毛布を引き上げ、視界を隠すと同時にベッドから飛び降り、騎士が持つ剣を叩き落す。
「貴様! 魔族だ打ち取れ!!」
他の騎士や兵士達も剣を抜く。
突然の言葉に唖然としながらも、背後を取られないように壁を背にする。
「私は人間です! 突然剣を抜こうとしたのはあなたでしょう!!」
にらみ合いの状況が続く中、病室の入り口から若々しいエルフの女性の声が響く。
「ここは病室だぞ! 人間と名乗る相手にこのようなことをして、本当に人間だったなら貴殿は重罪だ!」
「サっ、サフィーネ、なぜ君がここに」
病室の入り口には、白銀に近い金髪を後ろでまとめた、目鼻立ちが整った美しい女性が立っていた。ズボンをはいた腰には剣を下げており、やはり騎士だと思われる。
「私が保護したのだ。 様子を見に来るのは当然だろう」
「いや……、当然の事だ。 だが、剣を向けようとした途端暴れだした以上、こいつは魔族の可能性が高い」
「病室で横になっている状態で、見も知らぬ相手に剣を突き付けられれば、私だって応戦する。 私から上に報告しておこうか?」
「これは、我々憲兵の仕事だ。 とにかく上には報告する。 例え魔族でも騎士団が監視下に置き、即応すれば問題はないだろう」
「では私の監視下に置こう」
「なっ!?」
「私も騎士団、遊撃隊小隊長の私なら、自分の身くらい自分で守れるからね。 決まりだ」
「うっ……むぅ。 わかった」
どうやら女性のほうが立場は上のようだ。
男はこちらを少しにらむように見た後、病室を出ていった。
「あなたは私が魔族だと思わないのですか?」
「あなたが怪鳥と共に落ちてきたのを見ていたからね。 潜入するには派手すぎるよ」
「なるほど」
かなり酷い落ち方をしたために、体を打ち付けて少し時間が経ってから意識を失うほどだったので、その光景を目撃していたのなら疑問に思わないかもしれない。
壁から離れ、ベッドに戻ると腰掛ける。
「いえ、助けていただいてありがとうございます」
「私も質問することになってしまうのが、申し訳ないが我慢してもらいたい。 私はサフィーネ・ジルベルニク。 騎士団遊撃部隊第5小隊の隊長をやっている」
「私はクワ・トイネ公国 防衛騎士団団長そして第三文明圏外人部隊 総隊長 イーネ・コルメス です」
「女性のあなたも隊長なんて奇遇ね。 それであなたが乗っていたあれ、わたしたちでも作る事は出来ないだろうか」
「あれは……、日本国から供給されているもので、クワ・トイネ公国でも製造することはできません。 おそらく第一列強と呼ばれる国ほど、文明が発展していないと無理だと思います」
「その、第一列強というのはどれほどのもの?」
「ワイバーンよりも速く飛ぶ空飛ぶ船を所有し、海上を進む巨大な艦船を持つ国でしょうか。 兵士はみな銃も所有していますし、道具などの質も極めて高いです」
実際には第一列強でも製造不可能なのだが、そこまで詳しいことをイーネは知らなかった。
あくまで使用者であり、製造や整備に関わる者ではない。
「そう……。 作る事ができれば魔物との戦いも有利に進められると思ったのだけれど」
「魔物との戦いは、そんなに厳しいのですか?」
それからサフィーネの説明から、魔物との戦いで万単位の被害が出ており、さらに防壁で区分けされた領地が2箇所も落とされているという話だった。
「少し話過ぎたね。 明日には退院できるのでその時また話しましょう」