異端の鬼狩   作:カチカチチーズ

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 書きますちゃんと今日から



狩人と玄弥

 

 

 

 

 

 

 

「『反復動作』ですか?」

 

「そうだ」

 

 

 窓際に座り白湯を飲みながら、山村一心は目の前で律儀に正座する不死川玄弥と話をしていた。と、言ってもそれはのどかな談笑ではなく、戦いに必要な術を教えているというものだが。

 目を細めながらも不死川玄弥を見る。

 

 

「集中を極限まで高める為にあらかじめ決めておいた動作を行う。そうする事で様々な感覚が開き、心拍と体温を上昇させる事で通常以上の力が引き出せる……これは全集中とは違うものだから呼吸が使えないお前も問題なく使えるはずだ」

 

 

 指を突きつけながらそう言う山村一心に不死川玄弥は目の前に自分の目標へ近づく為に必要なモノが釣り下げられて、喉を鳴らす。

 不死川玄弥にはどうしても強くならねばならない理由があった。

 既に並の隊士を超えてはいるが、結局のところ『並の上』という程度の評価を出ない。それは不死川玄弥が『全集中の呼吸法』を使う事が出来ないという点が大いに影響している。

 故に不死川玄弥は目の前に転がり込んできた『全集中の呼吸法』が使えない自分でも使う事ができ、そして力を付けることが出来る方法に対して千載一遇の好機であると捉えた。これを逃せば自分は頭打ちであり目標に辿り着くこと無く終わると理解していた。

 

 

「これに関しては、使える隊士はそういない。……ああ、難しいとかそういうの以前に、純粋にこれは岩の呼吸の一部にしか伝わってないのか、単純に悲鳴嶼さんが編み出したかの二択で他の使ってる隊士を鬼殺隊に入ってから見たことがないからなんだが……まあ、そこはどうでもいいか」

 

「…………」

 

「とにもかくにも、お前には充分必要なものだ。本当なら俺なんかじゃなくて悲鳴嶼さんから教わるのが一番なんだがな……師弟なんだから。だが、まあ……」

 

 

 そこまで話して、山村一心は口を噤む。

 その表情はなんとも言えない微妙な表情でそれを見る不死川玄弥はだんだんと不安になり始める。自分に何か教われない理由があるのではないか、と。

 だが、そんな不死川玄弥の不安を煽る様なため息を山村一心はつきながら、再び口を開いた。

 

 

「あの人、あまり教えるのが上手い人じゃあないからな……」

 

 

 思い返すのはまだ階級が『己』であった頃の事。

 一年で『柱』にまで上り詰めた同期らしい男、悲鳴嶼行冥に少しばかりであるが師事してもらえるかどうかを山村一心は頼んだ。そうすればすぐに了承された為に二ヶ月程であるが共に任務を行った。

 その際に山村一心は『反復動作』を習得したが、しかし悲鳴嶼行冥は残念ながら教えるのが得意ではなく───と言ってもそれなりに形ある教え方で擬音語混じりではなかった、がそれでも分からなかった───悲鳴嶼行冥の戦いや修行をよく見て『反復動作』の方法を盗んでみせた。

 そう言った経緯がある為、山村一心はこうして不死川玄弥に快く『反復動作』を教える事を決めていた。

 

 

「……まあ、あの人から何か特定のものを得ようと思ったら見て盗め……」

 

「は、はい……」

 

 

 遠い目をしていた山村一心は一度咳払いをしてから、脱線していた話を切り替え直す。

 

 

「さて、『反復動作』だが。これを行う為に一度自分の中で動作を決めておくんだが……例えば悲鳴嶼さんは念仏だな、南無阿弥陀仏唱えているだろう?」

 

「はい。唱えてます」

 

「俺は……まあ、俺も似たようなものだ。自分の中で決まった文言を唱えて意識を切り替え、集中する。明確に強く想像した方がやりやすい」

 

 

 その言葉に不死川玄弥は目を瞑り始める。

 どうやら、自分の中でどのようなものがあっているのかを思考しているようだ。それを見ながら山村一心は再び目を細めて、自らもまた思考の海に没していく。

 思い返すのは昨晩の事。

 

 

 

 

 

 

 

 

─────

 

 

 

──────全集中・狩の呼吸 陸の業・慈悲鳥葬

 

 

