突然だが、ゴーストのヘリの中でグレイブスはUMPシスターズから尋問を受けていた。
「さらっと流してあげたけど、
45が冷やかな笑みを保持しながらグレイブスに問う。
「あ…ああ……?そりゃな、ああやって抱き締めてやると元気が出ると彼女からお願いされたからー」
「じゃあ今!!私にも同じようにしてください!!!」
「唐突だな9……だが聞け、実際の所その行為のおかげでXM8の戦績は明らかに向上していた、だから継続してやってたんだ。結果が出るなら出来る限りの事はしてやりたいからな」
「ふーん……」
「なんだ、もう良いだろう?」
「まぁそろそろ本部に着きますし、続きはその後で」
「まだ続くのか……」
その後、本部で作戦会議を済ませたグレイブスは再び二人から問い詰められ、諦めて彼女達の条件を呑んだ。
条件内容はXM8と同様にハグ、それに加えて本部での睡眠は片方と一緒、もしくは三人で共に寝ることである。
その場所一帯を囲む注意喚起のフェンスと厳重に巻かれた有刺鉄線を小型溶接器具で焼き切り、灰色掛かった不気味な森の中に三人は入っていく。
グレイブスの服装は肌身を一切晒さないように全身を覆う厚手の服装を着込み、四肢を黒色でしっかりとテーピングした最低限の防護をしている。
補強された無線付きのガスマスク越しに左腕の手首に付けたフィルターメーターとガイガーカウンターを確認する。
「……入口でこの濃度か……」
なにか騒がしいと思って後ろを振り向くと、切り口が小さかったのか有刺鉄線に髪の毛が絡まって格闘している9の姿があった。
「なにしてるんだ?」
「9の髪の毛が引っ掛かった」
「もー!私も45姉見たいに一つ結びにすれば良かったー!」
「入ったら下ろすけどね」
「下ろすのか」
そうして先にグレイブスの隣にたった45はゴムを取って元の髪型に戻した。
「……どうでもいいが早くしろ9」
「じゃあ手伝ってよ指揮官ー!!」
「…………45、手伝ってやれ。おれは周囲を確保する」
「はーい」
「指揮官の薄情者ー!!!」
9の罵声を聞き流し、両手に構えた『
「…………」
(
「やった!!出れたよ!ありがとう!45姉大好き!」
「やっとか、さっさと行くぞ二人とも、時間が惜しい」
「しょうがないよ。こんな真っ暗闇なんだからさー」
UMP姉妹はガスマスクこそ着けているが服装はいつもの制服姿でとても放射能の充満する危険区域に立ち入る装備とは思えなかった。
「…………」
(彼女達の皮膚は人工皮膚だからか……空気を肺に取り込まなければ害は無いのだろう。そう考えるとつくづく俺たち人間は不便な生き物だな)
そんな事を考えながら先に進み、その道中でグレイブスは二人に今回の作戦内容を復唱する。
「いいかお前達、今回はこのアウターヘブン内を探索してグリフィンの痕跡を探す事が目的。あらゆる痕跡を見逃すなよ、そしてこの場所は無法地帯、敵性勢力との交戦を許可されてる、いいな?」
「それはいいけど、どうしてここが怪しいの?」
「近頃、この場所にグリフィンの非戦闘員を乗せたヘリが出入りしているという情報を掴んだ、俺達が破壊した積み荷の件もあるからな、ゴーストはそこに目を付けたわけだ」
言葉を区切った所で、三人は何かの唸り声に気付いてすぐさま三方向に銃を構えて互いをカバーする。
「今の、聞こえた……?」
「ああ、今のは人間の声じゃ無いな……まさか……ミュータントか?」
「待って、こっちに来るよ」
それは異形の者、E.L.I.D(広域性低放射感染症) と呼ばれる放射能による汚染症で変形した元人間の成れの果てだと言われている。
45が発見したのは、膨れ上がった人間の肉体を保持しながらも自我を失い、強靭な筋力を獲得した四足歩行の猿にも似たE.L.I.D感染者、グレイブスはその個体をー
「ノサリスだ、素早いぞ」
ノサリスは異常発達した牙と爪を剥き出してグレイブスに飛び掛かる。
