果たして……クルーガーは信じてくれたのだろうか?
そんな疑問が頭を過った、こうしてグレイブスが殺されずにグリフィンに拘束されたのは、わざとクルーガーの耳に入るように正規軍による正式な引き渡しでこの場所まで連行されたからだ。
つまりはクルーガーが俺を生かしたまま連行するようにと手を回したのだろう。
……伝えられる事は全て伝えた、もしもこれがうまく行かなければ9と45に合図を出してここを脱出、最悪の場合は始まってしまってから動くしかない。
「……さて、どうなるか」
尋問室からこのベッド以外になに一つ置かれていない拘留所に移動させられたグレイブスは鋼鉄の壁に背中を預けながらじっと天井を這う虫を眺めていると、頑丈な鉄格子の向こうから扉が開かれる音がした。
「グレイブス・フェニックス、お前に面会だ」
「面会……?」
手錠を掛けられた状態で上半身裸のグレイブスは白一面の面会室に通される。
「っ…………!」
「ん…………?」
面会室の向こう、口頭穴が空いた防弾ガラスの先には見知った顔ぶれが四つあった。
「…………AR小隊か」
「あ…………っ…………」
何かを話そうとして口を開いたM4はグレイブスの全身に刻まれた拷問の痕を見て驚愕し、苦しそうな顔を見せる。
「それで……?」
グレイブスはそんな彼女達の心境など無視して面会席に座り、淡々と話し始める。
「戦術人形が俺になんの用だ?話す事は全て話した」
「…………クルーガーさんから話は聞いたよ、指揮官」
未だに言葉の出ないM4の代わりにM16が話しだす。
「指揮官………か、お前達と別れてもう8ヶ月だ、本職の指揮官が既にお前達を率いているハズだ、俺を指揮官と呼ぶのはやめろ」
「……いないよ」
「………ん?」
俯くM4の隣でSOPMODⅡが静かに呟いた。
「私達は指揮官無しでグリフィンの自律軍隊として稼働してるのよ」
壁に寄りかかるAR-15がSOPMODⅡよりも早く答える。
「………そんなことがあり得るのか?指揮官無しで、どうやって?」
「私に搭載されてる臨時指揮系統システムを使って………戦術人形達を率いてます」
M4の答えにグレイブスは眉間にシワを寄せる。
「理解不能だ、そもそもなぜ指揮官を着けない?M4のソレがあったとしても統率できる人間が居なければー」
「それは指揮官、貴方のお陰だよ」
「俺の………?」
「そうだよ、指揮官が私達をここまで育ててくれたから私達は自由な人形だけの指令部組織になれたんだよ!」
突如、グレイブスの狭まっていた視界が広がりAR小隊全員の姿、その眼差しを改めて認識し直した。
「………そうか………そうだったな………………」
たったの5ヶ月の期間、それが例え仮初めの偽物だとしても。
グレイブスは彼女達AR小隊、そしてグリフィンの戦術人形達を最強の軍人に仕込み上げたのだ。
もやはグレイブス以外に彼女達を纏め上げ、使いこなせる人間は存在しないと判断したクルーガーはあらたな指揮官を着任させず、彼女達『
「そして、クルーガーさんからこれを」
「これは………」
受け取り口から通された小さな封筒の中を確認すると、グレイブスは少しだけ目を見開き、無表情のまま椅子から立ち上がる。
「………依頼は受理された………この世に亡霊は存在しない」
「………?」
「亡霊………?」
彼女達は彼に手渡した封筒の中身を知らなかった、グレイブスは背を向けて面会室のドアノブに手を掛け、扉を開きながら話す。
「AR小隊……」
「っ、はい?」
「至急141を指令部、大会議室に集めろ………そしてM4はその後20分以内に迎えに来い、迅速にやれ」
『迅速にやれ』その言葉にAR小隊の4人は全身が震える程の鳥肌が立つと同時に素早く横一列に並び、扉の裏に消えていくグレイブスに敬礼し怒鳴り声にも似た声で。
「了解しました!!!!!」
扉が閉まってからもずっと敬礼し続ける彼女達の瞳には、指揮官から教えて貰った涙が零れ落ちていた。
グレイブスはAR小隊の声を背に、ゆっくりと歩き始める。
「………俺達の事を知っていたのか、クルーガー………」
