深夜帯に入る一歩手前の深い夜の中、グレイブスはメッセンジャーが発する信号を探知した。
「ん……なぜ今頃………」
探知した信号の場所を割り出す。
場所は大規模商業地区内の小型保管倉庫。
「この距離なら歩いていけば丁度いい時間になるか」
民衆繁栄地区を出てまっすぐ大規模商業地区まで歩いて向かい、予想通りちょうど日付が変わると同時に到着できた。
「警備員が数人………」
警備員の眼をくぐってなんとか倉庫の中に入り、物音を立てないように奥へと進むと、そこで彼女達がグレイブスを待っていた。
「……………アンジェ」
「1年振りかな、グレイブス?」
待っていたのはゴーストのメッセンジャーではなく国家保安庁に所属している諜報員アンジェリア、そしてグレイブスを囲むように左右からAK-12とAN-94が姿を現す。
「……………………」
信号は俺の左側に立っているAK-12を示している。
「なるほど、ゴーストに情報があると送り、メッセンジャーに成り済ましたのか」
「そうよ、かなり苦労したけどね、危うくそっちの排除システムにメンタルを侵食され掛けたわ」
「夜中になってからの一度しかゴースト専用の信号を送らなかったのは何回も接続してたら彼女のメンタルモデルが持っていかれる可能性があったからよ」
「……………」
アンジェの話を他所にグレイブスは目の前に立つ三人の全身を隅々まで観察する。
(……武装は無いか………やはりコイツらでも武器は持ち込めなかったようだな………それよりも)
「………セーフガードには本物のゴースト隊員もいる、彼らに手は出してないな?」
「もちろんそんな事はしていない」
そのアンジェの言葉に続いて冗談っぽくAK-12がクスリと笑いながら口を開く。
「そんな事したら私達三人とも一週間以内に貴方に殺されるでしょうね」
「AK-12……冗談ではすまないわ」
「そうだなAN-94、セーフガードにいる限りは大丈夫だが、セーフガードから出れば4分で殺してやる」
ーーーが。
グレイブスは息を着き、正面に立つアンジェに視線を向ける。
「隊員が無事ならそれでいい、それで?俺に何の用だ?俺がセーフガードに派遣されることも想定済みなんだろ?」
「ええ、でなきゃこんなことしないさ」
アンジェは木箱にのし掛かりながら煙草を取り出して火を付ける。
「ーっ……ふぅー………私達はIOPの意地汚い猫女から依頼されて来たのさ」
「猫女……………ペルシカか」
「あんたにこの手の事例で嘘八百は通用しないからね、正直に言わせてもらったよ」
「その依頼とは?」
「………依頼は二つ、まず一つ目はゴーストに協力する事だ」
グレイブスの眉がピクリと動き、疑問を晴らしていく。
「なぜ、俺達に協力を?」
「さぁね、単なるペルシカなりの優しさじゃないか?それにそこにいる二人も割りと乗り気でね」
「………………」
「貴方の思想や行動原理は見ていてとても楽しいし興味深いからね、もう一度アレが見られるなら見てみたいと思ったのよ」
「私も……AK-12と同意見、グレイブス、貴方には何処か惹かれる物がある」
「………………そうか、俺としてもお前たち反逆小隊が協力してくれるのは非常に助かる……だが独断で決められることではない、協力の件はゴースト内で決めさせてくれ」
「別に構わないよ、断られた時は何らかの間接的な協力をさせてもらうから」
既に、グレイブスは左右に立つ二人の異様な気配に勘づき、後退りしてみると、AK-12とAN-94の二人もグレイブスの動きに合わせて移動していることに気が付いた。
「二つ目の……依頼は?」
「………………………」
アンジェの眼が鋭くなり、煙草をスティック型の灰箱に入れてポケットにしまいこむ。
「グレイブス……あんたの記憶の閲覧だよ」
「っ………………その意味を分かっているのか?」
「記憶については詳しく聞かせてもらったよ、その上であんたの記憶を見せてもらいたい」
刹那、アンジェの目に映るグレイブスの気配がガラッと代わり、漏れ出る殺意と覇気に全身の鳥肌が逆立ち、戦慄する。
だがアンジェは怯むこと無く、左右の二人に指示を出す。
「グレイブスを拘束しろ」
「大人しく捕まって頂戴グレイブス、あまり貴方に手荒な事はしたくない」
「………じっとしてて」
「………………………お前たち二人だけで、俺を捕らえると……?」