SCAR-Hを腰に下げ、ノサリスに組み付かれる瞬間にサブに入れていたサイレンサー付きのデザート・イーグルを抜いてノサリスの腹部に二発、それでも止まらない勢いを利用して左手に持ったミュータント用のアサルトナイフ『ボウイナイフ』で頭部を力一杯貫き、抉り裂く。
「ッッ……フゥ」
「す、すごいね指揮官、あんな化け物をこんなあっさり……」
「……もしかしたら、人間よりもミュータントの方が多く殺してるかもな」
デザート・イーグルの弾倉を交換し、SCARに持ち変えてガスマスクに取り付けたナイトビジョンゴーグルを下ろす。
「森が深くなる、ゴーグルを着けろ」
「ねぇ指揮官」
「ん………どうした45」
「この任務が終わったら私にもミュータントの殺し方、教えてね」
「そうだな……良いだろう」
「私も!私にも教えてねー」
「分かった……さぁほら、任務に集中しろ」
グレイブスは頻繁に手首のガイガーカウンターを見る。
放射能濃度は先に進むほど高くなっていき、カウンターの針はメーターの真ん中を突破した。
「汚染が酷くなっていく……どこか変だな」
「ッッ!指揮官……!見て……!」
「……あれは…………」
倒れた巨木の影に身を潜めて前方を確認すると、ノサリスが群れを成して移動しているのが見えた。
「あの数に見つかったら終わりだな……こっちは避けて迂回するぞ」
「ん、二人とも、空を……」
「……あれはガーゴイルか、低空飛行する強力なミュータントだ、群れは作らないがノサリスとは比較にならんほど強い、姿勢を低くしろ、行くぞ」
「あのー、どれもこれも私の知ってるE.L.I.Dとは違うんだけど……」
「確かに、低濃度でゆっくり曝されると黒曜石のような石核が全身に出来るような形で変形するが、奴等は超高濃度の放射能を地下で受けて変化したから完全な化け物の見た目をしてるんだ」
グレイブスは知っている、旧世界の出来事を、ミュータントの初期存在を。
「え、てことはつまり」
「そのとうり、ビンゴだ、この場所……アウターヘブンには元々地下があった可能性が高い。そこにグリフィンの施設があるのだろう、何処かから地下に入れる場所がある筈だ」
三人は奥へ奥へと進み、ミュータントが付けた獣道を避けながら慎重に歩いていると9が妙な質感をした地面を踏み、その場にしゃがむ。
「どうした9?何かあったか?」
「えっと……なんか踏んだような……あ、これ」
9が踏んだのはマンホールの取っ手の窪みだったのだ、グレイブスはマンホールを覆う土と枯れ葉を払い出し、取っ手を掴んでマンホールを開ける。
「でかしたぞ9、このマンホールは地下まで続いてる、この下を辿ればきっと…………ッッッ!!!」
グレイブスは9を横に蹴り飛ばした。
蹴り飛ばされた9は何かに左足を引っ掛かれ、代わりにグレイブスの身体を掴んで上空に飛び上がった。
「ガーゴイル!?」
「そんな、あの巨体で音もなく……指揮官!!」
既に20メートル以上飛び上がった所でグレイブスは下の二人に叫ぶ。
「先に行け!!俺も後から追い付く。行くんだ!!」
ボウイナイフを取り出し、ガーゴイルの強靭で太い脚に何度も刺し込むがまるで効果が無い、そうこうしている間に30メートルまで上がり、ガーゴイルは金切り声を上げる。
「ッッッ……!!」
デザート・イーグルを抜き、何発か外しながらもガーゴイルの目を撃ち抜く。
視界を失ったガーゴイルはグレイブスを掴んだままよろめき高度が下がった瞬間に空から森に突っ込み、大木に激突した衝撃でグレイブスを投げ飛ばした。
「っ…………グッッ……」
地面に叩き付けられ、身体が跳ね上がると倒れていた丸太に衝突する。その衝撃でグレイブスの頭部からナイトビジョンゴーグルとガスマスクが取れてしまった。
ガスマスクを拾うために丸太から身体を起こそうとしたその時、グレイブスは激しく咳き込み、吐血する。