この封筒の中には、ゴースト部隊に依頼をする際の隠語が書かれており、もう一枚の紙にはそれらの軍事的な文書がある。
グレイブスはクルーガーが派遣した警備兵に連れられて個室に入れられ、部屋の中にあるウェポンボックスのシール、その裏には作戦成功の合図を確認した45と9の俺にしか分からないマークが書かれていた。
「………」
ボックスの中には黒一色で統一されたゴースト専用戦闘服
が入っており、それと一緒にゴーストの基本的な装備が揃っている。
支給された軍需品を全て装備し、最後の物入れに入っていたパーカーを手にとって広げた。
パーカーは黒色メインで黄色の警戒色のラインが引かれたとても見覚えがあるデザインに仕上がっており、サイズもグレイブス好みの少し大きめ、ポケットの中からはみ出ているメモ紙を抜き取る。
UMP45・UMP9より、指揮官へ』
「………………………」
着替えを済ませ、UMPシスターズ力作のパーカーに袖を通してその上にトレンチコートを羽織り、寒々しい雪夜の拘留所の外に出ると、既に門の横にいつものように予定の5分前にM4が立っていた。
「………待たせたな」
「いえ!とんでもありません………さあ、行きましょうか」
「ああ……そうだな」
ゆらりゆらりと降り落ちる雪夜道、靴底が雪の地面に沈む音が静かに聞こえてくる中、左隣を歩くM4はグレイブスを見上げた。
「あの、指揮官……」
「………なんだ」
「歩幅……私に合わさせてしまってすいません。気にせず歩いて頂いて大丈夫ですから」
「気にするな………これでいい」
「………………ありがとうございます」
M4の隣を歩く両足は彼女の小さくも颯爽とした歩速、歩幅に合わせて完璧に動いていた。
「………指揮官、覚えていますか?私の事をMODⅢにアップグレードしてくれた日の事を」
「覚えている………」
「あの時………覚醒した私が復讐に身を捧げ、目の前の事に制御が効かなくなった時。指揮官は私を抑えるでも、処分するでもなく………『お前の全てが復讐ならそれは正しい、だが…後悔だけはするな』………」
「………………」
「その言葉の意味を理解するのに、とても時間が掛かりました、皆に迷惑を掛けてしまいました……そしてやっと目が覚めたと思ったら……指揮官は消えてしまいました」
「………………」
「指揮官にお礼が言いたいんです……ありがとうございます………私を……戻してくれて………ありがとう」
じっと話を聞いていたグレイブスはこちらをずっと見上げるM4に対して前を向き続けたまま。
「勘違いするなよ、俺はお前を救いたかった訳でも、止めたかった訳でもない。ただ、自分が選んだ道に後悔するなと、伝えるべき事を伝えただけだ」
「っ………それでも…!私は………その言葉に救われたんです」
「違うな……お前は自分で選んだんだ、復讐を捨てる道を、それならそれでいい、その道を後悔するなよM4」
「………はい!」
「お前達にはまだ先がある、光輝くお前達ならいくつもチャンスがある筈だ……………俺達とは違う」
「………………?」
その頃、大会議室に集まった人形達はその動揺を隠しきれていなかった。
「指揮官が帰って来たってホント?」
「でも、指揮官ってグリフィンを裏切ったんでしょ……?それなのに帰って来たなんて………」
「私は信用しないから!もしも帰って来たって、また裏切られるに決まってー」
他の人形達の声に交じってWA2000が声を張り上げたその瞬間。
会議室の裏口の扉が開き、お立ち台の上に彼が姿を現した。
刹那の内に動揺が広がっていた会議室は静まり返り、グレイブスの軽い足踏みだけが甲高く鳴り広がる。
「………………」
グレイブスは8ヶ月前に指揮を取っていた自分の人形達を見渡し、講演台に乗っているマイクのスイッチを入れる。
≪まず……ここに居る者達が思っているであろう疑問は今だけでいいから全て忘れろ≫
お立ち台の横で待機するM4は横目にグレイブスを見つめる。
≪いま、グリフィンの中で戦術核兵器が製造されているという情報を掴んだ、核兵器について知らない者が殆どだろう、簡単に説明すると、一発で無差別に大陸一つを焼き焦がせる弾丸だと思ってくれればいい≫
