木目津学園   作:あかまふる

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続きました


Misunderstanding And confession

1.

すみません、お届けものです。

 

とある平日の夜、両親が家に帰るのが遅くなるため一人で食事を取っていた時、そんなお決まりの言葉を告げたのは玄関の外にいる配達員の方だった。扉を開けると、その配達員の方の横には大きなダンボールがあり、品名はぬいぐるみ、送り元はカナヲとなっている。

「神崎さんのお宅でよろしかったでしょうか?」

「は、はい。神崎です」

「それではこちらに印鑑をいただけますか?」

「はい」

「それとこれ、結構重いので玄関まで上げてもよろしいでしょうか?」

「助かります。よろしくお願いします」

荷物の受け取りはスムーズに行われ、配達員の方はそのまま帰ってしまった。

残されたのは自分と隣のダンボール。ぬいぐるみだなんて頼んだ記憶はないが、そう考えていると、ふと手紙が付いていることに気付きそれを読んだ。

 

神崎アオイ様

 

私には必要がなくなりましたので、こちらをあなたに差し上げます。

メンテナンス方法については今度会った時に教えます。

それと箱を開いた時、頭痛を引き起こすかも知れません。その時は無理せずその場でもいいので仰向けになり、呼吸を整えてください。

その子をよろしくお願いします。

 

栗花落カナヲより

 

 

 

 

 

なんだこの怪しさ一〇〇%の荷物は。もしかして何かの詐欺に引っかかったのだろうか?携帯で彼女に確認を取ろうと連絡アプリを開くと、

『猪突猛進!猪突猛進!ふはははははっ!』

「ヒィィィッッッ?!」

中から聞こえたのは男性の声。いや、男性と呼ぶには声が高い。おそらく少年と呼べる年齢だろう。

何か理解のできないものが入っているという恐怖感、それはもちろん感じた。しかし何故だろう、どこか懐かしいような気もする。

好奇心に押されるようにそのダンボールを開けていく。こらは二重構造になっているのか。ということはそれなりに重さを伴うもの。すくなくともボイスレコーダーのようなものでないことはわかった。

箱を開け、そこにいたのは

 

 

 

 

 

 

 

 

『イイヨ。キニシナイデ』

「いのっ?!うっ、頭……痛い……っ!」

 

 

 

私が最後に見たのはイノシシの頭を被った五歳くらいの子供だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

2.

「カナヲ!あなた全て分かっていましたね?!」

「だから手紙に書いた。仰向けで寝てって」

朝一番、開口一番、私たちはそんなことを言った。ここが朝のホームルーム前の教室であることも御構い無しに、あの人形についての話をする。

「なんでうちに、それも五歳の伊之助さんを送ったの?!」

「だって、炭治郎に、俺がいればアレはいらないよねって言われて」

「五歳の伊之助さんを?!」

「一七歳の炭治郎を」

「私は今あの子供について話をしているんです!」

「あの子、炭治郎からつくったから」

「クローン技術で突然変異でも起きたんですか?!説明が決定的に足りていません!一から全て教えてください!」

わかってはいたがカナヲはドがつくほどの口下手だ。そして天然だ。それは昨日引き起こされた記憶からも理解できる。あの時は事情が事情だったから仕方がないのだが、今世ではそんな酷い環境で生まれ育っていないはずだ。なら少しぐらい口が立つようになってもいいだろうに、この子はあのときのままの口下手さ、天然さを保ってしまっている。

「あらあら、何やら面白いことになっていますね?」

その言葉とともに、ざわついていたうちのクラスから音がなくなった。そして視線はただ一点、その訪問者の元へと向かう。

「しのぶさ……先輩」

「はい。お久しぶりですね、アオイ。」

その言葉で理解できた。胡蝶先輩とはこれまでも何度かお会いしている。しかしその時には必ずわたしのことを「神崎さん」と読んでいた。しかし彼女は今私のことを「アオイ」と読んだ。それは胡蝶先輩ではなく、しのぶ様が私を呼ぶ際の呼称だ。ならばおそらく、しのぶ様は全てを知っておられる。過去の記憶も、そしてこの状況も。

「朝のホームルームには参加できませんが、少し場所を移しませんか?」

「……そうしたらご説明いただけますか?」

「もちろん。私もそのためにここにきましたしね」

そして私は、二人とともに教室を後にした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

3.

