光には存在しない者達   作:ペペロンチーノ伯爵

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第一話『断ち切った獣鷹の裏皮』

~2068年10月15日~

ー『ゴースト本部・宿舎』ー

 

 

 

「……………………」

 

「指揮官?何してるの?」

 

宿舎の中にある一つの大部屋の中で書類を整理しているグレイブスに45が話し掛ける。

 

「グリフィンから盗んだ配給物資保管場所、その情報だ」

 

「あぁ……指揮官が5ヶ月くらい『偽物の指揮官』としてグリフィンの人形と仲良くやってた時の…………ねぇ?」

 

「…………なんだ?言いたいことがあるなら言え」

 

45はグレイブスの身体に体重を掛けながらハイライトの消えかかった上目遣いで呟く。

 

「私の事なんてもう忘れちゃってたんだろうなって思っただけですよ」

 

「さぁな、だがあまり一緒に居ると怪しまれると言ったのはお前ら二人だぞ、それに。俺は臨時指揮官として普通にしていただけだ」

 

「鈍いね指揮官は、たった5ヶ月でも指揮官と一緒にいればみんな指揮官を信じきっちゃうよー」

 

風呂上がりの9が髪の毛を拭きながら現れる。

 

「そうか…………?」

 

「指揮官はこう……うん、なんか惹かれるところがあるというか……安心するというか…………なんか暖かい感じがするから!」

 

「無意識たらし」

 

「なんで戦いの最中は私達の心を見透かしてるのに普段は盲目なのかなぁ……」

 

酷い言われようだ、そんな彼女達の戯れ言を聞き流し、今回の問題について考える。

 

「だが確かに、彼女達があそこまで俺を追跡してきていたのは驚いた。今回はかなり危なかったな……ゴーストの正体がバレる所だった」

 

「……何らかの原因によって死んだ人々の怨念、つまり憎しみや悲しみ、痛み、絶望、恐怖、それらが具現化した復讐霊。それが都市伝説上で語られてるゴースト部隊のお話しですよね」

 

「そうだ、俺達の存在は都市伝説、おとぎ話でなければならない。存在してはいけない部隊だ」

 

故に、今回の事は反省しなければ、あそこまで近付かれてはいずれ気付かれてしまう。

グレイブスは書類をファイルにしまい、腕時計をちらりと確認、二人に振り返る。

 

「よし、そろそろ飯にしようか」

 

「いいですね、献立は何ですか?」

 

「わたし手伝うよ指揮官~!」

 

夕食には少し遅い時間だったが、二人の手伝いもあって手際よく料理を並べる事が出来た。

 

「うんうん♪指揮官の作るご飯は美味しいね!」

 

「…………うん♪」

 

「食事の効果は料理が優れているほど効率がいい、それに。お前達は俺の2~3倍は食うからな、作りがいもあるさ」

 

「それってセクハラじゃないんですか?」

 

「デブ呼ばわりは流石に傷付くなぁ……」

 

被害妄想の塊だなコイツらは……。

 

「というより!指揮官が食べなさすぎ!他のゴースト隊員は私達なんかよりもいっぱい食べてますよ」

 

「……確かに、俺は食が細いからな」

 

「…………フフッ」

 

微笑ましく45はクスリと笑った。

この日々を失いたくないと、確かに思いながら。

その日の夜、45は隣で安らかに眠っている9を起こさないようにベッドから抜けて部屋を出る。

そしてリビングを通り、別室にある指揮官の部屋前に立ち、少し間を開けてから声を掛けようとしたその時。

 

「そこで何してる45、勝手に入っていいぞ」

 

「っ……」

 

音は一切立てていない筈なのに、扉越しでも指揮官はいとも容易く気付く。

部屋の中に入る、小綺麗に掃除されているが、趣味の一つも感じない殺風景な部屋だ、部屋に有るのはベッド一つと机が二つだけ、一つは銃の部品や工具がしまってある整備机、もう一つはただの業務机、それらだけがこの部屋にあった。

そして指揮官は整備机に座り、カチャカチャと音を立てながらこちらに背を向けている。

 

「………………」

 

「45、おいで」

 

