ここにいてはいけない   作:コズミック変質者

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ルガーランスを正しく扱う本作の主人公。


01

愉悦。

 

それは楽しみ喜ぶこと。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

人類軍に所属してから8年もの時間が経った。Dアイランド———通称竜宮島で造られた自分にとっては、造られた理由を全うするという、ある種当たり前の人生を歩んでいた。

 

適応年齢に至った者達から志願者を集い、急拵えの育成を施して残りは状況に適応して学べと放り出される、言い方は悪いが使い捨ての一般兵士達とは違い、フェストゥムと戦うのではなくフェストゥムを滅ぼすための英才教育を、現在の人類が行えるレベルで最高峰を施された。

 

上層部の殆どからは納得は出来ても不満があったようだが、将来的に決戦兵器としての面を強く押し出したことによって受け入れさせた。決戦兵器としての扱いに不満はない。特殊な生い立ちとそれによって付随した能力を鑑みれば、そのような扱いに落ち着くのは至極当然のこと。

 

竜宮島で自身含めた同世代の子供達には、ファフナーへの高い適性を得る、読心などを防ぐ為にフェストゥムの因子を胎児の段階から与えられている。その副作用ともいうべきか、精神に欠点ができるサヴァン症候群ではなく、天才症候群(サヴァン・シンプトム)が現れる。

 

無論、この身にもソレは色濃く発現した。叩き出した結果より導き出される解が多かったため絞り込むのに時間はかかった。いや、絞り込むことは出来なかったから総称だろう。

『戦闘能力』これがオレに発現した天才症候群。

 

導き出したのはミツヒロが。天才症候群のことをオレに教えたのは5年前に息子と共に島から出て人類軍に来た日野洋治が。

 

この能力を十全に発揮させるためにへスターは躍起になってくれた。戦場で下手に死なないように、無茶を通して大佐という地位まで与えた。正直これはありがたいことこの上ない。

だが階級のせいで他の連中から見下されたり絡まれるのが多くなるのだけは、どうにかしたかったものだ。律儀に年功序列を守っている組織ではないが、流石に大人連中に通すには無理があった。

人類軍も一枚岩ではない。フェストゥムという眼前の驚異を前に何を、と思うが上層部は自分が死ぬ事を微塵も考えていない。彼らは互いを、特に軍を事実上支配しているへスターを蹴落とそうと躍起になっている。

そのために飼い犬の手駒と見られているオレをまず殺そうとするのは勘弁したいものだ。

 

今のオレの基本的な任務は時折やってくるフェストゥムの撃破と、本部とモルドヴァ基地を二ヶ月ごとに移動すること。

日野洋治とミツヒロがへスターの元で同時開発している新型の決戦仕様のファフナーの試験パイロットとして開発に協力している。どちらかの機体が完成すれば、誰よりも早く搭乗することが既に確定している、新しい機体らというのは少しだけ心が踊っている。

 

モルドヴァ基地では日野洋治が、本部ではミツヒロがそれぞれ開発している。場所を分けているのは万が一どちらかが消えた時、その研究をどちらかが継続できるようにと。

日野洋治はともかく、ミツヒロは日野洋治の研究を継がないだろう。いや、正確にはその設計思想を変更してしまうだろう。

 

彼らはあまりにも互いの思想が違いすぎる。

フェストゥムに憎しみを持って一体でも多くの敵を倒す機体を作るミツヒロと、フェストゥムに理解を持って一人でも多くを救う機体を作る日野洋治では、その思想から行く先は容易く想像できる。

彼らの最大の支援者であるへスターからすれば、戦力になるのであればどちらでもいいらしい。

 

オレも同じく、どちらが完成しても構わない。どちらに乗ってもやれることは、敵を殺すことだけだから。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

文献などによく記される地獄。仏教であれば悪を為して死した魂が死後裁判を受ける場所とされることが多い。

他者に地獄の印象を聞けば、灼熱の炎の世界を浮べるものも多いだろう。炎は元来より生物の本能へ刻まれた恐怖の象徴。

 

ならば眼前に蔓延る幾多もの光景も、地獄といえるのだろう。

 

ファフナーの視界により鮮明に映し出される瓦礫と炎。建物は虫食いにあったかのように球体型に抉れている。地面には量産型ファフナーの残骸が多数。人の気配はまるでなく、このままでは数日でゴーストタウンになるだろう。

 

「手遅れだったか」

 

生体反応は一切無い。この場所は死んだ。奴らの前では地下シェルターなど意味は無い。そこに存在しているのなら、存在を嗅ぎつけてやってくる。こんな有様では安全な場所などどこにもない。

 

「『ベーオウルフ』より各機へ通達。四機編隊で散開して周辺区域を捜索。生き残りがいれば指定のポイントに、フェストゥムを発見したら分散してオレのいるポイントに連れて来い」