「一つ質問します。アオイ、あなたは蝶屋敷での記憶がありますか?しのぶ様と呼ぶということは聞くまでもないとは思いますが」

その質問の意図は記憶が戻っているかどうかの確認なのだろう。ということはカナヲだけでなくしのぶ様もあの時代の記憶がある、ということだ。私は首を縦に振ることで肯定を示し、その反応にしのぶ様は少し顔を暗くされた。

「出来ることならあの時代に生きた記憶は思い出さない方が幸せだったのですが、なんと言えばいいか……」

本当に悲しそうに、そう私にいう。確かにあの時代での記憶は思い出したくない人もたくさんいるはずだ。家族を、友人を、恋人を、失った物は数知れず。決して明るい記憶ではない。

けれど、私はしのぶ様の目をまっすぐ見て答える。

「いえ、お気になさらないでください。確かにあの頃が幸せだったかと言えば答えに悩むのは事実ですが、私にとっては、少なくともあの蝶屋敷でしのぶ様やカナヲ、皆さんと過ごした日々を私は誇りに思い、そして幸せに思います」

「そう。では話を進めましょう」

えっ?そう思うほどにその返事は間髪入れずに返された。別に今の自分のセリフに感動してもらおうだなんて思ってはいないが、ここまで何もなしに次の話に進むとは思わなかった。そんなしのぶ様の態度に疑問を持ちつつ、私は話を聞く。

「実はカナヲと炭治郎君が昨日、交際を始められました」

非常にめでたいことです。そういうしのぶ様のこめかみがピクリと動いた気がするが、気のせいだということにしよう。

「それで、カナヲがこれまで持っていた炭治郎君人形なのですが、どうも炭治郎君が、自分がいればこれはいらないはずでは、と妬いてしまったようでして」

いえ、でしてではなく。今明らかにおかしな言葉が説明の中に混在していた。

「し、しのぶ様、一つ質問してもよろしいでしょうか?」

そういう時胡蝶様は一言、「どうぞ?」と言ってくださったので私は疑問を口に出す。

「炭治郎君人形とは何ですか?」

その単語に私は昨夜見た五歳児を思い浮かべてしまう。あぁ、きちんとお留守番できているだろうか?お昼に一度戻りご飯を食べさせてあげるつもりだけれど、それでも五歳の子供を一人にしておくのは気が気でならない。

私の疑問にしのぶ様とカナヲ、ふたりしてきょとんと首をかしげるが、何かに気づいたのだろう。なるほどと言わんばかりに手を打ち、カナヲが口を開いた。

「炭治郎人形はマネキンを基にして作られたリアル炭治郎スケール1/1。通常は隊服を着せて大正時代の姿に寄せている。肌の質感はまさに本物と同等で、ボイス機能まで付いている優れもの」

「……しのぶ様」

「言いたいことはわかりますが、私が説明しても似たような説明になります。まぁ想像しやすく説明するなら催眠をかけられて自我を失った炭治郎君をご想像ください」

「ご想像したくないですご想像したくないですご想像したくないです!!!なぜしのぶ様までそんな反応なのですか?!」

普通に怖い。何がって、この二人が今の会話を笑みを浮かべて行っていたことが、である。何かのドッキリなのかと思い辺りを見渡すも、収穫は何もなし。そんな焦燥しきった私に目もくれず、会話を進める。

「言いたい事も分からなくはありませんが」

言い切ってください。

わからないでしょうと言い切ってください。

「アオイも見たのではないのですか?小さい伊之助さんを」

小さい伊之助さん、そう言われて思い出すのはやはり今朝方私の朝ごはんのウィンナーを横取りしてきゃっきゃと喜んでいたあの子である。……えっ?あれ、もしかしてだけど、

「あの子って人形なんですか?!なんか普通に子供みたいに走り回って、今朝は私のご飯食べてましたけど?!あの子って人形だったのですか?!」

「うん、いのちゃん人形は私の炭治郎人形を少しいじってできたぬいぐるみだよ?」

食事に関しては「消化器官までは再現してないからお腹の扉にある袋の中に入ってるとは思う」と説明を受けるが、それどころではない。

「何をつくっているの?!それはもはや一学生が行っていいようなものではないですよ!」

「だって、炭治郎人形を捨てたくなかったんだもん」

「もんではありません、もんでは!そんなにふくれっ面になってもやっていることはマッドサイエンティストのそれです!」

「でも師範も禰豆子ちゃんも作ってるよ?」

「そんなお弁当感覚であの子を作ったのですか?!」

「あらあら、あなたのお姉さんはあなたのことを大切に思ってくれてますねー」

嫌な予感はしていたのだ。しのぶ様の私の話を聞き終えたときのあの反応、あれは私の話に関心がなかったのではなく、別のことが関心のランク上位に食い込んだ、ということだ。それがまさかお人形作りと見せかけた新人類製造計画だっただなんて、この師弟はどうにかして止めなければ……

 

 

 

 

ん?

 

 

 

 

そういえばしのぶ様、最後になんて

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『おい、アカイ!親分を置いて先に行くんじゃねぇ!』

「なんでイノがここにいるのよ!なんでここにきっちゃったのよーーーーー!!!!」

「あなた、イノ?」

『そうだ!凄いだろ?!』

私の目の前に立ち新聞紙をくるんで作ったであろう棒で私の頬をつつくのは、五歳児の伊之助さん、イノだった。

 

 

 

 

 

 

 

4.

