【リレー小説】 この紅魔の乙女達に恋愛を!   作:勾玉

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最終話の2話同時投稿です。こちらは1話目です。


最終話 この紅魔の乙女達に恋愛を!前編【執筆:勾玉】

惚れ薬を飲んだせいで意識が奪われてしまい、お互いのことしか考えられなくなったカズマとゆんゆん。

その効果を解く手段として悪魔バニルが私の下に持ってきた解呪の薬。

 

カズマとゆんゆんの意識を取り戻すその薬を手に入れるために、私はこの悪魔と交渉しなければならないのか…

 

口元をゆがめて不適に笑う悪魔を、私は軽くにらんで口を開く。

「言っておきますが、私はクエストの報酬とかはあんまり受け取ってませんし、受け取った報酬もほとんど実家の仕送りに回していてお金はありませんよ」

「なぁに、問題なかろう。もとより小遣い程度しか手元に残していないおこちゃま紅魔族の財布など当てにしてはおらんわ」

「おい、誰がおこちゃまだ」

「あのアルダープとかいった悪徳貴族の没落で、汝の保護者であるあの男は今やこの街で指折りの成金冒険者ではないか」

「おい、私の話を無視するんじゃない」

 

無礼な悪魔の聴き逃せない言葉に対して言いたいことは山ほどあった。

…が、今はそんな場合ではない。ここは大人な私がグッと我慢しなければ……何せ、惚れ薬を飲んだ2人が一緒になって出て行ったのだ。この後の展開はおこちゃま紅魔族をとっくに卒業している私には手に取るようわかる。急がないと2人は、2人は…

 

 

 

"邪魔"だ。

 

その言葉がどこからともなく聞こえる。私は少し震えだす。

 

「どどど、どうしたのですか!?めぐみんさん」

突然震えだした私に驚いてウィズが心配そうに声をかけてくれる。

 

「ば、バニル!!私は薬の相場なんてよく分かりません!とりあえず金額を提示してください!」

私は吠えるようにバニルに催促すると、バニルは薬の入った2つの瓶を両手でカチカチと鳴らしながら答える。

「ふむ。そうであるな。これは、それはそれは珍しい薬であって、入手するのにも随分苦労するのだ。その調達費、我輩がここの屋敷まで持ってきてやった送料などを勘案すると…」

 

私はごくりと唾を飲み込む。

 

 

 

 

「1本10憶エリス、2本で20憶でいかがか」

「ぼったくりにもほどがありますよ!!カズマの資産の大部分が吹っ飛ぶじゃないですか!!」

食ってかかる私の勢いにも、まったく動じずに悪魔は面白そうに笑いながら言葉を続ける。

「なぁに、財布が膨れるに反比例してものぐさになる男を勤労な冒険者に変える良い機会ではないか」

 

「ば、バニルさん…1本10憶エリスはいくら何でもあんまりでは…」

ウィズもバニルのあまりにも一方的な交渉にだいぶ引いているが、

「おい、あの男から買い取った知的財産権で得た利益をすべて無駄なマナタイトに変えた無駄店主よ」

「無駄店主!!?」

「今まさに汝の無駄行為の尻ぬぐいをしてやろうとしているのだから、黙っておれ」

無駄店主呼ばわりされた無駄店主は悪魔を涙目でポカポカ殴っているが、悪魔は平気な顔で私に催促する。

「ほーれ、早くあの男の預金通帳と実印を持ってくるのだ」

 

私はむぐぐと歯ぎしりしながらバニルを睨む。

バニルは気にせず私の不安を煽る。

「早くしなければ、あの惚れ薬を飲んだ2人はどちらからとなく手を取り合って、仲睦まじくホテルにでも入り、熱い視線を交わしあい、やがて、もう辛抱たまらんとお互いの身体を…」

 

 

 

「『セイクリッド・エクソシズム』!!」

 

突如聞こえたアクアの声、それと同時にバニルの体は光の柱に包み込まれ、体が崩れる。

と、バニルの体が崩れたことによってバニルが手に持っていた薬入りの瓶は、重力にしたがって自由落下し…

 