「っ……?」

 

背を向けたままの指揮官に業務机にあった椅子を引いて近付き、隣に座る。

指揮官の目の前には、一つ一つの細かな部品にまで分解されたACRがばら蒔かれており、それを眺めていると幾つかの部品を手にとって組み立て始めた。

 

「お前たちドールズは烙印によってロードされた銘柄の銃以外の銃器はうまく使いこなせないのだろう?俺が教えてやろう」

 

「………………」

 

作戦遂行中の指揮官はとても厳しく、時には本気で私達に生きる術を叩き込む、だがこの場所に居るときは……せめてもの安息が得られるのであれば私達に家族同然の愛情を注いでくれるのだ。

身体を擦り寄せ、少し強引に指揮官の頬に自分の頬を擦り合わせても優しく受け入れてくれる。

だからこそ精一杯甘えながらも、こうして指揮官が与えてくれる知識を必死になって身につける。

でも長時間こうしているとついつい安心して…………

 

「ACRは軽量プラスチックマガジンによって多少の片手による至近距離走法(タクティカルダッシュ)を実現し、専用のアウターグリップによって機動性の高いエイミングを……45?」

 

「うん……うん…………聞いてます……」

 

「そろそろ休め、部屋まで運ぼう」

 

ウトウト寝落ち寸前の45をお姫様抱っこで抱き上げ、9と45の相部屋に入って9の横に寝かせる。

そして、二人の頭を交互に撫でながらグレイブスは考える。

 

(自分たちの意思でゴーストに入った以上、二人はベッドの上で安らかに死ぬことはもう出来ない、何処かで無惨に、誰にも見られず、記憶にも残らない、孤独で寂しく死んでいくだろう……だからその時まではせめて……)

 

 

2068年 10月12日

ー翌日・早朝 am05:30~

 

 

肌寒くなってくる秋の夜明けに照らされるゴーストのヘリコプターの中で、大きく欠伸する9を見ながらグレイブスは地図を開く。

 

「今回の任務はグリフィンの第四区間地域にある食糧供給ラインの中継に潜入、及び全対空システムの無力化だ」

 

「質問!どうして対空システムを無力化するの?私達だったらそのまま潜入して供給ラインを破壊する事も出来るよ?」

 

「今回の任務は戦争難民の反乱軍からの依頼任務でな、俺たちは対空システムを破壊したあと、すぐに脱出して反乱軍と交代する」

 

「……なら必然的に隠密作戦になるわけですか」

 

「そうだ45、俺達ゴーストは供給ラインを東西南北に別れて潜入、作戦を遂行する。今回俺達は北側からの潜入を担当する」

 

地図に指差し、それと同時に地図の上にサバイバルナイフを置く。

 

「もっとも重要なのは……死体を作らないことだ」

 

「……つまり?」

 

「つまり、非殺傷未発見を徹底する。誰も殺さず、誰にも見つかるな、分かるか?」

 

「反乱軍の仕業に見立てる為に?」

 

「そうだ、今回は不殺、以上だ」

 

「了解です」

 

「了解しました!」

 

供給ラインの数キロ前の地点にラペリングで降り立ち、周囲をクリアリングする。

 

「敵影無し、警戒を怠るなよ」

 

「了解」

 

「背後を警戒するね」

 

「よし…………こちらゴースト・ジャッカル、応答せよ」

 

≪ッッ…ッ………ジャッカル、こちらゴースト・オラクル、聞こえている≫

 

≪ジャッカル、オラクル。こちらはゴースト・カンパニー、通信良好≫

 

≪ゴースト・ジョーカー、作戦遂行準備完了だ≫

 

「通信の返答を確認。これより『ロストスカイ作戦』を開始する、アウト」

 

グレイブスはMP7カスタムのスライドを引き、サブウェポンであるM19ハンドガンのマガジンを抜いて弾倉を確認した。

 

「不殺傷なのに注意深いですね」

 

「あぁ……だが、やむ終えない場合があるかも知れないからな。サイレンサーは着けてきたな9?」

 

「もちろんだよ!ってなんで名指し!?」

 

「付けてるならいい、さぁ行くぞ」

 

