異端の鬼狩   作:カチカチチーズ

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異端と三人

 

 

 

 

「そう、ですね……今のところ目立った変化はないようです」

 

「そ、そうですか」

 

 

 診察室で椅子に座りながら壁に寄りかかっていた山村一心は片目を瞑りながらこの後をどうするか考えていた。

 このまま不死川玄弥の修行を行いながら悲鳴嶼行冥と合流し、しばらく三人で鬼を狩るという選択肢と悲鳴嶼行冥に不死川玄弥を受け渡してから一人で行動するという選択肢。

 この二つの内、どちらを取るか。思考しながら、ふと不死川玄弥らの方へ視線を向けて────

 

 

「聞いてませんね」

 

「……………………すまん」

 

 

 顔のすぐ近くに胡蝶しのぶの顔があった。

 笑みを浮かべているがしかし、それなりの付き合いである山村一心にはその笑顔に一切の笑顔らしさはなく、あるのは怒りであるということを。いや、視界の端にいる不死川玄弥が引き攣った顔をしていれば彼女が怒っているのが誰が見ても明らかだと言うのは間違いないだろう。

 故に数瞬空けてから山村一心は大人しく彼女に謝った。その胸中に湧いた感情を隠しながら。

 

 

「まったく。人の話を聞いていないと冨岡さんみたいに嫌われますよ?」

 

「水柱と同列に扱うのはやめろ」

 

 

 山村一心は頭の中で冨岡義勇を一瞬幻視したがそんなものはどうでもいいと切り捨てながら、椅子に座り直す胡蝶しのぶを姿勢を正しながら改めて見る。

 本来ならば大人しく椅子から降りて正座をする所であるが、この場でやれば巫山戯ているのか?と言われかねない為に姿勢を正すに留めておく。

 

 

「冨岡さんは置いておいて、私があなたに言いたいのはまず一言もなしに任務に出たことですね」

 

「……いや、確かに何も言わなかったが」

 

「普通は一言ぐらい何か言うか、置き手紙の一つでも残すものじゃないですか?」

 

 

 思わず口を噤む山村一心に、不死川玄弥は顔には出さないようにしながら驚愕を強めていた。

 悲鳴嶼行冥から教えられていた山村一心という人となりとここに来るまでに接していた自分が感じた山村一心の雰囲気、それらがいま目の前で『蟲柱』に詰問されている山村一心とはなんともズレている為に、そして同時に一度も見なかった山村一心の人間らしさがこうして見れた事に安堵していた。

 そんな不死川玄弥の心境を知ってか知らずか、胡蝶しのぶは一度山村一心から視線を外してそちらを見る。

 

 

「不死川くん」

 

「はっ、はいっ!?」

 

 

 まさか、自分の方に声がかかるとは思わなかったのだろう不死川玄弥はその肩を大きく跳ねさせながら反応し、そんな様を見て僅かに胡蝶しのぶは笑った。

 

 

「悲鳴嶼さんは既に御屋敷に戻っているそうなので、不死川くんも今日のところは悲鳴嶼さんの所に戻って大丈夫ですよ。検査の結果は後日、鴉に持たせますので」

 

「わ、分かりました」

 

 

 暗に邪魔だ、と言われている気がしなくもないが引き留めようとするそんな意を込めた山村一心の視線が突き刺さるが、巻き込まれるのはごめんだ、と不死川玄弥は振り切りそのまま部屋をあとにする。

 

 

「そ、それじゃあ失礼します」

 

「はい、お大事にしてくださいね」

 

 

 閉じられた扉に山村一心はなんとも言えぬ表情を向けつつも、息を吐いて胡蝶しのぶへと向き直る。

 彼女の表情は先程までの怖い微笑みではなく、今までとは打って変わったどこかしかめっ面のような表情だった。それを見て、山村一心は目を閉じながら息をつく。

 そんな山村一心に胡蝶しのぶは人の顔を見て何を息をついてるのか、と言わんばかりに睨みつける。

 

 

「人の顔見ていきなりなんですか」

 

「いや、笑ってるよりそっちのがお前らしくてな」

 

 

 そう、手をヒラヒラとしながら言う山村一心に胡蝶しのぶはため息をつく。

 だが、それでも文句を言うということは無い。彼女とて自覚しているのだ、どちらかと言えば普段の自分よりも今の方が自分らしいというのを。

 だが、代わりにジト目を彼に向ける。それを受けて山村一心は肩を竦め懐から取り出した水筒で水を飲む。

 

 

「それで、俺を残させてどうするつもりだ」

 

 

