異端の鬼狩   作:カチカチチーズ

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異端と水面

 

 

 

 

 

 

「人を喰った鬼に情けをかけるな」

 

 

 崩れていく下弦の伍。

 ついには着てた服だけが残った。その彼の遺した服を踏み躙る人が来た。視線を動かせばやはり、そこにいるのは冨岡さんだった。

 二年前、俺に禰豆子を救う為の道を示してくれたあの冨岡さんだった。

 

 

「子供の姿をしていても関係ない、何十年何百年生きている醜い化け物だ」

 

 

 冨岡さんの言葉は分かる。

 理解出来る、だけれども

 

 

「殺された人たちの無念を晴らすためこれ以上被害者を出さないため.......勿論俺は容赦なく鬼の頸に刃を振るいます」

 

 

 それでも俺は

 

 

「だけど鬼であることに苦しみ、自らの行いを悔いている者を踏みつけにはしない。鬼は人間だったんだから、俺と同じ人間だったんだから」

 

 

 決して、鬼は醜い化け物なんかじゃないはずだ。

 

 

「足をどけてください。醜い化け物なんかじゃない、鬼は虚しい生き物だ。悲しい生き物だ」

 

「お前は..............」

 

 

 そんな俺の言葉を聴きながら、冨岡さんから動揺か驚くような匂いがして、冨岡さんは目を見開いて

 

 

「────理解出来ないな」

 

 

 苛立つ様な声音が聴こえた。瞬間、甲高く金属音が辺り一帯に響き渡る。

 それが俺の頭上から聴こえたのだと、数瞬遅れで理解して視線を音源へと動かせばそこには冨岡さんの刀が巨大な金槌の様なモノを受け止めているのが見えた。

 金槌の様なモノを持っているのは黒い襟詰の上に顔を隠す様なこれまた黒い頭巾を被った人。匂いからして多分、男性の鬼殺隊!もしかしたら、この人が持っているこの金槌みたいな奴は日輪刀なのか?

 

 

「くっ.......!」

 

「鬼は鬼だろう?殺せよ、それを逃せば一人死ぬ、二人、三人、四人、何人死ぬ?」

 

 

 底冷えする様な声だ。

 この人からは苛立っているような匂いがする。それは反論する事がはばかられる程のもので────だけれども

 

 

「違う!禰豆子は、俺の妹は他の鬼とは違うんです!!」

 

「知るか。喰う喰わぬ襲う襲わぬ関係無し────虫は、汚物は、鬼は疾く死ぬべきだ」

 

 

 ッッ.......!!??

 苛立っている匂いが消えた。その代わりにこれは、なんだ?怒り?違う、確かに怒っている匂いはする、だけれどもこれは、この強い匂いは.......

 

 

「どうした、退けよ水柱。ここで死ぬか?」

 

「.......ッ、お前がどけッ!!」

 

 

 冨岡さんが黒頭巾の人を押し退ける。

 そうすれば、黒頭巾の人はまるで風に吹かれたかのように軽々と後ろに飛び退いて、その腕の金槌のような日輪刀を杖を回す様に容易く振るう。

 黒頭巾でその表情はうかがい知れないけれども、あの人から出てる匂いは未だに強い『侮蔑』と『憎悪』、そして『憤怒』が混じりあったような匂い。

 どうすれば、いいんだ.......。

 

 

「鬼を庇うって事は正当性はこちらにあるだろう?申し開きがあれば受け止めた後に踏み潰してやるが、何かあるか」

 

 

 そう言いながら、黒頭巾の人は腰に下げてる鞄から何か細長いモノを出して────

 

 

「.......!」

 

 

 冨岡さんが唐突に黒頭巾の人ではなくて、俺たちの方を向いてから俺を跨いでまた甲高い金属音が響いた。黒頭巾の人じゃないまた別の人だ。

 気が付かなかった。

 奇襲に気がついた冨岡さんに俺が驚いていると今度は軽い金属音が二度、三度立て続けになる。視界の端で何かが勢いよく地面に突き刺さった。そっちに視線を向ければなんだろう、手のひら程の短刀?のような刃物が突き刺さっている。恐らく今の金属音はコレを冨岡さんが弾いた音なんだろうか。

 

 

「あら?どうして邪魔するんです冨岡さん」

 

「.............」

 

「鬼とは仲良くできないって言ってたくせに何なんでしょうか。そんなだからみんなに嫌われるんですよ」

 

 

 綺麗な女の人の声だ。今度はそっちに視線を動かせば勢いよく着地したのか、地面を軽く削った跡を残している小柄な女性がいた。

 まるで蝶みたいな羽織りに根元と鋒にだけ刃がついている奇妙な形の日輪刀を持った女性がどこか怒っているような匂いをして、そこにいた。

 いや、それよりも二対一!!

