異端の鬼狩   作:カチカチチーズ

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「夜にありて迷わず、血に濡れて酔わず
 名誉ある鬼殺の狩人よ
 鬼は呪い 呪いは淀み
 そして君たち鬼滅の刃とならん」


異端と蟲柱

 

 

 

 

 

 

 『蟲柱』胡蝶しのぶにとって、彼はとても哀れな人間だった。

 自分たち姉妹を救った『岩柱』と同時期に鬼殺隊に入隊した男はその資質と運命にでも恵まれたのか、自分のような鬼の頸を切れぬ人間と違い呼吸を用いずとも鬼を押しとどめる膂力を持ち、誰も満足に使えなかった異端とも言えるいかれの日輪刀を手足の様に振るい、そして自分に合った呼吸を創りあげて瞬く間に多くの鬼を殺し、その階級を上げた。

 そんな同年代の隊士がいたというのもあってか、胡蝶しのぶの姉もまた何時しか友人とも言えるようになった男の後を追うようにその階級を上げていき、二人は何時しか最上位の鬼狩りになっていた。

 胡蝶しのぶから見て、姉と男は決して相性が良い────意見が合う間柄という意味合いで───とは言い難かった。

 片や、鬼とも仲良くなれる仲良くなろうとするという姉。

 片や、鬼を『虫』と侮蔑し踏み潰し鏖殺せんとする男。

 正しく水と油の様な意見思想の二人を見て、何時か衝突するのではないだろうか、と胡蝶しのぶは考えていた。現にある日、そんな心配をしていた胡蝶しのぶの前で姉が男に鬼について問いたのだ。ならば、男の口から出てくるのは鬼への侮蔑と殺意でしかなく、それに対する姉の反応で男と姉の関係は崩れるのだろうと何処か諦めを抱いていた。だがしかし、そんな胡蝶しのぶや周囲の心配をよそに男は姉の意見思想に対して一定の理解を示したのだ。

 無論、理解はしたがその上で自分の意見思想は曲げないと断言していたが。

 

 結果として二人の関係は崩れなかった。

 むしろ、多くの隊士から否定された自分の意見思想に対して一定の理解を示したからか、今まで以上に姉は男に対して距離を近づけていた。胡蝶しのぶは実の姉ながらちょろいのでは、とその辺りを危惧していたが··········。

 男を構う姉とそんな姉に呆れるように息を吐く男。そんな決して悪いとは言えない二人の関係が崩れ去ったのはあまりに唐突だった。

 

 姉が鬼に殺された。

 胡蝶しのぶと男がその場に辿り着いた時には既に鬼はおらず、あるのは血濡れで死ぬ寸前の姉の姿だった。

 冷たくなっていく姉の身体を抱き締めながら胡蝶しのぶは怒りと悲しみが綯い交ぜになり、そして男には何も無かった。姉の葬儀であっても男は涙一つ嘆き一つ怒り一つ出さずにただただ義務的に言葉を告げてまた鬼狩りへと消えた。

 そしてその数ヶ月も経たぬ内に男は自らの地位を投げ捨てた。

 ただの鬼狩りに降りて、より一層の狩りに没頭したのだ。胡蝶しのぶは姉を失ってしばらくはそんな何も言わず怒りすら抱かない男に対して、怒りを抱いていた。だが、だがしかし、何時からか少しではあるが胡蝶しのぶは男の考えを理解出来た。

 

 

「口にするにはあまりに自覚しておらず、理解するのにはあまりに血に濡れすぎて、伝えるにはもう何もかも遅くて··········哀れな人」

 

 

 

 『蟲柱』胡蝶しのぶは男を哀れに思う。

 

 

 

 

 

 

 

──────────────

 

 

 

 

 

 

 

 既に日が昇り始めて少しした頃合、男は蝶屋敷へとたどり着いた。

 少し途中寄り道したからか、本来男が予測していた到着時間よりもやや遅れたがしかし、それでも那田蜘蛛山での負傷者等々が来るのはもう少し後であろう。

 ほんの少しの遅れがあろうとも隠たちに追い抜かれるなどということは起こさない。

 男は玄関先を軽く叩いてから扉を開いて中に入る。

 