場所は深い森に覆われた樹海地域の中に敷いてある供給ラインを目指して三人は歩き始める。

 

「それにしても……なんでこんな樹海に供給ラインなんて引いてるの?」

 

「さぁな45、だがこの付近に鉄血工造の支配も姿もないし、人類人権団体の拠点もない、だから安定したラインが引けるのだろう」

 

「なるほどねー、でも……もしかしたらなにかとんでも無いことの前触れだったりして!」

 

「それは……どうだろうな」

 

確かに、冗談だろうが9の言っていることに一理あるかもしれん、こんな視界も通信もままならない樹海でなければいけない理由はなんだ?。

立地ならグリフィンの手の届く所にいくらでもある筈なのに、どうしてこんな区間ギリギリの支配区域に設置したのだろうか……。

そんな疑問を抱えながら先へ進み、目的地まで残り数百メートルの地点で動きを止める。

 

「少し待て、他の分隊に連絡をとる………通信確認。こちらジャッカル-1、応答せよ」

 

≪こちらオラクル-1、通信を確認した≫

 

≪カンパニー-1、無事だ≫

 

≪ジョーカー-1、受信した……だが問題は一つある。南側の供給ラインに到着したが、対空システムを確認出来ない≫

 

「…………なんだと?」

 

≪……待てっ、こちらオラクル-1、我々も配置に着いたが対空システムを発見出来ない≫

 

≪俺達の方もだ、供給ラインは見えるが対空システムなんてものは何処にも見当たらない……ジャッカル-1、応答しろ≫

 

「あぁ……聞こえている、指定区域に目標を確認出来なければ各自の判断で行動、反乱軍の到着前にランディングゾーンで脱出しろ」

 

≪ジャッカル-1はどうする?≫

 

「まだ俺達の方は確認できていない、対空システムの有無を確認後、ここの調査をする」

 

≪了解したジャッカル-1…………無理はするなよ≫

 

「もちろんだ、通信アウー」

 

「もしもーし、ジャッカル-2だよ!」

 

通信を切ろうとしたところで9が喋り出す。

 

≪お、ジャッカル-2、どうした?≫

 

「えへへ、呼んでみただけ!」

 

≪ハハハ、相変わらず良く分からんヤツだな……ジャッカル-1を頼むぜ、ジャッカル-2≫

 

「はーい!」

 

通信を切り、三人は銃を構え直して先に進む。

森を抜け、広大な供給ラインの基地に出ると、やはり他と同じく対空システムらしき物はなかった。

遠眼鏡を取り出して周囲を偵察するが、やはり見つからない。

基地を守っているのは施設に設置された何台かの監視カメラと、武器を持った警備兵が数十名、本部と思われる大きめの建物の内部は分からない。

 

「路線が二つ……なるほど……物資の運搬は貨物列車を使っているのか……」

 

「あ、そういえばさ、昨日の任務で私達が籠った所も貨物列車用の倉庫じゃなかったっけ?」

 

「そう言えばそうだったな……」

(あの時、グリフィンが鉄血と戦っていたのは線路の安全を確保するためか、入口は爆発してしまったが……)

 

監視カメラの死角を進み、建物の外壁に張り付く。

そして列車の検問口に立っている警備兵の目を盗んで小屋に入り、ここの路線図と運搬計画書を取って再び外に逃げて物陰に隠れる。

 

「…………これは……」

 

「ねぇ指揮官、これからどうするの?」

 

「……奴らが何を運んでいるのか確かめる」

 

「どうして?配給物資って話でしょ?」

 

「それがそもそもおかしい、この近くで貨物列車の保管が出来る場所は一番近くても1日以上掛かる上に……この路線図を見ろ」

 

グレイブスは二人に路線図を見せ、重要箇所を指でなぞる。

 

「この経路でグリフィンの第四配給物資保管所まで運搬すると更に3日、他の路線を使えば合わせても1日半だ、このルートはこの供給ラインを含めて幾つかの区間を通ってから保管所に向かう、一ヶ所目が俺達がいる場所『食糧供給ライン』そして二ヶ所目の『銃機整備所』

