俺と北上と時々龍田   作:ノッティ

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第1話

ある日を境に人類は海を恐れるようになった。何処からともなく現れた謎の海洋生物“深海凄艦”により、日本を取り囲む海域は徐々に支配されつつあった。大日本帝国海軍はそんな深海凄艦達に対抗するべく新たな兵器の開発に踏み出す。深海凄艦の脅威が一歩、また一歩と近づきつつある中、ついに海軍は新兵器の開発に成功。人類は反撃を開始しようとしていた……。

 

その兵器の名は――“艦娘”。

 

 

 

 

 

――俺と北上と時々龍田――

 

 

 

 

 

「……んあぁぁぁぁぁ~、ねむた」

 

 

場所は単冠湾泊地鎮守府。深海凄艦との戦いが激化する中で、比較的最近になって建てられた新たな鎮守府である。その一室、執務室に用意された明らかに大きな椅子にだらしなく腰掛け、気の抜けた声で呟くのは制服を纏った黒髪の美少女だ。傍から見たその姿は、何の変哲もない女子高生にしか見えないが彼女の腕や脚に取り付けられた物々しい魚雷発射管が、彼女の境遇をありありと示していた。

 

そう、彼女こそ海軍が極秘裏に開発した秘密兵器“艦娘”の一人、軽巡洋艦「北上」である。

 

本来“艦娘”は、各鎮守府で建造され、その周囲及び遠方の海域の警護をするのが仕事であるが、彼女は海に出ることもなく、日がな一日自由に鎮守府で平和を満喫していた。

 

 

「提督が出張に出て二日……何もせずにダラダラしてるのってこんなに楽なんだね~」

 

 

鎮守府には“艦娘”を指揮する提督が一人、必ず着任している。しかし、現在北上の所属する鎮守府の提督は出張中。命令がないなら動く必要がないとばかりに北上は、出張中の上司である提督の椅子にふんぞり返っていた。

 

 

「う~ん、いい景色だね~。北上提督ってのもありかもね~」

 

 

北上がここぞとばかりに羽を伸ばしまくっていると、執務室の扉が開く。

 

 

「キタカミ、シゴト、シゴト」

「アタラシク、ナカマ、ツクル」

「テイトク、オコルヨ?」

 

入ってきたのは人間の手のひらサイズほどしかない小人。ヘルメットを被ったり、身の丈ほどもあるバーナーを担いでいたりと外見の様相は違えど、まさにおとぎ話に出てくるような小人達だった。

 

彼女たちは“艦娘”を建造する役割を持った所謂妖精なのだという。“艦娘”を開発したのは海軍となっているものの実際はこの不思議な妖精達が全てを担っている。新たな“艦娘”を建造するときは彼女達に一定の資材を渡して、時間さえ経過すれば出来上がりという、理論も理屈もあったものじゃないとんでもテクノロジーが採用されている。海軍の技術者はもちろん研究を進めているが、肝心の建造の様子を妖精たちは断固として見せようとしないらしく、彼女達に協力を仰ぐ形で“艦娘”を新兵器として実装することになったという。

 

そんな妖精達は、北上の周りをちょこちょことまわりながら彼女をせっつき始める。

 

 

「キタカミ、シゴト、シゴト」

「アタラシイ、カンムス、ツクル」

「テイトク、オカンムリ!」

 

「あー、うん、ウザい。取り敢えず足元ちょろちょろすんの止めてくんない?」

 

北上は椅子から降り、彼女達と視線を合わせるように床にかがむ。

 

 

「確かに艦の新造は任されたけどさぁ、提督帰ってくるまで後三日ぐらいあるんだよ? そんな急がなくっても資材は逃げやしないって。それに今まで一人で頑張ってきたんだよ? なら、新しい仲間が出来る前にこの至福の自由を堪能したって構わないと思わない? そうだよね~、新しい仲間って言ってもどんな奴が来るのかも分かんないし、駆逐艦だったらウザいし、なによりあのアホ提督……三か月も私一人こき使って何考えてんのホント。何回あの後頭部に酸素魚雷打ち込んでやろうかと思ったのか数えきれないよ」

 

 

「因みに後頭部である理由は何だ」

 

「そりゃあ、爆発したらカッパみたいにてっぺんハゲになりそうだし面白いかなぁって。あぁ、心配しないで、火薬の量はちゃんと調整するから、頭が吹っ飛んじゃったりとかはしない……は…………ず」

 

 

北上は背後から聞こえる声に身をすくませた。おそるおそる振り返るとそこには白い海軍の軍服を着た若い男が立っていた。顔は笑っているが、目元と口元が引きつっている。

 

 

