ヒーローを目指す事に挫折した普通科の少女の話 作:アステカのキャスター
2話目です。ちょっと主人公の過去を話してみましょう。
FGO新イベまであと2日!!
「夜空、分からない所教えてもらってもいいか?」
「…いいよ。心操くん」
普通科の生徒、心操人使は授業の分からない所を夜空に聞く。あまりにも自然な流れだが、2人は付き合っているわけでは無い。
夜空と心操は中学校から付き合いが長い。毎回同じクラスで心操は個性が『洗脳』なせいか、人付き合いにやたら距離があり夜空に至っては昔のトラウマから誰も寄せ付けなかった。
そんな時だ。心操が初めて声を掛けた人間が夜空だった。
☆☆☆☆☆
夜空は人付き合いを拒んでいた。
夏の時も水色のマフラーを身につけて、何も言わず、何も話さないまま1人で生きていこうと思っていた。いつも、
夜空の個性は規格外の力を持っていた。
それが暴走した事があった。個性が暴走した後の光景が怖くなってトラウマになって、使う力を限定していた。
夜空は孤児院に住んでいる。
子供達に触れるのは最初は怖かったが、小さい手には慣れた。けれど未だ大人から差し出される手や怖い顔をした人間はトラウマで身体が震えて過呼吸になったりする。
自分に触れてしまったら、人を傷つけてしまう。そんなトラウマが彼女を苦しめた。彼女はそのせいか人から距離を置いた。本当は友達を作りたかった。誰かと話したりしてみたいとは思っていた。
けれど、自分にその資格は無い。
だって自分は『ーーー』なのだから。
☆☆☆☆☆
最初は数少ない友達との罰ゲームだった。
ジャンケンに負けた人が、夜空に声をかけると言うありきたりな罰ゲームだ。無口だが、容姿は整っていてどこかクールビューティーさを連想させる。男子の中では『クラスで可愛いランキングトップ3』には入っていたらしい。ジャンケンは普通に負けたから声をかけるのは自分だ。
彼女はいつも本を読んでいた。いつも無表情でいつも他人と距離を置く。何でかは分からないが、少なからずモテたい為とかそう言う訳ではないのは分かる。
時折、彼女は窓側を見て悲しそうな顔をする。
季節外れのマフラーを触りながら呆然と窓側から空を見上げている彼女はどこか神聖さがあるように見えているのは男子の馬鹿共だけだろう。
「なあ、夜空さん」
思わず敬語で喋ってしまった。
彼女はそれに反応し、顔をこちらに向けると無表情で「何ですか?」と聞いてくる。
「あ…えと……暑くないのか?マフラー」
「……別に…慣れたから平気」
マフラーを触りながら彼女は答えた。
何で春なのにマフラーをしてるのか聞きたかったが思った以上に緊張していたらしい。後であの馬鹿共を折檻してやると心の中で呟きながら心操は再び口を開いた。
「夜空さんはどんな個性をーーー」
聞こうとした心操は口を閉じた。
個性を話してもらおうとした時、悲しそうな顔を浮かべていたからだ。個性について話したがらないのは噂で聞いていたからわかっていたが、なら何で泣きそうな顔をしているのか全く理解が出来ない。
「話はそれだけ……なら戻って。どうせ罰ゲームでしょ?」
見破られていたらしい。
悲しい事に彼女に話しかける時は授業のグループワークか、今みたいな罰ゲームの時だけだった。あの馬鹿共には折檻が確定した瞬間だった。心操は彼女から離れていく。
けれど、心操は気づいてしまった。
どうして悲しそうな瞳をしているのか。
答えは簡単だった。
彼女は自分で自分を苦しめているからだ。
☆☆☆☆☆
「なあ夜空。お昼一緒に食べないか?」
まさか自分に声がかかると思わなかった。昨日罰ゲームで話しかけてきた心操くんだ。片手にお弁当を持ちながらいつもの場所に行こうとしたら、心操くんもお弁当を持って自分を追いかけてきていた。
「……なんで?」
「いや……たまには別の人と食べたいから…」
「……罰ゲーム?」
「違う」
罰ゲームである事を否定する心操くん。
嘘はないのは分かったが、それでも誰かと一緒に食べるのは学校生活ではもしかしたら初めてかもしれない。
心操くんも心操くんだが、廊下で自分にお弁当を一緒に食べると言う大胆な発言に他から覗いていたクラスの人達が茶化すようにからかってくる。それに気づいた心操くんは顔を赤くしていた。
自分はため息をつきながら答えた。
「……いいよ。ついて来て」
覗いていた男子全員は驚愕していた。
まさか無表情でクールビューティーな雰囲気を持つ夜空が男子の誘いに乗った事だ。夜空に告白した奴は少なからず両指を超えているのは知っていた。だが、全て「……誰?」と言われて撃沈するくらいガードの硬い夜空がまさか心操の誘いに乗るなんて思いもしなかったのだ。
