日本外人部隊   作:揚物

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脅迫外交交渉

 バルクルス基地を占領して一ヶ月、ムー国はアルー奪還に向けて準備が進められ、前線基地として物資が空輸され修復と強化が進められていた。

 アルーを占拠するグラ・バルカス帝国の兵士の数は多くないのだが、問題は捕虜とされている住民がいるということだ。どれだけ生存しているかは不明だが、救出活動を前提に入れると非常に難しい。

 

 

 日本では航空母艦かがの改修が完了。電磁カタパルトとアングルド・デッキへ改修等の処置が行われ、現在慣熟航行とパイロットの訓練が行われている。F-35Cに変更され運用範囲がかなり広がり、これによって戦略的にさらに優位に立てる。

 また、空中給油機の増産も完了し、ムー国を経由しなければならないが、グラ・バルカス帝国の本土爆撃も可能となった。

 

 

 

 グラ・バルカス帝国史上最大にして最強の戦艦、グレードアトラスター。その巨艦の艦上で、正装をした者達が海を眺める。

 

「間もなくムーへ上陸か……」

 

 外交官ダラスは海を眺めながら回想していた。日本国へ皇太子殿下を安全に引き渡すよう、通告を出すという大仕事。

 用件があるため、レイフォルにあるグラ・バルカス帝国外務省出張所まで来るように書面を送るも、日本国政府は「用件がある方が来い」との内容通知を送り返してきた。

 船はやがて停船し、ムーの小型船が姿を現す。内容を簡潔に告げて、日本国大使と会う約束を取り付けた。

 やがて、大使館の扉が開かれ、内部に案内された。

 

 

 

 第2文明圏 列強ムー 首都オタハイト 日本大使館

 会議室に、8人の男が座っていた。

 日本国外務省、グラ・バルカス帝国担当 阿部、ムー担当 立川 その他職員

 そして、グラ・バルカス帝国外務省事務次官 パルゲール、大使ダラス、その他職員。

 帝国サイドの目線は鋭く、ピリピリとした空気が流れているのだが、どこ吹く風とおちついた表情で担当外交官 阿部は席に座っていた。

 パルゲールの身長は少し低い。身長は160cmくらいだろうか、頭は禿げ上がり、優しそうな雰囲気を醸し出す。 こういう腹の内を隠すのが上手い人物が一番危ない。

 事務次官パルゲールはゆっくりと話し始めた。

 

「日本国は我が国のグラ・カバル皇太子殿下を捕らえているな?」

 

「バルクルス基地に居ましたのでね。 降伏をいたしましたので抑留しています」

 

 パルゲールの顔色が変わる。

 

「そうか、では命ずる。すぐに皇太子殿下を安全な状態で我が国に引き渡せ」

 

 目つきが鋭くなる。殺気すら感じるほどの鋭い目つき、ドスの効いた声、会議室の空気は一気に悪化した。

 それさえも軽く受け流すように、阿部は表情を変えない。

 

「命ずる? ではすぐにでも処刑するよう伝達いたしましょう」

 

「貴様!」

 

 席をたちテーブル反対側に座る阿部に手を伸ばす。

 

「あなた達は我々に対して交渉権を持っていない。 何よりもあなた達の国家では捕虜交渉は行わないのでしょう。 我々がどのように扱おうと問題はないはずですが?」

 

 筋は通っている。グラ・バルカス帝国は捕虜返還に関する交渉は一切しない。その情報は捕らえた捕虜から情報を得ている。その為に処刑されないよう捕らえられた者達は、一部を除いて口が軽く良く喋ってくれた。

 パルゲールは伸ばしていた手を引っ込め拳を握る。

 

「我が国はグラ・バルカス帝国である。

 日本国は転移国家と聞いているが、支配面積の少ない東の弱小国が、我が国と対等だと思うな。

 戦争状態にあるが、距離があるため、戦略上の理由で貴国は後回しにされていたにすぎない。

 お前たちの国を先に滅ぼす事などたやすい」

 