「ッッ……ヒュー……ヒュー…………クソッ」
手を伸ばしてガスマスクを取り、フィルターを交換しながら被り、視線を下に向けると、脇腹に鋭い枝が付き刺さり、身体を貫いていた。
しばらくその場で動けずにいると、衝突音を聞き付けたのだろう、ノサリスの群れがグレイブスの前に現れる。
「これは……まずいな…………」
枝が刺さったままSCARを構え、その引き金を引く。
「…………指揮官……」
「9、指揮官なら大丈夫よ、必ず会える」
「っ……うん、そうだよね、私達は任務を終わらせないといけないんだもんね、ありがとう45姉」
「そう、やらないと…………にしてもここは?」
マンホールの地下深くまで降りると、そこは下水道などではなく、長く先の続く地下鉄の線路だった。
「行こう9、グリフィンの施設を見つけよう」
「うん!」
しばらく進んでいると、銃を構える左手首に見えるガイガーカウンターの数値を見た45が背後に着いてくる9に声を掛ける。
「ここ、放射能が無いみたいだ、マスクを外そう9」
「あ、本当だ」
ナイトビジョンゴーグルだけを着けてマスクは腰にぶら下げ、二人は更に奥へと進んでいく。
すると薄暗い線路上に放置された電車が見えてきた。
「…………」
「もう何十年も使われてないみたいだね……埃被ってるし、蜘蛛いるし……」
電車の中にはクモの巣で覆われており、席には人間の白骨死体が無惨にくたびれていた。
「他に道もないし、電車の中を進もう」
「分かった」
二人は研ぎ澄まされていた、グレイブスに任務を託された事による士気高揚で興奮するどころか極限状態にまで冷静になり、その顔と目付きはグレイブスと同じゴーストになっている。
クモの巣が髪に巻き付いても気にも留めず歩を進め、肩や指先を渡り歩く巨大な蜘蛛に目もくれない。
床に転がる白骨死体の骨を踏み砕き、二人は埃と巣にまみれながら電車の外に出た。
「…………まって9」
「……分かってる、ミュータントだね」
甲高い金切り声が暗闇の中で響き渡る。
その場から動かず、声が遠退いてから再び行動を開始する。
「ッ……また行き止まり…………」
「瓦礫で完全に先が塞がってるね、別のルートを見つけないと」
辺りを見渡すと、線路の横に非常用扉があることに気が付いた。
45を先頭にドアに付いた南京錠を叩き壊して扉をゆっくり開ける。
「カバー…」
「コピー…」
完璧な連携で部屋の中に突入し、敵の姿を探すが、なにも居なかった。
部屋の中は狭く、得体の知れない何かの卵が四隅に産み付けられており、二人はそれを刺激しないようにゆっくりと慎重に歩を進めて突き当たりの扉まで来たその時。
「45姉、卵が…!」
「分かってる、早く行こう」
次々に卵が割れ始め、その中からおぞましく変形し、明らかに段違いの大きさをした蜘蛛が現れたのだ。
直ぐに扉を開け、中に入り込む。
「……これを倒してバリケードにしよう」
9は入ってすぐ右手にあった脚立を斜めに倒して扉を塞いだ。
「先に進もう9、多分だけどそろそろ出口があるはず」
「うん……」
部屋に張り巡らせられた蜘蛛の巣を纏い、時に払いながら前方に見える扉に近付く。
そしてドアノブに手を掛けようとした時、45の左手に粘性の液体が滴り落ちる。
「っっ………………」
「45姉……?」
9は背後を警戒しているため45の変化に気付いておらず、45はゆっくり視線を上げる。
彼女の視線の先にはさっきの化け物じみた蜘蛛の数倍は巨大なサソリと蜘蛛のハイブリッドにしか見えないミュータントが45を品定めするかのようにじっと見つめていた。
「ッッッ……!!ナイン!!!」
「え!?」
そのミュータントは鋭い牙で45の顔面に噛み付いたように見えたが、実際には45のナイトビジョンゴーグルを噛みちじっただけだった。
45はUMPを構えてミュータントに連射するがミュータントの鱗はまるで鋼のように固く、それでいて異常なスピードで部屋の中を這い回る。