「ッッ………!?!?」
「ぅッッ……!!!!」
その眼は恐ろしく冷酷な青い残光を煌めかせ、睨み付けられた二人のメンタルモデルには生々しくリアルな己の死の映像が流れる。
「………フハッ、相変わらずとんでもないヤツだなグレイブス、確かに丸腰とは言え装備なしであんたを拘束するのは不可能だろうな………だが『今のグレイブス』なら話は別だろう?」
「ッ………知っているのか………」
「………なんの事?」
「私は何も知りませんが……?」
アンジェは二人にも見えるようにある紙を地面にばら蒔く。
「………クソ………」
「これはセーフガードの入居者健康情報が記載されているデータさ、グレイブス……原因は分からないがあんたはいま、かなりの衰弱状態にあるはずだが?」
「え………?」
「………………グレイブス、まさかお前、身体に異常があるのか!?」
先程よりも余裕が無くなったAN-94が迷い無くグレイブスの右手首を掴む。
だがグレイブスには掴むその手を振り払う抵抗力すら無かった。
「っ………………」
「その状態じゃ流石に彼女達を退けるのは無理だろう?なに、傷付けたりはしない」
「………無駄だ、お前達に俺の記憶を覗くことは出来ない」
「それはやってみないと分からない」
三人に連れていかれた場所は倉庫の地下に造られていた狭い研究室であり、グレイブスは部屋の中央に置いてある椅子に座らされ、両手両足を拘束される。
「………………」
「貴方は無駄に抵抗しないと思うけど、念のためよ」
「……何をするつもりだ?」
目の前に立つAK-12に問い掛ける。
「貴方の生態電気を私のメンタルモデルに接続して脳波に侵入するの」
「そこから俺の記憶を覗くのか……だが俺の記憶には強力なミーム汚染がある、お前のウイルス抵抗力は実に優秀だが、次元が違う………死ぬぞ」
「そうねぇ………でも、今回は軍のアクティブ不干渉システムを私に組み込んでから侵入するのよ、システムを取り入れたら動けなくなるけど、戦闘中じゃないし、問題ないわ」
「あの、AK-12」
自信満々に微笑むAK-12に声を掛けるAN-96の顔は不安げだった。
「健康情報の書類を見た……?今のグレイブスは極度の衰弱状態、このまま接続を開始するのは彼の命に関わる……」
「………大丈夫よ96、確かに彼の身体は弱りきっている、でもそれと精神力は別よ、グレイブスは私が頭の中に入ってきた程度でどうにかなるほど柔じゃない、よく知ってるでしょ?」
「………………うん」
「むしろ、気を付けないといけないのは私の方ね、いくら軍のアクティブ不干渉システムがあるとはいえ、彼の精神世界に入るのはとても危険で………何よりも楽しみだわ」
微笑むAK-12は拘束したグレイブスの目の前に椅子を置き、両手を彼の頬に添える。
「………うん……うん………」
「何も分かってないだろAK-12、変な芝居はやめろ」
「あら、バレた?」
するとAK-12の両手は両耳に触れ、力を込めて塞いだ。
「………AK-12」
「………?」
何も聞こえていないグレイブスは少し大きめに声を発する。
「後悔するなよ………何を見ても……何を知っても………お前は誰にも喋れない」
「………………聞こえていないだろうけど、私が理解していればそれでいいわ、ペルシカの依頼は単に私に記憶の閲覧が可能かどうか、それだけなんだから」
「………必ず戻ってこい」
「………………ええ」
軍のシステムをフル稼働させ、全てのリソースをグレイブスの脳波の検知に回してヒットを待つ。
「………来た」
AN-96とアンジェの見守る中、脳波を検知して自身のメンタルモデルと共有させる。
そして脳波の波をツェナーネットワークと接続させて足場を創り、グレイブスの生態電気で己の姿を構築し、自由にグレイブスの精神内を行動出来るようにした。
「これから彼の精神世界に侵入するわ、その後は私が戻るまで私の身体はシャットアウトするからびっくりしないでね」
電脳空間に似せた精神世界に立つAK-12は目の前に構築された扉の前に立って閉じた己の両目を開眼させる。
その瞬間、触れてもいない扉が開き、青と白のコントラストで構成される精神世界が一瞬で灰色に侵食されていく。
「………これは………」
目の前に広がる世界は灰色に染まり、太い白樺の木が乱雑に生えており、足元には地面一面、水平線の先まで真っ白なキクの花で埋め尽くされていた。