カシャン!と軽快な音をたてた。

 

「「ああああああああああああああ!!!」」

私とウィズの声が重なる。

 

バニルがいた床の上には、悪魔の仮面と、バラバラになったガラスの瓶、そして瓶の中身の液体が広がっていた。

その散乱した床を見てワナワナ震えている私のもとに対魔魔法を放ったアクアが心配そうに駆け寄ってきた。

「めぐみん!私がちょっと家を出ていた隙に土くれ悪魔が屋敷に侵入していたみたいだけれど、悪いことはされてない!?呪いとか受けてないわよね!?大丈夫!?」

「あああああああ…」

「あ?」

「…ああああアクアー!!どうしてくれるんですかっ!!?」

私はアクアを揺さぶりながら叫ぶと、良かれと思って悪魔を消し去った空気の読めない自称女神が狼狽する。

「ええええ!?どうしちゃったのめぐみん!?まさか悪魔に洗脳された!?ダクネスの結婚式の日にもこんなことがあった気がするけれど、何で皆、悪魔なんかの味方をするの!?」

「確かに性悪な悪魔だってことに異論ありませんが、今はどうしてもバニルの薬が必要だったんですよっ!!それが…それが…」

 

私とアクアがそんなやりとりをしている側で、ウィズはしゃがみ込んで床に撒かれた薬にワナワナと手を伸ばして呟く。

「どどど、どうしましょう…この薬が無ければカズマさんたちは惚れ薬の効果で永遠に意識が………あ?あれ?」

と、ウィズが何かに気づいた瞬間、

「あああああああ!!」

ウィズの叫び声が屋敷の居間に響いた。

 

私とアクアが突然叫びだしたウィズの方を驚いて振り返ると…その薬に触れた彼女の手が薄くなっていた。

 

…薄く?

ウィズは慌てた顔を私に向けて早口で言葉を続ける。

「め、めぐみんさん、この薬…あれです。私の手が消えかけるこの神聖さ…間違いありません。これはアクア様の浄化した水ですよ!」

「「え!?」」

私とアクアが同時にウィズの言葉に反応する。

 

「えー……と」

とりあえず整理しよう。

「つまりあれですか。そこの仮面は、アクアがいくらでも精製できる水を…ただ同然で手に入れることができる水を、その説明をせずに物凄く稀少で珍しい薬だと私に誤信させて、誤信した私に1本10憶エリスで売りつけようとした、と、こういうことでしょうか」

「「………」」

 

なぜか再生しないままそこに転がる悪魔の仮面に対して、私、アクア、ウィズの三人が同時に冷徹な視線を向けた。

 

 

 

◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆

 

【ゆんゆん視点】

 

 

…私は毎晩一人で部屋の中から人の流れを見ているだけなのに

…私は毎日一人でクエストをこなしているのに

…私は人生の全てを掛けるような何かを見つけることができないでいるのに

 

…ずるいよめぐみん。

 

その思いは、確かに私の思いだった。けれど、そう思ったのは、いつ?どこで?

全然わからない。意識がふわふわする

 

 

………

 

 

アクセルの歓楽街のど真ん中に建っている宿屋の一室を私は拠点としていた。

入室する人なんて私以外ではシーツ交換係の従業員さんか稀にめぐみんくらいしかいないその部屋に、私は、なんと男の人を招いていた。女友達もいない私が、飛び級のような随分とレベルの高いことをするものだ。などと恐ろしいほど客観的に私は私自身を評価している。

まるで、私とは無関係な何かが私の代わりに私を動かしているような、私が私じゃない感覚。

 

「…ゆんゆん」

私の目の前でカズマさんが呟く。私の名前を呼ぶその一言が私の全身を火照らせる。

何か、私の体がおかしい。確かにちょろい自覚はあるが、流石にこんなではなかったはずだ。

 

目の前のカズマさんが、私をじっと見つめている。

あぁ…恥ずかしいからあんまり見ないでください…

…嘘。私を!私だけを見てください!