 冨岡さんに加勢しなきゃ.......でも、全然動きが見えなかった。

 女性は黒頭巾の人を一瞥した後、刀を降ろしてにこやかに微笑みながら口を開いた。

 

 

「さあ冨岡さんどいてください」

 

「俺は嫌われてない」

 

 

 え?冨岡さん?

 この状況で何を.............。

 

 

「.......言葉を圧縮する、伝えた気になる、報連相しない。嫌われる要素しかないな」

 

「.......そうですね。それともしかして気にしてたんですか?」

 

 

 黒頭巾の人と女性が冨岡さんの言葉にため息をついてる.......いや、多分、なんというかこの状況で冨岡さん、その返答は違うんじゃないだろうか!?

 

 

「坊や」

 

「はいっ」

 

 

 ッ!今度は俺?口元に手を添えてまるでコソコソ話をするかのようなその動きといきなりの事に俺は軽く驚きつつも返事を返す。

 

 

「坊やが庇っているのは鬼ですよ。危ないから離れてください」

 

「ちっ.......!!違います!いや違わないけど.......あの、妹なんです!俺の妹でそれで!!」

 

「まあ、そうなのですか可哀想に、では.......」

 

 

 女性が口にしたのは禰豆子の事だった。だから、俺は禰豆子は他の鬼とは違うって伝えようとして

 

 

「苦しまないよう優しい毒で殺してあげましょうね」

 

「.......」

 

 

 刀を構えて微笑む。

 それは先程までのそれとは違う怖い笑みだ。それに俺は一瞬怖気ついてしまって何も言えなかった。駄目だこんなんじゃあ禰豆子は守れない!

 

 

「動けるか?」

 

 

 そんな時にふと、俺に聞こえる様に冨岡さんが口を開いた。

 

 

「動けなくても根性で動け。妹を連れて逃げろ」

 

「!!.......冨岡さん.......」

 

 

 つまりは冨岡さんにこの場を任せるって事だけれども、それでも冨岡さんの事を信じるしかない。

 

 

「すみません、ありがとうございます!!」

 

「これ隊律違反なのでは?」

 

「.............」

 

 

 俺は禰豆子を抱えて立ち上がってから、脇目も振らずにその場から走り出す。不安だ。不安しかないけれども俺がいたって冨岡さんの邪魔になってしまう、なら冨岡さんの為にも俺は禰豆子を連れてこの場を離れなきゃ.......!!

 

 

 

 

 

 

 

─────────────

 

 

 

 

 

 

 

 

「で?茶番は終わったか?」

 

 

 男は女性、『蟲柱』胡蝶しのぶが乱入してきたのを確認してから素早く爆発金槌を包みにしまい、腰から一振りの異形の日輪刀を取り出していた。

 やはりと言うべきか、ブーツの形をした日輪刀しかり、爆発金槌しかり、その異形の日輪刀もまた日輪刀と言いながらも刀の形をしていない。

 歪んだ刃を二枚重ねたような歪な形をした日輪刀の柄を持ちながら、その切っ先を『水柱』冨岡義勇へと向けている。

 件の違反者である少年とその妹であるらしい鬼は逃げたがすぐさま鎹鴉に捕捉される事だろう。何より、男からすればここに胡蝶しのぶがおり、この規模ならば十中八九彼女の継子が来ている可能性を考えるのには十分である。

 

 

「冨岡義勇。先も言ったがこちらには正当性がある。柱であろうが鬼を庇うのは相当な違反だが如何に」

 

「…………」

 

「冨岡さん、何とか言ってくれませんか?私はともかく彼がそこまで気が長い方ではないの、知ってるでしょう?」

 

 

 『水柱』冨岡義勇は黙りを決め込む。

 決して付き合いが無い訳では無い、男はそんな冨岡義勇の心中を察しつつ構える。目の前の男は何時も何時も言葉が足りない。

 大方、この場で話した所でどうしようもないから話さないでおくと自分の中で判断したのだろう。これだからこの男は嫌われるのだ、そう思考してから冨岡義勇へと踊りかかった。

