異端の鬼狩   作:カチカチチーズ

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 筆が乗った




夜明と血濡

 

 

 

───炎の呼吸 奥義

 

 

 瞬間、その純度と練度を高めた杏寿郎の闘気に潜んで一心は自らの気配を殺した。無論、猗窩座の羅針を誤魔化す事は不可能である。

 だがしかし、猗窩座本人が目の前の杏寿郎以外に意識を逸らせるか?答えは否だ。

 汚物であり虫である鬼であろうとも曲がりなりにも武人であろうとしている猗窩座にとって薄れた闘気で動く一心よりも目の前の素晴らしい闘気をもって自らに仕掛けようとしている杏寿郎の方が重要であり、その技を打ち砕かんとするのは至極当たり前であり、何よりも自らの『鬼』という存在に対しての自信が警戒していても尚、一心を人間として下に見ている驕りがある。

 

 

───肆ノ業・加速───

 

 

 神経の一本一本に集中し、自らの気配を押し殺して呼吸を使い加速して一気にその場から移動していく。

 確実に上弦の参を、鬼を狩る為に。

 

 

        玖ノ型・煉獄───

 

        破壊殺・滅式───

 

 

 地面を踏み砕き、抉り削りながら猗窩座へと迫り猗窩座もまた自らの技を放った。

 そんな明らかな隙を見逃す者などどこにいるというのだろうか。狩人が見逃す事はありえない。

 

 

─── 全集中・狩の呼吸 漆ノ業

 

「ッ、お前……!!」

 

 

 技と技が激突する間際、傍らへと潜り込んだ狩人が独特な呼吸音を掻き鳴らしながら、地面を踏み砕いて中空に身を躍らせその手首と全身の筋肉をしならせ業を振るう。

 

 

       肉削ぎ乱れ刃・獣骨断乱───

 

 

 振るわれた刃鞭は凡そ、その形状と大きさからは到底ありえない範囲の大気を抉り刻み切り裂き削ぎながら、猗窩座の肩を腕を膝を太腿を脹脛を脇腹を、その全身を削っていく。

 全身を削られる事で猗窩座は憤怒をもって一心へと思考を割こうとするがしかし、それよりも先に杏寿郎が迫り二人の技が激突した。

 大気と大地が揺れ動き、その衝撃で土煙が舞い上がる。

 その様を見ていた炭治郎と伊之助は動けない。二人とも衝撃と闘気に当てられたのだろう。

 一体どうなったのか二人が見るにはその土煙が晴れるしかないが風も少なく晴れるにはしばしかかる。だが、そんなものは知ったことかと言わんばかりにその内側から風が吹き荒れ、土煙が晴れていく。

 

 

「ッ!!煉獄さん!!」

 

 

「ガッッッ!!!」

 

 

 猗窩座の左側頭部が切り飛ばされ身体を左側が半ばまで切り裂かれ、その左腕が肘ほどで薄皮一枚で宙ぶらりんとなりながらも全身が一心によって抉り削られながらもその右腕は杏寿郎の左脇腹を浅くながら削っていた。

 猗窩座の眼はありえないものでも見るかのような眼で見開かれ、煉獄は脇腹を削られた痛みで表情を歪ませながらもその日輪刀を掴む右手の力を強めながらも間髪入れずに日輪刀を猗窩座の頸へと叩きつける。

 

 

「オオオオオオオオ!!!」

 

 

 グズリッ、とその刀身が猗窩座の頸へと血を噴き出させながら差し込まれていく。

 それが危険であると判断したのか、それとも命の危機に本能が反応したのかちぎれかけていた左腕を再生させ杏寿郎へと叩き込む。

 だが、その拳が杏寿郎の顔面を捉えるよりも早く杏寿郎はその手首を掴み、血管を浮かばせながらその場に留める。

 猗窩座はまさかの阻止とその握力に眼を見開き驚愕し、そして何よりも杏寿郎の肩越しに見えた景色。

 倒れた車両よりも森よりも彼方の山よりもその果て、夜空を白めさせる光、夜明けが近づいてきた事が猗窩座を焦らせた。

 

 

「ぐぅぅぅ!!!」

 

 

 左腕は動かない。何よりも日輪刀が頸に食いこんでいる。故に自由が効く右腕で杏寿郎を殺そうと腕を引いて────

 