 人外と堕ちた男、不死川玄弥の背後。

 そこへめがけて翔びゆくのは一人の狩人。まるで鳥が翼を羽撃くようにその手に握っていた一振りの歪んだ日輪刀が二振りの日輪刀へと変わり、両の手で山村一心は日輪刀を持つ。

 呼吸法であるにも関わらず音が嫌に静かで、不死川玄弥もそれに気づかない。狩られた事に気付かぬように、痛みを感じる前に殺す慈悲すら感じさせる刃が不死川玄弥へと迫る。

 そのまま刃は振るわれ、不死川玄弥の頸は切り裂かれる。

 

 

 

「待て」

 

「「ッ───」」

 

 

 頸を切り裂こうとした刃と不死川玄弥の間に高速で何かが飛来する。

 それと共に響いた声に二人は目を見開き、不死川玄弥はようやく背後から襲われていた事に気が付きすぐさまその場を飛び退き、山村一心もまた逆方向に飛び退く。

 先程聴こえた声からしていま飛来してきたものが何なのかは見ずとも山村一心には理解出来た。故に視線を声のした方へと向ければ、そこには『岩柱』悲鳴嶼行冥が先程の場所に鎖を伸ばして立っていた。

 悲鳴嶼行冥の近くにある鎖の片端を見ればそこに繋がっているのは棘付きの鉄球。山村一心はそれを見て、自分の方に飛ばしてきたのは手斧の方であると理解しつつ、片方の日輪刀を逆手に持ち替えながら悲鳴嶼行冥に向けている視線を責めるような視線へと変える。

 

 

「玄弥、動くな。山村もだ……」

 

 

 有無を言わせぬ悲鳴嶼行冥の言葉に不死川玄弥はその場で硬直し、山村一心は硬直せずともその言葉に込められた圧力に日輪刀を掴む手に力が篭もる。

 

 

「悲鳴嶼さん、これはどういうことか教えて貰えますかね。返答次第ではアンタも殺す」

 

 

 山村一心の問いかけにはあくまで悲鳴嶼行冥の生殺与奪の是非しかなく、鬼と化した不死川玄弥は確実に殺すという意思のみがあった。それを不死川玄弥も理解したのだろう、その頬をやけに冷たい汗が流れていき、この場にまるで時でも止まったかのようか静けさだけが広がっていく。

 そんな静寂を裂くように悲鳴嶼行冥がその口を開いた。

 

 

「玄弥は鬼ではない」

 

「……なるほど、確かに。俺の話した不死川玄弥は鬼ではなかった───で?ならこれはなんだ?」

 

 

 殺意のみがそこにある。

 次の言葉次第ではすぐにでもその頸を切り裂く、言外に主張する山村一心に悲鳴嶼行冥は厳然とした態度を一切揺らさずに言葉を続ける。

 

 

「玄弥は鬼を喰らい、その身体を強化している」

 

「────は?」

 

「無論、一時的に理性や判断力の低下はあるが人喰いをするほど愚かではない。仮にした時は私が殺す」

 

 

 ありえない。そんな言葉が山村一心の胸中に浮かび上がった。

 鬼を喰らう?

 なんだそれは。意味がわからない。

 山村一心の思考が回り始めるが、そんなことは知らぬと悲鳴嶼行冥はさらに続けていく。

 

 

「先も言ったがあくまでそれは一時的なもの。しばらくすれば、元の人間に戻る」

 

 

 何を言っている。

 頭が痛い、理解できない、脳が疼く。

 

 

「山村」

 

「…………つまるところ?コレは鬼ではないと?」

 

「……そうだ」

 

 

 急速に山村一心の思考が冷たくなっていく。

 それは偏に思考が鋭敏化していく最中に投入された情報過多が原因となっている。一種の逃避というやつなのだろう。

 鬼を庇う隊士とは別に、悲鳴嶼行冥が不死川玄弥を庇ったのは不死川玄弥があくまで一時的に鬼のような力を得ているだけでしばらくすれば元に戻るからというのを山村一心は胸中の片隅で理解しているが故に殺意が沈静化しているのかもしれない。

 

 

「…………そうか」

 

 

 山村一心は最後にそう呟きながら、その手の日輪刀を再び重ね合わせ一つに戻してから腰に下げ直す。

 悲鳴嶼行冥は予想以上に早く矛を収めた山村一心に警戒しながらも不死川玄弥のもとに歩み寄る。山村一心は目を細め

 

 

 

「で?逃げられると思ったのか?」

 

 