「なるほど、通りで猪とカナヲの匂いが同じところからした訳だ」

「でもなんでそんなに落ち込んでるんだろう?」

『イイヨ。キニシナイデ』

イノが学校に来てしまうというハプニングが起きてから十数分、事態をおさめるべく竈門家兄弟の二人が呼び出された。もちろんもうすでに授業が始まっているのでサボりである。

ちなみに伊之助さんがおとなしい理由は、あまりに騒がしかったためしのぶ様に怒られたからだ。なんだろう、被り物のせいか、サイズのせいか、抱き締めてあやしてあげたくなる。

それにしても。唐突に聞こえたその言葉の後、伊之助さんが恐ろしおほどに身体を震わせた。

「この身体で俺のカナヲと肌を重ねたのか。カナヲと布団を共にするのは楽しかったか?もしかしてお風呂に一緒にはきってた、なんてことはないよな?……許せないなぁ」

「ちょっ、炭治郎さん!伊之助が怖がってます!やめてください!」

『ぐへっ?!』

顔には笑みを、背後には鬼を表した炭治郎さんに怯えてしまったイノを引き寄せ力任せに抱きしめてしまう。

「こんな小さな子になんてことするんですか!それでもあなはきよ、なほ、すみをあんなに笑顔にしてくれた炭治郎さんなんですか?!」

そういいイノが落ち着くよう頭を撫でる。腕の中にはこちらにしがみつきながらぷるぷると震えるイノ。これは……

「アオイさんはイノのお母さんみたいですね!」

「誰がお母さんですか?!」

『ほわほわさせんじゃねぇ!』

禰豆子さんからのその言葉に私は全力で抵抗を見せる。なにせわたしはまだ学生なのだ。だというのにお母さん認定とはこれいかに。

しかし自分でもこの状況であれば言われてしまうのはわかってしまう。腕の中にいる子供をあやす女性、ええ、これはお母さんです。だってこの子伊之助さんなのに可愛いからつい可愛がりたくなってしまう。

「これはもう手放せなくなっちゃいましたね、アオイ」

「言わないでください、しのぶ様」

まさかこうなるとは、自分の姿にため息をついてしまう。

「もし子育てに手伝いがいるようなら手伝うから」

「もちろんです!責任はとってもらいますよ?!」カナヲからの申し出に私は涙をこぼしながら応じた。元はと言えばカナヲのせいなのだから、うんと責任を取ってもらおう。

そう決意を固めると、横からしのぶ様と禰豆子さんが口を挟む。

「いっそ伊之助君に「あなたの子供よ」って言って責任取ってもらったらどうです?」

「もしくはその子を持って伊之助さんの家に行って挨拶してきたりもいいですね」

この二人がは何を言っているのだろうか。やはりこの世界では少し、いや、大分性格に歪みが生じているのかもしれない。何が原因なのかはわからないけれど、一先ず私は二人の恐ろしい計画を止めることに専念する。

「伊之助さんが可哀想です!!知らないうちに子供を産んでいただなんて、伊之助さんもどうすればいいかわからなくなるじゃないですか?!」

「あらあら、アオイは伊之助君のことをしっかり考えているのですね」

「私もこれくらい善逸さんを思えるようになりたいです」

「禰豆子の場合は少し愛情を軽くしないとな」

「お兄ちゃんにだけは言われたくない」

「俺も禰豆子には言われたくないよ」

「兄妹喧嘩は家出してください!それよりもこの事態をどうにかする策を考えてください!このままでは二時間目も欠席してしまいますよ!」

私の言葉に授業のことを忘れていたカナヲ、炭治郎さん、禰豆子さんがそれぞれ反応する。あなた達は学校に何をしに来ているのですか……。

さて、それでは本題に戻りまして、そう言葉を始めるしのぶ様。

「この子を今日一日どうするか、考えましょう。一人一案でお願いしますね?」

その言葉に私を含める全員が考え込む。

今日一日、いっそ親戚の子という設定にして保健室で面倒を見てもらうのは……イノにそんな演技は期待できないか。頭の中で何度も考えを巡らせていると、手を挙げたのは禰豆子さん。

「電池パック抜いてどこかに隠してはどうですか?」

「で、電池パックがあるのですか?」

私がそういうと、しのぶさんがイノを捕まえて背中を私に見せる。

「ここに電池パックが入っています。工具は手持ちのものがありますのですぐにでも外せるかと。それにこんなこともあろうとテニスバッグも私の教室に置いていますので、何とかなるでしょう」

「何故しのぶ様がテニスバッグを常備してあるのかはわかりませんが助かります」

いやほんと、何故部活動に入っていないしのぶ様がテニスバッグなんて持っているのだろう。あんな大きなもの、使い道なんて何か大きなものを運ぶしか……これ以上は怖くなってきたので考えるのはやめよう。

私は早速イノを受け取り背中の電池パックの扉に手を

『やめろやめろやめろやめろやめろやめろやめろやめろやめろやめろやめろやめろやめろやめろやめろやめろやめろやめろやめろやめろやめろやめろやめろやめろやめろやめろやめろやめろやめろやめろやめろやめろやめろやめろやめろやめろやめろやめろやめろやめろやめろやめろやめろやめろやめろやめろやめろやめろやめろやめろやめろやめろやめろやめろやめろやめろやめろやめろやめろやめろやめろやめろやめろやめろ』

