今日も今日とて平和な単冠湾泊地。しかし、何時ものゆるーい鎮守府の様子は緊迫したものになっていた。
「さて、今日は近隣海域へ出撃してもらうことになるが……二人とも準備はいいか?」
提督は厳しい顔をしたまま前に立つ北上と龍田に語りかける。
「私はいつでもだいじょぶだよー。ってか、判断遅すぎるよ提督」
「そう言ってくれるなよ北上。こちとら今回の上からの任務には何時も以上に嫌気がさしてるんだから」
渋い顔をしながらため息を吐く提督。
「おっ……と、悪い。ため息を吐きたいのはお前達の方だろうに」
「気にしなくていいわよ~。それよりも今回の作戦の概要をまだ聞いていないんだけれど……」
「そうだな。なら、手早く説明しよう」
龍田はそう言って海図と共に作戦の概要を説明する提督を見て、内心驚いていた。
北上と出撃の話をしてからちょうど三日目。ズバリ北上が指定した三日目の今日の朝に提督は出撃をする指令を下した。あの適当な提督が出撃指令に踏み切った事にも驚きだったが、何より三日後に提督が動くという事をピタリと言い当てた北上に驚いていた。
一日、二日の誤差はあるだろうと思ってはいたが、まさかピタリ三日とは……二人で事前に話をしていたのだろうか? そうじゃないとしたら、何か同僚である北上が怖く見えてきた……そう感じる龍田であった。
「……! ……というわけだ。続いて確認されている敵の編成についてだが……」
龍田はそこで一度このことについて考えることをやめた。自分から催促したにも関わらず何も聞いていませんでしたでは目も当てられない。
「敵は軽巡級が3、重巡級4、戦艦級2が今の所確認されている。まぁ、前回よりはマシな戦力だが……」
「……聞き間違いかしら? 重巡4に戦艦級が2ですって?」
「後、軽巡が3だよ。たつっち」
「ねぇ、北上ちゃん。……この鎮守府の戦力は?」
「私とたつっちの二人。軽巡洋艦二隻。まぁ、火力的には心もとないよねぇ、あっはっはっは」
「ねぇ、提督? それは本気で言ってるのかしら?」
「龍田さん。どういう意味ですか?」
龍田はそんな提督の様子に思わず視線が鋭くなる。この男は何故そんなことも分からないのか。いや、分かっているからこその言葉だこれは。次第に龍田の中には怒りが湧き上がってくる。そんな海域に出撃して圧倒的に戦力不足の自分たちが無事でいられるはずがないのだ。
「とぼけないでくれるかしら~、まさか明らかな戦力差なんて気合でどうにかなるってそんな馬鹿な事を言おうとはしないわよね~。そうよね、なんたって提督さんだもの。艦隊を指揮する提・督さんだものね~」
龍田は変わらない笑顔でそう言った。しかし、言葉の端々にはおさえようともしない怒りが沸々と見て取れる。何せ彼女達にとっては自身の命に関わることだ。例え、戦場で死ぬ覚悟ができているとしても、勝機のない場にのこのこ出て行って犬死なんて恥さらしもいいところである。
提督は龍田の圧力に思わず身じろぎしたが、それもほんの一瞬だった。提督は今まで見たこともない冷たい表情で龍田を見下ろす。
「私は至って真面目だよ龍田さん。あなたがどう思おうと勝手だが、この決定は揺るがない。そして、私は君達の上官だ。口には気を付けた方がいい」
「ここぞとばかりに立場をひけらかして私がひるむとでも思いました~? 話の分からないような人には少しお仕置きが必要なのかもね~」
「構わん北上連れていけ。そして、彼女にこの出撃の意味を教えてやれ」
「あいあいさー」
北上は相変わらず間の抜けた声でそう言うと、艤装の引き金を提督に向かってまさに引こうとしている龍田の腕を掴み執務室を後にしようとする。
「……北上ちゃん。あなたは何も思わないの? いくら北上ちゃんが信頼していると言っても~、今の敵戦力を聞いて私達でどうにかなると思ってる提督(そこのひと)には正直従う気すら起こらないんだけど~」
「んあ? まぁ、そうだねー。提督がぶっ飛んでるのは今に始まった事じゃないんだけど……取り敢えず今のたつっちじゃ提督が何を言っても納得しないでしょ? だから、詳しい事は移動しながらでもね。ああ、そうだ提督」
北上は歩みを止めて振り返る。そして、何時ものように飄々とこう言った。
「別に全部ブッ飛ばしてきても問題ないよねぇー?」
「ああ、だが指示はこちらから出す。くれぐれも勝手に動くなよ」
「にしし」
北上は悪戯っぽく笑い、龍田を引き連れ執務室を後にした。提督は二人を見送ると天井を仰ぎながら煙草を燻らせた。
久しぶりの更新です。という事で、前回に引き続き少し短めのシリアスパート(?)です。龍田さんはこんなんじゃないと書きながら思いましたハイ。
文章の薄っぺらさは突き詰めていない設定のせいだとひしひし感じております(泣)。
追記
随分久しぶりにですが、少し推敲。これからも不定期ですが更新していきますのでよろしくお願いします。2014.7.31