その言葉に数名の人形達がざわめく。
≪今回の任務はそれを保持しているグリフィンの一角を潰し、核兵器を確保、廃棄することだ。作戦立案は俺が担当する、今回限り、俺はお前達の臨時指揮官を勤める≫
「ッッ………そんなの!信用できる訳ないでしょ!!」
WA2000が声を荒げ、それに続いて416が怒りの籠った声を出す。
「私達を棄てたヤツが今さら戻ってきて何様?今すぐにでもあんたを殺してやりたいわ」
そう言って416はグレイブスに向けて銃を構えた。
それを見たAR小隊は素早く416を取り囲んで銃口を突き付ける。
≪………仲間に武器を向けるのは許さん≫
一言でAR小隊は武器を下げ、416の包囲を解いたが、416はグレイブスに照準を合わせたままだった。
「悪いけど、私にとってあんたは仲間じゃないから」
≪別に構わん、撃ちたい時に撃てばいい……話を続ける≫
416の武器に着いたレーザーポインターが己の心臓部を照らしていてもグレイブスは何事も無かったかのように、今度はマイクを切って話し続ける。
「……ッッ!?」
(ポインターに見向きもせず………イ、イカれてる………)
だがそんな事は416自身も知ってる筈だ、この程度で臆するような男では無いことを。
そして、彼女が心の奥底ではまだ彼を絶対的に憎むことが出来ていないことも。
それはWA2000も同じだった、幾度も殺そうと思っても、実際に出てくるのは安堵の涙、それほどグレイブスの存在は彼女達に深い影響を与える。
「既に核兵器を保有していると思われるグリフィンの離反団体はこの場所を離れ、支配区域外に逃亡した。まず第一目標は奴等の潜伏先を突き止める、第二目標に離反団体の撃滅、最終目標…戦術核兵器の確保、廃棄だ」
そこまで言い切ったところで、グレイブスは話を区切り、全員の顔を見渡す。
「尚、今回の作戦は各自の『自由参加』とする」
その言葉と共にグレイブスは話を止め、お立ち台から降りる。
そして道を開ける彼女達の前を通り抜けると、目の前の出入口を塞ぐように416が佇んでいた。
だが構わず彼女の横を通り抜け、すれ違いざまにグレイブスが呟く。
「無理して参加する必要はない、好きにしろ」
「ッッ………!!!」
416はグレイブスに振り向いた。
グレイブスの使う単語には良い意味でも悪い意味でも様々な裏があり『好きにしろ』彼が個人の誰かにその言葉を使うときは、お前が来ても来なくても大して変わらないという意味が込められており、それはつまり『その者にそれだけの価値が無い』と言うことを指しているのだ。
それを知っている416は歯軋りをしながらグレイブスの背中を睨み付ける。
彼女の鋭い視線を感じながらも大会議室を後にし、司令室を目指して宿舎を通り過ぎようとしたその時、宿舎の奥で呼び声が聞こえた。
「指揮官っ」
「………K5か、どうした」
ハンドガンのK5はグレイブスの事を手招きする。
特に疑問を抱かず、グレイブスはそのままK5の私室に招き入れられる。
「途中で大会議室から出ていったようだが、何かあったのか?」
「ううん、ただ……指揮官が何を言うか予測出来たから、納得して出てっただけ」
K5はベッドの上に座り、扉の前で立ったままの指揮官を見ながら隣に座るようポンポンとベッドを叩く。
「………………」
素直に隣に座り、しばらく沈黙していると、K5から話し掛けた。
「私は作戦に参加する」
「………無理する必要はない」
「無理してないよ、それに私の予測では………ううん、何でもない」
「………………?」
「それに………誰も集まらなくても、指揮官は一人で行くつもりでしょ?何でもかんでも、たった一人で………ずっとずっと一人………」
「いいや………俺は一人じゃない」
「………?」
グレイブスは二人の姉妹を頭に過らせながら答える。
「なぁK5」
「なに?指揮官」
「今回の作戦は俺が思っている以上に事情が深そうだ、何が起こるか予測出来ない……厳しい戦いになるぞ」
「そうだね……誰かが、居なくなっちゃうかもしれない」
「………………」
