日本外人部隊 作:揚物
外交官達が会議に出向き、日高見の艦長沖田大佐はグラ・バルカス帝国のグレードアトラスターを眺めていた。
「あれがグレードアトラスターか。 大和に良く似ている」
「えぇ、写真や資料で見たとおりです。 兵装は最終戦仕様でしょうか」
沖田大佐は何かを決めたように帽子を占めなおした。
「ここは一つ、挨拶といくか。 軍人の質を知る良い機会だ。 茶菓子でも持って訪ねるとしよう」
「し……しかし、それは危険では」
副長が止めるが、沖田大佐は考えを改めるつもりはなく、準備を進めていく。
「もし、そこまでの兵であるならば、上も本土爆撃を躊躇しなくなるだろうよ」
自らが殺されても国家にとって利、無事に帰ることが出来ても利、第三次大戦を生き残った外人部隊の艦隊司令 沖田大佐はやはりどこか壊れている人物であった。
「一人で行く。 警戒されては困るからな」
風呂敷に茶筒と茶菓子を包むと小型ボートで港まで向っていった。
沖田大佐は風呂敷片手にグレードアトラスターが停泊している場所に向う。
すぐ近くまで歩いて行くと、十数人のグラ・バルカス帝国の兵士が刺叉を持って警戒していた。
「何用か」
警備する兵士にさす叉を向けられるが、焦る様子もなく冷静に笑みを浮かべながら帽子の前を少しだけあげる。
「なに、同じ船乗り。 挨拶に来たのだよ」
「なんだと?」
さす叉のようなもの向けられたまま、気にする様子も見せないように、飄々と風呂敷を向けられたさす叉の上に乗せる。
「わしは日本外人部隊、あそこに停泊している艦の艦長だ。 折角似た艦の艦長同士、少し茶でもどうかと思ってな」
もう一人の兵士が風呂敷を広げ、中身が茶筒と羊羹である事を確認している。
「少し待て」
そのまま艦から少しはなれた場所で立ったまま待たされる。
まだ表面上はいまだ敵でも味方でもない状態でありながら、こちらに対して警戒ではなく敵意を向けている。
兵士の質はあまり良くないか。船体の状態は悪くはないが、少々塗装の劣化が見られる為、連続した任務が多くメンテナンスが先送りされているように見える。
近距離で一つ一つ目視で確認し、そう判断に達するが表情や態度には一切出さない。
ただ柔和で温厚な表情のまま待っていると、艦から一人の兵士が降りてきた。
「艦長は甲板で会うそうだ。 ついてこい」
甲板上のものなら目視されてもなんら問題ないと自信が見られる。
降ろされている階段を上り、砲塔の状態、甲板の整備状況と一つ一つ記憶しておく。
先を歩く兵士についていくと、第二砲塔と艦橋のすぐ近くにテーブルが用意され、複数の兵士が立っており、席の横には40代から50代くらいと思われる旧帝国海軍人とも言える風貌の男が立っていた。
肩の階級章からみてこの男が艦長で間違いはないだろう。
「ワシは日高見の艦長 沖田 じゃ」
「私がグレードアトラスターの艦長ラクスタルだ。貴官が日本の軍艦の艦長とは、一人で来られるとは剛毅な事だ」
「なに、お飾りの老い耄れが居ない所で、艦はなんら問題はないだろうよ」
ここからは腹の探り合い。茶が入れられ、茶菓子が並べられた席に向かい合うように座る。
「貴国も中々大きい艦を持っているようだが、日本は何隻持っているのだね?」
「どの艦も老い耄れだらけの死に損ないばかり。 大した力もありゃせんよ」
「ほう、ではあの艦もそうなのかね?」
「あれはよちよち歩きの赤ちゃんよ。 産まれたてでまだ戦の経験すらありゃせん。 それに比べてこの艦は随分と経験を積んどるようだ」
茶に少し口をつけながら、心を落ち着かせ丁寧に言葉を選ぶ。
「我が国の誇りであり世界最大最強の艦だ」
「ほう、兵の質と共に艦も熟練者かい」
「精強な我が国の兵は、この世界に置いても敵など居ないだろう」
茶菓子である羊羹に手をつけ、一旦話を区切る。
「45口径46センチ三連装砲、遠くまで届くんじゃろうな」
