古戦場なのに頑張ってます☆(古戦場から逃げるな)
「─────糞袋野郎が」
「ごぐぅッ!!??」
眼を覚ますと同時に一心はその脚を目の前へと突き出す。すると、一心の足裏にはやや固めなモノを蹴りつけた感覚とそして耳に男の悲鳴が入ってきた。
ぎこちなく、完全に拓かぬ視界に苛立ちながらも微かに匂う臭いが目の前にいる青年がこちらへ敵意を向けているというのは理解出来た。故に一心はひとまず蹴りつけた。
鮮明になる視界に映るのは顔面に蹴りを受けたのだろう鼻から血を流し蹲る青年の姿があり顔を抑える片手には不快な臭いのする錐が握られていた。確かに顔面を蹴られれば痛いが、一心の場合に限ってはただ事ではない。手加減しているとはいえ、鬼の頸を蹴り千切る脚力とブーツという異形の日輪刀である。
金属で蹴られればその痛みは尋常ではあるまい。
さて、状況証拠から一心は目の前の青年がこの列車にいる鬼の配下となった人面獣心の汚物であると断定するがかといって殺すというのは鬼殺隊として面倒事であり何よりも誤魔化しが効かない為、致し方なくため息をつきながら傍らに置いてあった杖を手に取り、その持ち手の部分で殴りつける。
「うっ…………」
気絶したのか、一度呻きその場に倒れ伏した青年から錐を奪い取ってから踏み砕く。
そうして漸く一心は席から立ち上がり、辺りを見回し─────
「─── 獣狩り」
車両内に発生し始めた気色悪い醜い肉塊を視界に入れた瞬間、その手に持っていた杖の持ち手を捻って杖を振るった。
瞬間、杖は鋭い金属音を響かせその柄の部分が幾つもの刃へと分割され、さながら鞭の様に蠢き車両内に現れた肉塊を切り刻んだ。
刃のついた鞭と言えばいいのか。そんなモノを守るべき人々がいる場で振るえば客たちを傷つけかねないというのにも関わらず、刃はまるで意思持つ蛇の様に、一心の手足か何かのように肉塊のみを切り刻む。
「チッ……」
既に炭治郎ら三人と炭治郎の妹であるという鬼の姿は無く、そして煉獄の姿もない。
つまりは完全に出遅れたという事、それに対して一心は苛立ちながら舌を打ちつつ、通路に出て後方車両前方車両へと視線を動かす。
すぐ隣の車両、前方側からは雷の呼吸独特の音が響いており、後方からは何とも激しい音が響いているのを理解しすぐさまその足を後方車両へと向ける。
十中八九後方車両側に煉獄がいるのだろう。
そうあたりを付けて、走り出す。
道中、片手で刃鞭を振るい視界に入る肉塊を細かく刻んでいくのを忘れずに。
そうして二車両目を抜ける頃合だろうか、唐突に天井側から声が響いてきた。
「わかってるわアアア!!そして俺は見つけてるからなすでにな!!」
意気軒昂なその怒鳴り声が伊之助によるものであると理解し、誰かと話しているのかと一心は考えていれば前方から声を上げて走ってくる人影が一つ。
市松模様の羽織り、炭治郎である。
それを視界に収め一瞬眼を細めると速度を上げた。
「この“主”の急所!!」
「!!そうか!!やっぱり……前方だな!!」
そんな二人の声を聴きながら、足を止めず走っていきそのまま一心は炭治郎の横をすれ違う。
話からしてこの列車そのものを鬼が占領したか、はたまた鬼が融合したかは一心には分からない。だが、少なくとも本体がいるであろう場所に煉獄ではなく炭治郎らが向かっているという事実は理解出来た。
故に一心は業腹ではあるが炭治郎らに本体を任せる事を決め、無言で炭治郎を過ぎ去っていく。
炭治郎も過ぎ去る一心に一瞬、足を止めようとしたが煉獄の判断の早さを思い出し、いま自らのやるべきことは立ち止まることでは無いと考えそのまま走り続けた。
そんな炭治郎の判断は知らず、一心は走りながら炭治郎が斬っていたのであろう肉塊が再生していく様を見ながら、刃鞭を振るっていきながら舌打ち文句を零す。
「……火薬庫め…………恋柱に対抗したのかは知らんが、使いにくい日輪刀を押し付けやがって……!」
記憶の片隅にある、火薬庫もとい一心の使う異形の日輪刀の方がまだ納得の出来る武器の形をしていると一心が考える頭のおかしな日輪刀を今の一心以上に鞭のように自由自在に振るう『恋柱』を思い出して柄を握る手を強める。
確かに一心の技量は『蛇柱』などの技量系剣士に及ぶべくもなく、同じ状況であるなら形状と攻撃方法が近しい『恋柱』の方がより精度が高いだろう。だが、それでも苦手な武器をこうして客を傷つけずに振るっている辺り技量を過小評価しているのが伺える。