(そうならない為に………………誰もこの作戦には参加してほしくない………そう願ってたのだが…)
本来、ゴーストの目的は核兵器を機密裏に開発しているグリフィンの一部をグリフィン自身で孤立させた所をゴーストだけで誰にも知られず撃滅する目的だったのだが、クルーガーがグレイブスに与えた条件は再び自分の人形達を率いて離反した者達を排除する事だった。
しかもクルーガーはゴーストの存在を知っている、まだクルーガーだけしかグリフィン内で亡霊を知る者はいないようだが条件を呑まなければゴーストの存在を全世界に公表すると脅してきた、そのせいでグレイブスはゴーストからの支援を最低限しか受けられない状態となる。
「指揮官、教えてくれる?」
「急に何だ………?何が知りたい?」
「指揮官はどうしてグリフィンの機密情報を盗んだの?きっと複雑な事情があるはず、教えてほしいの」
「………………そうだな………」
K5は7ヶ月前に臨時指揮官として着任したグレイブスの副官として最初から最後までグレイブスをサポートしていた人形であり、グレイブスも彼女を信用していた。
「グリフィンが保持している配給物資の一部に、本来なら正規軍が難民達へと送るはずの配給全体の25%がグリフィンに横流しされていたんだ……だからグリフィンの内部者になって情報を抜き出す必要があった」
「そんな事が………例え言いずらいとしても、せめて私に相談してくれてもよかったのに」
「それは出来ない、そもそもお前達には何の関係もない話しだった」
「………それもそうね……でもこうして指揮官は帰って来てくれた、今はそれだけでいい…」
「帰ったわけじゃない、戻っただけだ、またすぐに消えるさ」
「でも………」
K5はベッドから起き上がり、グレイブスの正面に立って彼の目を覗き込んで自信に満ち溢れた表情で断言した。
「この作戦が終わっても私達はまた指揮官と会える、それだけはハッキリ言えるかな」
「それは………残念だな……」
グレイブスもベッドから起き上がると、K5は少しもの欲しそうに背伸びをしながらグレイブスに頭を向けた。
その意図を汲み取り、K5の美しく滑らかなそのブロンド毛の髪に触れ、優しく撫で下ろす。
「うん、満足」
「………それじゃあな」
部屋から出ていく指揮官の背中に思わず手を伸ばしたが、触れることは出来ず、言葉も出なかった、その代わりに出てきたのは涙だった。
指揮官はきっと今日も戦場に向かうのだろう、そして時には無傷で、時には全身をズタズタにされて戻ってくる。
どんなに強くても所詮は人間、その力が及ぶ領域と及ばない領域がある、指揮官はその領域線を無視して堂々と踏み込むだろう。
そして任務の為に自分でさえ捨て駒にして戦うのだ、激しい烈火の中に飛び込み死を免れぬ程の火傷を負いながら戻ってくる。
(大丈夫…指揮官は必ず戻ってくる、どんなにボロボロにされても絶対に帰ってきてくれていた。それが例え私達のところでなくても良い、他の誰かに向けられた帰還であっても構わない、指揮官が生きてくれる、それだけで私は良いから………)
その後、指令部内の電信掲示板に添付されていた人数無制限の作戦参加人数表には141人形部隊全員の意志で名前が書かれており、確認したグレイブスも予想が外れ少しだけ驚くことになる。
それから5分もしない内に作戦内容と各役割の部隊編成が掲示され、数百人規模の人形達が完璧に割り振られていた。
もう一つ予想外な事があるとすれば、指令室に人形達が押し掛けてきた事だろうか、飛び付いてくる者、泣き崩れる者、怒り叫ぶ者、それぞれだった。
「………ッッ」
グレイブスは悪夢を見ていた、これが初めてではない。
眠る度に見続ける同じ夢。
血塗れで赤錆び付いた窓も扉もない狭い部屋の中で同じように血まみれの鉄椅子に座っており、その正面には誰も座っていない同じ鉄椅子がおいてある、蛍光灯一つの明かりで照らされる部屋のなか無限にも感じる時間を座って過ごし、目を覚ます。
左腕に暖かい感触を感じて視線を向けると、G11が左腕に抱き付きながらぐっすりと眠っていた。
「………………」
(あの夢は………一体何を見せようとしているんだ……?)
