日本外人部隊 作:揚物
イーネ達は馬車に揺られていた。学者セイに強く押され、王宮へ向かう事が決定してから即日、王宮へ向け、出発する。
幾重にも重なる城壁を抜け、城壁と天然の要塞が織りなす中心部、王都区画に入った。
街はカルズ地区とは異なり、建物や行きかう人々には優雅さがあり、さすが国の中心部、王都とも呼べる地区であるとイーネは感心する。
馬車は彼らを乗せ、王宮前の最後の門を抜けて王宮内へ至る。
やがて各種色のある花々が咲き乱れ、きれいな池のある場所に、馬車は到着した。
イーネ達が降りようとした時、馬車の外の異様な視線に気づく。
「まあ……あれが、漆黒の騎士を倒したと言われる異国の兵か……。」
「なんという緑系統のまだら模様とは……なんという野蛮な格好!! 優雅さの欠片も無い……どんな野蛮な魔法を使って漆黒の騎士を倒したというのだ。」
「先頭を歩くのは女騎士か? その者はまともな格好をしているようだが」
「女騎士は従者に蛮族を連れているのか?」
「漆黒の騎士は、他の兵によって、すでに傷ついていたのではないのか?」
様々な言葉がイーネ達の耳に入る。
漆黒の騎士を不知の魔法であっさりと倒した異国の兵の噂は、王宮中に響き渡り、その勇者を一目見ようと馬車が来るのを暇な貴族たちが待ち構えていた。しかし、降りて来た人間がイーネを除いて蛮族であったため、彼らは何かの間違いでは無かったのかと思い始めていた。
嫌な視線を浴びながら、王城の中に向かい、歩き始める。
エスペラント王国 王城
王城に住まう王、エスペラントは、謁見の間で王国の頭脳、学者セイを救った異国の兵を待っていた。
「モルテス、どんな騎士が来ると思う?」
王は、金色の鎧に身を包み、マントを羽織り、魔剣を操る歴戦の勇者の姿を思い浮かべながら王の傍らに立つ騎士モルテスに話かける。
威厳のある歴戦の老騎士モルテスは、少し難しい顔をしながら、
「そうですな。報告から異国の兵の武器を推察するに、最近王国で開発された銃に近いものがあるのではないかと思います。銃士ザビル殿の方が、詳しいかと思います。」
モルテスは、同じ王の謁見の間に立つ銃士ザビルの方向を即す。
銃士ザビル……少しやせ形であり、緑色の服を着た紳士であり、最近開発された銃と呼ばれる新兵器に精通し、その命中精度は王国一を誇る。
「間もなく学者セイ様と、異国の兵が参ります。」
各人は、少し期待をもって、扉を眺める。
「陛下!!帰ってきました!!彼を通してよろしいでしょ?」
相変わらずの口調でセイは王に話しかける。言葉使いについては、セイに関して彼らは諦めている。
「失礼いたします!」
緑色のまだら模様を着た汚らしい兵が、部屋に入って来る。
王都の謁見という格式高い場で、その汚らしい姿に、その場に居合わせた各々は顔を曇らす。
一人、女騎士のみ儀礼的な服を着ており、恐らくこの騎士が筆頭なのだろうと王達は考えた。
「その方名前は?」
「私は第三外人部隊 総隊長 イーネ・コルメス と申します。この度は、私を王宮へお招きいただき、真にありがとうございます」
イーネはクワ・トイネ公国 防衛騎士団 団長にしてコルメス公爵家令嬢、礼節や作法は完璧である。
その洗練された動きに、彼らは感心する。
「そうか、私はこのエスペラント王国の国王、エスペラントだ。このたびは魔族の攻撃から我が王国の頭脳であるセイを助けてもらった事を感謝する。」
「ははっ!」
「ところで……あの漆黒の騎士を倒した君の兵器はなんという兵器なのだ?」
「はい、12式装甲歩行戦闘車と申します」
イーネが答えた後、学者セイが王の方へ向く。
「なるほどのう……。」
王は、このイーネと名乗る異国の兵の力が見たくなった。
「お前の力が見たい」
王は自分の横に立つ緑色の服を着た者を指さす。