「あ、あれぇー? 出張は五日間だったんじゃ……」

 

「思いのほか会談がスムーズに運んでな、大幅に予定が早まったんだ」

 

「そ、そう……お帰り提督。寂しい寂しい北上ちゃんは提督の帰りを心待ちにしていたよ」

 

「おお、そうか。俺もお前に会えて嬉しいぞ、北上」

 

「そっかそっか、じゃあ、その手に持ってるハリセンは何? ってか、どこから出したの」

 

「大丈夫大丈夫。ちゃんと物理法則とか遵守してるから心配するな」

 

「誰もそんな心配してないんだけど……っていうか、それどうするつもりな訳?」

 

「大丈夫大丈夫。ちゃんと力加減は調整するから、頭が吹っ飛んじゃったりは……たぶん大丈夫」

 

「ちょっ……タンマタンマ。ごめん謝るからさー。手のひらで軽くハリセン叩きつつ近寄ってくるのやめてくんない? え……、何その目、すごく怖いんだけど、え、え? ぼ、暴力はんたー……いっ!」

 

 

 

閑話休題。

 

 

 

「痛い。すごく痛いよー。もうお嫁にいけない……」

 

 

「サボってたお前が悪い。ったく、いなくなったらすぐに好き放題しやがって」

 

 

およよと、わざとらしく泣く北上に呆れた声で提督は返す。軍服に身を包んだこの若い男こそ、この鎮守府の指揮官つまり提督である。

 

 

「傷物にされた……提督に穢された……こりゃ責任とってもらうしかないよ」

 

「たんこぶ一つで何処まで話膨らますつもりだお前は」

 

「たんこぶだけに?」

 

「座布団はやらんからな」

 

「ちぇっ、ケチ」

 

 

北上はそう拗ねたように呟く。

 

 

「で? どうするの新造艦」

 

「うーん、正直資材の備蓄も心もとないからなぁ。急ぎの任務がある訳でもないし今回は取り敢えず保留で」

 

「何それ、私叩かれ損じゃん。……うりゃ」

 

北上はそう言って、提督にヘッドロックを決める。

 

「ちょっ、北上タンマタンマ、決まってる決まってるから」

 

「あったりまえじゃん怒ってないとでも思った。うりうり、その首へし折っちゃろうか~」

 

「いや、マジで割とマジで洒落にならんから、ギブ、ギブだって」

 

「ふふ~ん、これに凝りたら乙女の頭引っ叩くなんて事二度とするんじゃないよ~」

 

「………………」

 

「ん? どったの? もしかして落ちた?」

 

「いや、その何というか……確かに乙女の頭引っ叩くのはよくないよなやっぱり、うん乙女だし」

 

「……?」

 

北上は煮え切らない態度の提督に、今の状況を一度冷静に確認してみることにした。

 

(えっと……よく考えたらこれ私が提督に抱き着いてるようにしか見えなくない? 抱き着く、近い、密着、乙女、乙女……)

 

北上はそこまで考えると提督から、咄嗟に距離を置く。北上は今更ながらに自分がどれだけ恥ずかしい状況にあったのかを認識したのだ。自分の状況を理解した北上の顔は恥ずかしさでみるみる赤くなる。

 

「……変態提督。あ、あんまり近寄ると魚雷打ち込むし」

 

「理不尽極まりないなお前!!」

 

「ま、まぁ提督も男ってことだしね。うん、実はホモでしたとか後から言われてもどう反応したらいいか分かんなかったし、うん、そうだよ私は身体をはって提督がノーマルだってことを証明してあげたんだよ、うん。あ~あ、よかったよかった提督が乙女に抱き着かれて興奮するどノーマルで」

 

「落ち着け北上! 乙女らしからぬ発言が溢れまくってるぞ!!」

 

「は? 乙女らしからぬとか……あんまり調子乗ってるとキレるよ私」

 

「何かいきなり冷静に怒られた!?」

 

傍から見れば漫才のようなこの掛け合いは二人にとっては日常のものであり、ごく自然に行われるあたり二人の信頼関係が見て取れる。まんざらでもなさそうな二人は一瞬の静寂の後、顔を見合わせて同時に吹き出す。

 

 

「まぁ、冗談は置いといて。北上はもうちょっと慎みを持った方がいいと思うぞ。今すぐとはいかないまでも近いうちに新しい仲間が来るんだから少しは自重してくれよ」

 

「んぁ、だいじょぶだいじょぶ。こんな事するの提督と二人っきりの時だけだし」

 

「そっか……って、うん?」

 

「ふふん、提督のバ~カ」

 

 

単冠湾泊地鎮守府は今日も平和である。

 

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