30分ほどじっと天井を眺めた後、グレイブスは再びあの悪夢へと戻った。
早朝、午前5時ぴったりに身体を起こしたグレイブスはベッドから降りようとするが、それを拒むようにがっしりと左腕にしがみついたG11が寝惚けた様子で口を開く。
「しきかん………もうちょっと寝ててもいんだよぉ~………」
「なら好きなだけ寝ていればいいだろう、お前達の作戦決行は午後からだ」
「しき…かんも……うんにゅ………一緒だよ…行っちゃだめ……」
「なら起きろ、あとその帽子は接着剤で付いてるのか?」
G11と一緒に朝のルーティーンを終えて自室からでて指令室に向かっている道中、偶然にも416と鉢合わせてしまった。
「あっ………」
「ん………」
「すぴー……うんっ?」
グレイブスが挨拶するよりも先に、416はグレイブスにしがみつくG11を見るやいなや彼女の頬をつねり上げて引き剥がした。
「いっひゃ!いひゃい!!」
「部屋に居ないと思ったらアンタねぇ……!」
「まぁそこまでにしてやれ、誰にも迷惑は掛けてないからな。それにしても意外だったぞ416」
「………何が?」
「まさかお前が作戦に参加してくれるとはな」
「………気まぐれよ、別に特別なことはー」
「作戦に参加して一軍に抜擢されたときに気持ち悪いくらい喜んでたよ?」
「こんのッッ……!!」
「止めてやれ416………まぁ何はともあれ、お前達は一軍、つまり今日の始動部隊だからな、良い結果を期待してるぞ」
「……その事なんだけど、私達の部隊にある二人分の空欄、UMP45と9の枠でしょ?」
まぁ……分かってしまうだろうな。
グレイブスは416の問いに少し考え込み、静かに頷いた。
「やっぱりね、それで?その二人の姿が見えないようだけど?近くに居るんでしょ」
「いいや、二人には偵察に行ってもらっている、今回の作戦地域のな、お前達二人はそこで合流、404小隊は行動を開始する」
「ずいぶんと信用してるのね、そんな危険な事をさせるなんて」
「ふむ………正直に言えば今回の任務はあの二人にそのまま任せる予定だった」
この言葉に416の眉が動いた。
「それじゃあ今回の作戦に私達が組み込まれているのも、そもそも意味ないって事?」
「そんな事はない、確かに作戦を完了させるだけならあの二人だけで造作もないさ、だがそれまでの工程をスムーズに進める為にお前の存在な必要だ」
「それって結局わたし達は繋ぎってこと?」
「そうだ、お前達は総力を上げて45と9を援護する、全ては作戦計画書を見てくれ」
「………………ギリッ」
一軍:戦術人形
第一攻略部隊:404小隊
隊長:エラーUMP45エラー
副隊長:エラーUMP9エラー
隊員:HK416
隊員:G11
第二攻略部隊:AR小隊
隊長:M4A1
副隊長:M16A1
隊員:SOPMODⅡ
隊員:ST AR-15
『中立交戦区域』
「久しぶり、7ヶ月振りの再開だねー」
「………45」
山岳地帯の合流地点で
UMP姉妹と落ち合った416はさっそくその不穏な空気を感じ取る。
「………いきなりだけど、ソレなに?」
「ああ………これは」
416が指差す方向には、禍々しい黒のオーラに包まれた9の姿があった。
「もう指揮官と一週間以上会ってないし声も聞いてない私頑張ったのに良い子にしてたのに指揮官からご褒美もらってないよどうしてなの?いっぱいナデナデしてもらうはずなのにまたこんな雑用ばっかりでまた指揮官に会えなくなっちゃうのやだやだヤダヤダヤダ………………死にそう」