表情を崩さずにいたラクスタルの眉が一瞬揺らぐ。
どうやら口径とセンチは大和と同じようだ。
「そちらも中々遠くまで届きそうだ。 41センチくらいかね?」
ラクスタルもブラフを掛けセンチを聞き出そうする。
「そんな小口径なぞ積んで意味はないじゃろ。 海軍はでかいもんをもっとかんとな」
笑いながら沖田という艦長は小さいという。
いくつだ。小さめに41と言ったが、この男の反応からして最低でもグレードアトラスターと同口径、最悪案だけで搭載する事のなかった51センチか。
「確かに、海軍としては砲は大きい物を持ちたいものだ」
「どーんと800mm砲を一門積んだ艦も一度作ったが、ありゃ玩具だったな。 さすがにでかいにも限度があるわい」
「ほう、それはとんでもないものを作りましたな。 使いにくかったでしょう」
「まったくだめじゃったな。 あれでは対地攻撃以外はなんもできやせんわ」
800mmか、事実だとしたらとんでもない大口径砲を作る技術があると言うことだが、これはブラフの可能性が大きいと考えた方がいいか。
「レーダー観測砲撃」
表情が崩れ、持っていたコップから少し茶がこぼれる。
グラ・バルカス帝国でも搭載されたばかりの、レーダーを何故この男が知っている。
「それさえ出来ない様では話にならんわい。 光学測距儀では大砲を活かしきれんからな」
「まったくですな。 しかし鉄砲屋としては目視距離で確実に当てたい所です」
「ワシは臆病だから、当たりにくくても目視はしたくないのう」
どうやら精度はそれほど良くないようだ。いや、これもどこまで信頼できるか。
情報の流出を疑うべきか。
「しかし、航空機の時代になりつつあり、鉄砲屋は悲しいものよ」
「まったくです。 いまや航空戦力の時代、いずれ鉄砲屋、いや戦艦の時代も終わるでしょうな」
「近接信管 などあっても、航空機の波状雷撃には勝てんしのぅ」
この艦や技術情報は全て流出している。どこからだ。このまま捕らえて聞き出すべきか。
「悲しい限りですな。 その為に艦隊運用に苦心するものです」
今回、沖田と言う男が来たのは、警告を兼ねているのか。
思考をめぐらしていると、日本の軍艦が視界に入った。
「さて、長話をし過ぎたわい。 そろそろお暇させてもらうよ」
沖田大佐は席を立つ。
「そうですか。 艦の外までお送りしろ」
揺さぶりをかけ、自分に手を出させる事で、至近距離の砲撃をして沈めるつもりであったのだが、その意図を読んでラクスタルという艦長は無事に帰すことを選んだ。
「ありゃ良い軍人だ。 こりゃ一筋縄ではいかんな」
沖田大佐は襟を占めなおし、港を部下が待つボートへと向った。
ラクスタルは表面上は平静を装いながら、心象穏やかではなかった。
情報を探るつもりが、いくらか情報を盗られてしまった。これは失態だが、得られたことも多い。艦数こそ少ないがどうやら我が帝国と近い技術を持つようだ。
そして重要な情報が流出している。これは由々しき問題だ。
「何故帰したのですか? 敵国となる艦長、それを人質に取ればあの艦を鹵獲する事も可能だったのでは」
「よく見てみろ」
部下の問いかけに、ラクスタルが指差した方向には、日本の軍艦の主砲がグレードアトラスターに向けられている。
「捕らえればこちらが先手を取ったとして、即座に砲撃してくるだろう。 この距離であの口径だ。 詳細は不明だが同等とみて良い。 グレードアトラスターとはいえ無事で居られると思うか?」
状況に気付いた士官達は冷や汗を拭う。
もし手を出せば、砲撃戦などすることもなく、一方的に艦を沈めることが出来た可能性が高い。その為に態々一人で訪ね揺さぶりをかけてきた。
「厄介だぞ。 国家の利の為にあっさり命を捨てられる者はな」
ラクスタルは敵となる艦長の肝の太さに感心し、また油断できない相手と認識を改めた。