「初めまして~、あなたがここの提督さんかしら~?」
一礼を済ませた艦娘、龍田と名乗った少女は柔らかな顔で微笑みながら提督にそう質問した。
「おう、俺が提督だ。ようこそ我が鎮守府へ、つっても見ての通りの貧乏鎮守府なんだけどね」
「最初は何処もそんなものよ~。私も頑張るから一緒に頑張りましょうね提督」
「北上見ろ! 天使だ天使がここにいる!!」
「私に振らないでよ。そして、拝むな」
「あら~、あなたは……?」
「んあ? 私? 私もあんたと一緒だよ。軽巡の北上っていうんだーよろしく」
「よろしくね~北上ちゃん」
「北上、ちゃん?」
「そうよ~、“北上ちゃん”。かわいいでしょ~」
「いやー、私はちゃん付けするようなキャラじゃないんだけどなぁー」
恥ずかしそうに頭を掻く北上。そこでようやく立ち上がった提督が言う。
「いやいや、新鮮でいいじゃないか。俺も俺も。きったっかみちゃーーん」
「何、提督。殺すよ」
「お前、最近怖すぎるぞ!!」
「いや、同じ艦娘の龍田に呼ばれるのはまだいいけど、提督はね……」
「いっそはっきり言ってくれよ!! よりみじめな気持になるじゃないか!」
「あらあら、北上ちゃんあんまり提督をいじめちゃだめよ~」
見かねた龍田が仲裁に入る。
「いやいや、たつっち。この人はすぐ調子に乗るから、これぐらい適当でいいんだよ」
「あら~、そうなの?」
「騙されるな! マイエンジェル。俺に慢心など微塵もない! あるのはただの知的探究心だけだ!! 後、北上、適当ってなんだこら」
「ね?」
「ほんとね~。知的探究心が湧いたからっていい年の男であることも忘れて、あんな児童向け教育番組みたいなノリで北上ちゃんの名前を読んでる時点で気づくべきだったわ~」
「シット!! 会ったばかりの艦娘に何か悟られてしまった!!」
提督は項垂れながら、壁にたてかけてある鋼材に頭を打ち付ける。そして、あまりの痛さに一人でもんどりうっていた。誰がどう見ても、指揮官なんかには見えない。威厳などとっくに消え失せていた。そもそも威厳なんてあったのかと、北上は渋い顔をしながら見守っていた。
「あれ、そういえばさっき“たつっち”って……」
「あー、それね。たつただからたつっち。何か愛着ある感じでいいでしょ?」
「たつっち……ねぇ~。私そんなキャッチ―な感じかしら~」
「今のたつっちと同じような感情を、私もさっき感じたんだからおあいこだよ。私だけちゃん付けとか何か恥ずいし……」
「ふふ、そうね。じゃあ、改めてよろしくね北上ちゃん」
「うん、まぁ、よろしく。気楽にやろうよたつっち」
とまぁ、一人を除いてつつがなく自己紹介が終わり、新たな仲間が加わった鎮守府。その後は北上が龍田を連れ、鎮守府内を案内したり、空き部屋を龍田に割り当てたりと、少しだけ慌ただしく只何時もとは少しだけ違う日常が流れていった。
北上は初めて出来た同僚に、表情や行動に表立って表すことはなかったが、確かな喜びを感じていた。それを証拠に一人でのんびりすることを好んでいた彼女だが、龍田からの誘いがあれば断ることは一度もなかった。それが仕事であれ、何であれだ。
龍田に関しては、建造直前の雰囲気を見る限り何処か抜けたような所がある(所謂天然気質)印象を提督は持っていたが、そのおっとりした外見とは裏腹に色んな所に気が回る几帳面な性格をしていた。特に人の気持ちの機微には敏感で、先読み先読みで行動するため、提督は頼もしいと思う反面、少し怖いとも思っていた。そんな気持ちがあったからか、初日は“天使”とか“マイエンジェル”とふざけたような呼び方をしていたにもかかわらず、今では“龍田さん”という呼び方に収まっている。
龍田自身も最初はこの鎮守府のゆるさに多少困惑していたが、納得したのか、諦めたのか、最近では専ら北上と暇をつぶしたり、提督の書類仕事を手伝ったりと概ね自由に過ごしていた。
