光には存在しない者達   作:ペペロンチーノ伯爵

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シーズン1『呪われた兵器』
プロローグ・エンド


………ん………かん……

 

 

酷い耳鳴りだ……意識が震える、開こうとする瞼が重く目まぐるしい…………。

 

「…………きかん………きて」

 

声が……そうか、ここはきっと戦場なのだろう、酷い耳鳴りのせいで何も聞こえないが…………誰だ……何処にいる…?

 

「ねぇ!!指揮官!!!おきッッて!!」

 

「ッッ…………!!」

 

凄まじい勢いで身体を揺さぶられ、男は目を覚ます。

眼前の死角から差し込む昼間の明かりと視界を覆う狐色の髪、自分の瞳孔が戻った事をじっと見つめて確認する右目に傷がある少女は安堵の声を上げ、いつもの笑顔を取り戻す。

 

「指揮官、大丈夫??」

 

「あぁ……すまないな、9(ナイン)

 

思い出してきたぞ……『正規軍』の絨毯爆撃(じゅうたんばくげき)に巻き込まれたんだったな。

俺は9(ナイン)の手を借りて瓦礫の下から立ち上がり、『アサルトライフルACR』を拾い上げる。

 

「どれぐらい飛んでいた?」

 

「うーん、1分くらいかな」

 

「そうか…………45(よんごー)はどうした」

 

「45姉はあっちで偵察して……っ、待って指揮官!左腕!」

 

9の視線をなぞると、本来の可動限界を超えた左腕が垂れ下がっていた、アドレナリンによって痛みを抑制されていたのか気付かなかった。

右手に持ったACRを腰に下げ、折れ曲がった左腕を折り治す。

 

「痛った…………」

 

「お前が言ってどうする。さぁ、早く行くぞ」

 

「りょーかいです♪」

 

爆撃で倒壊した民家の中を駆け抜け、9の後に着いていくと、彼女と同じブルゾン姿の少女が付近を偵察していた。

 

「45、どうだ?」

 

問い掛けると、彼女は手に構えたUMP45を下げてこちらに振り返る。

9と逆の左目に古い縦傷を持つ45は煉瓦の足場から降り、正面に立って俺の全身を見つめながら左腕にそっと触れた。

 

「怪我したんですね、これで何度目ですか?」

 

「お前は今まで自分が撃った弾丸の数を覚えているのか?」

 

「ふざけてるの…………?心配してたのに?」

 

「分かってる、すまなかったな。すぐに移動しよう」

 

ポーチから遠眼鏡を取り出し、遮蔽物の隙間から外を覗く。

 

「ふむ……2時の方向でグリフィンの人形が鉄血と撃ち合ってるな…………」

 

「11時の方向、山の上で正規軍がキャンプを張ってる……どうするの指揮官?」

 

「そうだな…………」

(このまま真っ直ぐ出ていけば双方から発見される……かといって引き返せば正規軍の爆撃に巻き込まれるかもしれん……)

 

刹那、死の予感を察知して遠眼鏡を引っ込めて頭を反らした瞬間、一発の弾丸が眉間を掠める。

 

「ッッッ……!!」

 

「9時の方向!!スナイパー!!!」

 

「指揮官、大丈夫?」

 

「心配ない45……反撃するな!移動するぞ」

 

二発目の弾を躱した所で彼は確信した。

 

(っ……これは…………WA2000か、もうこんな所までグリフィンの追手が来たか……面倒な)

 

遮蔽物に身を隠しながら素早く移動し、スナイパーの射線を掻き消すために大きな貨物列車用倉庫の中に入り、背後を振り返った直後、9の左脚の脹ら脛をWA2000の弾丸が貫いた。

 

「あッ!……ぎぅ……!!」

 

「ッッ!!!」

 

「俺が行く!お前は中をクリアしろ!!」

 

迷い無く外に飛び出し、完全に遮蔽物の外に投げ出された9を確認して滑り込む。

 

「ちょちょ!!危なー」

 

「黙っていろ、弾は貫通してる、行くぞ」

彼女の肩を担ぎ、膝に力を入れて遮蔽物に跳ぼうと脚を動かそうとしたところで動きをピタリと止める。

 

「ッ!?」

 

「…………さぁ行くぞ」

 

動きを止めた瞬間、彼の目の前を弾丸が弾き飛んできた。

 

「予測撃ちを誘って…………相変わらず無茶苦茶ですね」

 

「45、どうだった?」

 

「まだ全体はわからないけど、とりあえずセーフハウス(安全地点)は確保した」

 

「よし、そろそろ自分で歩け9、行くぞ」

 

「ううぅ……鬼畜…………ブラックだよぉ…………」

 

「何とでも言え。さぁ行くぞ」

 

泣きべそを掻く9を尻目にセーフハウスに入り、気休め程度の防衛線を張ってから、9の方に視線を向けると、9は涙目になりながらも奇しく笑みを浮かばせながらぶつぶつと文句を言っていた。

 