「………………っ!」
後ろに振り返ると、キクの花の上に墓石が置いてあり、その数は無限にも思えるほど広大に広がっていた。
「………」
墓の前にしゃがみこみ、墓石に書いてある文字を読み取る。
「1973年4月13日17時23分53秒『クロスカントリー作戦』:死去……アルク・ジャックス………これは一体?」
他の墓石も同類に、事細かな時刻、作戦名の後に死んだ者の名前が刻まれていた。
「これ……全部………覚えてるってこと?」
どの墓石に書いてある文字は真新しく、一切の霞も無かった。
「でも今は2060年代よ……?、1970年代って………彼は一体……………ん?」
偶然にもキクの花を避けて手を付いた地面に違和感を覚え、花を掻き分けて見る。
「……ッッッ!?!?!?!?!?」
地面から握り取ったのは土ではなく、人間の骨だった。
サラサラと砂だと思っていたのは灰色の遺灰であり、思わずAK-12は勢いよく起き上がり、墓石から後ずさる。
「まさか………この周り全部………」
見渡してみると、目に見える世界の地面全てが遺灰と遺骨で埋め尽くされていた。
気が付くと、AK-12の背後に鉄の椅子が無造作に置いてあった。
椅子は錆び付き、そして乾いた血が大量にこびりついており不気味な気配を醸し出している。
「これに……座れと?」
椅子に近付き、警戒しながらもゆっくりとキツイ錆と血の臭いを受けながら腰を下ろす。
座ってから瞬きをした瞬間、世界が変わる。
灰色一色の空は暗闇に染まり、大きな満月から与えられる月明かりだけが視界を照らしていた。
キクの花は更に数と丈を伸ばし。AK-12の足首から膝辺りまで異常な成長をしている。
椅子の肩掛けには持ち込めるはずがない自身の武器AK-12が立て掛けてあり、それと一緒にある程度の装備品が置いてあった。
「………………何が起きてるのかしら」
椅子から立ち上がり、装備品を身に付け、AK-12を両手に周りを見渡しながら少し歩いていると。
「っ………?」
目の前の月明かりの下に、完全に倒壊して古錆びた大きな建物が現れる。
外装は剥がれ落ち、屋根を失って骨組みだけのその中心に黒光りする謎の長方形の装置が赤いランプを点滅させながら外傷なく設置されていた。
そしてその装置に背中を預けてもたれ掛かる男の姿が見える。
「………………………」
(グレイブス……?)
素顔が見えないように被った鬼の面は血染めの朱黑に染まり、身に纏う灰色のトレンチコートも血塗れになっていた。
片手には
彼はゆっくりと気配を消して近付いてくるAK-12の存在に気が付き、俯かせた顔を上げて彼女の方に向く。
「………………」
「っ………」
(この感じは………)
装置から離れ、AK-12をじっと見つめたままLVOA-Cを両手に持って銃口をこちらに向けて構えた。
「ッッ!」
特別にカスタムされたLVOA-Cから放たれる亜音速の弾丸が寸で躱したAK-12のこめかみを掠り、皮を削りおとした。
障害物に身を隠し、姿勢を低く保ちながら反撃に移る。
「なるほどね………貴方を倒せば、私はその先が見れるわけ………」
向かい側に見える障害物を確認し、AK-12は≪眼≫を開眼させる。
障害物から飛び出し、地面を転がりながら銃口をグレイブスに向けて連射した。
反撃に出たAK-12の攻撃を避けてグレイブスも障害物に隠れた。
「チェックメイト………!!」
グレイブスが隠れた瞬間を見計らって全力で距離を詰めるAK-12の足音は全くの無音であり、それでいてほんの2~3秒で彼が身を隠した障害物の目の前まで詰め寄った。
そして障害物の裏に飛び出しながら武器を構える。
こちらに向いているならばまだしも、グレイブスは完全に背中を向け、既にソコには居ないAK-12の出方を待っているようだ。
音はもちろん、彼女の気配すら勘づけていないグレイブスの後頭部に向けて照準を合わせ、引き金をひくまで引くまでたったの0.7秒。
「ッッッッ!!!!」
マズルフラッシュが目の前を塞いだほんの一瞬。
閃光が消えかけ、始めに目にしたのは、彼の仮面から覗く淀んだ青色の眼光だった。
死に直結する悪寒を感じ取ったグレイブスはAK-12が引き金を引いた瞬間に身を躱し、身体を急回転させて彼女に振り返ったのだ。
「チッッー!」