 

「入るぞ」

 

 

 ブーツもとい日輪刀───どう考えても日輪刀と呼んでいいものでは無いが種別としては日輪刀であるので仕方がない───を脱いでからそのまま蝶屋敷にあがり廊下をずかずかと進んでいく。

 しばらく歩いていれば、男の視界の端に動く三人の少女が映る。そちらに視線を動かせば三人の少女と視線が合った。

 看護服だろうか、白い服を着た三つ編み、おかっぱ、おさげの少女らは男を見ると笑みを浮かべてそのまま男のもとへと歩いてくる。

 

 

「「「おはようございます!」」」

 

「ああ、おはよう。神崎はいるか?」

 

「アオイさんですか?」

「今は備品を確認してました!」

「何か御用ですか?」

 

 

 口々に話し始める三人を軽く手で制し、頭巾を外しながら男は口を開く。

 

 

「今回の任務で負傷者が多い、もう少しすれば大勢の負傷者が運ばれてくる。その用意をするよう、しのぶから言伝を頼まれた」

 

「え!しのぶ様からですか!?」

「それじゃあ早くアオイさんに言わないと!」

「急がなきゃ!」

 

 

 男の言葉に三人は再び口々に喋りながらも、やはりこの蝶屋敷の少女だからか早々にその場を離れて動き始めた。それを男は見送ってから蝶屋敷内に間借りしている部屋へと足を向ける。

 少なくともしのぶから頼まれた言伝は、間になほ・きよ・すみの三人を挟んだとはいえ神崎アオイへと伝えた。故にそこから先は医療者ならざる鬼狩でしかない男が手を出せるようなことは無い。

 無論、請われれば人手として彼女らの助けとなるのは当然の事ではあるが、わざわざ首を突っ込みに行くのはかえって邪魔となるだろうと男は考えて、一度玄関に戻り具足を回収してから部屋に行く。

 男が間借りしている部屋は蝶屋敷の中でも奥の方にある。患者たちが入院する患者室や医務室、しのぶら蝶屋敷の住人が寝起きする部屋から外れた所謂あまり人が歩き回らない様な奥部屋。

 部屋を間借りしている経緯は置いておき、屋敷の掃除や男へ何か用事でもなければ行き来しない区画にある自室に男は入る。

 

 

「…………そう言えば、渡し損ねたな」

 

 

 肩にかけていた爆発金槌を仕舞った袋を壁に立てかけて、男はその手に持っていた風呂敷へと視線を向ける。

 蝶屋敷へと真っ直ぐ向かう予定であったのに那田蜘蛛山へ任務に向かった為、途中に置いて行かざるを得なかった荷物。それなりの付き合いがある少女らが住まうこの蝶屋敷に帰った時に自分らを支えてくれる彼女らへ少しばかりのお礼として街で買ったハイカラな甘味類。

 それを彼女らに渡さずにこうして部屋まで来てしまった事に男は軽く息を吐きつつ、それを日射が当たらないように戸棚の中に閉まってから机の前に座り込む。

 男の部屋は間借りしているからなのか、とても簡素なものであった。

 必要最低限の戸棚と机、衣類をしまっている箪笥。そして、一部の道具をしまっている箱と端に畳まれている布団。

 本当にそれだけ。いや、強いて言うならば、机脇に置かれているたった一つの古びた山高帽をかけている帽子掛けぐらいがちょっとしたお洒落なのかもしれない。

 さて、そんな部屋で男は一人目を瞑りながら物思いに耽る。

 

 

「妹だからなんだと言うのか。鬼は鬼だ、所詮踏み潰され消えるしかない虫以外のなにものでもない。善いも悪いも関係ない────穢らわしい虫なのだ、人の淀みは消さねばならない……」

 

 

 思い出すのは那田蜘蛛山での出来事。

 唯一狩れなかった鬼とそれを庇う隊士。

 水柱冨岡義勇の事は正直、男からしてどうでもよかった。嫌われてないとか言いながら自分の心内をハッキリと話さず自主的に取捨選択して圧縮した言葉しか話さない男の事はどうでも良いのだ。