次に『兵器開発工場』『工業化学製錬場』最後は『第四配給物資保管所』だ」

 

「どうにも不自然?」

 

「そうだ、明らかに配給物資のみを運んでいるとは思えない」

 

「でもさ、ただ分割して色んな物資を運んでるだけだったら?」

 

「それならそれでおしまい、俺達の考えすぎだっただけの話だ」

(……だがそれだけでは済まないような予感がする)

 

運搬計画書に書いてある通りであれば、貨物列車はあと5分後に到着する予定だ、なんとかして潜り込めればいいが……。

そう考えていたとき、現地のゴースト分隊からの無線通信が入った。

 

≪ジャッカル-1、ジャッカル分隊!!聞こえるか!?まだ現地にいるか!?≫

 

「こちらジャッカル-1、聞こえている、何があった?」

 

≪列車だ……≫

 

「分かっている、こちらでも確認しー」

 

≪貨物列車が対空設備を配備している!!撤退する途中でオラクルが確認した!ヘリの燃料的に俺達は戻れない、反乱軍には既に報告したが、奴ら攻撃するつもりだ!現地に俺達ゴーストは存在しない事になってる、つまりッ≫

 

「攻撃対象は俺達も含まれる訳か」

 

≪そうだ、オラクルの報告だと奴らの対空設備は全てAI制御されている。連装機関砲が8門、四連装迎撃ミサイルを6門、30連装チャフランチャー2門、それと、EMPディスラプターを装備してやがる≫

 

「なるほど……最高の布陣だな…来たぞ、確認した」

 

貨物列車とは思えないほどの武装と鎧を取り付けた『装甲列車』が線路を爆走してくる。

 

「ねぇねぇ指揮官、あれってここで停まるのかな?」

 

「答えはノーだ9」

 

「じゃあどうするの?」

 

「どうする……無断乗車しかないだろう9」

 

「てことは……」

 

「無論、飛び乗る」

 

その言葉を最後に、三人は目の前を高速で通過し始める6両編成の装甲列車に走り出す。

線路を跨ぐ橋の階段を駆け上がり、手すりを踏んで列車に飛び出したタイミングで警備の一人がこちらを発見し、無線機に手を掛けるその瞬間を見た45は、空中を舞いながらUMP45を構えて警備兵の頭を撃ち抜いた。

 

「ッ……すまない45、良くやった」

 

列車の天井上に飛び乗ることに成功したグレイブスは前方車両にM19を構えながら周囲を見渡す。

 

「でも殺してしまった…」

 

「やむを得なかった、仕方ないさ。そっちはどうだ9」

 

「怪我はないよ!とりあえずバレてない……かな?」

 

「よし……ここが最後尾だ、反乱軍の攻撃隊が来る前に列車の対空システムを破壊、そして積み荷の確認、いいな?」

 

「了解」

 

「了解!!」

 

「……作戦開始だ」

 

天井上にある天窓から中の様子を確認し、グレイブスを先頭に割って乗り込む。

 

「…………敵影無し、クリアだ」

 

「了解、前方を警戒」

 

「上で反乱軍の到着を警戒するね」

 

上から見た限りだと、1両に貨物コンテナが三台積まれているのが確認出来たが、この6両目には乗客席も付いており、三人は現在そこに居る。

 

「この部屋はただの乗客席だ、怪しい物はない、やはり本命はコンテナだろう。だがその前に、あのどデカイ兵器をなんとかしないとな」

 

「皆の持ってる爆発物は……」

 

「私は………」

 

三人で用意してきたリーサルギア(&私物)を出し合う。

 

『C4遠隔起爆装置×3』『連結式C2テルミット合成火薬爆弾×2』『時限式C3起爆粘土×2』『9の蜜柑飴』『9のチョコ棒』

 

「お前……これは…………」

 

「えっと……あのぅ…その……えへへ♪」

 

「……はぁ…………まぁいい、それよりも……」

 

まったく破壊力が足りない、全ての対空システムを破壊するには圧倒的に火力が足りていないのだ。

 

「…………」

(数台なら破壊出来るだろう、だが全て無力化するのは無理だ……)

 