(これよこれ………貴方のその異常な危機察知能力が健在である限り致命傷を狙った不意撃ちは効かない………ホント厄介ね)
完全に至近距離で交わった二人は互いに吐息が掛かるほどの距離で睨み合う。
グレイブスは声一つ発さずにLVOA-Cの下部レールに取り付けたアサルトナイフが一緒に装着してあるアングルグリップを握り込み、AK-12の腹部に容赦なく差し込む。
「フッ!!ッッー!!!」
身体を捻って刃を避け、グレイブスの右膝に左足を絡めて体勢を拘束、後頭部に向けて銃のストックを思い切り振り下ろした。
だが振り下ろされたストックはLVOA-Cで防がれ、強烈な肘打ちを脇腹に喰らってたまらず拘束を解いた。
すぐさま銃剣を構えて差し込んでくるグレイブスの攻撃を見切り、LVOA-Cのバレルを左手で叩き払う。
「ッッー!」
「………………」
グレイブスはLVOA-Cを手放して腰に下げ、目にも留まらぬ速度でAK-12の顔を殴打、右手に握り締める彼女の銃からマガジンを抜き取り、安全装置を掛けてから膝を蹴り落として地面に押し飛ばす。
「やったわね………!」
「………………」
地面に尻餅をついたAK-12は、一歩下がってLVOA-Cを構えようとするグレイブスを睨み付けて素早く体勢を立て直し、身体を空中で回転させるようにサマーソルトキックを繰り出して彼の両手からLVOA-Cを弾き飛ばした。
LVOA-Cが両手から離れた瞬間には既にグレイブスはサマーソルトを繰り出した事による隙を突こうと迫っている。
「………!」
(自分の武器を失っても全く動揺せず、最適解の動きを瞬時に、そして機械的に行う………やっぱり貴方の方が私達よりもずっと人形らしいわよ……)
眼を開眼し続けて相当量のリソースを消費しているはずなのにも関わらず、AK-12のメンタルモデルは消耗していなかった。
グレイブスの精神世界の中では潜在的なスキルの使用に制限は無いのだろう。
だがそれは精神世界の話であって、現実世界のAK-12は膨大なリソースを失っている。
「AK-12がグレイブスに接続して2時間……彼女のメンタルモデルが急速に磨り減っていく……」
「どうしたらいいのですか!?このままだと大変な事になります!」
現実世界で起きているAK-12の異変に焦るAN-96と同様に、アンジェの額にも冷や汗がにじむ。
「………外から無理やり接続を切断すれば何かしらの影響が出る、むやみに切断するわけにはいかない」
「ッッ………AK-12………」
精神世界の中、AK-12は眼を開眼したまま動き続け、地面を蹴り払って遺灰や遺骨を巻き上げて小さい煙幕を張り、連続して煙幕の先にいるであろうグレイブスの頭部を狙って渾身の上段回し蹴りを振り抜いた。
「入った!」
彼女の長い脚がグレイブスの頭部に直撃したかのような鈍い衝撃音が煙幕の向こうで鳴り響いたが、それと同時に蹴りを打ち込んだ右側の反対、視界の左側から強烈な裏拳が豪速で飛び込み、AK-12の顔面を打ち飛ばした。
「ッッハ………シィィィイッッ………!」
瞬間的に吹っ飛んだ意識から復帰したAK-12は歯を食い縛り断裂したパイプ菅から噴き出す水蒸気のような音を口の両端から吹き鳴らしながら、顔の激痛を振り切って地面に倒れる直前に受け身をとり、地面を飛び跳ねてグレイブスから少し距離を離した。
「カウンターッ………!」
(身体を回しながら私の蹴りを右腕で防御、そのエネルギーをそのまま身体に乗せて左手の裏拳を振り抜くカウンター………私のタイミングを読まれた………またその危機察知能力ね……)
AK-12が蹴りを繰り出した時には既に、グレイブスはその一撃が致命傷になることを感じ取っていたのだ、だがあくまでもグレイブスが予知できるのはあくまでも1~2秒後に己に迫る致命的な何かであり、具体的に未来を予知している訳ではない≪何か危ない≫という感覚だけなのだ。
(つまり私の蹴りを受け流してカウンターを決めたのは紛れもない彼自身の反応速度と技量ってことか………バランスよく強いステータスに上乗せで異常な程の危機察知能力………なんか極端に強い訳じゃないのが余計にムカつくわね)
初めてグレイブス・フェニックスという男に出会った時。
どんなに不細工でも、卑怯でも、下劣でも、非道でも、構わない、そこに優雅さや綺麗さなど微塵も必要としない彼のスタイルが嫌いだった。