 兎にも角にも、今日中には処分されるだろう件の鬼と隊士に苛立ちつつ、すぐにその荒れる思考を男は抑える。

 

 

「………………ああ」

 

 

 らしくない。

 戦闘中に殺意を剥き出し憤怒を顕にすれども、その代わりに思考は鋭敏化し怒りや殺意、侮蔑からかけ離れていく。外は熱く、内は冷たく、そう言った切り替えが可能になったのはもう何年も前の話。

 にも関わらず、あの兄妹と相対して見た時、男はいつもの調子でいられなかった。

 

 

「……なぜ、なのだろうな」

 

 

 男はそれを理解出来ない分からない。

 男の知る『霞柱』の様にすぐに忘れるからと切り捨てられない。一度抱いた疑問が頭の中を駆け回っていく、もしこれが普通の鬼ならば思考を乱すような精神作用の血鬼術の類だろうと考えたのだろうが─────

 

 いや、どうでもいい。

 

 カチリ、と音が聴こえてくるような思考の切り替えが行われた。

 

 

「初めての経験だった。だからああも乱れた。それだけだ」

 

 

 どうせもう会わないのだから、そんなこと考えているだけ時間の無駄にしかならない。そう考えて、男は自分の着ているものを脱ぎ始める。

 鬼の返り血は日に浴びせればそのまま消えていく、だが呼吸により上がる体温故の発汗、戦闘時にまみれる土埃などは消えやしない。

 男が隊服を最後に脱いだのは二日前ほど。その時ですら、最低限手洗いしただけである。

 こうして、女所帯であり医療施設である蝶屋敷に来た以上、身嗜みを整えねば胡蝶しのぶに文句を言われかねない。男とて医療の重要性は熟知しているし、急ぎでも任務中でもなければ着替えたいというのが心境である。

 脱いだ隊服等を洗濯箱へと入れて替えの隊服に身を包む。

 そのまま洗い場に運ぼうとするが、一度動きを止めてからしばし考え込む様に目を瞑ったかと思えば、箱を扉近くに置き直してから畳んである布団に寄りかかる。その時、枕をしっかりと頭の下に滑り込ませる事を忘れずに。

 つまるところ、男は一度寝ることにしたのだ。

 これは誰も責めることは出来ないだろう。何せ、男が『火薬庫』の工房を後にしたのが前日の夕方前であり、そこから今の今まで一切眠ることなくここまで、やってきたのだ。

 それに何より、任務は終わったのだから休んだところでバチは当たらない。

 そのまま男は布団の温もりを感じながら再び瞼を閉じた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「神崎」

 

「あ」

 

 

 負傷者も運び込まれ、てんやわんやした蝶屋敷であったがある程度落ち着き、男もまた仮眠から起きしばらくして汚れた隊服を洗い終え干した頃合に男は手隙の少女────なほ・きよ・すみの三人とは違い十代半ばを越えた歳頃の隊服の上から白衣を着た神崎アオイに声をかけた。

 六尺程の身長の男が少女の対面に立つというのは些か問題のある光景であるがしかし、神崎アオイは目の前に立つ男に目を見開いて驚くもののすぐにいつも通りのハキハキとした表情に切り替わる。

 

 

「久しぶりだな、変わらぬ様で何より。それと、これをみんなで食べるといい」

 

「お久しぶりです。あ、コレを私たちにですか?ありがとうございます。今度、しのぶ様とみんなでいただきますね」

 

「そうしてくれ」

 

 

 土産である甘味類が包まれた風呂敷を神崎アオイに手渡して男はふと、何かを思い出したかのように一度外した視線を神崎アオイへと戻す。

 

 

「そういえば栗花落は戻っているのか?」

 

「はい、カナヲは先程戻ってきましたよ。多分、庭にいると思います」

 

「そうか、なら少し顔でも出すか」

 

 

 そう言って男は神崎アオイに教えて貰った通りに庭へと足を向ける。神崎アオイは着いてくるということはなく、渡された甘味類をしまう為に台所へ向かっていく。

 そうして、また一人蝶屋敷を歩き始める男。既に那田蜘蛛山で負傷した隊士らがいるが男は誰一人とて面会するつもりは無い。それは男が他の隊士らに興味が無いから、という訳では無い。純粋に知り合いではないから。それだけだ。

