして今世では炭治郎君のことしか眼中になかったため、恋愛を学ぶ機会がなかった」

「ですので彼女にとって恋愛を学べる相手は限られていたんです」

誰だかわかりますか?というしのぶさんの声に私は答える。

「お兄ちゃんとしのぶさんですか?」

その返答に笑みを浮かべ返事をくれた。

「厳密にはあなた達やアオイ達もいたでしょうけど、やはり私と炭治郎君に白羽の矢が立ったのでしょう」

なるほど、理解することができた。その二人しか参考にできる人がいないのであれば、カナヲ義姉さんは恋愛に関してはかなり特殊な方法しか知ることができなかったはずだ。しのぶさんとお兄ちゃんは二人とも愛が重すぎる。そしてその結果の行動も相当なものだ。

「つまりカナヲ義姉さんは愛が重いのではなく愛を伝える手段を知らず、参考にした人が悪かったわけですね」

そう結論付けると、またも笑みを浮かべて返事をする。

「自分で言うのもなんですが、そういう事です。ですので私も少々罪悪感があったわけですよ。もっと普通の女の子の恋愛をさせてあげたかったって」

だからこその今回の行動なのだろう。結果としてカナヲ義姉さんはお兄ちゃんと愛し合うことができた。多少のトラブルはあれど、しのぶさんの計画は概ね成功していたわけだ。全くもって恐ろしい女性である。

けれど同時に、しのぶさんのような女性に憧れを抱いてしまうのは私も少しおかしいのだろうか?

「禰豆子さん」

「はい」

「おそらくあなたはカナヲとは違い、私と同じく、相手を思いすぎる傾向にあります」

まぁ、それは私もそう思う。決して自分のことを普通だとは思っていない。人形を作っている最中もそれは感じていたし、片耳に付けたイヤホンから聞こえてくる善一さんの声にしても、部屋の押し入れを改築して作ったショールーム(毎月一枚ベニヤ板に月々の彼の写真を纏めているのを立て掛けている)にしても、彼の家のゴミから採取した髪の毛を瓶に詰めて保管していることにしても、少しばかり愛が重い自覚はある。

「なので恋愛に関して相談できる相手もそういないでしょう。お兄さんも愛は重いけれどそれは普段は無意識のうちに隠しているようですし、カナヲにはあなたの恋愛はまだ難しい」

だから、と、しのぶさんは私の肩に手を置いて言う。

「恋愛ごとで悩むことがあれば、私に相談してください」

おそらく彼女も同じ悩みを抱えていたのだろう。愛が重いとはいえ私はまだ軽いほうだ。しのぶさんと比べればであるが。そんな彼女だからこそわかる事がある。

なら私はこう言うのが正しいのだろう。

「しのぶさん」

「恋愛に関して何かあれば相談します」

「ですのでどうか、あなたも何かあれば私に聞かせてください」

「私も前世を数えればそれなりに生きてきました。少しは力になれると思います」

「だから、一人にならないでくださいね」

そこまでいって、しのぶさんは困ったような表情をした後、一息入れて返事をくれた。

「わかりました。よろしくお願いしますね」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

6.

後日談。

あの日、一組のカップルが出来た。そしてそれと同時に協力者が出来た。

「しのぶさん、これ、お約束の品です」

そう言って炭治郎君が私に渡したものは一枚のmicroSDと一本の伊達眼鏡。

「中身を確認してみてもよろしいでしょうか?」

「えぇ、どうぞ。俺も確認しましたが、中々良く撮れていますよ?」

炭治郎君の許可も得て、私は眼鏡をかける。そしてmicroSDをメガネに取り付けてある挿入口に入れ、再生ボタンをつける。そして目の前に広がるのは何度も水の呼吸を連発して戦う義勇さんの姿。

「炭治郎君、炭治郎君、これは素晴らしい映像です!やはりあなたが協力者になってくれてよかった!」

「いやぁ、正直何度か死を覚悟しましたけどね。義勇さんが拾の型を使ったあたりで走馬灯が見えましたしね」

「あぁ、ここのシーンですね。これは確かに死を覚悟してしまいますね。まぁその死を見届けてくれるのが義勇さんであるなら私としてはアリかもしれませんが」

「俺にはカナヲがいますからまだ死ねませんね」

「おや、惚気話ですか?こんな美人を捕まえて罪な人ですね?」

「本当の罪な人は自分の顔の作りを理解し利用している人ではないですか?」

「あらあら、これは一本取られてしまいましたね」

上機嫌に話す二人は体育館裏の階段に二人で座っている。ぱっと見では恋人同士に見えなくもないのだが、本人達にその意識は全くない。

「ところで報酬の方は?」

炭治郎君の言葉を聞き、私はカバンから一つのメガネケースを取り出す。

「コレですね。使い方は私の使っているコレと同じですので、それとこれがカナヲとの打ち合いで撮影した映像です。」

「しのぶさん、これ、義勇さんの着替えの盗撮映像です」

「あらあら、渡すデータを間違えてしまいました。えっと、……あぁ、これですこれ」

そう言って渡されたmicroSDを入れ替え、再生する。

「おぉっ!これはすごいですね!相変わらず綺麗な型だなぁ」

「義勇さんのお風呂姿の映像をいただけるのであれば私もカナヲの入浴姿の映像を撮って来てあげますよ?」

「あとで義勇さんを銭湯に誘ってみます!」

「では私は今夜一緒にお風呂に入りましょう」

こんな感じで次々と義勇さんとカナヲの盗撮映像が量産されていることを本人達は知る由もないだろう。

そしてこんな会話も?

 

 

 

 

 

「ねぇ、炭治郎君」

「はい」

「カナヲのことを、よろしくお願いしますね」

「わかりました。しのぶさんは義勇さんのことをよろしくお願いします」

「あらあら、私たちはまだそんな関係ではありませんよ?」

「でもなるんでしょう?」

「えぇ、それでは私もお約束しましょう」

 

 

 

 

 

 

 

そうして交わす指切りを知るのは

この二人だけ

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