俺と北上と時々龍田   作:ノッティ

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第2話

今日も今日とて平和な単冠湾泊地。提督は執務室で煙草を吹かしながら書類とにらみ合っていた。

 

「深海凄艦が狂暴化ね……横須賀に呉、佐世保。見事に有名どころばっかだねぇ。まぁ、ここに被害がないようならあんまり関係ないけど」

 

提督はそう言って、軍本部から送られてきた回報を机の上に無造作に投げ捨て、脱力した様子で天井を見上げた。軍人として失格とも取れる発言をする彼ではあるが、そもそもこの鎮守府の保有戦力は軽巡洋艦「北上」の一隻のみ。そんな艦隊とも取れない艦隊が戦力になるはずがない、むしろ戦いの邪魔になることだってあるかもしれない。そんな戦力になっていないという事実に対して、半ば逃避的なやっかみの意味合いが含まれた上で、やさぐれるように口にしたのである。

 

とは言え、彼は元来放任主義と自分が楽しいことを優先する男なのだ。彼の言葉の根幹にあるのは至極単純「面倒くさい」。これだけである。

 

 

「まぁ、たとえ命令があったとしても絶対行かせないけどな。北上だけで行かせるとか危ないにもほどがある。それに……」

 

「私がどうかした?」

 

「おわっ!!」

 

 

瞬間、北上が提督の顔を覗き込むようにして現れた。

 

 

「お前……何時の間に」

 

「ちゃんとノックもしたし、声もかけたよ? 全然気づいてなかったけど」

 

「そりゃ……悪かったな」

 

「べつにー、私も急ぎの用事じゃないしねー」

 

 

それよりも、と北上が提督に詰めよる。

 

 

「さっき、私がどうとか言うのはなんだったのかな~」

 

「うっ、いや、大した事じゃ……」

 

「『たとえ命令があったとしても絶対に行かせないけどな』 ふふ、何それ。娘を嫁に出すまいと意固地になってる中年親父みたい」

 

「聞かれてた上にそこはかとなく嫌な例えされた!!」

 

「ああいう親って、主観的には我が子が愛しすぎて、ついつい色々気になっちゃう自分に酔ってるって感じだけど、客観的に見たらめっちゃウザくて、キモいって理解してるのかな?」

 

「追い打ちが的確すぎる!!」

 

目に見えて落ち込んでいく提督を見ながら、北上はニヤニヤと笑っている。どうにも彼女は意地が悪い。

 

「まぁ、でもさ、私の事ちゃんと考えてくれてるってのは、その、素直に嬉しかったりして」

 

「おお、今日はデレのタイミングが早い」

 

「は……? 何言ってんの?」

 

「…………ごめんなさい」

 

 

崩れ落ちる提督を見ながら、北上は持参していたらしい書類を机に置く。

 

 

「これ、この前言ってた新造艦の資材配分ね。事後報告にはなっちゃったけど、取り敢えずこれでお試し的に頼んできといたから」

 

「……おお、サンキュ。資材に余裕があるわけじゃないからな、そこらへん分かってるお前に頼んで正解だよ。……いや、北上しかいないんだけどね」

 

 

今までの会話の流れは何処へやらと言った様子で、二人はしばし仕事関係の話を進める。新造艦の建造は妖精達に一任し、建造が終了次第執務室へ来るように手配したと報告する北上だが、提督はその雑な配慮に多少不安を抱えていた。

 

「お前さ、自分が逆の立場だったらどうするつもりだよ。出迎えも無しって寂しいもんだろ?」

 

「あれ? 私の時はそうだったよ……たぶん」

 

「ん? そうなの?」

 

「うん。そんなに言うなら出迎え行ってみる?」

 

「まぁ、そうだな。今日は出撃の予定もないし、盛大にお迎えしてやろうかな」

 

「今日“も”でしょ。というかさ、火の始末はしっかりしようよ」

 

北上はそう言って、灰皿に放っておかれた煙草をもみ消した。提督はそれを見て胸ポケットから新たな煙草を出して火をつける。

 

「何? 新手のいやがらせ?」

 

「ちげぇよ、ほとんど吸ってなかったしと思って」

 

「そんなにおいしいもんなの?」

 

「いや、別においしいってわけじゃ……」

 

「ちょっと拝借」

 

言うや否や北上は提督の咥えた煙草を取り上げると、そのまま自分の口に咥えた。

 

「げっほ、げほ、げほ……うえっ最悪」

 

しかし、すぐに咳き込んでしまう。当たり前だバカ、と提督は咳き込む北上から煙草を取り上げる。

 

「大丈夫か?」

 

提督が北上の背中をさすりながら声をかける。咳き込みながらうずくまっていた北上は目尻にうっすら涙を浮かべながら二言。

 

 

「大丈夫じゃない。慰謝料」

 

「慰謝料って……」

 

「ボーキサイトを500ほど請求する」

 

「お前、必要ないだろうが!!」

 

 

何時ものように軽口を叩く北上にツッコミつつも、安心したような顔で提督は北上の背中から手を離した。

 

 

「あっ……」

 

 

「……どした?」

 

 

「いや、……なんでも、ない」

 

 

いきなり黙り込んでしまった北上の顔は心なしか仄かに赤くなっているように見える。借りてきた猫のように大人しくなってしまった北上に、提督は何とも言えないむず痒さを感じていた。

 

(何か、何か嫌だこの空気! いや、嫌っていうか何かめっちゃ恥ずかしいんだけど。何で? 何でこいつ喋んないの? あれ? こいつこんな可愛かったっけ?)

 

 

「あのさ」

 

 

「お、おう……」

 

 

「前から言おうと思ってたんだけど……私、さ……その提督の事……」

 

 

「……北上」

 

 

「セクハラで訴えようと思うんだよね」

 

 

「………………………………」

 

 

「いくら指揮官だからって、そんな気安くベタベタ触って許されると思ってるの? 最近はそういうの社会的にも厳しいんだからさ、昔と今じゃ立場が違うんだからもっと考えて行動してよ。そういうのが自分の職場から出ちゃったらさ、私達もあらぬ風評被害を受けるわけよ。ねぇ、聞いてる? 私、提督の事も考えて言ってるんだよ?」

 

 

「…………うん、何かごめんね」

 

 

北上の口撃(誤字にあらず)を受け、意気消沈する提督。顔面蒼白で今にも口から白い塊が抜け出ていきそうだった。

 

 

「煙草……何かちょっと、甘かった……かも」

 

 

北上は提督が放心状態であるのを確認すると、自分の唇に触れながらそう呟いた。自然と笑みが漏れ、北上の頬はまたやんわりと朱色に染まる。

 

 

「雰囲気って怖い怖い。まぁ、自分からってのも何か悔しいしね……気まぐれ北上様がよそ見する前に精々頑張ってよ。て・い・と・く」

 




書いてるうちに北上様こんなんだっけ? という疑問がひしひしと。女の子を文章で可愛く表現することの難しさたるや、艦これ始めた当初の2―4並。艦娘がレべリングで強くなっていくように、自分も北上愛を伝えられるように文章力を成長させていけるかなぁ。
 
次回はようやく龍田さんの登場……のはず。
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