 

『で、俺達はどうすればいい』

 

「好きにしろ」

 

『了解であります大佐殿』

 

量産型の灰色ではなくエース用に塗装された蒼のメガセリオンと赤のベイバロンに告げる。メガセリオンには日野洋治の息子である日野道夫が。ベイバロンには日野道夫が拾ってきたカノン・メイフィスが搭乗している。両者共に優秀なパイロットであり、スフィンクス型単体ならば余裕で始末できるほどの腕がある。

他の、隊の末端の兵士達も他と比べればそれなりの実力がある。四機でフェストゥムに当たればまず死ぬことはないだろう。

 

跳び行くメガセリオンとベイバロンを最後まで見ることなく、一息つく。ファフナーと接続している間はオレ(・・)にとっては我慢の時間だ。常に自分をオレという形に保たなければならない。

 

「あぁ・・・本当に醜悪だな・・・」

 

ファフナーの足元にある瓦礫。意識が少しでも向いたことで拡大された視覚には瓦礫に大量に付着した乾いた血液。そして瓦礫の下にある人間の足。人が嘆き悲しむ忌むべき光景を前にして、心は怒りに震えるでも、悲しみに嘆くでも、自らの無力さに憤慨するのでもなく、そこに甘美を感じてしまう。

本当に死ぬべきは自分であるはずなのに。こんな醜悪を秘める男が人類の希望とは。我がことながら失笑物だ。

 

「出たか」

 

アラート。そして滅んだ街に響く銃撃音。隠れていたのか、それとも新しく来たのか。どちらにしてもフェストゥムが来て、どこかのチームが接敵した。意識が切り替わる。普段の自分ではなく、シナジェティックコードの形成に伴って浮かび上がるもう一つの自分に。人が生み出した悪魔に。

 

『オメガチームより全機!ポイントL6で接敵!!数はスフィンクス型7!!』

 

「『ベーオウルフ』より各機へ。これより戦術プランFに移行。ポイントSで待ち伏せし集中砲火。ベイバロン、メガセリオンもだ」

 

『了解!』

 

スラスターをブーストさせ、指定したポイントに急ぐ。今回提示した戦術プランFは、5体以上の敵がいる時によく使われる戦術で、一つのチームが敵を指定のポイントに引き寄せている時に、ポイントの途中でいくつかをオレが引き寄せて、残った敵を集中砲火で倒していくというシンプルな作戦。

オレが提示する戦術は、常識的に見ればあり得ない物が多い。状況によっては10以上の敵と一人で戦うのだ。いくら腕が良くとも、それは自殺行為に他ならない。

そう自殺だ。オレは、消えたいのだ。

 

「見えた」

 

不気味に輝く汚れた黄金の巨体。人類の敵として、天より遣わされた破滅の化身。

 

《あなたは、そこにいますか?》

 

意味があるのか無いのか、分からない問いをかけられる。いつも思うが、この問いに本当に意味はあるのだろうか。いるかいないかを肯定すれば同化され、否定すれば殺される。結局は消えるかの殺されるかの二つに一つ。問いに答えて消えるなら、それでいいはずなのに。消えることが望みなら何も抵抗せずにしていればいいのに。

消えたくないと思っているわけではない。なのに抵抗する。なんて矛盾だ。

 

「いるかいないか、決めるのはオレじゃない」

 

独り言のように呟く。誰にも聞こえないはずのこの声は、他所の思考を読み取るフェストゥムには聞こえているのだろう。肯定でも否定でもない答えに、少しだけ戸惑っているか、動きが鈍る。思考が郵趣過ぎて、考えすぎるからこそ二択以外の答えへの反応が鈍る。そしてその鈍りは、致命的だ。

機械で出来た脚をバネのように引き絞って、宙に浮かぶ敵目掛けて跳びあがる。そのままスラスターを全力で解放。人の身には過ぎるGが身体にかかる。

 

「死ね」

 

人型の上半身、その胸部にある核を突撃槍であり内部に展開式レールガンを内蔵したルガ-ランスを突き刺し、引き金を引く。確実に核を打ち砕いた感触。最後の足掻きとしてワームスフィアで自らの身体を飲み込むのに巻き込まれる前に、高速で飛び退く。

 

「残り4。妥当なところか」

 

飛び退いた先には4体の敵が立ち塞がっていた。ご丁寧なことに、先ほどまで宙にいたのに今は地面に降りている。いちいち飛ぶよりは地面を走って戦う方が圧倒的に戦いやすい。それでも数には差があり、未だ危機には変わりは無い。普通なら諦めているはずだ。だがオレは普通ではない。

 

「あぁ・・・」

 