 

カズマさんの瞳に光は灯っておらず、恐ろしい程の虚無。

しかし、私はそんな彼に抗えない何かを感じていた。

世界には私と彼しかいないような、彼だけいればいいような、そんな感覚が私を支配している。

 

ふたりぼっち。

 

なんて甘美な世界なのだろう。

私は甘美なその世界にずぶずぶと溺れていく。

 

「…ゆんゆん」

 

カズマさんがそう囁きながら、私の両肩に手を添えた。

人に体を触れられることなんてめぐみんと取っ組み合いをしている時くらいしかない私は、彼に優しく触れられて心臓が破裂しそうだった。

 

…駄目

 

私の親友が、あんなにもカズマさんに必死になっていることを、私は知っているはずでしょう…?

 

…駄目

 

その意志は声にならず、代わりに私はそっと目を閉じてしまう。

 

…駄目

 

このまま何もしなければ、私は大事で大事で大事な唯一無二の親友を失ってしまう。

 

…駄目

 

カズマさんの気配が私に近づいてくる。顔が熱くて仕方がない。

 

…駄目

 

駄目なのに、体が言うことを聞かない。

私ができたことは、親友のことを思い浮かべて目から涙をこぼすことだった…

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…人の男を寝取るとは、随分とビッチな紅魔族ですね」

 

…そして、私ができないことを平然とやってのけるのが私の親友だった。

 

ガッッ!!!

 

私が親友の声を聞いた直後、頬に強烈な打撃を受けて宙を舞う。

 

 

その衝撃のせいで、走馬灯のように、ここ数日間の記憶が私の頭の中に想起された。

 

 

◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆

 

 

――――――それは今から一週間前のこと。

 

「ゆんゆん、ここはチンピラが多い通りだから俺の側を離れるなよ。いくらゆんゆんが強いっていっても女の子だろ。怖いなら手を握るぞ?」

 

これは夢だ。夢に違いない。

 

「ゆんゆん、ここの払いは俺に任せなって。え?いやいや、俺にとってはゆんゆんと一緒にいた時間に、それだけ価値があったってことだよ」

 

私がこんな扱いを受けるなんて、夢以外にあり得ない。

 

「そんなにもじもじして、何だかゆんゆんは初々しくて可愛いな。あぁ、ちょっと待った…ほら、ハンカチを敷いたからこの上に座りな」

 

夢でなければ、一生分のモテ期が一気にやってきたのかもしれない。

 

「どうした?ゆんゆん、ずっと赤い顔で黙って…具合が悪いようなら宿まで送っていくぞ?」

「…ああ、あの…」

「ん?どうしたゆんゆん」

 

私は勇気を振り絞って、疑問に思ったことを目の前の男性に聞いてみる。

「あの、私がどうかした…っていうより、カズマさんがどうしたんですか…」

「ん?俺?何か変かな?俺はいつも通りしてるつもりだけど…」

「いや!絶対変ですよ!いきなり私なんかと、ででで、デ…ートしたいとか言い出して…何か裏があると思ったのですが…普通のデートじゃないですか!こんなの普通じゃない!」

「何言ってんだ、だからデートだって言ってるじゃないか。おっ、ゆんゆん、あんなところにジャイアントトードがいるぞ、ははは、可愛いなぁ」

「は…はは…」

 

私はギルドで偶然出会ったカズマさんにデートに誘われていた。

デートとか言っていたけれども、最初は相談か何かかなぁと思ってほいほいカズマさんに付いて来た。

来たのだが、何だろう。何で普通にデートっぽいことをしているのだろう。

 

「あの…デートしているのは分かったのですが、なぜ私なんですか?カズマさんの周りにはもっと可愛い子や綺麗な子がたくさんいるじゃないですか」

「何言ってるんだ。ゆんゆんだって、可愛いし、綺麗じゃないか」

「………あ、ありがとうございます…」

なぜ今日のカズマさんはこんなに積極的で大胆なんだろう…

 