「ヒィィィッッッ?!」

『猪突猛進!猪突猛進!ふはははははっ!』

唐突に無表情でやめてを連呼するイノを見て驚いた私の隙をつき、イノは教室棟の方へ走り去っていった。

「あらあら、逃げてしまいましたね」

「五歳児のはずなのに思ったよりも速い」

「速さなら善逸さんも負けません!」

「善逸と比べたら基本みんな遅いから大丈夫だ、禰豆子」

「そんな呑気に話している場合ですか?!早く追わないと!!」

そして私たちの誤解と争いを生むレースが幕を開けた。

 

 

 

 

 

 

 

 

5.

(炭治郎のやつ、どこで何やってんだよ。もう二時間目始まっちまうよ)

トイレから教室へ帰る道すがら、俺こと我妻善逸は友人のことを考えていた。朝のホームルームが終わったと同時に教室から走り去っていった友人、竈門炭治郎は一時間目終わりの休み時間になっても帰ってこない。普段はそんなことをするやつではないので余計に心配だ。

もしかして朝っぱらから最近できた彼女ことカナヲちゃんとイチャコラしているのでは?そう怒りを募らせていると、前方から何かがこちらに向かって走ってくる。

……あれは、子供か?なんかすごいちっさい子が両手に何かを持ってパンツ一丁でこちらに突進してきている。

いや、あれは本当に子供か?俺がそう考えたのは向かってきているそれの顔が人には見えなかったからだ。真っ青な瞳に獣のようなフサフサな毛、これは人間の顔ではなく……

『猪突猛進!猪突猛進!ふはははははっ!』

「伊之す……いや、猪?!いや、あの猪突猛進は伊之助?!」

頭が混乱した。それはあまりにも疑問点が多すぎるからだ。何故小さくなっているのか、何故パンツ一丁でこうないを走り回っているのか、そしてこの時代では被っていなかった猪の被り物をなぜまたつけているのか、上げればまだあるが、とにかく俺の頭では処理しきれなかった。

すると、先程伊之助のような何かが通り過ぎた道を、今度はアオイちゃんが走っている。この世界では関わりはないけれど、相変わらずの美人さんだ。また追いかけっことかさせてくれないかな。そんな下心満載なことを考えていると、アオイちゃんは俺の元にやってくる。

やってきて、壁に様で俺を迫り、俺の顔の右側の壁に勢いよく手を当て、俺をじっと見る。これはもしかして……

「ぜ、我妻先輩。今こちらに猪の被り物をつけた子供が走ってきませんでしたか?!」

「えっと、ついさっき向こうに行ったけど」

違った。あのちびっ子の事だった。伊之丸(善逸命名)許すまじ!

しかし、何故アオイちゃんがあの伊之丸を追っているのだろうか。炭治郎なら記憶があるからわかる。そして教師なら不審者、または迷子として保護しようとするのもわかる。けれど今追っているのはアオイちゃんだ。嫌な予感がするが、どういった関係なのか気になる。聞きたい。聞きたい。

そして逃すまいとして走り去ろうとするアオイちゃんの手を握る。アオイちゃんは何故自分を止めるのか、急がないといけないと怒るけれど、俺は一つだけ確認する。

「アオイちゃんにとって伊之ま……さっきの子供はどういう関係なの?!」

きっと間違いだ。あの伊之助が俺を出し抜いて付き合うはずなんて

「イノ、あの子は私の身内です!早く話してください!」

「……へ?」

俺の虚をついて手を払いのけ走り去るアオイちゃんに反応なんてできなかった。……というか、身内?明らかに伊之助のDNAを獲得しているであろうあの子供がアオイちゃんの身内?

いやいや、考え直すんだ。あの子はどうみても五歳以上だ。それに対してアオイちゃんは高校一年生、つまり一五歳ぐらい。だということはアオイちゃんはあの子を一〇歳の頃に出産したことになる。……えっ、出来るの?一〇歳で子供なんて出来るの?

 

俺は近くにあった掃除箱から放棄を一本取り出し、呼吸を整える。

 

 

 

 

雷の呼吸 壱の型 霹靂一閃

 

 

 

 

 

「いいご身分だなぁいいいいいいいぃぃぃぃぃぃぃぃのぉぉぉぉぉぁぉぉすぅぅぅぅぅぅぅぅぅきぃぃぃぇぇぇぇぇえええええええーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーぃぃぃぃ!!!!!鬼殺隊はなぁぁぁぁ、お遊び気分で入るどころじゃねぇぇぇぇぇぇッッッッッッッ!!!!」

 

 

 

さぁ変な猪、次はお前が刈られる番だ。

 

 

 

 

 

 

 

6.