それだけの能力を持ち、それだけの
どんな勲章を貰っても、どんなに称賛されようとも、彼には届かない、誇るでもなく、無下にするでもなく、否定すらしない、無関心だ。
「大体……貴方は……」
この空虚で色も匂いも無い世界に感化されたのか、思わず声に出ていた。
「どんなに雑魚でも、どんなに強敵でも、貴方にとっての価値は同じ……!」
「………………………」
前へと踏み込み、拳をグレイブスに打ち込む。
「私がどれ程のエリートでも、どれだけ最新鋭の人形でも、貴方はそんな物どうでもいいと吐き捨てた…!」
「………………………」
拳を受け流され、カウンターのローキックを脚に受ける。
だが無理やり姿勢を前に出し、彼の腕を捕まえる。
「貴方の頭には目的を達成する事しかない………そのための力があるかないか、それしか興味がないのでしょう?私に対する思考労力はそれだけ………!!」
「………………」
掴まえた腕を捻り、胸ぐらを引き寄せてグレイブスの身体を操って宙に投げ飛ばした。
グレイブスはダメージなく完璧な受け身で姿勢を整え、得意のノーガードの構えで歩きながらAK-12に近付く。
「私は………貴方に認めて欲しかっただけ……たった一言で良かった………!なのに貴方は私にも、AN-96にも、アンジェにすら何も言わず、任務が終わればさっさと帰って行った!」
自分でも何を言っているのかわからなかった。
まさかそんな感情を抱いていたなんて、自分でも信じられなかった。
繰り出した右手の拳を受け止められ、腕を引き寄せられると脚を引っ掛けられて姿勢が崩れ落ちる。
そして肩を捕まれて仰向けに転かされ押さえ付けられてしまう。
瞬きの一瞬で首元にスイッチナイフを押し付けられる。
「………………………やりなさいよ」
「………………………」
スイッチナイフが押し込められ、首から血が滲み始めたその瞬間、精神世界の空が亀裂を入れて割れ始めた。
「ッ………!?」
現実世界に無理やり引き戻されたAK-12の視線の先では、自分の首を右手で鷲掴みにして力を込めて引き剥がした直前のグレイブスが見えた。
グレイブスはまだ接続から回復していないにも関わらず無理やりAK-12を切断させた事による、彼の脳波がショートして眼や口、耳から血が吹き出し、彼も現実世界から復帰した。
「ゴホッ!!ゴホゴホ!!!」
「ッッ………う………あぁ………………ッッ………大丈夫かAK-12」
「AK-12ッッ!」
「グレイブス!!」
呼吸器系を絞められた事による咳だけで済んだAK-12はAN-96の手を振り払って倒れた姿勢から素早く起き上がる。
「ッッ………何て無茶な事を………貴方は……!」
「っ………っ………………無事か……AK-12」
アンジェの手を借り、ふらつく足取りで何とか起き上がったグレイブスは何よりも先にAK-12の身を案じた。
「接続を無理やり切断するなんて………最悪どんな事になってたか分かってるの……!?」
「………………あぁ、だがそうしなければお前は戻ってこれなかったぞ」
「私の事は………ッッ!」
彼の眼差しに圧され、私の言葉は途切れた。
「一体、何があったの?何を見たの?」
アンジェの問に、AK-12はすぐには答えられなかった。
そんな彼女の代わりにグレイブスが口を開く。
「俺の記憶にアクセスするには……記憶の鍵であり扉である一種のファイヤウォールを退ける必要がある、AK-12はあと少しで俺のファイヤウォールに削除される所だった」
「………………」
「つまり、AK-12は何も見てない、ミームに触れるような事は、何もな」
「………………」
見ていない事はない、彼と戦ったあの精神世界で見た白樺の木と遺骨、遺灰の地平、そして無数の墓石、それを口に出そうにも何故か出てこない。
「さて、お前達の目的はここで終了だろ、他に何かあるのか?」
「………いいえ、AK-12が失敗したなら、もう私達に手はないわ、ゴーストに協力するわ」
「………………分かった、こっちで話を付けておこう、追って連絡する」
無理に接続を切断した後遺症も、憔悴した様子もなく復帰したグレイブスは踵を返して颯爽と倉庫から姿を消した。
「……大丈夫そう?」
そうアンジェがAK-12に問う。
「分かったことが一つあるわ」
「………何?」
「改めて、あの男は不気味な奴だって事が」
「………??」