突破した10隻の艦船は、すでに航空母艦かがから発艦したF-35C編隊部隊による攻撃を受け、航行不能に陥るか撃沈されていた。
動きが止まったグレードアトラスターに対して最終通告が入る。
《降伏せよ。 さもなければ撃沈する》
「……万策、尽きたか」
艦長であるラクスタルは怪我をした体を押し、艦橋で指揮を執り続けていた。
すでに艦橋の一部を破壊され、排気塔まで至った損傷は機関にダメージを与えていた。漏れ出した加圧蒸気は排気塔に殺到し、すでに戦闘航行などできる状態ではない。
「各員 艦載艇で退艦せよ」
もはや戦闘など出来る状態ではないが、ラクスタルは艦長として降りるわけにはいかない。
命令を下しても艦と最後を遂げると、退艦を拒否する士官や兵士は多かったが、説得することでそのほとんどが艦載艇に移り船を降りた。
艦隊総司令官カイザルもまた、自らの責務を果すために残ると主張したが、艦長のラクスタルから国家の為に生きてほしいと説得され、副長と共に艦載艇に移った。
何度説得しても頑として残ると言った者達を乗せ、艦を運用できる人数を下回っていたが最後の抵抗に出る為各配置についていく。
日高見からも、グレードアトラスターから艦載艇が下ろされ、船から離れていくのは遠方からでも見えていた。待つ義理などないが、戦意を失った者を殺せるほど非情でもない。
少しの時間が経つと船がゆっくりとだが動き始めた。
「返信あり。 グレードアトラスターは降伏はしない。 以上です」
沖田大佐は深くため息を付き、帽子を深くかぶり直す。
どのような理由があろうとも、降伏し生きて国家の為に恥に耐えるのも道だが、最後の一瞬まで国家への忠節を全うさせてやるのも慈悲。だからこそ降伏を拒否した以上国家への忠義と共に沈めなくてはならない。
「主砲発射用意。 グレードアトラスターを撃沈せよ」
50口径56cm三連装砲 2基が稼働し、グレードアトラスターに合わせられる。
グレードアトラスターとほぼ同時に放たれた砲弾は空中で交差し、3発の砲弾が日高見へと向かっていく。
「砲弾、命中ルートです」
「取り舵一杯、最後の一手も当たってやるわけにはいかん。 回避せよ」
航路変更した日高見の10m圏内、夾叉した砲弾による水柱が激しく船体を揺らす。
一方グレードアトラスターは直撃弾を受けて爆炎を上げる、後部エンジン部をへし砕き、船体がきしむ音を上げながら船首を空に向け、後部から徐々に沈んでいく。
「戦闘は終了した。 漂流者の救助を急げ」
沖田大佐は席から立つと、沈んでいくグレードアトラスターに向けて敬礼を行った。