「な、なんだっ?!誰かが俺を殺そうとしてる気がしやがるッ?!」

唐突に感じた悪寒、その感覚に全てを委ね近くにあったモップを二本持ち構える。肌がピリつく感じ、間違いねぇ!!!返り討ちにしてやるぜ!

そう意気込み構える俺の前に現れたのはとんでもねぇ速さで突進してくる小さな影。それは時間の経過とともに大きく、そして強大な威圧感を放つ。

山から下山して約一〇年、待ち望んだ戦いが始ま

『ふはははははっ!我は山の王なりっ!』

走ってきたのはまだガキであった。猪の被り物、何か得体の知れない獲物(新聞紙を包んで作った棒)を持つ両手、そして心の芯に迫るその声、間違いない、俺に先ほどさっきを向けてきたのはこのガキだ。俺はそのガキに話しかける。

「おい、そこのガキ!!お前の名前はなんだ?!そしてその被り物はなんだ?!よこせ!!」

『猪突猛進、猪突猛進!!ふははははは』

くそ、話を聞く気もねえってか?!なら遠慮なくやらせてもらうぜ!!

「いくぜ、覚悟しやがれぇッ!!」

『ヴーーッ!!』

互いに飛びつきながら間合いを詰める。刀の振り方も同じ、何よりも同じなのは相手を喰らおうとするその目、

(お前はまさに俺のライバルにふさわしい!!)

両者の距離が詰まる。そして先に獲物を振るったのは

 

 

 

 

 

「ぶべらっ?!」

「ヴーーッ!!」

 

 

 

 

チビの後ろから吹っ飛んできた何かのせいで何も見えなかった。

 

「イノに何をする気ですかあなたは?!」

どうやら投げられたのは携帯電話のようだ顔にめり込んだそれを力づくで引き抜くと、目の前にいるやつの顔が見えた。

「お前は……か、か、かんざし?!」

「神崎よ神崎!あなた、よくもウチのイノを虐めてくれたわね!!ぶっ殺してやります!!」

目の前にいたのは何故かは知らないがかなりキレているか、か……女だった。

手には先ほどまで俺と死闘を繰り広げていたライバル、猪仮面。そいつはアオイに正面から抱かれ、心なしか満足げだった。

 

なんだか腹が立つ。

 

「おいかんざし、そいつを寄越せ。ぶん投げてやる」

「この子に指一本でも触れればその瞬間その首の骨をおりますよ」

俺がチビを寄越すよう言うと、かんざしは種痘の素振りをして威嚇する。……なんで種痘の空気を割く音が後からすんだ?

しかし俺としても、何故だかはわからないがこの状況、チビの状況は許せねぇ。とはいえこのままでは俺の首はちょっきんぱだ。

どうすべきか、いや、何が出来るのかを考えていると、目の前でかんざしに抱かれているチビがモゾモゾとし始め、そして、

 

 

 

 

 

頭の被り物がごとりと音を立てて床に落ちた。

 

 

 

 

 

 

『シッシシッシうるせぇんだよ!このタコ助が!』

 

肩まで伸びる黒い髪にギョロギョロとでけぇ目、こいつの顔は俺のそれと瓜二つであった。だが俺はこいつのことを知らねぇ。山奥の小屋で親と暮らしていたため親族にはあったことはないが、そんなレベルじゃねぇ。まるで俺の遺伝子がまんまこいつの中にあるみてぇだ。

そこで俺は昨日の下校中に近くにいた女の話を思い出す。

 

『男なんて野蛮なんだから、見られるだけで孕まされるわよ』

 

あの時観治郎の奴は「そんな事できれば苦労はないな。実際にはやる事をしないと子供なんてできないのに」と言っていたのであまり気に留めていなかったが、もし仮に、あの女の発言が正しかったとしたら?俺がかんざしと目を合わせるだけで孕ませてしまったとしたら?

 

俺は何をすべきなんだ?

そんな事は分かっている。

 

イノとかいう子供をなだめるかんざ……き、の肩を掴み、こちらにあいつの顔を向ける。

「……えっと、……嘴平さん?どうかしま」

何か尋ねようとしているがそれは後回しだ。俺は自分の口をアイツのそれに付けた。

「……ッんぐっ?!」

何が起きたのかわからねぇのか、かんざきの顔は真っ赤に変わり、その目はぱちくりと開閉を繰り返す。だが俺はまだ終わらねぇ。舌を使い、アイツの構内の至る所を味わう。

「……っん!……ゃ?!」

徐々に惚けた表情になるのを確認し、俺は口を離す。かんざしは肩を上下にさせて息を整えようとしているが、そんな事はしらねぇ。俺には伝えなくてはならないことがある。

「かんざき」

アイツの名前を呼ぶと、アイツは睨むように俺を見やがる。未だ混乱から抜け出せてねぇ頭で、それでもなんらかの抵抗をしようとしてるのか、全くもって気の強ぇ女だ。この女なら俺は、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「責任は取る。だから俺の嫁になれ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「雷の呼吸 壱の型 霹靂一閃」