「閃いた!列車の連結を破壊するのはどうかな?」

 

「無理だ、この装甲列車は連結部ごと車両を接合している、それもあの巨大な対空兵器を載せてこれだけの速度で走れる程に改良されている」

 

「なら、車輪を爆発するのは?バランスを崩させて横転を狙えば……」

 

「それもダメだ、1両1両の長さを見ただろ、車輪の大半を吹き飛ばさない限り走行は止まらない、それだけの爆薬も無い」

 

考えている時間はそこまで無かった、ここで立ち止まっている間に、反乱軍の攻撃ヘリが見えてしまったのだ。

グレイブスがその方向に視線を向ける前に、鼓膜を叩き割るほどの轟音で放たれ続ける機関砲に耳を塞ぐ。

 

「ッッ……!始まったか!!」

 

「早くなんとかしないと!!!」

 

「ッッッ……ヘリが!」

 

絶え間ない機関砲と並んで発射されたミサイルが反乱軍のヘリを打ち落としていく、その光景はまるで無力なハエ叩きに近い。

 

「ダメだ……とりあえず先頭車両に向かうぞ!絶対的な策は無いが考えならある!!行くぞ!!」

 

「了解!!」

 

「りょ…あー!もう!うるっさいなぁ!!!!」

 

縮こまった身体を起こし、列車内を駆け走る。

コンテナの中を確認しながら進んで行くが、4両目までただの配給物資だったが問題は残りの3両にあった。

 

「ッッ……なんだ…………これは……」

 

コンテナの中身は配給物資などでは無く、明らかにあらゆる全てを死滅させる呪われた兵器、失われた兵器の材料だった。

 

「……イエローケーキ(ウラン鉱石)『プルトニウム』……そして『金属化合物』

 

「ケーキ?ぷると……なに?」

 

 

ー『核兵器の原料だ』ー

 

 

「核兵器……って?」

 

「…………説明している時間は無い、とにかく他の積み荷を確認するぞ」

 

焦りを感じながらも冷静に、他のコンテナにある積み荷を確認すると、どれもこれも核兵器の製造を匂わせる原料ばかりである。

そして先頭車両のコンテナを確認し終えたところで気付く。

 

「そう言えば……この列車に人間はいたか…?警備や、運転手は……?」

 

「………言われてみれば」

 

「見てない……誰も居ない……?」

 

つまりこの列車は完全なオート、自動制御で動かされているため操縦席もなければ運転手も居ない、ならば停車させる事が出来ない。

 

「しまった……俺の考えは操縦席ありきの話だ……これでは…………!」

 

空を見上げ、一発も撃てないまま次々と撃ち落とされるヘリを眺める。

なんとかしなければならない、このままでは間違いなく取り返しの付かない事になってしまうからだ。

 

「………………ん?」

(あれは……)

 

最後のヘリが撃ち落とされた所で、あることに気が付いたグレイブスは自分が持っている爆薬を二人に託す。

 

「二人とも、これを3両目以降のコンテナを全て破壊できるよう設置してくれ、爆薬は足りてるはずだ」

 

「それはいいけど……指揮官はどうするの?」

 

「俺の見方が間違っていなければ、これで行ける筈だ」

 

そう言って二人と別れ、グレイブスは先頭車両にある意味を成さない車頭の上に登り、後ろを振り返ってMP7のサイレンサーを取り外す。

 

「…………」

(あの機関砲やミサイルの捕捉、きっと熱源探知による誘導、あれはヘリの他に付近を飛ぶ野鳥、迎撃したばかりの炎上したヘリも狙っている……それならば……)

 

MP7を線路上に見える廃れた電柱に構え、その先端にあるメンテナンス用の電源ボックスに撃ちまくる。

弾丸の命中した電源ボックスは激しく発火、電線に引火させて燃え上がらせた。

その熱源に素早く反応したミサイルが電柱の方に向き、二発発射した。

 

「指揮官!設置終わったよ!!」

 

「起爆しろ!!!」

 