 

「虫が逃がすか」

 

 

 杏寿郎の背後より躍り出た一心がその刃鞭で猗窩座の右腕をその胸に縫いつける。

 

 

「一心!!」

 

「ここで、殺す!!」

 

─── 弐ノ業・獣狩り───

 

 

 そう叫びながら、いつの間にかに手にしていた右手の刃こぼれしたさながら鋸の様な日輪刀で猗窩座の頸───杏寿郎の日輪刀が食いこんでいるのとは真反対の箇所へと鋸さながら削る様に叩き込む。

 

 

「ッ!?あぁ!?いつの間にッ!!」

 

 

 逃がさない。

 死んでもこの手を離してなるものか。そんな決死の意思を滾らせながら、杏寿郎は猗窩座の腕を掴む力を、頸へとより深く捩じ込まんと日輪刀へ加える力を強く強く。

 生かさない。

 必ず殺す死んでも殺す。狂気狂乱。思考が殺意一つに染まっていき、猗窩座の腕を自由にさせてなるものかと腕を固定させている杖が引き抜けないように深く深く突き刺しながら、頸へ叩き込んだ日輪刀へより強く力を入れていく。

 

 

「(夜が、夜が明ける……!!ここには陽光が差す!!逃げなければ逃げなければ!!!)」

 

「(斬らなければ!!鬼の頸を……早く!!)」

 

 

 少しづつ少しづつ陽が昇っていき猗窩座は焦りを強め、炭治郎は自らの日輪刀を拾い上げ杏寿郎と一心に協力する為に伊之助より先んじて猗窩座へと走る。

 

 

「オォォオオオオ!!オオオオオアアアアア!!」

 

「(絶対に逃がさん。お前の頸を斬り落とすまでは!!!)あああああああああ!!!」

 

「殺す殺す殺す殺す殺す殺す!!!!」

 

 

 互いに限界以上の力を引き絞りながら三人は絶叫する。杏寿郎、一心の互いの刃が猗窩座の頸を深々と喰い込んでいく。あと少し、最早指一本か二本の肉しか無い。

 殺意と闘気と怒気がぶつかり合い混じり合い周囲が戦き動けぬ中、炭治郎が叫ぶ。

 

 

「伊之助動けーっ!!!」

 

「ッ!!」

 

 

 炭治郎の叫びに伊之助は反応し、一心とは反対側から仕掛ける。

 

 

───獣の呼吸 壱ノ牙・穿ち抜き

 

 

 一心に掠め取られた為に一振りであるが渾身の突きをその頸へと放つ。

 陽光に灼かれるか、このまま頸を断ち斬られるか、絶対絶命以外なにものでもない。

 だが、それを覆すのが鬼であり上弦だ。

 

 

「ッア!!!」

 

 

 地面を踏み砕き、猗窩座はその場から跳躍した。

 杏寿郎に掴まれていた腕を自らの力で引きちぎり、一心に固定された腕を引きちぎり、頸に深々と喰い込んでいた二振りの日輪刀を根元近くで折って猗窩座は逃げた。

 

 

「(早く陽光の陰になる所へ─────)なっ」

 

 

 着地し、陽が完全に差す前に近くの森へと逃げ込もうとして、瞬間猗窩座は自分の身体が引っ張られ森とは真反対、一心らの元へ飛んだのを理解した。

 視線をそちらへと向ければそこにいるのは一心。

 その表情は嗤っていた。

 血反吐を吐きながらも絶対に逃がさない、必ず殺すそういう強い強い殺意の表情でありその手には刃鞭となって伸びている杖が握られている。刃鞭へと視線を動かせば崩れていく右腕、そして自分の左胸に深々と突き刺さっている刃鞭の刃先。

 

 

「逃げられると思うな……!!」

 

 

 既に猗窩座の両腕は再生している。引き抜こうと思えば引き抜けるだろう。

 

 

「その前に灼き殺す」

 

「邪魔を、するなぁああ!!!」

 

 

───術式展開

 

 

 猗窩座は受け身を取り、すぐ様立ち直り術式を発動する。

 

 

「山村さん!」

 

 

       終式 青銀乱山光───

 

 