ずっとぶつぶつと呟き続ける9に416は完全に引いていた。
「うっわ………」
「指揮官不足だね、4日以上期間が空くとああなるのよ」
「へぇ……てゆうかアンタは平気そうじゃない?9よりも拗らせてると思ったんだけど」
「そうね……9があんなんだから、私がしっかりしないとどうしようもないからね」
「ふーん、ちょっと見直したわ、なんかいろいろ溜め込んでると思ってたわ」
「ふふ……でもね、指揮官に会ったらいっぱいいっぱい壊れる予定だから心配しないで」
「………うっわ」(二回目)
416は一歩だけ45から離れると、ポケットから片耳用無線機マイクを2つ取り出して差し出す。
「これ、指揮官が二人にって、無線が私達と共有されてるマイー」
「ッッ!!!!!!」
刹那、9が狂犬の如き興奮した様子で416からマイクを奪い取り、片耳に装着した。
45は落ち着いた様子でマイクを受け取り、装着する。
≪ッッ………聞こえるか?≫
「聞こえる!!聞こえてるよ指揮官!!!」
≪??……落ち着け9、45は?≫
「聞こえてますよ~」
≪よし、作戦計画書に目を通したな?予定通りに頼むぞ≫
「指揮官!指揮官!!帰ったらご褒美頂戴ね!いっぱいちょうだい!わたし頑張るから!良い子にするから!!待っててね!」
≪わかってる、わかってるから、無理はするなよ9。45に替わるぞ≫
「指揮官~」
≪45、9を頼むぞ、お前も無事で帰ってくるんだ≫
「任せて指揮官、全員殺して帰ってくるからね……また会おうね」
≪あぁ、すぐ会える………コマンダーアウト≫
通信が切れると同時に404小隊は崖の下に見える通信施設を目指して駆け降りる。
崖の下に到達し、岩陰に身を潜めて施設周辺を見渡していると45が小隊を待機させる。
「入り口を見つけた、突入するよ」
「隊長に合わせるわ、行って」
416は寝落ち寸前のG11をつねり起こし、先を行く45と9の背後をカバーしながら着いていく。
完璧な連携で素早く入り口まで進む二人の背中は7ヶ月前とは比べ物にならないほど大きく、逞しく見えた。
(それに指揮官の通信が終了した時、明らかに顔付きが変わった、元からそういう所はあったけど、前とは比較にならない……一体どんな修羅場を潜り抜ければそんな目付きになれるのかしら……)
UMP姉妹はゴーストでの任務に就く度に成長しており、特にグレイブスと行動している時、彼から得られるあらゆる全てを吸収しているためその成長スピードは尋常ではない。
入り口に着くと、二人は一切言葉を発しなくなり、416とG11に合図無しで入り口の端にテルミット爆薬を張り付けて点火、入り口近くにいたグリフィンの離反者達が音に気付いて振り返るよりも速く突入して見える限りの人間を撃ち殺す。
「ちょ、サインくらい出しなさいよ!」
「………………」
「………………」
「ムカ………」
「ねむいぃ………」
サイン無しでも一歩遅れでなんとか付いて行けてるのは幾度別れようとも変わらぬ絆を持って小隊を共にした416とG11だからこそだろう。
周辺の掃討が終わると、施設内の防衛システムが作動して通気孔に偽装されていた搬入口から小型四足歩行装甲機兵が次々と送り込まれた。
いち早く引き金を引いたのはG11、だが彼女の弾丸は装甲を貫く事が出来ず弾かれる。
「コイツら……!」
416は銃のアンダーバレルに装着したランチャー兵装に榴弾を装填して一つ目の搬入口に撃ち込んで破壊、完全に塞いだ。