 直立状態からの瞬間的加速をもって少し離れた所にあった木を蹴り砕く。

 肆の業と弐の業を組み合わせた一撃は容易く木を破壊し、同時に周囲に血をぶちまけた。

 何も無い空間から出た血を見て、不死川玄弥は目を見開き、悲鳴嶼行冥は顔を顰める。

 

 

「なん、で……」

 

「明らかに何も無い空間が動いてれば気づくだろう」

 

 

 次の瞬間には何もなかった空間には頸の無い死体が崩れ落ち、蹴り砕かれた木の近くには頸を蹴り飛ばされ破壊された鬼の頭が転がり、そのまま塵と消えていく。

 それを踏み躙りながら、再び不死川玄弥を一瞥してから山村一心は山を降りた。

 

 

 

 

 

 

─────

 

 

 

 

 

 

 

「────その結果がこれか」

 

 

 息を吐きながら、対面で頭を悩ませ唸る不死川玄弥を見る。

 昨晩、山を降りた山村一心は藤の花の家へと向かい早々に就寝し、今朝方になってみれば起きて早々に悲鳴嶼行冥から不死川玄弥を任された。

 その意図を聞いてみるに一度不死川玄弥を診察させたいようで御丁寧に紹介状なのか一筆したためた文を押し付けられ、悲鳴嶼行冥は次の任務先と向かっていった。

 それにため息をつきながらも山村一心はこうして、蝶屋敷へと向かう傍ら不死川玄弥へと気まぐれながらも、呼吸法の代わりとなる戦い方を教えていた。

 無論、気まぐれと言っても気まぐれで教える程度の理由はある。

 まず一つ、それは先程も挙がったが悲鳴嶼行冥に任されたからであり、一時期とはいえ自分も悲鳴嶼行冥のもとで修行したことがあるからだ。つまりは兄弟弟子のような感情が片隅にあった。

 二つ目、呼吸法が使えないからと言って安易に『鬼喰い』という方法に手を出した事に思うところがあったため。無論、決して不死川玄弥も安易にその手段を選んだわけではないだろう。普通、鬼を喰ったからといって鬼の力を得られるわけがなく、山村一心が話を聞く限りにおいて鬼化状態にあると気質が鬼のそれに近づくということ、いったいどういった経緯で最初の『鬼喰い』を行ったのか山村一心は知らない。しかし、それ以降に多くの葛藤と後悔、悩みがあったのは察せられた。それ故に山村一心は先達としてせめて一つでもと道を示すことにした。

 そして、最後に彼が『不死川玄弥』であるからだ。

 山村一心が共に食事をする程度には気心の知れた間柄である隊士『風柱』不死川実弥の実弟であろう男。実際、山村一心は不死川実弥本人から弟がいるという事を聞いていた。そして、鬼殺隊に入ることとなった経緯も───多少の誤魔化しはあれども───。また、ともなれば目の前の男が兄を追ってきたというのは簡単に察せられる。友人の弟がみすみす死ぬ様なことになれば、山村一心とて心が僅かに痛むというものだ。

 

 それらの理由から山村一心は不死川玄弥にその気まぐれを与えることにした。当たり前だが、そう言った理由は一切当人には伝えはしない。

 

 

「…………」

 

 

 白湯を飲み干し、もう一度不死川玄弥を見てから山村一心は息を吐く。

 

 

「難しく考えるな。あまり言いたくはないが、存外簡単なものだ。痛みや怒りの記憶は鬼殺隊に入るならば既にある事が多い…………だから、お前が考えるのは意識を切り替える動作だ」

 

「……はい」

 

 

 山村一心は湯呑みなどを片し、部屋の隅へと置いてから敷かれていた布団に入り込む。

 

 

「明日からは『反復動作』の修行をやりながら、蝶屋敷に向かう。考え過ぎで寝不足にはなるなよ」

 

「は、はい!」

 

 

 不死川玄弥に釘をさしてからそのまま山村一心は目を瞑って眠りにつく。それを不死川玄弥はしばし見てから、頭を横に振り山村一心に続いて自分の布団へと入り込みそのまま眠りについた。

 

 

 

 

 

 





狩の呼吸
 陸の業・慈悲鳥葬

 空中からの襲撃。明確な型というものが半分もない狩の呼吸の中で『歪んだ日輪刀』を用いて行う静かな業。
 無音で飛来するそれはまさしく慈悲の刃だろう。

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