ミサイルの発射に合わせ、ポーチからEMPグレネードを取り出して頭上に放り投げる。

そしてEMPの電磁パルスに巻き込まれたミサイルの弾頭はロックオン処理能力を失い、線路上に直撃して爆発した。

線路の爆発によって装甲列車は線路の外にはみ出た、そのタイミングでコンテナが爆発、コントロールを失って勢いづいた列車はバランスすらも破壊され横転する。

 

「ッッッ!!!!!」

 

「わわッッ!!」

 

上に居たグレイブスは風圧と振動で列車から弾き飛ばされ、45と9はギリギリで列車内に残り無傷だった。

 

「うぅ…………頭いった……」

 

「ん…………う……ッッ!!!指揮官は!?」

 

身体を起こした45はグレイブスが列車の外に投げ出されたのを刹那の一瞬で見ていた、全身の衝撃痛を無視して飛び上がり、付近を血眼になって見渡す。

 

「ここだ……問題ない」

 

「ッ……!」

 

特に怪我した様子もなく、指揮官は優しく微笑む。

 

「お前達は……?大丈夫か?」

 

「大丈夫、ちょっと背中を打っただけ…」

 

「頭ぶつけたー……」

 

「とにかく移動しよう……ここに長居は無用、ゴーストと連絡を取って脱出するんだ、直ぐそこの貧民街を目指す」

 

グレイブスは完全に破損したMP7を分解して列車の四方に放り投げ、目立つ物は地面に埋めてから二人に視線を向ける。

 

「お前らの武器は大丈夫か?」

 

「うん、大丈夫だよ」

 

「大丈夫です」

 

「なら急ごう、行動開始だ」

 

 

~20分後~

 

 

貨物列車からの緊急シグナルをキャッチしたグリフィンは調査の為に人形を派遣した。

 

「…………ここね」

 

調査に来たのは『79式』『スオミ』『XM8』の三人であり、彼女達は左腕に『141(ワン・フォー・ワン)』のゼッケンを巻いており、分隊のリーダーであるサブマシンガンの79式は無惨に横転した貨物列車の先頭まで向かってじっくりと観察する。

 

「外からの損害が無い……この焦げ痕は……」

 

「内部からの爆発……ですか」

 

79式と一緒に損害箇所を調べていたスオミが呟く。

 

「でもさぁ~いくら鉄血でも爆走する貨物列車に侵入とか無理でしょ?」

 

そう言いながらXM8は気怠そうに地面を蹴りあげると、土埃と一緒に何らかの金属が飛び上がった。

 

「んぁ?」

 

金属を拾い上げ、埃を払い去ると、遠くから見ていた79式が誰よりも早くその正体に気が付く。

 

「指揮官様の……MP7……」

 

「え……?」

 

「これが?よく分かるね」

 

XM8が79式にMP7の折れたバレルを手渡すと、79式は部品が落ちていた位置と列車の位置をイメージしながら歩を進め、無心である一ヶ所の地面を掘り起こすと、他の部品が出てきた。

 

「やっぱり、列車を破壊したのはグレイブス指揮官です、こんなにも入念に破損した武器を隠そうとするのは指揮官様しかいません、それにこのMP7はよく指揮官様が私と訓練中に使っていたものです!指揮官様を……指揮官様を探しましょう!」

 

「で、でも……指揮官はグリフィンの裏切り者、反逆者ですよ?グリフィンの機密情報を盗んだスパイだって…………M4A1だって膝を撃たれたそうですし……」

 

「………………確かに、そうですね…………」

(確かにそうだ、指揮官様は私達を裏切り、仲間を撃った……)

 

「んー、私は指揮官の事は好きだから会って話したいけどなぁ」

 

あっさりと、恥ずかしげも無く告白するXM8に二人は硬直した。

 

「だって私達の事を超大切にしてくれてたし、あの人が撃たれたのも、しつこく追い回したからでしょ~?それに、指揮官がそこまで悪人だとは思えないね」

 

「………………分かりました。この周辺を捜索してみましょう、まずは目の前の貧民街に行きましょうか」

 

そうして三人は複雑な想いを抱えながら目的地を設定して歩き出す。

 

「ところでXM8さん、指揮官様のことお好きだったんですね……」

 

「うん、好きだけど?79もそうでしょ?」

 