だが搬入口はパッと見ただけで残り7ヵ所、416の榴弾は無数ではないし、補充まで時間が掛かり現実的ではない。
滝の様に流れ込んでくる機兵の群れは一瞬にして四人を取り囲み、頭部兵装の7.62ミリ四連装マシンガンから伸びるレーザーポインターを無数に向けられた。
「ッッ……どうすれば………」
(榴弾の補充、装填まで8秒……間に合わない……)
「………………」
(ヤバイ……けど眠い……)
「……もったいないけど」
「使うしかないね」
「………?」
「強化弾、装填」
「強化弾を装填」
二人は交互にマガジンを捨て、赤色のテープが巻かれた形状は同じのマガジンを装填した。
「後で指揮官に怒られるかもね~」
「良いもん、いまちょっと反抗期だからむちゃくちゃ使ってやるんだから!」
背中を合わせ、一斉に撃ち始める。
放たれた弾丸は硬く湾曲した装甲機兵を易々と貫き、一発の弾丸で数十体以上の機兵を貫通する驚異的な火力と貫通力を秘めていた。
鋭い狐色の残光を纏いながら連射されるストッピングパワー弾はあっという間に装甲機兵の包囲を打ち破る。
その隙を見計らって416が榴弾を放って搬入口を破壊して侵攻を抑える。
それに続いて45が腰に下げた手榴弾を搬入口に放り投げて爆発した。
「手榴弾って……」
「最初は使いずらかったけど……もう慣れた」
それでも精密な遠投は出来ないが、動かない箱の中に投げ込むことは出来る。
搬入口を破壊していくにつれて敵の数は減り、残りの搬入口が2ヵ所になる頃には既に機兵は全滅していた。
侵攻が止まり、9が銃のマガジンを抜き取ろうとした時、彼女の脇腹を7.62ミリの弾丸が貫く。
「ナイン!!」
416が弾道を予測して振り返ろうとした時にはもう9が生き残りの機兵を撃ち、破壊していた。
銃弾を受けたにも関わらず声一つ上げずマガジンを元の弾薬に戻す9に416は一瞬だけ恐怖する。
「先に進もう、この通信施設が離反者達に占拠されているってことは本拠地と連絡を取った痕跡があるはずだよ」
9の言葉に45は頷き、前進のサインを出して再び二人は沈黙する。
施設の奥で待ち構えていたグリフィンの離反者を守る傭兵部隊を殲滅しながら先へと進み、通信管理室に侵入した。
「………見つけた、ついさっき通信が行われてる」
「ならハッキングで通信先を割り出してAR小隊に送ろう」
システムのハッキングを終え、AR小隊にデータをインストールした後に404小隊は通信施設内の掃除に入った。
「あ!データが届いたよ!」
「ええ、こちら第二攻略部隊…データを受信、これより作戦を開始します」
≪………了解した、作戦を開始しろ。コマンダーアウト≫
半壊したショッピングモールから出てデータを確認する。
「すごい……指揮官の想定通り、この廃都市内の近くにあるある防衛シェルターから通信が発信されている…」
「あの男の推理力と直感はピカイチだからな、私達もさっさと終わらせようか」
「………運が良ければ、この作戦で全てが終わる、指揮官はそう思ってないようだけど」
「そういえばRO635はー?」
「聞いてなかったの?編成された部隊の配備要請、備品の確認をしてるのよ。さぁ行きましょう」
マップに写し出された信号を目指して進んでいると、道中で傭兵部隊を発見する。
物陰に隠れて様子を伺っていると、傭兵部隊は幾つものグループで協力関係を結んでおり、一つに組織されているのが見て取れた。