気分が変わる。押さえ込んでいた自分自身が解放される。内部に秘められた願いが標的を目掛けて加速する。そうだ。オレは、

 

「お前を殺したい壊したい。無惨に屍を晒せ。その命の嘆きを、叫びを聞かせろ」

 

ソレがオレの愉悦。他者の醜悪を願い、苦悩を味わい破滅を嗤う。これでもまだ優しい方だ。この醜悪な願いは、既に言葉で表せる領域を超えている。もっと簡単に言うのなら、あらゆる悪が願いである。

 

「凡そ、人にあらず・・・か!」

 

危機察知、第六感。四方八方に弾幕のように展開されるワームスフィアを右に左に上に動き回って躱していく。機械の如く合理的な、お手本のような弾幕だからこそ、その軌道は読みやすい。

何故かは分からないがワームスフィアを作り出すとき、コイツらは行動を止める。強力な攻撃故の代償とでもいうべきか。確かに攻撃性能はいいが当たらなければどうということはなく、止まるなんて以ての外だ。

 

「逸れたか。だが———」

 

難なく接近し胸部の核を狙うが、ルガーランスは頭部に突き刺さる。胸の核でなければ完璧な殲滅はできない。だが刺してしまえば問題は無い。捻るようにルガーランスを捻り、頭をぐちゃぐちゃに壊しながら胸にルガーランスを向け、展開してレールガンを撃ち込んでコアを破壊する。

 

ワームスフィアで自滅する刹那、ルガーランスを放棄して離脱する。武器の一つを失ったが、機体に積まれているルガーランスは一つではない。本来であれば両手に一つずつ、背部ユニットに背負うように二本。そして機体の各所に備え付けられている、即興の組み立て式が一つ。

今回は手持ちだったルガーランスが一つだったため背部ユニットのジョイントを外して武装とする。今度は一つではなく二刀流で。

 

「滅べ」

 

度々、ルガーランスを刺してレールガンを撃つ必要なんてない。重要なのはコアを確実に破壊すること。上記の方法は最も確実に排除できるからでしかない。

変性意識の変化で攻勢意識が更に強く出る。残った獣始末せんと、思考によって機体は既に動き出している。

 

「くは・・・」

 

走り、滑り、跳び、飛び込み、斬り、蹴り、殴り、避け、接近し、斬り斬り斬り斬り斬り斬り斬り斬り斬り。

己の身の安全など完全に捨て去り、ただ殺すために特化した戦闘能力。ルガーランスを槍としてではなく剣、鈍器のように振るい殴打していく。

 

「くははは———」

 

左のルガーランスを投げて、片手間のように一体のコアを破壊する。足りない、もっともっともっとだ!!

 

「ふは」

 

叩かれつづたフェストゥムの胸部に、ルガーランスではなく手刀を突き刺す。そしてかき混ぜるように手を動かし、コアを見つけて握り、押し潰す。敵を殺す。命を奪う。その感触を得る度に、顔は綻び気分が更に高揚する。

 

「もっと、もっとだ!!」

 

最後の一体を地面に叩き落とし、乗りかかって二本のルガーランスを無茶苦茶に振るい叩く。それは倒すためではなく嬲る為のもの。斬るでも刺すでも撃つのでもなく、殴って殴って殴る。目の前の命が揺らぎ、弱り消えていくのを愉しむ。

 

「愉しいなぁ!愉しいよなぁ!!」

 

触れる命が掠れていく。未だ存在するオレのとは対象的に、一撃ごとに削られていく。

助けでも求めているのか、それとも淡い抵抗か。両碗部をこちらへ向かって伸ばしてくるが、伸ばされたその腕を斬り飛ばしてそのままルガーランスを胴に差し込み地面に固定する。これでもう、逃げられまい。

 

右手を貫手の形にし、思い切り突き刺す。

 

「あぁ・・・すばらしぃ・・・」

 

中身をグチャグチャに抉り壊しながら手を動かし、コアを見つけて掴む。コアを掴まれたのを理解したのか、より一層凶暴になるがもう遅い。ワームスフィアが展開するよりも速く、抜き取る。

そして抜き取ったコアを握り潰す。命が儚く消える何とも言えないこの感覚を堪能しながら自爆に巻き込まれないように脱出する。

 

「はぁ・・・ルガーランス二本か」

 

ワームスフィアに飲み込まれた武装を惜しいとは思わないが、残りの武器は予備のプラズマナイフしかない。撤退して補給しなければこれではまともに戦えまい。

 

「本当に、醜悪だな・・・」

 

抉れた大地を見下ろしながら、今日もオレはファフナーの中で自己嫌悪に浸る。




苦しみ喘ぐ他者の苦悩、己の手で命を砕くことを愉悦とする狂人。



Beyondの総士君はテクニカルが抜けていましたね。
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