「でも、私は紅魔の里でも、アクセルの街でもずっと友達もいなくて、私なんか、男の人とデートする価値なんてなくて…」

「ゆんゆん」

私が軽く自己嫌悪になりそうになったところで、カズマさんは私の肩に手を置いて私の目を見て口を開く。

「俺はゆんゆんと一緒にいたいと思ったんだよ。そんな風に自分を貶めるな」

その力強い瞳に私は言葉を失う。

 

「それに、俺がこれからずっと一緒なら、ゆんゆんが独りぼっちになることはないだろ?」

「…カズマさん」

これほど私を肯定してくれる人なんて今までいなかった。私の心は揺れに揺れる。

いいのかな、私で…いや、いいはずがない。だって…

 

「…カズマさん、パーティは?」

「あぁ、パーティの皆にも、俺とゆんゆんのことを認めてもらうよ」

「でも、めぐみんが…」

「ゆんゆん」

 

カズマさんは一拍置いてはっきりと言う。

 

「俺は、ゆんゆんがいいんだ」

 

 

私は顔が真っ赤になって、頭が真っ白になった。

 

 

 

◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆

 

 

 

アクセルの街の歓楽街にある宿屋を私は拠点としていた。この辺りは冒険者や酒場の店員さん達の喧騒で賑やかで、夜でもたくさんの人の気配を感じることができる場所だ。

カズマさんの前で頭が真っ白になった私は、逃げるように宿屋に戻ってきて、備え付けのテーブルに伏せつつ、窓の外に見える人々が行き交う通りを眺めていた。すっかり日も暮れた時間帯だが、街頭の灯りや酒場から漏れた灯りで歩いている人の姿がはっきりと見えた。

 

「…あの人は、アクセルに常駐する騎士のロンさん。ご家庭があるのにこんな時間まで飲み歩いて大丈夫なのかな?…あっちは、戦士職のジョージさん、18歳の独身男性。…その隣にいるのは、踊り子ユニットのアクセルハーツに入団を希望しているセリカさん。この子は男癖が悪いという専らの噂。ジョージさん、随分とデレデレしてるけど、後々痛い目にあわないか心配だなぁ…」

私は、ホテルの窓から見える人々を眺め、ギルドで独り食事をしながらしていた人間観察や、ギルドで独り食事をしながら隣の席で盛り上がっている会話を聞いて入手した個人情報を当てに、ぼそぼそと呟いていた。

 

「…みんな本当に楽しそうだなぁ…」

私には眩しい、とても眩しい光景だ。

 

ほんのり明るいランプで照らされたうす暗い部屋に独り。

外の喧騒からまるで隔離されたようにシンと静まり返る部屋の中。

「…私、いつまで独りぼっちなんだろ」

ポロリと言葉をこぼす。

当然、誰からの返事もない。

 

私は、目線を窓の外からテーブルの脇に移す。

「…カズマさん、何で私なんかにあんなこと言うんだろう」

 

私の目線の先には、私が初めて異性から貰った人形が鎮座していた。

 

私はその人形に手を伸ばして指で軽くいじる。

 

「…デートか」

考えたこともなかった。

訂正、考えたことはある。

私は友達と一緒に遊んだ経験が少ない分、人より本を読んでいると思う。中には恋愛小説も。

ずっと一緒にいてくれて大事にしてくれる人がいる。そんな物語に胸をときめかせながら、ドキドキしながらも、私の冷静な部分で、それは別世界のことだと、ずっとそう思い込んでいた。

 

私は、そっと、テーブルの上の人形を手に取り、引き寄せて、両腕で抱きしめた。

 

「ねぇ、カズマさん、カズマさんが私に射的で人形を取ってくれたとき、私、少しだけときめいちゃったんですよ…」

 

外の喧騒からまるで隔離されたようにシンと静まり返る部屋の中、

私は、冬将軍の人形を抱く両腕にギュッと力を込めた…

 

 

 

◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆

 

 

「買っちゃった…」

私はカバンに入れた惚れ薬の存在を思い出して声をもらす。

 

独りで服用すると経験値が入り、異性と2人で服用すると惚れ薬の効果を発揮するというウィズさんが仕入れたこの薬。やたらとタイミングよくバニルさんが私にその薬の話をしてくれて、私は随分と悩まされた。見通す悪魔は本当に私の心を的確に突いてくる。結局私は断りきれなくなって、今日、ついにウィズさんからその薬を購入してしまったのだ。

 

…やたらと値が張ったのだけれども、これでカズマさんはずっと私と一緒にいてくれるだろうか…?