 これは駄目だ。

 まるで近づけさせないとでも言わんばかりに放たれる全方位への拳打の乱れ打ち。

 逃がすつもりも無いのだろう。それ故の全方位。

 回避不能これ以上、この場に押し留める事も不可能と考えていいだろう。杏寿郎も動けまい、炭治郎らでは駄目だ。

 ならば、一心が取るべき選択は────

 

 

「邪魔だ」

 

 

 猗窩座より刃鞭を素早く引き抜き、近場にいた伊之助を炭治郎へと蹴り飛ばし杏寿郎を自分の背後へと陣取らせ、そのまま勢いで業を放つ。

 獣骨断乱による広範囲防御。本来ならば防御なんぞに使う様な業ではなく、猗窩座の技で何度も何度も弾かれ衝撃が炸裂する。いや、それ以前に…………

 

 

「(無理だ。ほぼ同時の多段連撃ッ……!他の業に比べて防御向きであると言え、獣骨断乱は防御の業なんかでは無い。ましてや此奴は普段のよりも厚みも刃幅も堅牢さも無い……受けきれない!)」

 

 

 肩が外れる、皮膚が隊服ごと裂ける、肋骨が割れる、それでもなお内臓などの致命的な部位だけは回避していく。

 血反吐を吐き散らしながら、血濡れて視界も狭まる中、拳打が終わるまで業を振るい続けた一心は膝を着く。

 

 

「ゴフッ……ゲフッ……」

 

「一心……!」

 

「…………悲鳴嶼さんには、劣るが……身体だけは……頑丈だ……致命傷は避けた……ゴフッ」

 

 

 断裂した刃鞭であったものを地面に突き立てながら、何とか倒れまいとしている一心に杏寿郎は駆け寄る。掠れている一心の視線は既に一部が灼けていきながらも森の中へと逃げ込んでいる猗窩座の背中を睨めつけている。

 

 

「……クソッたれ…………ッ!」

 

 

 このまま意識が落ちていく最中、その掠れている視界に映った光景は一心の眼を見開かせるのはあまりに容易かった。

 逃走する猗窩座の背中を日輪刀が穿いたのだ。

 

 

「逃げるな卑怯者!!逃げるなァ!!!」

 

 

 炭治郎だ。森の入り口程まで走っていた炭治郎が自らの日輪刀を猗窩座へと投げつけたのだ。

 炭治郎の言葉か、それとも日輪刀を投げつけられるとは思っていなかったのか猗窩座は走りながらもこちらへと振り返っていた。

 その表情は血濡れて狭まった視界や掠れた視力では伺う事は出来ない。

 

 

「何時だって鬼殺隊はお前らに有利な夜の闇の中で戦っているんだ!!生身の人間がだ!!傷だって簡単には塞がらない!!失った手足が戻ることもない!!」

 

 

 血の臭いからして腹を負傷しているのだろう。呼吸で塞いでいるのだろう。だが、炭治郎は開くかもしれないのに叫ぶ。

 

 

「逃げるな馬鹿野郎!馬鹿野郎!!卑怯者!!!お前なんかより煉獄さんや山村さんの方がずっと凄いんだ!!強いんだ!!煉獄さんたちは負けてない!!誰も死なせなかった!!戦い抜いた!守り抜いた!お前の負けだ!!煉獄さんたちの勝ちだ!!」

 

 

 その叫びを聴きながら、一心はぎこちなく笑った。

 

 

「…………傷は、何とかして塞ぐ……」

 

「ああ……」

 

 

 そう言い残し、そのまま一心は俯せに顔は横に向けて倒れ伏す。

 それを見た杏寿郎もそのまま膝を着いて息をつく。

 互いに悔しさと腹立たしさがあった。きっと今回以上のモノは無いだろう。次、また二人で挑んだところで今回の様な好機が訪れることはなく必ずどちらかは死ぬだろう。討てなかった、長年欠ける事が無い上弦の月を欠けさせる千載一遇の好機を手に出来なかった。

 だが、それでも、炭治郎の言葉でいつの間にかにその腹立たしさと悔しさは消えていた。誰も誰も死なせなかった、そんな炭治郎の言葉に杏寿郎は目尻を下げ、一心は舌打ちながら意識を手放した。

 

 

 






 猗窩座と一心はとてもよく似ています。
 義父(片や将来のですが)と出会う事で変わり、そして女性に間に合えなかったそんな二人。

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