「こやつは銃士ザビルという。我が国で開発された銃に精通しており、この国一番の使い手と言っても差し支えない。
この者と遠当て……遠くの的に当てる競技があるのだが、それで競ってみてほしい。」
王の申し出に対し、イーネは困った顔をする。
「申し訳ありません。第三文明圏外人部隊では、武器の使用は厳しく制限されており、私の判断のみで非戦闘時に使用する事は出来ません」
第三外人部隊の軍規は日本外人部隊を準拠している。
王の側近たちは異国とはいえ王の申し出を断ったという事実に唖然とする。
「そうか……。では、イーネ殿、お願いがあるのだが……」
「如何なる御用でしょうか?」
「実はな、我が国の北側にバグラという休火山がある。その火口付近に……考えられない事ではあるが、魔物が街を作っている事が解ったのだよ。
今回の敵の規模は、過去の侵攻とは比較にならないほどの規模であり、戦力比を冷静に分析した結果、本格的に侵攻を開始した場合、良く見積もって王国の80%は奪われ、民は殺されるだろう。通常の見積もりであれば、王国は滅亡する……すべての壁は突破されるだろう。」
「それは……非常事態ですね」
「しかし、滅亡を回避するための光が……王国にとっての光が空から舞い降りて来たのだよ。
貴殿はあの……とても手に負えない漆黒の騎士を単体で、ただ1人で倒したと聞いた。君が強力な魔物だけでも狙って倒してくれるなら、我が国の被害は国民の半数、15万人で済むだろう。」
「魔物と呼ばれる生物の侵攻経路の想定はありますか?」
「地形、状況、そして防御力から考えて、間違いなくカルズ地区が最初の標的となるだろう」
外人部隊が参戦しなければ全滅、参戦したとしても、国の半数は死ぬというエスペラント王国側の試算、とんでもない話ではあるが、本当にそうだろうか。
「陛下。 敵の状況、数、特徴、特性、侵攻予想ルート、何故そこを予想するに至ったのか、情報をすべて外人部隊にも公開していただきたいのですが、可能でしょうか」
「良かろう。」
王は即答する。
この言葉を受け、銃士ザビルの目が見開かれる。
エスぺラント王国において、大音量と共に煙を発し、敵を倒す圧巻な兵器は貴族のみが使いうる特別なもの、それを差し置いて話が進められるなど銃士ザビルの血が湧く。
「異国の兵殿……、失礼だが君達で対応できるとは思えない」
「そうですか。 陛下、残念ですが協力は出来ないようです。」
イーネの言葉に王は焦る。
「ザビルはこの国一番の銃士でな。 銃の腕と実力に自信を持っているのだよ。 ザビル、どういうことだ」
「陛下、助けて下さる事は非常に喜ばしい事ですが、実力が陛下の思われている想定以下であれば、彼らには魔族と単独という形で対応したいと思いますが、よろしいでしょうか?」
「うっ、うむ、了解した。」
ザビルはイーネ達を見て不適に笑う。
「勝負は銃の遠当てだ。1分間のうちに、何発撃っても良いが、指定した皿を割ると点数になる。この皿は、徐々に遠ざかっていき、遠くの皿ほど高得点となる。
君は君の国の武器を使うがよい。
私はもちろん、我が国の匠が生み出した最高傑作の銃を使わせてもらうよ。」
その他話したい事は多々あったが、王の前で力を見せた後に、最後に謁見が開かれる事とし、その日の謁見は終了した。
外壁近くに簡易的なキャンプ地を設営し、そこにイーネを含む隊長が集まっていた。
「やれやれ面倒な事になった」
「申し訳ありません。 こちらの話を聞き入れる余裕もなく、話が決められてしまいました」
「イーネさん。 あなたは外交官ではないので責任を問われる事はありませんよ。 今回の一件は我々から上に話を通しておきますので」
「かなり強引なのはよくわかった。 今後については外交官を通して話をするようにしましょう」