 

「ゆんゆん」

「きゃああああ!違う違う!私は単純に、経験値が欲しかっただけで…!!」

「…いきなり何を訳の分からないことを言っているのですか、ゆんゆん」

「へ…?」

めぐみんが私の方を見ておかしなものを見る目を向けている。

「何だか顔を赤らめながら呆けていたようだったので声をかけたのですが、また今度はどんな変態な妄想していたのですか。キモいですよ」

「キモい!?って、私がいつも変な妄想ばっかりしているように言わないでよ!」

そんな変な妄想なんて、夜にひとりで部屋にいるときとかにちょっとしかしてない。

 

「はぁ…」

私は、そんな寂しい夜を思い浮かべてため息をつく。

「ねぇ、めぐみん、あなた夜とかいつも何をしているの?」

と、めぐみんに聞いてみた。

「なんですか、不躾に…」

と怪訝な顔を見せながらも、めぐみんは楽しそうに語り始める。

「…うーん、最近は寝る前までダクネスの愚痴を聞くことが多いですね。エリス祭りのときとか物凄い大変だったようで、彼女はその反動か、毎日お酒を飲んでずっと話してますね。私には一滴も飲ませてくれないのですが…」

 

…私は毎晩一人で部屋の中から人の流れを見ているだけなのに

 

「そういえば、先日、ゴブリン駆りのクエストで、アクアとダクネスが組んで、カズマと勝負をしたのですが、途中で初心者殺しが現れて…」

 

…私は毎日一人でクエストをこなしているのに

 

「さて、今日の爆裂スポットはこのあたりにしますか。それにしても、そろそろ私が鍛えに鍛えた爆裂魔法をカズマに採点してもらいたいものです。今なら100点オーバーを叩き出せる気がするのですが…」

 

…私は人生の全てを掛けるような何かを見つけることができないでいるのに

 

 

…ずるいよめぐみん。

 

 

めぐみんは私が欲しいもの、何でももっている。

 

 

 

―――――私の心に魔が差した。

 

 

◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆

 

 

爆裂散歩が終わった後、私はめぐみんを屋敷まで送ってきた。

そして、私はめぐみんの屋敷で、男の人に好きと言わせた方が勝ちという勝負を挑む。

 

めぐみんは、カズマさんといい感じとか言っているけれども、私には惚れ薬がある。

 

そう、私には惚れ薬が…

 

………

 

私は自分の分のお茶を眺める。

 

 

惚れ薬か……

 

私は、目の前で隣同士で座っていたカズマさんとめぐみんに目を向けた。

会話の内容などに気にせず、ふたりの作る雰囲気だけを感じるように。

 

「確かに気になりますね」

「そうかそうか、やっぱり気になるっておいやめろ!!ボタンを押そうとするな!後で見せるから1回落ち着け!」

「どうしてですか!そこにボタンがあるなら押すしかないでしょう!それとも何ですか!?私には押させないって言うのですか!」

「いや、そうじゃないから本当に1回落ち着け!これはな。さっきウィズの店で買ったんだが…。なんと、ウィズの店にしては珍しい事にデメリットが無いんだと」

「本当ですか!?そんな物があの店に売っているなんて…!」

「……自分で言っておいてなんだが、ちょっと驚き過ぎじゃないか…?ウィズが可哀想というか…」

 

…あぁ、本当にカズマさんといい感じなんだ。

 

2人が作り出す雰囲気はまるで長年連れ添ったパートナーのようで…

めぐみんがカズマさんに向けるその表情は、いつもムスッとしていた昔のめぐみんとは全然違ってて…

まるで爆裂魔法を語るときの、輝く彼女の表情だ。

 