ゴーグルを失った45は暗闇の中でミュータントの姿を見ることは出来ないが、代わりに9がミュータントを補足してサイレンサー特有の枯れたような発砲音を鳴らしながら撃ち続ける。
だがやはり鋼の鱗を貫く事はできず、大きく長い尻尾で9のナイトビジョンゴーグルも破壊されてしまった。
「しまっー!!」
「ハぁぁぁぁぁァァア!!!!」
45は怒号を上げながら地面を駆けずり、ミュータントの六本脚を掴んで壁に叩きつける。
腰の鞘からサバイバルナイフを取り出してミュータントの顎に思い切り突き刺す。
そして地面に押さえ付けてマウントを取り、暗闇の地面へとがむしゃらに何度もナイフを振り落とした。
「死ね!死ね!死ね!死ね!死ね!!死ね!!!死ね!!!死ね!!!シネ!!!!」
何度でも振り落とされるナイフはやがて生暖かい臓物の感触を突き破り冷たく冷えきったコンクリートの地面を弾いた。
「ッッ…………45姉?」
「っ……はぁ…………はぁ……ハァァァ……よし、やったよ9」
全身をミュータントの体液で染めながら45は起き上がり、ポケットの中から7.62㎜弾の弾丸を取り出して弾頭を親指でカチンと傾けると、弾丸の中から小さな炎が点火した。
「それ……」
「指揮官がくれたの、御守りにって」
左手に握った弾丸ライターの揺らめく炎の灯りは45の顔をゆらゆらと照らし、その後ろにいる9の顔も照らしてくれる。
ライターの灯りだけでは全く視界は拡がらない、だがあるのと無いのとでは雲泥の差だ。
この炎を頼りに扉を開け、塞がれていたトンネルの向かい側に抜けることに成功、45は少しだけ安堵した。
ゆっくりと、周囲を警戒しながら線路を歩いていると45は急にライターの火を消す。
「ッッ……??」
「明かり……見て9、この先のトンネルの奥、蛍光灯が付いてる……」
「本当だ……てことは電力が供給されてるってこと?」
「きっとグリフィンの施設に近い、行こう」
蛍光灯の元まで来ると、遠くから数人の男の声が聞こえた。
『それにしても、最近は静かでいいな』
『だな、怪物も全く攻めてこなくなったからな』
『こうして警備する意味なんてあるのか?』
『さぁな……………それにしても、大丈夫なのかこれ』
『なにがだよ』
『いや……クルーガー司令にもヘリアンさんにも機密で核弾頭の開発なんて…』
その言葉に二人は反応し、指揮官が同じような事を呟いているのを思い出した。
「……核弾頭…………?」
「核兵器ってやつの事なのかしら……」
警備兵の声が遠退いて行くのを確認しながら物影から出て蛍光灯の明かりの先に行くと、そこはもはや駅ではなく、完全に造り直された研究施設が広がっていた。
「へぇ……そういうこと、こんな地下で研究してた……ね」
「どうするの45姉?場所は確定したけど……」
「決まってる、中に侵入して何をしてるのか突き止めるの」
そうと決まれば早い、研究施設の入口に立っている二人の警備兵を左右から撃ち殺し、迅速に内部へ侵入する。
予想通り、施設の中でしているのは兵器開発であった。
二人は道行くすがらに見つけた警備兵を次々と殺害しながら奥へ進み、研究員しか居ない研究署に押し入った。
「ッッッ!?一体なんだ!?」
「動くな!喋るな!」
「部屋の隅に寄れ、早く!!」
二人は研究員を部屋の隅に集め、45は出入口を監視して尋問は9に任せた。
「それじゃあ……お話しよっか♪」
9は手始めに目の前の研究員の男を何の前触れも無しに撃ち殺して見せた。
「ひぃぃぃい!!」
「うわぁぁ!!」
「私の質問に答えなかったり、叫んだり関係ないこと言ったらこうなるからね、だからさっさと答えてね?」
9は一歩進んで質問する。
「ここは何を研究しているの?」
「ま、まってくれ、私達は何もー」
パスンッー……チンッ!コロコロ…………
