異端の鬼狩   作:カチカチチーズ

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狩人と夢現

 

 

 

 

 

 

「炭治郎……その煉獄さんって人の顔とかちゃんと分かるのか?」

 

「うん。派手な髪の人だったし、それに匂いも覚えているから」

 

「そうなのか……」

 

 

 列車の中に入って騒ぐ伊之助を無言の圧力で黙らせにかかる一心をよそに、善逸と炭治郎は今回の任務で合流する予定の人物でありそして炭治郎が話を聞こうとしている男である煉獄について話しながら、列車を進んでいく。

 しばらく車両を進んでいくと、唐突に車両の前方から声が響いてきた。

 

 

「うまい!」

 

「!?」

 

「うまい!うまい!うまい!」

 

 

 その大きな声に炭治郎と善逸が驚き、視線をそちらへと向ければそこには炭治郎の記憶に残っている特徴的な派手な色合いの後頭部があり、伊之助から視線をずらした一心はそれが誰なのかを悟り、そのままそちらへと歩いていく。

 炭治郎と善逸は一心の後に続き、伊之助はしばらくその場にとどまってから一心らの後を追いかけていく。

 

 

「うまい!うまい!うまい!」

 

 

 より近くへ行けばその声の主が自分らの目的の人物であると察し、覗いてみれば既に九は重なっている弁当であったろう空箱と現在進行形で弁当を食べている『炎柱』煉獄杏寿郎その人であった。

 

 

 

 

 

「うむ!そういうことか!」

 

 

 伊之助と善逸が隣り合い、通路を挟んで煉獄の隣に炭治郎が座り、そして煉獄らの後ろの席に一人一心が座ることで話は始まった。

 というのも、任務に参加する名目で炭治郎は煉獄に聞かねばならないことがあった。それは炭治郎の家に伝わっていたという神楽の話。

 炭治郎の話を聴き終わった煉獄はいつも通り大きな納得の声を上げながら、頷いて

 

 

「だが知らん!『ヒノカミ神楽』という言葉も初耳だ!君の父がやっていた神楽が戦いに応用出来たのは実にめでたいがこの話はこれでお終いだな!!」

 

 

 炭治郎の願いはバッサリと切り捨てられた。

 あまりにも堂々と知らないと言う煉獄に炭治郎はしばし唖然とし、後ろの席でそれを聴いていた一心はだろうな、とため息をつく。

 そんなため息が聞こえ、再起動したのだろう炭治郎は慌てた様子で何か少しでもないか、と口を開くがしかし───

 

 

「俺の継子になるといい。面倒を見てやろう!」

 

 

 それもすぐに、別の話題によって容易く遮られてしまう。

 

 

「待ってください。そしてどこ見てるんですか!?」

 

「炎の呼吸は歴史が古い!」

 

 

 相も変わらず、なんのそのと始まる煉獄に一心は呆れながら水筒に口をつけ、その視線を列車の窓へと移す。

 

 

「炎と水の剣士はどの時代でも必ず柱に入っていた。炎・水・風・岩・雷が基本の呼吸だ。他の呼吸はそれらから枝分かれしてできたもので霞は風から派生している!!山村!!お前の呼吸はどれからだったか!」

 

 

 呼吸の話が始まってしまった以上、何れ自分に飛び火するかもしれないと予想してはいたがしかし予想よりも早くに飛び込んできた火の粉に一心は心底面倒臭そうにため息をつきながらも応える。

 

 

「霞と同じく風の派生だ。といっても大元が風なだけで他の呼吸のモノも混じっている」

 

「そうか!む?ならば溝口少年の言う神楽はどちらかと言うとお前の方が知っているのではないか?色々な呼吸を研究していたろう!」

 

「知らん。見てもない以上、その神楽とやらがどれの派生なのかも分からんだろうが…………」

 

 

 変なところを憶えている煉獄に呆れながら、水を飲みぶっきらぼうに一心は答える。それに煉獄は満足したのか、何度か頷いて再び口を開く。

 

 

「溝口少年!君の刀は何色だ!」

 

「いや、俺は竈門ですよ!?色は黒です!」

 

 

 先程から地味に炭治郎の苗字を間違えていたことに炭治郎はツッコミながら質問にしっかりと答える。それを聞き、煉獄は笑い出す。

 豪気なそれは嘲笑うモノではないのは理解出来るがいきなり笑い出すのはなんとも言えぬだろう。

 

 

「黒刀か!それはきついな!」

 

「きついんですかね」

 

「黒刀の剣士が柱になったのを見たことがない!さらにはどの系統を極めればいいのかもわからないと聞く!」

 

 

 そんな風に真実のみを語る煉獄に炭治郎は言葉も出ず、ただただ話を聞くばかりであるがしかし、煉獄の配慮と言うべきか親切心と言うべきか、とにもかくにも継子として鍛えてあげようという気持ちに関しては真摯に受け止め、良い人なのだ、と炭治郎は思っていた。

 

 

「俺の所で鍛えてあげよう!もう安心だ!」

 

 

 そんな炭治郎と煉獄をよそに、動き始め加速していく列車に興奮しているのだろう、伊之助が窓を開けてその身体を大きく乗り出して騒ぎ始めた。

 

 

「うおぉぉお!!すげぇすげぇ速ぇええ!!」

 

「危ない!ばかこの!?」

 