 そもそも知り合いでもなんでもない人間に見舞われても特に何も無いだろう。

 ならば、入院している同胞のためにも一匹でも多くの鬼を殺すのが何よりなのではなかろうか。男がそう考えながら庭先へ向かうとすぐに目的の人物も見つかる。

 縁側に座りながら湯呑みに口をつけている白羽織の少女。

 サイドテールとそれを纏めている蝶の髪飾りが特徴の彼女、名を栗花落カナヲ。『蟲柱』胡蝶しのぶの継子である。

 

 

「久しぶりだな、栗花落」

 

「.............お久しぶりです」

 

 

 男の言葉に栗花落カナヲはしばし間を開けてからそれに応える。その様を見て、男は軽く息を吐きながら栗花落カナヲの隣に腰掛ける。

 

 

「遅くなったが、最終選抜突破おめでとう」

 

「.............ありがとうございます」

 

 

 男の祝辞に栗花落カナヲは感謝を返す。

 両者共に多弁ではなく、栗花落カナヲは諸事情故に自発的に何か話し始めることはほとんどなく、男はそんな彼女の事情等々を理解している為に無理矢理に会話をしようというつもりもない。

 しばし静かな時間が流れていく。

 そうしていると栗花落カナヲが飲んでいた湯呑みが空になり、それを見て男は息を吐く。

 

 

「茶のお代わりは必要か?必要ならば、持ってくるが」

 

 

 その言葉に栗花落カナヲは懐から銅貨を一枚取り出して、そのまま指で上に弾く。弾かれた銅貨は空中でくるくると回りながら落下していき、栗花落カナヲの手の甲に着地する。この時に銅貨を抑えた片手をあげれば銅貨は『裏』と書かれており、それを確認してから栗花落カナヲは男の顔を見て口を開く。

 

 

「大丈夫です」

 

「そうか。では、湯呑みは片付けておこう」

 

「はい」

 

 

 男はそう言って、湯呑みが乗っかっている盆を持って立ち上がる。

 さて、特にやることがない。

 これが夜ならば、早々に蝶屋敷を後にして狩りへと出向いているが残念ながら今は昼である。先程仮眠明けに爆発金槌とブーツ、そして歪んだ日輪刀の簡単な手入れを行ったばかりであり、正しく手持ち無沙汰である。

 

 

「鍛錬でもするか」

 

 

 仕方なしと言わんばかりにため息をつきながら、男は一先ず片付けの為に台所へと向かう。

 その感覚に何か、つい最近に感じたような苛立つものを捉えていたが、男は無意識にそれを切り捨てた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 台所にて少し早めの昼餉代わりのおにぎりをもらい、蝶屋敷の一角にある道場の方で男が一人木刀を振るい始めてかれこれ数刻が経っていた。

 途中、何やら屋敷の方から叫び声か悲鳴の様なモノが響いていたがそんなものに一々反応するほど男は暇ではない。男はただ黙々と誰にも邪魔される事無く、夕餉近くまでこのまま木刀を振るっていようとして─────

 

 

「精が出ますね」

 

 

 ピタリと木刀が止まった。

 集中していたからか、それとも単純にここが蝶屋敷である為に警戒を解いていたからか、声をかけられるまで気が付かなかった自分に内心で舌打ちながら男は木刀を降ろし、声の主の方を、道場の出入口へと向き直る。

 

 

「しのぶ」

 

「さっきぶりですね」

 

 

 そこにいるのはこの蝶屋敷の主人である胡蝶しのぶ。

 見る者を魅了させるような穏やかな笑みを浮かべながら、男へと近づいてくる知己に対して男はその相変わらずな笑みに僅かばかりの苛立ちを覚えつつも、それを面には出さずに隊服の絝にしまっていた手拭いを取り出して流した汗を拭っていく。

 

 

「それにしても珍しい、あなたが木刀を振ってるなんて」

 

「たまに振らんと腕が鈍る」

 

「そうですか」

 

 

 そんな風に会話しながら、胡蝶しのぶが男に水筒を手渡しながら今回の柱合会議での内容を話し始める。

 