「はい、じゃあもう一度、何を研究してるのか教えてほしいなぁ?」
「ひぃ……せめて、せめて妻だけは許しー」
パスンッー……チンッ!コロコロ…………
「まだ一杯いるからねー、ゆっくり行こうか♪」
「ッッッー……こ、ここは核弾頭…つまり核兵器を研究し、部品を製造している施設……だ」
「ふーん、それじゃあ。そのデータはどこに有るのかな?」
「それを、どうするつもりッ」
パスンッー……チンッ!コロコロ…………カシャッ!カチン、ジャコッ!
「そういえばリロードしてなかったなぁ……忘れてたよ……それで?何処かな?」
「あ、ああ…ッッッ………ここの二階にあるサーバールームだ……私の机にディスクがある、それを使ってデータを落とせる…………」
「分かった、二階だね?それじゃあ最後の質問!核兵器の事はグリフィン公認なの?」
「…………い、いや……一部の上層部が勝手に考案して機密裏にプロジェクトを進めてる……もう良いだろ!?それ以外は何も知らなー」
パスンッー……チンッ!コロコロ…………
「質問と関係ないこと言ったらダメだよー……これくらいでいいかな?録音もしたし、ねぇ45姉?」
「いいんじゃない?必要な事は聞けたし、あとはデータを回収して早く指揮官を探そう」
「賛成!じゃあねー」
何もデータを入れてないディスクを取り、45と部屋を出る直前、9は隅で怯える研究員に笑顔で振りかえる。
「すぐに喋っておけば一人で済んだのに、残念だったね」
二階まで駆け上がり、騒動に駆けつけてきた警備兵を殺してサーバールームに突入、総合管理コンピューターにディスクを差し込んでデータを落とし始める。
「指揮官と無線が通じない……地下だからかな?」
「研究してる所は見えなかったけど、確実に何かをしでかそうとしてたね……」
「でも、グリフィンが完全に関与してる訳じゃないらしいし、もしかしたら141の皆は何も知らないのかも」
そうこうしている内に全てのデータを回収したディスクを抜いてサーバールームの外に出る前に45がサーバールームのデータコアを撃って全て破壊した。
「気休め程度だけど、一応ね」
「うん、早く出よ!」
9は施設の全体地図を発見して脱出口を見つける。
「もう少し進んだ所に物資の搬入トンネルがあって、そこの非常用階段を昇れば地上に出れるよ45姉!」
「ならそこに行きましょ、急がないと……指揮官が心配」
二人は全速力で駆け出し、警備兵の追っ手を排除しながら搬入トンネルに抜け、非常階段の扉を目指す。
先に着いた9が45を援護しながら扉を開け、先に45を入れてから自分も入って扉を塞ぐ。
「昇ろう、マスク着けて」
「うん、分かってる。急ごう」
階段を昇りきり、扉を開け放つと、二人の目の前を何かが勢いよく通過して地面に衝突した。
「ッッ!指揮官!?」
「…………フンッ!」
ガーゴイルに乗り掛かって首にボウイナイフを突き立てたその後ろ姿は間違いなく指揮官だった。
「指揮官!大丈夫!?怪我…………は…………」
「………………ああ…………」
その背中だけでも分かるほど指揮官の身体は傷だらけでボロボロにされていた。
「酷い傷…………早く治療しないと!!」
「いや、それよりも、お前達たちはどうなんだ?大丈夫か?任務は?」
指揮官は二人に振り向かず背中を見せたまま口を開く。
「私達は大丈夫、ナイトビジョンを失ったくらいで」
「グリフィンの研究施設を見つけて、そこのデータを回収してきた、他にも色々録音してきたから収穫は充分」
「そうか…………なら……脱出するぞ」
合流した三人はグレイブスを先頭にアウターヘブンの外を目指して進む。
「……こちらゴースト……応答を願う…………」
≪ッッ……ッッー……ゴースト、聞こえている≫
「作戦を……遂行完了、これよりランディングゾーンへ…………向かう」
≪了解した、これからヘリを飛ばす、ゴーストアウト≫
「…………??」
(指揮官……?)