 

 

 

 

 

その言葉が耳に届く直前、俺は手に持っていた箒で胸元を守る。この攻撃に迎撃はできねぇ。なら感覚に身を委ねて守るしかねぇ。

バキィ

そんな音をして俺と、そして目の前にいる男の獲物は折れた。そしてそれとともに俺はようやくそいつを視る。

「おい紋逸、これはなんの真似だァ?」

見覚えのある金髪に滅多につけない風紀委員の腕章、そして見覚えのある涙に俺は、しかしそれどころではない。早くこいつを追い払いかんざきに返事を聞かねぇとならねぇ。

折れた獲物を構えて威嚇すると、目の前の紋逸は、体をゆらりとして小さな声でこう言った。

「お前、アオイちゃんと何やってた?」

「俺は風紀委員だ。女の子に無理矢理事をしようとしたなら捕まえて冨岡先生のもとに突き出す義務がある」

「けどな、けどな、例えそれが合意であっても関係ないんだよ」

「炭治郎はカナヲちゃんといい感じだし、お前はこのままだとアオイちゃんと一線を超えてしまう」

「もしそうなっちまったら」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「俺一人になっちゃうじゃん!そんなの寂しいよ!二人とも彼女に構ってばっかで俺ぼっちなんてイヤァァァァァ!!」

「んなこと知るか弱味噌がァッ!!!」

「ぐふゥッ?!」

 

俺のボディーブローは紋逸の急所に入り、アイツは泡を吹いて倒れた。

 

 

 

 

 

 

 

 

7.

意識を取り戻したのは何故かその場にいた善逸さんがお腹を抑えて倒れ込んだ時だった。

(あれ、私、何してたっけ?)

どうも少し前の記憶が飛んでしまっているようだ。順を追って思い出そう。

確か今朝逃げ出したイノを探して、そう、イノと伊之助さんが獲物を交えようとしているところに出くわしたんだ。それで私は携帯を投げて仲裁して……して……ッ?!

その後のことを思い出し、一人で赤面する、、未だ抱いているイノは『ヴーー?』と首を傾げている。心配をしてくれているのだろう。けれど私は、イノには悪いがそれどころではなかった。何せ私は、彼にされてしまったのだ。

(キスされたキスされたキスされたキスされたキスされたキスされた)

頭の中はそれだけでいっぱいいっぱいだ。確かに私は伊之助さんの事を他の男性と比べて意識的に見てはいるが、少なくとも昨日までは友人(カナヲ)の友人(炭治郎さん)の友人(伊之助さん)というだけの関係だったはずだ。それが何故、キスをして求婚をされるような関係になったのだ?しかも割とディープな方で。

例え記憶が戻っても前回、対象時代においても私たちは仲間というだけだったはず。なら何故か。それを考えていると、不意に声がかかる。

「おい、かんざき」

あぁ、名前を覚えてくれた。前世ではアカイ、今世ではかんざしと言われ続けてきたこの名前を覚えてくれたのか。胸の中に温かい気持ちが流れ込むが、恥じらいからか顔を上げられない。けれどそれを良しとする伊之助さんではなかった。

私の顎を掴み、上に上げる。

「なんでこっち見ねぇんだ?話が出来ねぇだろぉが」

「……っ!ご、ご自分の胸に聞いてみてはいかがですか?!」

この男、私に何をしたのか忘れているのだろうか?もし私が伊之助さんを訴えればあなた立つ瀬無いんですよ?!

犯罪者、もとい伊之助さんの顔を見ると、伊之助さんは言葉を続ける。

「悪かった」

「本当です。もう少し節度というものを」

「子供作っといてそのまま知らんぷりなんて、鬼の所業だ」

あぁ、そっちか。

口を挟まずにそのまめ話を聞く。

「出産、立ち会えなくて悪かった」

いえ、そもそも出産はしていません

「家族にも挨拶してねぇ」

そもそも挨拶されても困ります。

「子供作っておいて全て妻に押し付けていたなんて、の恥だ」

つ、妻ですか。まぁ悪くはありません。ですが子供は作っていません。

心の中で彼の発言にツッコミを入れるが、何故だろう。彼のその真剣な瞳を見ると逆らうことができない。といあか彼はここまで理性的な行動をとれたのかと少し驚く。おそらく前回と違い山奥とはいえ民家で両親に育てられたからこその変化なのだろう。

かんざき、そう私を呼び、一息入れて伊之助さんは私に言う。

「これからは二人で、夫婦でそのチビを育てよう」

「いえ、この子はあなたの子供ではありません」

私がそう返事をすると、伊之助さんの表情が引きつった。しかし私はそんなことに構わずに言葉を続ける。その言葉に公開するとも知れず。

「だいたいあなた、この学校で初めてお会いしたのにどうやって推定五才の子供を仕込むと言うのですか」

「中学はもちろん、その前もあなたにあったことはありません」

「あなたはこの件には関係ありません」

「ですので、どうかあなたはこのまま普通に学生生活を送って下さい」

いいですね?そう付け加え、私は彼が私の夫でない事を証明した。せっかく平和な世界なのだ。前世では戦ばかりで結婚もできなかったのだから、ここで私が彼を縛ることはできない。なので学校はしっかりと卒業してもらい明るい未来へと進んでもらいましょう。そんな気持ちで私は言った。彼にこの気持ちの一割でも伝わっていれば、そう言う考えで私は彼を見るが、私はその行動を深く行動した。