「酷いよね45姉……?いくら人形だからってさ……女の子の脚に穴が空いてるのに見もしないとか…………」

 

「たまに指揮官って最低な鬼畜野郎になるよね……」

 

「…………まぁいい。45、9の応急処置を」

 

「ん、分かっー」

 

「いーやー!指揮官にしてほしいです!!!」

 

「……………………」

(…………なんだこいつ)

 

仕方なく、彼女が伸ばした脚の弾傷の応急処置をしていると、不意に45が話し始める。

 

「そういえば、初めて指揮官と会った時の事を思い出しますね」

 

「なんだ急に」

 

「懐かしい!思えば、色々あったよね、あの日から!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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2064年12月26日

機密記録コード68427

≪コールドヘイト作戦≫

作戦概要

『この任務はゴースト部隊による機密作戦です、我々ゴーストの存在を世界に認識・検知された場合、作戦遂行中の隊員全ての国籍を削除し、ゴーストは関与の一切を否定します』

作戦遂行隊員合計8名:作戦指揮兼部隊隊長

グレイブス・フェニックス

 

 

 

ー12月26日21時30分ー

 

 

 

「…………よし」

 

豪雪の中、グレイブスは小さくコンパクトな蜘蛛型の索敵ドローンのレンズを親指で軽く拭き、雪の上を歩かせて見る。

 

「問題は無さそうだ……こちらナイトフォール、これよりコールドヘイト作戦を開始する」

 

 

 

 

ー12月26日21時25分ー

 

 

 

 

今まで、たくさん酷い事をしてきた。

老若男女に子供まで、いっぱい『捌いてきた』だからこれは天罰というのだろうか?

今日から私は『売る側』から『売られる側』

分かってたよ、こうなるのは、どうせ安らかには死ねないって。

 

「……………………」

 

「……………………」

 

他の『人間』と一緒に、繋がりのない姉妹は真っ暗なコンテナの中に容れられていた。

身を纏う物は無く、何度もいたぶられ、刻まれ、輪姦された身体にコンテナの錆が擦れる。

その目に色は無く、光もなかった、

絶望もない、後悔もない、有るのはたった一つ、彼女達に残された感覚はたった一つ。

 

((…………寒いなぁ…………))

 

また誰か、知らない人に犯されていた方が暖かくなる。

霜に覆われたコンテナの壁に付いた左手の凍傷が悪化する。

目の前が霞む、どういう訳かとっても眠い…………もう十分だったかな……うん…………もう……………………

 

「……………………」

 

「……………………」

 

二人が瞼を落とし掛けたその時、コンテナの外が騒がしい事に気が付いた。

悲鳴の呟きと共に、枯れたような何かの発射音、これには聞き覚えがある……懐かしい音……もう二度と聞くとこはないと思っていたから……あぁ……だんだん、音が……。

コンテナが開き、もう沈む寸前の瞼に当てられた目映い光の先には、様々な仮面を着けた人間達が入ってきた。

 

「…………α2(アルファーツー)、とα4(アルファーフォー)は入口を見張れ……………………」

 

人間達の一人、妖狐の面を着けた男が二人に駆け寄る。

 

「速くヘリを要請しろ、生きている者は全て連れ出すぞ」

 

左目に傷のある少女の手を取る。

 

「まずいな……重度の低体温症だ……栄養失調に脱水症状……ひどく弱ってる…………もう大丈夫だからな」

 

そう呟いてパックリと裂けた手のひらの凍傷に包帯を巻き、二人の頬に手を添える。

 

「おい寝るな、起きろ……!いいかよく聞け、必ず助ける、もうしばらくの辛抱だ頑張れよ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

~現在~

 

 

 

「ーって!」

 

「もう4年も前の話だろう」

 

「4年……指揮官は何も変わってないね」

 

応急処置を済ませ、グレイブスは立ち上がる。

 

「無駄話はここまでにしよう、ランディングゾーン(ヘリコプター着陸帯)まであと少しだ」

 

「もう行くの?もうちょっと休んでからでもー」

 

「駄目だ、グリフィンの追手がすぐそこまで来ていただろ、早急に移動する」

 

「それもそうですね、賛成です」

 

「45姉まで……うぅ、分かった、分かりました!」

 

不貞腐れる9を無視してドアノブに手を掛けると、捻り口に奇妙な重さを感じた。

 

「……しまった」

 

「どうしたんですか?」

 

「ブービートラップだ、この重さからして繋がってるのはC4…いや、C3軟性式爆薬か」

 

「C3って確か……粘土見たいに形を変えられるヤツだっけ?」

 

「そうだ、こいつは厄介だな」

 

C3ほどの爆弾ならばこのセーフハウスごと爆発させられるはずだが、そうしないのは俺達がこの部屋に居るのがバレていない証拠でもある。

 

「どうするの?」

 

「……………………」

 

そもそも仕掛けたのは何者だ?グリフィンの追手…………いや、それにしては早すぎる、となれば……。

 

「45、スモークチャージ」

 

「了解です」

 

「9、カバーだ」

 