…そういえば、カズマさんが使っているコップ、なんとなくめぐみんが選びそうな柄だ。きっと、めぐみんが選んで買ってきたんだろうなぁ。

 

「…ゆんゆんは何で俺のコップを見つめているんだ?と言うか、その手に持ってる薬みたいなのはなんだ?」

私は突然、カズマさんから惚れ薬に話を向けられて戸惑いしどろもどろになってしまう。

「こ、これはその…。そ、そう!これは魔法薬です!さっきウィズさんのお店で買ったんです!」

「……なあ、ゆんゆん。それはウィズの店で買ったんだよな?」

「…はい」

「もしかしてそれ、経験値の入る薬じゃないか?確か飲み物に入れると味が劇的に変わる変わりに経験値が入るっていう」

「えっと、違う意味での経験値が入る薬というか…」

「やっぱりか。なあゆんゆん、それひとつ貰ってもいいか?」

「え?……ま、まあ、構いませんけど」

そう言って私は手にしていた薬をカズマさんに手渡した。あぁ…これ、ひとつしかないやつで、かなり高かったんだけどなぁ。

カズマさんは、それを自分のお茶に混ぜる。私から渡した薬ではあるけれど、なんの気兼ねも無く薬を入れるカズマさんに多少びっくりはしたが、1人で飲むのであればただ経験値が入る薬。なんの問題も無いだろう。

 

私は、カズマさんがその薬を混ぜたお茶を一口飲む姿を見て思う。

 

そうだ、惚れ薬なんて持っていたから私は変な気を起こしてしまったんだ。

無くなってくれて逆によかったじゃないか。

これで気兼ねなくめぐみんの恋を応援できる。

めぐみん…頑張れ!

 

「……では、ここはカズマがボタンを押してください。私は成功したかを確認します」

めぐみんのその言葉を聞いて、私はハッと思考の海から戻る。何か目の前で謎のボタンが押されるところに立ち会っていた。

「ちょ、ちょっと待ってくださいカズマさん!そのボタンはなんなんですか?一体何が起こるんですか!?」

「ゆんゆん、少し黙っていてください。さあ、カズマ。押してください!」

私の疑問を無視して、めぐみんとカズマさんのやり取りは進んでいく。

「おう!いくぞー!よろしくお願いしまあああああああすっ!」

 

謎の掛け声とともにボタンが押されるのを見て私はアワアワとしかできなかった。

と、なぜか鼻血を流すカズマさんが慌てるようにめぐみんに声を掛けた。

「…ど、どうだめぐみん?」

「成功です!カズマ、成功しましたよ!!」

「おおー!やったぞ!使える回数は1回減ったが、これはいい買い物をしたな!」

 

私を置いてけぼりにして、目の前でめぐみんとカズマさんがハイタッチして喜んでいるのを、私はきょとんと眺める。

「あ、あのぉ…」

 

「よし、これは使えるみたいだし、早速アクアの部屋の前で使ってくるとするよ。それじゃあめぐみん。めぐみんは大好きなゆんゆんと2人で楽しんでくれ」

と、そんな言葉を残してカズマさんは屋敷の2階へと駆けていく。急に大好きだとか言われた人間関係に未熟な私は赤面して。

「め、めぐみんが、私の事を大好きだなんて…!」

「ゆんゆん!その事は忘れてください!カズマは毎回余計な事を言いますから間に受けてはいけませんよ!それに私の大好きな人はカズマですから!」

 

…ま、まぁ、そうだよね…

なぜか振られた気持ちになった私は少しテンションを下げながら、目の前のお茶に手を伸ばす。

 

いや、私は決心したんだ。めぐみんのカズマさんへの想いを応援するんだって。

 

出されたお茶を手に取り一口すする。

 

そして…ぼーっと考えはじめた。

 

 

 

 

…本当に、本当に、私はめぐみんのために、カズマさんのことを諦めるの??

 

カズマさんがいるであろう方を向いて、私は、そう考え始めてしまった。

 

 

………走馬灯は覚めていく

 

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