「面白い冗談を仰る。 潜水艦でしたらすでに何隻も沈め、経由地も破壊しておりますが、本当に届くと思うのですか? そしてムー国に派遣された艦隊を全て沈めるもしくは鹵獲しておりますが、やれやれ、その程度の情報共有も出来ていないのですか」

 

 呆れた表情を浮かべながら阿部は話を続ける。

 

「今一度軍内部の情報の精査をしてから外交にきてはいかがですか?」

 

 パルゲールの目つきがさらに悪くなる。

 

「……事の重要性が解っているのか? 弱小国が……連合に参加しなければ自らの意思すらも決定出来ない金魚の糞のような国、敵対国を属国化出来ないほどの弱小国家が、殿下を捕らえる、この意味を知れ」

 

「連合を組むことでコスト削減ができますのでね。 それにしても植民地主義など効率が悪いと理解できないとは、融和という思考がない低文明らしい思考です。 何よりもその口調があなた達の国民レベルを良く表しています」

 

「お前は日本国の代表として我が国の意思決定に影響を及ぼすほどの人物の前で発言をしいているのだぞ?

 お前の回答次第では……東京はあっさりと灰燼に帰す」

 

 海軍や陸軍の情報はすべて正確に共有されているわけではない。いまだ外交に属する者達は自国が遥かに優位である事を疑っていなかった。

 

「なるほど、あなたは国の意思決定に影響を及ぼす人物であるということですか。 ではあなたの発言や考えによって国家に甚大な被害を被る可能性も理解した方が宜しいのでは?」

 

「お前の返答次第では、大艦隊が首都沖合を埋め尽くすぞ。距離が侵攻を妨げるとは思わぬ事だ。

 我が国が本気になれば、距離など問題ではない。

 圧倒的物量をもった圧倒的大艦隊……貴様らが体験したことの無いような大艦隊が、東京に砲撃の雨を降らせるだろう。

 レイフォルの首都レイフォリアが体験したような単艦による攻撃とは訳が違う」

 

 少し得意そうに話すようすをみて、阿部は呆れて言葉もなくなる。

 恐らく一切情報共有が成されていないか、先ほど話した内容も欺瞞情報程度にしか理解していないのだろう。

 

「グラ・カバル皇太子をそちらに引き渡す外交交渉をするつもりがないのでしたらお引取りを」

 

「殿下を人質とするというのか?」

 

「人質とは低文明的思考ですよ? 敵国とはいえ皇族という事で丁重に扱っていますので安心してください。 あぁ、丁重といっても拷問をしているわけではありませんから」

 

「貴様本気で言っているのかぁ!!!お前たちが捕らえているのは帝国の……グラ・バルカス帝国の次期皇帝陛下なのだぞぉっ!!!

 その意味が……その意味が解っているのかっ!!」

 

 響き渡る怒号。

 いい加減呆れてくる。戦時外交交渉を行うものが感情を表に出すなどあってはならない。そして次期皇帝など重要情報を話すなど愚かの極みだ。

 外交官とは徹頭徹尾仮面を被り、私的感情を一切表に出さず、相手より優位なカードを引き出す事が重要なのだ。必要であればその場限りで頭を下げる事すら厭わない。

 

「殿下に万が一の事があったら……殿下に万が一の事があれば、皇帝陛下の烈火の如き怒りを買うぞ!!

 お前たちの国民全員が処分の対象にされても致し方ないほどに重要な案件なのだ!! 国民全員が処刑されるかもしれぬほどの重い決断と知れ!!」

 

「殲滅宣言をなされるのでしたら、日本としてもグラ・バルカス帝国に対して相応の対応をしなければなりません。 そのお覚悟はお在りですか?」

 

「そうか、自国の民の命を、貴様はたった今絶った。もう話すことは無い!!」

 

 外交交渉という名の一方的要求は日本の拒否によって終わった。グラ・バルカス帝国外務省事務次官は、本国軍に対し、日本国に対する大規模攻撃を要請するのだった。

 

 外交上記録された会話は全て日本政府に開示され、今まで人道主義に反するとして避けられていた本土爆撃の許可が下りることとなった。

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