そんなある日、龍田は北上にこんなことを尋ねていた。
「提督が出撃を許可してくれない理由?」
「そう。私より提督と付き合いの長い北上ちゃんならしってるかなぁ~って」
「あー、やっぱりそういう疑問が生まれるよねぇー」
北上は少し困ったような表情で龍田から視線を逸らす。
「だって、私が建造されて一週間ぐらい経つけど、その間一回も出撃しないんだもの~。偵察任務すらまともにさせてもらえないのよ~」
「たつっちはさ、やっぱり戦いたい?」
「戦いたいとは言わないわ。でも、艦娘として“兵器”として生まれてきた以上、戦いの場がないと自分の存在意義が取り上げられてるみたいでね。自分が何のために生まれてきたのか分からなくなるわ~」
龍田は今の現状に不満があるわけではない。龍田自身は至って平和なこの場所の生活を気に入ってさえいた。しかし、自分の意義を考えると何時までもこのままではいけないという使命感が、この平和な時間を過ごせば過ごすほどに湧き上がってくるのだ。今も、深海凄艦は人類を脅かしている。こうやって北上と話しているときでさえだ。今も何処かで誰かが命を燃やして戦っている。それを考えると、龍田は艦娘としての性質なのかひどく好戦的な感情に支配されることが何度もあった。
「うーん、勘違いしてるみたいだけど。提督は何も戦いを望まない日和見主義って訳じゃないんだよ?」
「じゃあ、どうして?」
「簡単だよ。今、出撃する必要がないから」
「深海凄艦はこの鎮守府の近海でも確認されてるのよね~。なら、その脅威は早急に取り除く必要があるんじゃないかしらぁ~」
「いや、たつっち。私にそんな事言われても……まぁ、気持ちは分かるけどさ、後三日ぐらい待っててみ? 多分あの人ならそろそろ頃合だと思ってるんじゃないかなぁー」
龍田は北上の言葉に眉をひそめる。今の提督を見ている限りではそんな素振りは一切感じられない。この前は書類整理の途中で、『何か今なら空飛べる気がする!!』とかいきなり言い出したと思ったら、窓突き破って頭から生垣に突っ込んでいた。すぐに提督を正座させてその上に石畳を三枚ほど乗せてやった。正座しながら『だって、クリ琳が……クリ琳が……』とか言いながら、何か震えていたことを龍田は覚えている。
どうやら、読んでいた漫画に影響されたらしいが、龍田は提督がどれだけ怒りを溜めたところでスーパーな宇宙人にはなれないだろうと呆れながら石畳をもう一枚追加していた。
そんな感じで最低限の仕事だけをこなしつつ、隙さえあれば遊びだすような彼の姿を見ている龍田にとって北上の言葉は信じられるものではない。
「随分あの提督さんを信頼してるのね~」
「うん、まぁ、今も昔も一緒にバカばっかやってるけど、ただのバカなら今まで一緒にいないよ」
北上は顔色一つ変えずにそう言い切ってみせた。何がそこまで彼女にここまで言わしめるのだろう? 龍田には北上の提督に対する絶対の信頼の理由がこれっぽっちも思いつかなかった。北上が提督に恋慕に近い感情を持っていることには薄々気づいてはいたが、それを踏まえても彼女の病的なまでの提督への信頼は何処か異常ですらあった。
「まあ、いいわ。北上ちゃんに免じて、もうちょっと待ってみるわね~」
龍田は二人の関係に興味が湧いた。どこまでも真っ直ぐなのに、捻くれた表現しか出来ない不器用な軽巡と、そんな捻くれ者をそこまで心酔させる我らの指揮官に。
(うふふ、何か楽しくなってきちゃったかも……)
龍田は意地悪そうに微笑む。
(新しいオモチャ、見ぃ~つけた、……ふふふ)
何でこうなったのかな? 迷走にもほどがある(泣)。
尻切れトンボみたいで中途半端っぽいですが、龍田さんは快楽主義者なイメージがあります。手段が過激になっちゃうだけで……芯にあるのは純粋な興味とか想いを満たしたいだけなんじゃないかなぁと勝手に想像しています。
にしても、難しいですね文章って……