 

「そうそう、あの鬼を庇っていた隊士。竈門炭治郎くんっていうのですが、彼と彼の妹さんは一先ずうちで預かることになりましたよ」

 

「─────は?」

 

 

 男が目を見開く。

 胡蝶しのぶの言葉で木刀を握る手に力が入る。

 木刀が軋む音が道場に響いている。男の表情は、胡蝶しのぶを見る目は、恐ろしい程に冷たく、ありえないものを見るかのようなモノへと変わっていく。それと同時に空気もピリついていくのを胡蝶しのぶは感じるがその表情は一切変えない。

 

 

「意味がわからない。理解が出来ない。納得なぞ出来るものかよ。しのぶ、『蟲柱』。お前は何をほざいている」

 

「御館様の御判断ですよ」

 

「だから?」

 

 

 木刀にヒビが入る。

 

 

「鬼だろう?踏み潰すべき虫だろう?御館様とてそれを理解しているはずだ」

 

「鬼舞辻無惨の手がかりになり得る可能性があるからです」

 

 

 鬼舞辻無惨の手がかり。唐突なその言葉に男の瞳が僅かに揺れた。

 それを好機と判断したのか、胡蝶しのぶは畳み掛けるように話し始める。

 

 

「それに竈門炭治郎くんは鬼舞辻と遭遇していて、彼に鬼舞辻は追っ手を差し向けています。御館様によると禰豆子さんの方も何やら鬼舞辻にも分からない何かが起きているかもしれないそうで、分かりますか?せっかく出てきた鬼舞辻の尻尾を御館様は離したくないのですよ」

 

「.........................鬼舞辻無惨」

 

 

 胡蝶しのぶの話を聴いて、男は舌を打つ。

 男とて計算の出来ぬ愚かな人間ではない。必ず滅ぼすべき鬼の情報、それに繋がるかもしれないモノが転がり込んで来た以上それをそのまま踏み潰すのははばかられた。

 ならばどうするか。

 

 

「.............いい、だろう」

 

 

 順番を。順番を変えよう。

 今踏み潰せば鬼舞辻へと通ずるモノが失われる。それならば、後回しにするしかない、鬼舞辻に繋がる情報全てを出し尽くした時にその鬼を殺せばいい。

 

 

「だが、だが。もしも、その鬼が何かを起こせば殺す。問題は無いな」

 

「ええ、その時はどうぞ」

 

 

 そう、微笑みながら応える胡蝶しのぶにやはり苛立ちを微かに覚えながら男はそのまま出入り口へと向かっていく。

 

 

「何処へいくんですか?」

 

「部屋に戻る」

 

「そうですか」

 

 

 そう言って道場を後にした男を見送る胡蝶しのぶ。残った彼女はため息をつきながら、落ちている木刀の破片を軽く拾い集める。

 

 

「ほんと、不死川さんより頑固ですね」

 

 

 

 

 

 

 

 

──────────────

 

 

 

 

 

 

 

 

「休養のところすまないが、任務だ同士」

 

 

 部屋へと戻った男が真っ先に聞いたのは窓縁にとまった鎹鴉の姿。

 それは願ってもないことであり、男の視線は内容を促すモノに変わる。

 

 

「北北東にて強力な鬼の目撃情報あり。既に数名の隊士が死んでいる。また、逃げ延びた鴉の言によれば字有り!」

 

 

 字有りすなわち十二鬼月、である可能性が高い。それならば、この苛立ちも晴れるかもしれない、そう感じて男は爆発金槌を入れた袋を肩にかけ歪んだ日輪刀を後ろ腰に下げ、ブーツを持上げる。

 

 

「鬼を狩れ!虫を踏み潰せ!この日の本の夜に蠢く汚物全てを、根絶やしにしろ!!山村一心!!!」

 

 

「了解した」

 

 

 桔梗を肩に乗せて、男────山村一心は戻ったばかりの部屋を後にする。

 窓から見える陽は西へと傾き始め、鬼狩りの夜がまた始まる。

 

 

 

 





─────山村一心
 階級・甲
 狩の呼吸の使い手
 色変わりの刀──鶯色
 連盟系鬼殺隊隊士

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