45は妙な違和感を覚えたが、特におかしな所はない、弱っている様子は無いし、脚運びも通常だった。
だが、その違和感の正体はアウターヘブンを抜け、ランディングゾーン付近まで歩いている時に確信へと変わる。
「指揮官、ランディングゾーンまであとどれくらい……?」
「…………………………」
「指揮官……?」
「っ………ああ……………もう…………少しだ、急ぐぞ……」
「…………?」
45はあることに気が付いた、銃を構えながら進むグレイブスの左手首、そこに着いているガイガーカウンターがいつまでも中央から動かないことに。
自分の物を見てみると、ガイガーカウンターは大人しく数値の最低値を指している。
そして決め手となったのは、その横に着けたフィルター残留がとっくにゼロになっていた事だ。
「ッ!指揮官…………!?」
「45姉……?」
無言で進み続ける指揮官の前に割り込み、顔を覗き込むと、指揮官は防護範囲の半分がひび割れて欠けたガスマスクを着けた状態だった。
「そんな……!!」
45が割り込んだ事によって脚を止めてしまったグレイブスは糸が切れたように崩れ落ち、地面に倒れた。
「ッッ!」
「指揮官!!ああそんな!!」
「ヒュー……ヒュー……ゼェ……ゼェ……ヒュー……」
グレイブスは相当量の放射能に被爆し、内面は衰弱しきっていた、今までは常人場馴れした精神力で動いていたが、脚を止めたことがきっかけで身体の糸が切れたのだ。
視界は淀み、彼女達の声さえ聞こえない。
身体を揺さぶってくれているのだうか?視界の動き以外で状況を読み取る事ができない、全身の視覚以外の感覚が無くなっているようだ…………寒気が止まらない…………意識が無くなる…………ああ…………すまない二人とも…………泣かせてしまった…………すまない。
目を覚ます、ベッドに寝かされているのだろう。
左右を見ると、左手に9、右手に45が突っ伏して眠っている、ここは治療室の寝台か。
そっと起こさないように二人の頬をなぞるように撫でると、不覚にも目を覚ませてしまった。
「指揮官……ああ良かった起きた…………」
45がゆっくりと椅子から立ち上がる。
「大丈夫だって分かってても心配するね本当…………」
呟いた9は安堵のため息を吐く。
グレイブスはベッドから身体を起こし、右腕に繋がる点滴を外して何度か拳を握る。
「どれくらい、眠っていた」
「丸々1日ぐっすりと寝てたよ」
「そうか……お前らが持ち帰ったデータは?」
「それなんだけど……少し長くなるよ」
グレイブスは二人から詳しい話を聞きながら普段着に着替える。
「なるほど……やはり核を造ろうとしてるのか……」
グリフィン内の一派閥が鉄血工造を一網打尽にするために核兵器を他のグリフィンには機密で製造している事が判明し、ゴーストは次なる作戦を考えている途中だった。
この事態を解決するには全てのグリフィンにその事実を知ってもらうことが最も効果的であるが、その為にはゴースト側から情報を渡さなければならない、だがゴーストは存在してはならない、決して表に出てはならないのだ。
その話を聞いたグレイブスはその日の内に二人を連れて指令部に向かった。
「入るぞイェソド」
指令部の扉を開けると、質素な部屋の中に提督机が置いてあり、その奥にイェソドと呼ばれるスーツ姿の男が座っていた。