「ふぇ!?わ、私は別に……その…………あくまで上官として……あの…………お慕いしているというか……スオミさんはどうなのでしょうか!?」

 

「私ですか!?…………………しゅ……好き……ですね…………はい……とっても…………はい」

 

突然の暴露会でしばらく三人は蒸発することだろう。

 

 

ー『貧民街・トルン』ー

 

 

ここ、トルンは正規軍の統治が届いておらず、基本的には難民とならず者、傭兵たちの溜まり場になっていて毎日のように窃盗、殺人の他に麻薬の密売が行われる極めて危険な街になっている。

そんな街に悠々と入り込んだ三人はその街の光景を見上げる。

 

「なんだか、昔に指揮官が教えてくれたブラジルの貧民地区に似たような街の構造だね……」

 

「確か『ファヴェーラ』……でしたっけ?」

 

「とても危険な感じがします……それにすごい視線を……」

 

スオミは身を縮こまらせながら逆に堂々と先に歩き出す二人に必死に付いていく。

しばらく歩き、無限に続くかのようなバラバラの階段を登っていると、下層とは明らかに空気が重苦しく変わっていた。

スオミがこの街に入ってから感じている危険な予感は当たってしまう。

 

「…………っ」

 

79式が気付いた時には既に、三人の事を不審な男達が取り囲み、逃げ場を無くしていた。

 

「姉ちゃん達、どこに行くんだい?」

 

取り囲む中で一人の大男が話し掛けてきた。

 

「………………」

 

「ど…………どうしましょう……」

 

「…………フッ」

 

79式はこの状況の中で男達を鼻で笑う。

 

「そこを通してくれます?私達は人探しに忙しいので」

 

「誰を探してるんだい?良かったら一緒に探してあげよう」

 

「結構です、さぁ。退いて下さい」

 

刹那、痺れを切らしたのか隣にいた男が79式の胸ぐらを掴み拳を振り上げるが、79式は一歩も動くこと無く片手に持った『79式サブマシンガン』のトリガーを引いて男の両膝を蜂の巣にする。

 

「ぎげぁぁぁぁぁあ!!!!クァァアア!!」

 

「そこまで積極的なら協力してもらいましょうか……そこの貴方がこの取り巻きのリーダーですね。貴方だけ残しましょうか」

 

三人は銃を構え、掃除を始めた。

その頃、グレイブスたちの三人は掃除を終わらせ、それぞれの武器をリロードする。

 

「ここは無法地帯だったな、逆に好都合だが……」

 

「ゴーストの撤退用ヘリが来るのは4時間後、それまでー」

 

突然、部屋の扉を開け放ち、一人のギャングが入ってきた。

 

「ボス!!貴方に話があるヤツが…………なッ!?」

 

声を上げる前に俺はサイレンサー付きのM19でギャングの頭を撃ち抜く。

すると同時に扉の外から閃光手榴弾が投げ込まれた。

 

「ッッ!!!フラッシュバン!!!!」

 

ギリギリで視界を塞いて目眩ましを回避、激しい耳鳴りに頭痛を覚えながら姿勢を立て直すと入口から何者かが銃を構えながら入ってくる。

俺は何も聞こえない状態で素早く銃を蹴り上げ、M19のグリップで顔を殴り付け、左手でマガジンを奪い捨てて安全装置を掛けてから銃そのものを叩き落とし、押し飛ばす。

回復していく聴覚を感じながらM19を構えてトリガーを引くが『その少女』は恐ろしい反射神経でM19の銃口から頭を反らして弾丸を躱し、回し蹴りでグレイブスの手からM19を蹴り飛ばした。

 

「ッッッ!」

 

「クッ……!!」

 

「79さん!!!」

 

「指揮官ッッ!!!」

 

「コイツらッッ……え?」

 

超至近距離で銃を突き付け合う6人は互いに次の思考が停止した。

 

「……79式…………」

 

「ッッ……指揮官……様…………?」

 

「指揮官と……45さんと9さん……」

 

「これは……どうすんのよ……」

 