「どうするのM4?突撃する?」
「………そうね、目標まであとほんの少し、突破します!」
M4の合図でSOPMODⅡがグループで集まっている傭兵集団に殺傷榴弾を撃ち込んで一網打尽に吹き飛ばす。
横一列になって素早く進みながら道を塞ぐ傭兵を蹴散らして行くと、目標のシェルターが見え始めたが、シェルター入口に設置された防衛システムが作動、備え付けAI制御のマシンガンターレット2門がこちらに銃口を向けて重低音を鳴らし始める。
「ッ!!避けろ!!!」
M16の号令で散開し、左右に別れてしまった。
「………SOPMODⅡ、やれる?」
「まっかせてよ!」
榴弾を装填したSOPMODⅡがターレットに向けて発射、榴弾は一切のブレなく飛び込むが、シェルターの上部に配備されていた投射物防衛システムから打ち出されるテーザーショットによって榴弾は不発に終わり、消し炭になった。
「げっ!」
「なんじゃありゃ……面倒だな、銃弾で壊せそうだがここからじゃ狙ってる間にスクラップだ」
「……私とSOPMODⅡ、そしてM16姉さんで近付いてあのターレットの注意を引く、その間に狙撃できる?AR-15」
「………そうね、私を信じてくれるなら、100%ぶち抜けるわ」
互いの意志が合ったところでAR-15をその場に残して三人は障害物を通りながらターレットに急接近する。
そしてタイミングを合わせてターレットの目の前に飛び出し、SOPMODⅡは榴弾を装填、M4A1は背中に背負ったウェポンシェルターから榴撃砲を取り出して構えた。
ターレットの銃口はゆっくりと彼女達に向けられ、完全にロックオンされる直前、頭上を一発の弾丸が通り抜け、上部でむき出しになってる投射物防衛システムを完全に撃ち抜きその機能を停止させる。
「いま!!!」
ターレットから弾丸が発射される前に2門とも破壊し、それと同時に開いたシェルターの中から現れた傭兵をM16が撃ち弾く。
「突入する!みんな!付いてきて!!」
そしてシェルター内に踏み込もうとしたその瞬間。
≪待て!!中に入るな!!≫
突然、無線機から聞こえた指揮官の声に四人の足が止まる。
「っ……どうしたんですか?」
≪罠だ、そのシェルター内に踏み込めば一生出てこれなくなるぞ≫
「どういうことだ?」
≪そのシェルターについて調べた………そのシェルターには入口が一つしかないんだ、それにハッキングした通信内容を解いてみたが、暗号化すらされてない1秒だけの音波通信、どう考えても怪しい、ふむ…今回の作戦は中止だ……≫
「………お役に立てず、申し訳ありません……」
AR小隊の目的は敵の本拠地を襲撃すること、それが罠に嵌められ掛かった挙げ句に結局、本拠地の存在すら探知出来なかったのは事実だ。
M4のサインで帰投の為に踵を返した。
「ではこれよりAR小隊は帰投にー」
≪……誰が帰って来いと言った?≫
一瞬、一緒に無線を聞いていた45と9を除く404小隊とAR小隊に戦慄が走った。
≪今回の作戦は中止、さぁ……次の作戦を開始する≫
しばらく忘れていた感覚、忘れていた恐怖、そして忘れていたこの懐かしさは決して苦ではなく、戦慄は武者震いに変わる。
≪第二攻略部隊は廃都市から雪原地点へ反転、第一攻略部隊は通信施設から荒野の低レベル汚染区域へ、それぞれ各所の飛行場にて3分間の補給、2時間以内に目的地の走破を達成しろ……参加する第三部隊は空路にて森林地帯に向かって観測準備……迅速に動け≫