「グレイブス?もう身体は大丈夫なのか?」
「ああ、問題ない。除染は完璧だ……それよりも」
「今回の件について、何か策を思い付いたんだな?」
「そうだ、聞いてくれるか?」
「もちろんだ、お前の事だ、最良の策なんだろうな」
グレイブスは一旦の間を置き、策を伝えた。
「俺がグリフィンに捕まり、内部に入る」
「ッー!」
「ちょーッ!」
「…………ふむ」
姉妹はグレイブスの前に立ち、声を上げる。
「指揮官は今、グリフィンに指名手配されてるんだよ!?」
「捕まるどころか、殺される……!」
「だがそれ以外にあるのか?ゴースト側から情報を発信する訳にはいかない、それに、指名手配されているからこそこの作戦が刺さる」
「…………確かに、その通りかもな」
「ッッッ!!イェソド指令!!」
「落ち着けUMP9…………それでグレイブス?うまく捕まったとして、どうやって情報を渡すつもりだ?」
「考えがある、グリフィンには多少なりともまともな奴が何人かいる、俺が説得して話を聞いてもらうことにするさ」
「口頭だけで信用するほどやつらはアホじゃない、データを持ったまま侵入することは出来ないぞ、ボディーチェックでバレるだけだ」
グレイブスはしばらく沈黙し、再び話し始める。
「いや、大丈夫だ。俺の罪状は機密情報を盗み出した事だ。何を盗んだのか聞かれる筈だ」
「なるほど……確実では無いが可能性はある、その策を使おうか。詳しい作戦の立案はお前に任せる、協力してほしい事があれば言え」
「すまないなイェソド」
「気にするな、我々も打つ手を失っていた所だ、かなり危険な博打だがやってみよう」
薄暗く、血生臭い鉄部屋の中で、グレイブスは拷問を受けていた。
「言え!貴様が盗んだ情報を!全て!!」
「………………」
これで8日目……グレイブスはじっと機会をうかがっていた、あの男を、ずっと待っていた。
誰よりも俺に会いたいであろう男が、この場所に来るのを。
拷問が終わると、グレイブスは次に尋問室に入れられる。
全身に受けた火傷、裂傷、打撲傷は見るに絶えないほど増えていたが、グレイブスにとってほとんどダメージにはならない。
尋問室の中は逐一尋問官が変化しており、グレイブスはここに目を着けた。
そして今日、その男が部屋に入ってくる。
「…………グレイブス」
「久しぶりだな……クルーガー?」
「…………フン」
グレイブスの全身に着いた傷を見ながら向かいに座り、二人しか居ない部屋は沈黙に包まれた。
「………………何を企んでいる?」
「…………そうだな……お前達を、止めに来た」
「なんだと……?」
クルーガーは5ヶ月の間の付き合いでグレイブスの事をよく理解していた。
彼は悪ではなく、何らかの理由があって我々を裏切った事も、理解していたのだ。
「お前達は…………核兵器を作っている」
「っ…………………………それは、どういう事だ?」
やはり、クルーガーは何も知らないのだろう、自分の足元で一体何が起きているのかさえ。
「俺が盗んだ情報は、配給物資の保管場所の他に、機密裏に製造されている核兵器の情報だ」
グレイブスは知っていながら、あたかもグリフィン全体がグルであるかのように話す。
「クルーガー、逆に聞くが……核兵器を開発して…………何を企んでいる」
「ッッ…………」