スオミは恐怖した、この場の全員が動揺していると思っていたがそれは一瞬で、彼女は感じ取っていた、指揮官の背後でこちらに銃を向ける45と9から溢れ出ている異常なまでの殺気と覚悟を。

 

「79式、スオミ……XM8か……」

(……蹴り飛ばされたM19まであと3歩半…………無理だな)

 

「あの!指揮官様!!」

 

「…………」

 

「どうしてグリフィンを裏切ったのですか……!?」

 

「……そんな事を聞くために、わざわざ俺達を追ってきたのか?なぜそこまで俺に固執するのかは分からんが……俺は確かにグリフィンを、お前達を裏切った、それは確かだ、あとはお前達のやるべき事をやればいい」

 

「…………なら聞かせて下さい、指揮官にとって、私達は……あの日々は……どんな存在だったんですか?」

 

指揮官様は少しだけ沈黙し、とても優しく、とても暖かい、愛情のこもった笑みで答えた。

 

「お前達は俺にとって家族とも言える存在だった、あの5ヶ月間は全て本当だ、お前達を必ず守ると自分自身に誓った……」

 

「…………それは……そうですか」

 

79式の張り詰めた顔に華が咲く、そしてその言葉を聞いたXM8は銃をその場に置き、ゆっくり指揮官の前に立つ。

 

「なぁ指揮官?」

 

「どうしたXM8」

 

「いつものアレ、やってくれよ、もう疲れちまったからさ……」

 

「………………」

 

「んん……」

 

両手を広げてじっとするXM8をグレイブスは少し強めに抱き締める。

その光景を見た79式とスオミは驚愕の表情をするが、それ以上に二人はその奥に立つ姉妹から放たれる殺気がより尋常じゃないほど膨れ上がり、今にも血管が千切れそうな顔をしていたため一瞬で真顔に戻った。

 

「ん~……っっ……元気でた」

 

「そうか……なぁ、XM8、そして二人とも……」

 

「はい?」

 

「何でしょうか?」

 

「…………………………」

 

その瞬間、45と9のスカートからそれぞれ煙幕手榴弾と閃光手榴弾がこぼれ落ちる。

 

「ッッ!!!」

 

「しまッー!!!」

 

 

 

ー「俺達は敵同士だ……忘れるなよ」ー

 

 

 

鋭い閃光に加えてつんざくような金切り音、そして部屋中を包む煙幕に咳き込みながらもスオミは銃を構える。

 

「皆さん!?大丈夫ですか!?」

 

「っ……私は大丈夫です!XM8さんは!?」

 

「…………大丈夫だよ」

 

晴れていく煙幕の中でXM8は振り返る。

既にグレイブス達三人は姿を消しており、痕跡すら残していなかった。

 

「……指揮官……」

 

煙幕と閃光の中、グレイブスはXM8にボソリと呟いた。

 

『俺の狙いはあくまでグリフィンだ……だからこれ以上俺を追うな、いつまでも平和に解決するとは限らないのだから』

 

その言葉を思い出しながらXM8は銃を拾い上げ、空を見上げる。

 

「一体指揮官は……何と戦ってんだろうなぁ…………」

 

トルンの街を抜け、ランディングゾーンへと向かう道中、45がグレイブスに話し掛ける。

 

「ねぇ指揮官」

 

「なんだ?無駄話をしてる余裕はないぞ」

 

「どうしてあの時、殺さなかったの?指揮官なら三人とも簡単に殺せたはずなのに」

 

「なんだ、そんな事か……もちろん初めはそのつもりだったが……気付いていたか9?」

 

「うん、部屋には確かにあの三人しかいなかったけど、窓の外、2時の方向にスナイパーの反射光が見えた」

 

「ああ、しかもあれは赤外線VXR42サーマルスコープだった、あのまま攻撃に移れば俺は殺されていただろうな」

 

「そう……ですか…………なら、あの言葉は本当なんですか?」

 

「…………本当だ、彼女達は俺の家族に近しい、だが……それとこれとは別だ、互いに敵同士である以上、俺は容赦しない」

 

グレイブスはその瞳の奥から沸き立つ深淵にも似た黒き残光と周忌を纏っていた。

 

(グリフィン……奴等は一体何を考えてる……)

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