 意識を切り替え、山村一心は鋭い視線を胡蝶しのぶに向ける。

 勝手に出ていったことに対して文句や説教をするのならばわざわざ不死川玄弥を帰らせる必要などない筈だ。

 ならば、彼女から彼へ何らかの事があるのは明白であろう。故に山村一心は真意を促す。そんな彼に彼女は再びため息をつき、話し始める。

 

 

「あなたという人は…………まあ、いいです。実はですね、炭治郎くんたちを煉獄さんの任務の手伝いに向かわせるつもりなんですが、流石に彼らだけでは不安なのであなたにも行ってきて貰いたいんです。いわゆる引率ですね」

 

 

 人差し指を立てながらそういう彼女に山村一心は再び水筒に口をつける。

 その表情が如何なものであるのかは、彼を知る人間ならば容易く予想する事が出来たのは間違いないだろう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 病人服から隊服に装いを整えた三人の少年たち。

 緑と黒の市松模様の羽織を着、花札の様な耳飾りをつけた竈門炭治郎。上半身裸で頭に猪の頭を被っているという何とも奇怪な格好の少年、嘴平伊之助。黄色い布地に三角模様の羽織を着た金髪の我妻善逸。

 彼らがなほたち三人娘としばしの別れを交わす、そんな彼らの姿をやや離れた場所で面倒臭いのか、それとも別の感情でも抱いているのか憮然とした表情をしている一人の青年。

 普段通り、顔を隠すように黒頭巾を被り珍しく鶯色の羽織と首巻きをしてその背に爆発金槌を入れた包みを背負っている山村一心。彼の内心としては何とも複雑であろう。

 三人の内一人はそもそも初対面であり、猪頭は死にかけのところを助けたが暴れる為に縄で木に吊った。そして、何よりも最後の一人、いや一人と一体。

 竈門炭治郎とその妹の竈門禰豆子は彼本人の中では一応、その殺意はなりを潜めているがしかしだからといって敵意が消えるわけではない。

 故に山村一心はどうするかを考えながら、包みの先に止まった桔梗から任務先の詳細を聞いていた。

 

 

「無限列車か…………列車は何度か乗った事はあるが……ふむ」

 

「言いたいことは理解出来る。列車という閉鎖空間で人が消えるなど騒ぎにならない筈がない。ましてや既に隊士含め四十人余りが消えている。胡蝶妹が言わずとも何れ『炎柱』の増援として駆り出されていただろう事は間違いない」

 

 

 無限列車。

 既に四十人以上が行方不明となっている列車であり、桔梗によれば数名の隊士が解決に送り込まれていたが全員その消息を絶っているらしく、故に『炎柱』が事態解決の任を受け先んじて無限列車に向かった。

 聞けば前回の柱合会議後には向かったようであるが…………

 

 

「未だ解決していない。どころか接敵すらしていないとは……十二鬼月かそれに準ずる鬼か」

 

「ともなれば血鬼術に優れているのだろう。複数体の可能性はまず無いと思っていい」

 

「だろうな」

 

 

 そう、任務について考察していると挨拶が終わったのか三人組が山村一心の方へとやってくる。

 特に嘴平伊之助は山村一心を視界に入れた途端、肩をいからせその被った猪頭の鼻から鼻息でも出ているかのような雰囲気で他の二人を置いてズカズカと山村一心の前に立つ。

 

 

「おい!黒頭巾野郎!!今度こそ俺と戦え!!!」

 

「断る。時間の無駄だ」

 

「アァん!?何が無駄だ、ゴラァ!?」

 

 

 明らかに面倒臭いという表情をしつつも、首巻きと頭巾でその表情はほとんど伺う事は出来ない。だが、匂いで相手の感情がわかる竈門炭治郎と音で同じくそれが察せられる我妻善逸は今すぐにでも飛びかかりそうな嘴平伊之助を抑え始める。

 

 

「落ち着けって!?いま蝶屋敷出たばっかなのにまた蝶屋敷に戻るつもりかよ!?」

 

「そうだぞ伊之助!それに俺たちは今から任務に行くんだぞ!」

 

「うるせぇ!!離せ!!俺は此奴と戦うんだよ!」

 

 

 そんな騒ぐ彼らに息を吐きながら、山村一心は背を向けてスタスタと歩き始める。背後から変わらず喧しい嘴平伊之助に対して、ため息をつきつつ口を開く。

 

 

「そんなに戦いたいなら、任務が終わったらやってやる。それでいいだろう」

 

 

 そう言い放ち、山村一心はここから先の事にまたため息をついた。

 

 

 

 





 プロットを一部かえ、無限列車編を始めることになりました
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