「おい、今なんつった?」

あまりに低い声、彼らしくもないその声色に、私は一瞬言葉を失う。彼はどんな時でも自分の道をただひたむきに進むことの出来る人だ。口を開けば騒がしいと言う言葉では足りないくらいに言葉をしゃべる。しかし、今の彼は違う。

その目で私を射抜き、そしてその言葉は何よりも冷たく、恐ろしい。何か反応しないと、その気持ちだけで私は返事をする。

「いえ、だからあなたは普通に、これまで通りに過ごしてくださいと」

そこまで言うと、伊之助さんは声を被せてきた。

「そうじゃねぇ。そうじゃねぇんだわ。お前、そのガキが俺の子供じゃねぇっつったな?」

「だったら誰の子だ?」

誰の子って、誰の子でもないのですが。強いて言うならカナヲだろうけど、この子一応人形ですし。

そう言おうとする前に伊之助さんは、行動した。

 

 

 

 

 

「俺じゃ駄目なのかよ……。俺だってお前のこと、好きだっつーのに!」

行動、つまり、泣いたのだ。泣いて、告白してきた。

「今まで周りに男らしい男もいなかったくせに急に子供なんて孕みやがって!」

「何処のどいつだ?!そいつと勝負して俺が勝ったら俺のモンになりやがれ!」

「負けたら……勝つまで何回でもそいつのとこに殴り込みに行ってやる!十回でも百回でも千回でもだ!!」

「絶対にわたさねぇぞ!かんざきは俺のモンだ!欲しがる奴ら全員ぶん殴ってやる!」

まさにジャイアン、ジャイアニズムな思考だ。これでは私が異性と交際した瞬間に事件が起きてしまう。某メガネ少年の事件勃発確率を凌ぐ程となる。それはいけない。いけないのだけれど、

(そこまで真っ正面から言われると流石に照れるわよ!!)

思考が定まらない。意識していた異性にここまで熱烈に告白され、それでも冷静に会話を出来る人がいるだろうか。

わかっている。誤解をなんとか解き、そして自分から告白すればこの一件は収まる。すでに多数の観衆がいる前だそれはだいぶ恥ずかしいのだが、ここで言わずしていつ言うのか。覚悟を決めろ、アオイ!

私は決意を固め、伊之助さんを見る

 

 

 

 

 

 

 

 

『ギーー!』

そこにはお腹から冷めきったウィンナーを取り出して伊之助さんにあげようとするイノと、お腹が開いたことに驚愕した伊之助さんがいた。

 

 

 

 

 

 

 

「お、俺だって腹の一つや二つ、余裕で開け」

「ヒノカミ神楽 灼骨炎陽!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

8.

結論から言おう。私の誤解はなんとか解けて、そして私と伊之助さんはお付き合いすることになった。落ち着くまで相当暴れようとしたが、それを炭治郎さんが止めてくれた。

いや、あれは止めたと表現できるものではないだろう。圧倒されていた。途中伊之助さんの持つ獲物が彼の手からすっぽ抜けてカナヲに向けられた後、炭治郎さんの様子が一変し、技を連発して伊之助さんをサンドバッグよろしくと言わんばかりに滅多打ちにしていた。えっ、カナヲに向けられた獲物?避けるまでもなくカナヲが掴んでゴミ箱に捨ててました。

そして今、その暴れていた本人はと言うと、

「…………」

「……そろそろ離してくれませんか?」

「…………」

「あぁ、もう!わかりましたから私のお腹に頭をぐりぐりしないでください!」

「…………かんざきは俺のモンだ」

「はいはい、あなたのかんざきですから少し離れて」

「ゔぅーー」

「もう、駄々こねないでください!あなたもう高校生ですよね?!」

「…………かんざきは俺の」

「あーもーわかりましたよ!ならせめて背中に回ってください!」

あの後炭治郎さんになす術なく負けたこと、そして今日の情報量の多さにより中身が幼児化したかのように私について回るようになってしまった。可愛いといえば可愛いのだが、いい加減暑苦しいのでやめてほしい。