それはさておき、苛立ちながらもしっかりと肉塊を細かく刻みながら後方車両へと進んでいけば煉獄の声が響いてくる。
「おおぉぉぉッ!!!!」
何とも凄まじい勢いか。
一撃一撃が尋常ではない威力を叩き出しているのが遠目から見ても理解でき、そして同時に一切客を傷つけないソレは一心以上に技量が必要とするだろう。
そんな有様に一心は感嘆の息を漏らしながら、煉獄のいる車両へと踏み込んだ。
「煉獄!」
「む!山村か!!」
あらかた刻み終えたのか、息をついて一心を見る煉獄に視線を向けつつ注意は他の車両へと向けながら一心は口を開いた。
「嘴平と竈門らによれば、頸は前方。恐らく機関部だろう」
「そうか!」
「煉獄。お前は前へ行け、後方車両は俺に任せろ」
暗に炭治郎らでは不安であると言う一心に煉獄は考える間もなくすぐさま頷いた。
「分かった!山村こっちはお前に任せた!!」
「ああ────」
一心の返事を聞いたか聞かなかったかは定かではないが、車両が大きく揺れる程の勢いで前方車両へと突貫する煉獄に一心は軽く息を吐いて、呼吸する。
自らの感覚を研ぎ澄ませ、より強く捕捉する為に。
─── 全集中・狩の呼吸 伍の業・導き───
バチり、と感覚が一気に拓かれていく。
途端、一心の知覚範囲に広がるのは鬼、鬼、鬼、鬼、四方八方に鬼の気配が満ちていく。それもそうだろう。
この無限列車は既に鬼と融合しているのだ。ともなればこの列車そのものが鬼と言っても過言ではない。そんな場所で伍の業を使えば余計に捕捉は難しくなるに決まっている。
だがしかし。
「気配の濃い場所薄い場所がよく分かる」
その場から飛び出した一心は先程まで以上に刃鞭を振るいながら、再生し始めた肉塊や新たに出てき始めた肉塊を切り刻んでいく。
そうしながら、更に業を組み込んでいく。
─── 全集中・狩の呼吸 壱の業・左転変生───
体力を呼吸により一時的に増強させ、煉獄が炭治郎らが頸を落とすまで立ち回れるように、止まることがないように一心はこの後方車両五両を行き来しながら刃鞭を振るっていく。
あらかた刻み終えただろうか。
感覚からして鬼は細かく刻まれたあらゆる部位の再生に手間取っているのか、動きがゆったりとし始めているのを感じ取り、最後尾の車両内でその足を止める。
ヒュッ、と息を切り手早く懐から水筒を取り出し水を口に含み喉を潤してから持ち手を強く捻り刃鞭の杖先を床に強く突けば何かがカチリ、とハマるような音を出して元の杖の形状に戻る。
それを見てから何度か杖を振りつつ、肩にかけていた荷物へと視線を向ける。
「……念の為に持ってきておいたが、使う機会はなかったか」
そう息を吐き、視線を周囲へと巡らせていく。
足の位置を調え、何時でも飛び出す事の出来る準備をして─────
『ギャアアアア!!!』
瞬間、前方車両よりけたたましく凄まじい叫び声、いや断末魔が轟いた。それと同時に車両はまるでのたうち回るかのように蠢いた。
単に揺れる、のとは訳が違う。
「チッ!!脱線する!!!」
すぐさま一心はこれが鬼の頸を落とした影響だ、と理解しこの脱線で乗客に影響が出ると判断し前方車両側へと移動し始めながら、その手の仕込み杖を刀が如く持ち替え、呼吸を変える。
─── 風の呼吸 弐ノ型・爪々・科戸風───
下段への斬撃は鋭利な爪が如き風の刃を四つ生み出し車両を抑えつけるかのように打ち下ろされ、そのまま車両は変に暴れることなく衝撃を殺し落ち、その間に前方車両へと入り込む。
進みながら、次々と風の呼吸による一撃を放っていき、車両の衝撃を殺していく。何度も何度も往復しながら、放ち続ける。
前方車両の方からは微かに煉獄の力ある一撃が響いているのを感じながら、足場がぐらつく中続けていき、大きな衝撃───だが、それでも大きな被害になるほどではない───が全体に響いたかと思えば車体が斜めになって止まった。
「……………………ひゅぅ……ひゅぅ……クソったれ……」
息を吐きながら、窓を開けて外へと飛び出し車体の上に腰掛けながら、一心は息をつく。
鬼は完全に死んだ。
未だ不快感は残るもののそれで良しとし、炭治郎らの無事の確認をする為に一心は前方車両へと歩き始めた。
大正コソコソ噂話
一心の専属鍛冶師である火薬庫は色んなインスピレーションでとち狂った武器を作っては一心に使わせます。