「俺外に出て走るから!!どっちが速いか競走する!!」

 

「馬鹿にも程があるだろ!!」

 

 

 流石に乗り出し過ぎということもあり、伊之助を善逸が引っ張りながらもその頭を殴りつける姿に一心は我関せずと言わんばかりに彼らとは逆方向の窓を見ながら水を口にする。

 煉獄はそんな彼らを見ながら軽く笑いながらも注意する。

 

 

「危険だぞ!いつ鬼が出てくるかわからないんだ!」

 

「え?」

 

 

 その注意は、注意と言うにはあまりにも重要事項ではあるがそこは気にしてはいけないのだろう。だが、まるで初耳かのように善逸はその顔を蒼褪めさせながら、煉獄へと振り返る。

 伊之助も先まで騒いでいたのはなんだったのか、と言わんばかりに口を止め煉獄を見る。

 

 

「嘘でしょ!?鬼出るんですかこの汽車!!」

 

「出る!」

 

「出んのかい!!嫌ァ────ッ!!鬼の所に移動してるんじゃなくここに出るの!?嫌ァ────ッ!!俺降りる!」

 

 

 先程の伊之助以上に周りを考えずに騒ぎ始める善逸に一心は目を細めるがしかし、ふと首を傾げた。

 

 

「…………(そう言えば言ってなかったか……いや、黙っておこう)」

 

 

 任務について詳しく言っていなかったことについて一心は反省しつつもそれに関しては黙りを決め込むことにして、杖を弄り始める。

 そんな一心の内心は置いておき、煉獄が淡々と今回の任務について話し始めた。

 

 

「短期間のうちにこの汽車で四十人以上の人が行方不明となっている!数名の剣士を送り込んだが全員消息を絶った!だから柱である俺が来た!」

 

「はァ───ッなるほどね!!降ります!!」

 

 

 なんで自分らみたいな剣士もこの任務に参加しているのか、と言わんばかりの絶叫をあげる中、別車両から車掌らしき人間がやって来たのを見て、煉獄と一心は切符を手渡していく。

 

 

「拝見しました……」

 

 

 車掌が切符を確認し、切り込みを入れた。

 瞬間、世界は暗転した──────

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

//////////////////////

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 気がつけば、そこはどこぞの家屋だった。

 家の一室で俺は壁に寄りかかったまま、本を読んでいたようだがしかし……なんだったろうか。頭が痛む、状況からしてどうやら本を読んでいる間に眠ってしまったらしい。寝ていた時に変な寝かたをしたのかどうかは知らないが、そんなものは心底どうでもいい。

 読みかけだった本をとじて近くの机の上へと放り、俺は立ち上がる。壁にかけられている時計を見れば、既に昼を過ぎた頃合いでそこまで寝てはいなかったようだがさて、何を言われるか分からん。

 

 

「しのぶは口喧しいからな」

 

 

 座って寝ていたせいか、緩まり着崩れた襟元を直す。

 

 

「詰襟なら、すぐ直せるんだがな……どうして今日に限ってこれなのか…………ん?」

 

 

 詰襟?何を言っている。

 俺は詰襟なんぞ着た事がある憶えはどこにもない筈だ。なのに、どうしてコレよりも詰襟の方がいいと思えるのか?自分の事ながら理解出来んがまあ、夢でも見たかしたのだろう。

 さて、午後はどうするか……今日は特段何か用事があるわけじゃないからな。仕事も休みを貰った、はてさて、やることが何も無い。

 

 

「まあ、たまにはこういう日があってもいいか。それに探せばやることはあるだろう」

 

 

 行き当たりばったりとしのぶには言われるかもしれないがしかし、こういうのは臨機応変というのだ。まあ、しっかりしているしのぶからすればあまりよく思われないかもしれないから仕方ないが……。

 廊下を歩いていく、とふと俺は足を止めた。

 何か違和感を感じる。

 

 

「……こんなに静かだったか?」

 

 

 俺の記憶にある家と違って妙に静かだ。確かに騒がしい家ではなかったがそれなりに人気があり、ここまでの静けさでは決してなかったはずだ。

 アオイやなほ、きよ、すみの四人やカナヲがいるはずなのだから少なくともある程度の話し声は聞こえるはずだが──────あ?

 

 

「誰だ……?……そんなに濃い夢でも見たか、俺は」

 

 

 目を瞑って記憶を漁ってみても特にこれと言って、どんな夢を見ていたのかは思い出せない。どうせろくな夢ではないのだろうが何ともモヤモヤとした霞がかったモノを感じて苛立つ。

 だがまあ、それも一時的なモノでしかなく気にする必要も無いと頭の片隅に追いやって俺は廊下を歩き始める。

 しばらく歩いていけば人気のある部屋に辿り着き、襖を開ければそこには彼女がいた。

 

 

「─────あら、どうしたの?一心くん」

 

「いや、少し手隙でね。何か手伝える事はないか?カナエ─────」

 

 

 布を縫っている彼女に俺はぎこちなくも笑みを浮かべてそう言った。

 

 

 

 






────這いずる音が聴こえる

 皮膚の下を、脳の中を、意識の上を、何かが蠢き這いずる音が聴こえてくる。
 くだらない妄執だ。どうでもいい夢幻だ。切り捨てるべき未練だ。
 嗚呼、虫が這いずり回る。狩らねばならない

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