「あらあら、アオイも可愛らしい恋人ができましたね。本日は私の家でお赤飯を炊きましょう。是非食べにきてくださいね?」

「ご飯のお誘いは嬉しいのですがお赤飯はやめてください。そしてムービーを撮るのもやめて下さい!」

「でも結婚式の時に流す映像は一つでも多い方がいいでしょう?」

「この姿を結婚式で流さないでください!私はともかく伊之助さんが可哀想です!」

「では個人用にしますね」

「だから取らないで……もういいです」

しのぶ様が私たちの姿を動画にとる。本当なら止めたいのだが、過去の記憶が戻ったせいか、しのぶ様がこうして笑みを浮かべてくれるのがたまらなく嬉しくて止めさせることができない。こういう時こそ暴れてほしい伊之助さんは今は私に付きまとい言葉をあまり発さない。

「でも良かった。二人とも、付き合うことになったんだな!イノのこともしのぶさんが電池を抜いてくれたおかげでようやくカバンに入れられたし、全部無事解決だ!」

屈託無い笑みで言うが、伊之助さんの怪我はいいのでしょうか?まぁ自業自得な点も否めないので強くはいえないが。

なんにせよ、イノの件はこれで無事解決した。これからは申し訳ないが家を出るときは電池を抜くことにしよう。

辺りを見回し、いるはずの人が一人いないのに気が付く。

「あれ、禰豆子さんはどちらへ行かれたのですか?」

朝から一緒だった禰豆子さんがいないことに気付き他の皆さんに問うと、

「禰豆子さんは少々用事がありまして」

「今多分保健室にいると思う」

「俺も禰豆子の気持ちはわかるから今は好きにさせてやろう」

この反応である。なんだか有耶無耶にされた気がするが、まぁ禰豆子さんはしっかりしているので大丈夫でしょう。

さて、そう言ってしのぶさんは服装を改めて直し、

「それでは私は生徒指導室に事情を説明してきますね?伊之助さんの親戚の子が学校に来てしまったので保護していた、と言い張ればなんとかなるでしょうし」

なんとかなる、ではなくなんとかしてしまうのだろう。しのぶ様なら例え罪を犯しても無罪釈放となってもおかしくはない。なのでここはしのぶ様にお任せしましょう。

「メガネのカメラ機能問題なし、集音昨日問題なし、ジップロック問題なし、愛想問題なし、さて、行きましょうか?」

確認事項に問題あり、なのだけれど、おそらくいっても徒労に終わるのだろう。しのぶ様が上機嫌に鼻歌交じりで生徒指導室に向かうのを見送った後、私はカバンを持って立ち上がる。

「私は一度家にこれを置いてから再度登校します。お二人はこのまま授業に向かってください」

「それとカナヲには帰りに、イノさんを住まわせるに当たって必要なものの買い物に付き合ってもらいます。いいですね」

「うん、わかった」

「それじゃ俺も授業に向かう事にするよ。伊之助は……」

そう言って全員で伊之助さんを見るが、離れる様子はなく、こちらの会話にも反応しない。

「とりあえずはこのまま付いてきてもらいます。そして登校したのち水ば、冨岡先生にお願いして取ってもらいます」

男を家にあげるのははしたない行為ではあるけれど、それよりも私としては早く授業に参加したい。なので家に帰ること優先で計画する。

「それでは、失礼します」

二人に挨拶をし、私と伊之助さんは学外へと歩みを進めた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

9.

場所は保健室、私の目の前にいるのはベッドで気を失っている善逸さん。

「善逸さん、あなたはぼっちになんてなりませんよ?」

そう語りかけながら、彼の首に噛み付く。少し力を入れ、私の歯跡を残す。

「誰にも渡さない、誰にも見つけさせない。私だけの善逸さんです。あなたのためなら他の誰であっても敵に回して勝ってみせます」

抱き寄せ、再び首もとに、今度は舌をおとす。人肌なんて舐めても美味しくはないけれど、善逸さんの細胞の一つ一つが舌を伝って私の中に入ってくる、そう考えると少しばかり興奮気味になってしまう。

「お腹、こんなに腫れてしまって。あとで伊之助さんにはお仕置きしないといけませんね?」

腫れてしまったお腹に手を当て、彼のお腹の感触を味わう。少し痩せ気味ではあるが、男のひとらしい逞しい身体だ。

「上のシャツも脱がして、隣に寝て、はい、ピース」

携帯の自撮り機能で撮影したのはベッドで眠る善逸さんに抱きつきながらピースをする私の写真。これほどの写真を撮れるだなんて、今日はなんていい日になのだろうか。このまま今日一日はここにいたいけれど、もう少ししたら気絶させた保険医が起きてしまうかもしれない。そうなると説明が面倒だ。

名残惜しいけれど、写真はたくさん取った。善逸さん自身も味わうことができ、シルシを付けることもできた。

なので私もそろそろ教室へと向かおうと、善逸さんに挨拶を済ませる。

「善逸さん」

「私はいつでもあなたを見ていますからね?」

「笑っているところ、泣いているところ、怒っているところ、眠っているところ、全部全部見ています」

「だから私以外には全部は見せないでくださいね?」

「成績もこれまで以上にあげて、将来善逸さんを養えるようになりますから、待っててくださいね」

 

 

 

 

 

 

「私の可愛い旦那様」

 

 

 

 

 

 

 

 

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