 

 

「……!」

 

「お前とて理解してるだろう?逃げれない事など」

 

 

 冨岡義勇の日輪刀と男の歪んだ日輪刀がぶつかり合い、何度も甲高い金属音が響き渡らせる。

 その隙に胡蝶しのぶが通り抜けようとすれば、すぐさま冨岡義勇は日輪刀に力を込めて、男を弾き飛ばしてから胡蝶しのぶの前に立ちはだかる。

 だからだろう胡蝶しのぶは素早くその場を跳躍し、冨岡義勇を飛び越えに行く。

 

 

「待て……!」

 

「ッ」

 

 

 無論、目の前で飛び越えようとされれば当然だろう。

 反射的に冨岡義勇はその手を伸ばして胡蝶しのぶの脛を掴みそのまま飛び越えるのを止める。だが、そんな片手が封じられた瞬間を逃すだろうか?いいや、狩人はそんな隙を逃さない。

 胡蝶しのぶの背後から飛び出した男がその歪んだ日輪刀を冨岡義勇へと振るう。

 

 

「どうした。鬼を庇うなら覚悟はあるのだろう?技の一つは出してみせろ」

 

 

 胡蝶しのぶを軽く投げてから、素早くその手の日輪刀で男の歪んだ日輪刀を受け止める。

 その勢いを利用して男は素早く日輪刀を引いては冨岡義勇へと打ち込んでいく。

 一撃。二撃。三撃。舞うように、水の呼吸のように流れるような動きで連撃を放っていく。それに対して冨岡義勇は只管、日輪刀で弾いていく。やはり『柱』と言うべきか連撃を確実に弾いていく。

 全ての連撃を弾き終わったのか、一度男は冨岡義勇から離れて胡蝶しのぶの隣に着地する。

 腕をならす様に日輪刀を持ちながら手首を動かしながら、隣の胡蝶しのぶを一瞥する。

 

 

「どうにも余裕そうだが、来てるのか」

 

「はい、隠の方々を任せてます」

 

「そうか……」

 

 

 ならば、尚更こっちはさっさと終わらせよう。と言わんばかりに日輪刀を真っ直ぐやや切っ先を下に向けるように構え、その左手も柄を掴む。

 いつの間にかに深く被っていた頭巾も外され、その赤い瞳が露になり冨岡義勇へその鋭い視線を向けている。

 呼吸が変わる。明確な呼吸に変化していき、もはやぶつかり合いだけではすまなくなるのは明白である。傍らの胡蝶しのぶはそんな男に目を見開き、流石に止めようと一歩前に出て────

 

 

「伝令!!伝令!!カァァア」

 

 

 唐突に響いた声に三人が固まる。

 視線を動かせばそこには二羽の鎹鴉が木の枝に止まっている。

 

 

「伝令アリ!!」

 

「炭治郎・禰豆子両名ヲ拘束、本部ヘ連レ帰ルベシ!!」

 

 

 御館様より出されたその伝令に男は軽く舌打ちながら、両の手で握っていたその歪んだ日輪刀を腰に下げ直してから再びその黒頭巾を被る。

 そして、もはや興味を無くしたと言わんばかりに先の二羽とは違う自分の鎹鴉である桔梗を背の爆発金槌を入れている袋に止まらせて、下山する為に歩き始める。

 だが、途中で一度足を止めて振り返り

 

 

「しのぶ。俺はこのまま蝶屋敷に向かう、何かあるか」

 

「でしたら、アオイたちに用意をしておくようにお願いします」

 

「分かった」

 

 

 胡蝶しのぶの返答を了承して、そのまま男は那田蜘蛛山を駆け下りていく。

 その背を見送りながら、胡蝶しのぶは軽く息を吐いて本当に殺傷沙汰にならなかった事に安堵し、表情の変わらぬ冨岡義勇へと軽く抗議の視線を向けてから彼女もまたこの場を後にした。

 

 

 

 




異形の日輪刀

 異端の鍛冶師『火薬庫』によって手がけられた作品群。
 尋常の鬼殺隊隊士では扱えぬモノであり、長らく死蔵されていたが同じく尋常ではない隊士であった男との会合により日の目を見ることとなった。
 五本存在しており、どれも既存の日輪刀所か刀の括りではない
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