「な、なにいいいいいいいいいいっーーーーー!?!?」
「夜空さんに許可貰えるとは……羨まし過ぎるぞッッッ!!!!」
「憎い……ッ!!心操が凄まじく憎いッッッ!!!」
「『夜、集団でリンチすべき男リスト』に心操の名前を新たに載せるぞッ!!!」
「「「「異議なしッッッ!!!!!!!!!!」」」」
「……お前らいい加減に落ち着け」
「「「「お前は黙ってろッ!!このリア充めがッ!!!!」」」」
返答した瞬間、心操の『洗脳』が発動し、男子の馬鹿達は動きを止めた。流石にイラっときた心操が「靴履き替えて、授業5分前までグラウンドを走ってろ」と言った瞬間、男子たちは意識のないままグラウンドに向かっていった。
心操は先を歩いていた夜空を早足で追いかけた。
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校舎裏に上履きのまま外に出た心操と夜空。
は夜空はあまり乗り気じゃなかったが、大した理由ではない。邪な考えを持つ男子や、嫉妬を抱える女子の視線が怖くはないが、嫌だったのがあったからだ。それに比べて、心操はそのタイプに当てはまらなかっただけだ。
「ここで食べるのか?人は居ないけど、ここ虫とか多いし……」
「別に…ここでは食べない」
「はっ?」
夜空が左手を前に突き出すと、
その歪んだ空間に向かって歩き出す夜空だが、心操には訳がわからずに立ち止まる。
「ついて来て」
夜空が振り返って話すと心操は夜空の後ろを歩いていく。
歪んだ空間は金色の波紋のような輝きがありながら、人が通れるサイズにまで広がっていく。夜空がそれを通り抜ける。心操もついていくとそこは虫の多い校舎裏ではなく、立ち入り禁止の筈の屋上に立っていた。
心操は辺りを見回すとさっきまで洗脳した男子がグラウンドを走っている光景と青い空があった。心操は堪らず質問する。
「……まさか、ワープゲート?」
「違う…校舎裏の空間と屋上の空間を置換しただけ」
「置換?まさか、場所を置き換えたのか!?」
「そう……」
心操は絶句する。個性にも珍しいものがある。
例えるなら未来が見えたり、個性を2つ持っていたりなど様々なものがあるが、夜空の個性は更に珍しい。
空間と空間の入れ替え、転移やワープのような個性は数える程しかいないだろう。そんな強個性を見て羨ましく感じた。
そんな事も気にせずに夜空はお弁当用の箸を既に割って、普通に食べていた。
「凄いな。その個性、そんな力があったら凄いヒーローになるんじゃないか?」
落胆しながら心操は皮肉を口にした瞬間、夜空は箸を止めた。
箸を弁当箱の淵に置いて、皮肉を口にした心操に少しため息をつきながら口を開いた。
「私は…ヒーローの夢は諦めたよ」
「………えっ?」
「私はこう見えて……臆病な人間だから」
「いやでも、それだけの個性があれば上位トップヒーローにもなれるだろ」
「ヒーローは誰かを救う仕事……けれどそれは誰かを救う為に誰かを傷つけないといけない時だってあるでしょ?」
「!」
ヒーローと
夜空は知っていた。ヒーローとはどう言うものなのか。どうしてヒーローは日夜戦っているのか。それは紛れもなく、人を助ける為だろう。
「私はヒーローになりたくない」
だが、
傷付けるだけの怖さ。
それだけに関しては夜空が誰よりも知っているのかもしれない。
「私は心操くんが羨ましいよ」
人を傷付けずに無力化する心操の『洗脳』は夜空にとって羨ましい事だった。夜空の個性は人を傷つけるだけじゃ済まないのだ。夜空の個性は空間を入れ替える事では無い。その気になれば街一個は簡単に滅せてしまう強力な個性だ。
個性で人を傷つけるのを怖がっている。しかし、心操は感じていた。それはオールマイトとは違うが、どこか憧れるようなものがあった。
彼女が宿しているヒーローの本質にだ。
夜空は再び箸に手を付けて弁当を食べ進めた。
「……なあ」
「……何?」
「明日もまた、誘ってもいいか?」
「……いいよ。別に」
ぶっきらぼうな返答をする夜空に心操は苦笑しながら弁当を食べ進めた。ヒーローになりたい心操はヒーローになりたくない夜空に憧れる。ヒーローになりたく無くともその本質は心操にヒーローと呼ばせるだけの重みがあったからだ。
多分、明日もまた他愛ない話をするのだろうと想像しながら、彼女の隣で弁当を食べる。
ヒーロー向きではない心操の個性のコンプレックはその時は完全に消えていた。
☆☆☆☆☆
少女は一つ嘘をついた。
「ヒーローになりたくない」なんて言葉を使った。
ヒーローには憧れていた。
ヒーローになりたい気持ちはあった。
けれど少女は嘘をついた。
だって自分にはそんな資格は無いのだから。