「あの、私怪我人なんですけど……あのぅ?」

 

45が投げたスモークグレネードの煙幕はセーフハウスの外にまで漏れだし、C3を仕掛けた正規軍の注意を引く。

更に煙幕の中で強力な電磁パルスが広がった。

 

「ッッ、なんだ!?」

 

パルスの発生音と煙幕によって状況の判断が遅れた正規軍の一人の頭に投擲ナイフが突き刺さった。

その事態に煙幕から目を反らした瞬間、煙幕の中から現れた二人は引き金を引く。

 

「あれ、指揮官!これホロが見えないよー!」

 

グレイブスの肩に左手を添えながら追従する9が笑いながら弾をばらまく。

 

「当然だろう、EMPを使ったんだから」

 

「聞いてないよ!?」

 

「聞いてないだけだろ、言ったぞ」

 

9とは対称的に、グレイブスの射撃はリズミカルな単発撃ち(セミオート射撃)で正確に敵を撃ち抜いて行く。

無駄話を省けば、言葉など無くとも二人の連携は完璧であり、互いの死角を把握して視線を動かし続けて四方から迫る正規軍を殲滅する。

弾薬の消費が激しい9がUMPの弾丸を一発だけ残してマガジンを捨てると同時に、グレイブスは彼女の弾帯から45ACPマガジンを抜いて隙なく、すれ違い様にUMPのマガジンを装填した。

その速度は彼女でも装填された事に気付かないほどスムーズであり、カバーリングサポートの完成形に近い。

 

「…………っ!」

(今だ!)

 

9もグレイブスがACRのプラスチックマガジンを抜き捨てたその瞬間に彼の弾帯に片手を伸ばすが、瞬きした時には既に、彼は自分でマガジンを装填しており、更には9が肩から手を離した瞬間に振り返り、屋上階段の上から彼女の背後を取っている正規軍の狙撃者を倒す。

手を離したことで急な動きに着いていけず、逆足を擦ってバランスを崩した9を背中で支えながら自分の視界と、その死角に滑り込んだ敵を撃ち、物陰から攻撃の機会を待つ正規軍兵士に制圧射撃を行ってプレッシャーを掛ける。

 

「9、無事か?」

 

「は、はい…………ごめんなさい」

(指揮官と同じ事しようとしたら逆に足引っ張っちゃった……恥ずかしい)

 

そう言って左手でもう一度彼の右肩をしっかりと掴む。

 

「肩から手を離すな、この状況でお前が戦闘不能になっても助けてやれんぞ」

 

「肝に銘じておきます……」

 

物陰に隠れる敵の横から、二人とは別行動をしていた45が設置されていたC3を再び起動させて隠れる正規軍に投げ込む。

C3の爆発力は強力で、物陰どころか、倉庫の入口ごと吹き飛ばして塞いでしまった。

 

「……………………クリア!」

 

「クリア!!」

 

「クリアだ、敵はいないが用心しろ、出口から出るぞ、先導する」

 

慎重深く出口の扉に近付き、ゆっくりとドアノブを捻りながら少しだけ隙間を開いてから外を覗き、思い切り扉を押し開けながら外に飛び出す。

 

「物陰に沿って移動するぞ、WA2000が監視してるかもしれん、さっきの騒動は奴等にも聞こえているだろうからな」

 

しばらく慎重に歩き続け、壊滅した住宅地を抜けて噴水広場のランディングゾーンに到着すると、それを見計らったようにゴーストのヘリが見えてきた。

そしてヘリがランディングゾーンの真上に来たところで、グレイブスは背後の気配を察知して銃を構える。

 

「…………指揮官……」

 

45と9もそれに続いて振り返ると、そこには薄着で腰に長袖の服を巻き、喉元に髑髏の隠布を結んだ少女が、その場に武器を置いて立っていた。

 

「M4A1か……」

 

「どうするの指揮官」

 

「9、武器を破壊しろ」

 

呼び声と共に9が彼女の銃を撃って破壊する。

 

「………………初めから戦う意思は無いんです!指揮官!」

 

「…………二人は先にヘリに乗れ」

 

「了解」

 

「分かった、ならさっさと帰れ、武器もなく、どうするつもりだ?」

 

ゆっくりと後退り、グレイブスもヘリに乗り込み、パイロットに離陸の指示をする。

 

「指揮官!!」

 

M4は飛び上がり始めるヘリに乗り、ずっとこちらに銃口を向けるグレイブスに呼び掛ける。

 

「本当に……私達を裏切ったのですか!?本当に…………あれは嘘だったんですか!?指揮官!!!」

 

M4の外線通信にグレイブスの無線が接続される。

 

《…………それは、お前達が決めろ》

 

無線が切られ、ヘリがそのまま行ってしまうその時、M4は懐から、正規軍の死体から剥いだハンドガンを取り出した一瞬、グレイブスの弾丸が彼女の右足を撃ち抜く。

 

「…………こちらゴースト、これより帰還する」

 

グレイブスはM4から目を離し、ヘリのドアを閉めた。

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