鉄血の迫撃砲が飛び交い、人形達が築いたバリケードを一撃で破壊する。
難民達を一ヶ所に集めて囲い込むように防御陣を作って四方八方から押し寄せてくる鉄血を総力戦で迎え撃っていたが、敵の勢いは収まるどころか更に進攻力を増して攻めて来ていた。
「ッッ……このままじゃ突破されちゃう……!!」
撃ち続けながらも弱気になっていくMP5にネゲブが一喝する。
「口を開く余裕があるなら撃ちなさい!弱音なんて聞きたくもない!」
「で……でもいくらなんでもこの量はー」
「分かってるわよ五月蝿いわね!!でも私達が逃げたら私達の背中にある命はどうなるの!?私達しかいないのよ!!」
「ッッ……そうですよね………すみません!!頑張ります!!」
撤退することは容易だった、人形達だけで一直線に活路を開いて逃げるのは簡単だ、でもそんな事をすれば難民達が皆殺しにされてしまう。
そして何よりも、指揮官は私達に言った、武装したあらゆる全ての敵を撃滅しろと、ならばその任務を遂行しなければならない、ここが私達の正念場だ。
そう人形達は思っていたが、現実はどうだろうか?もう少しで弾薬は底を尽き、陣形を突破されるのも時間の問題だ、彼女達に残された時間はほんの少しも残されていなかった。
「チッ……最終ポイントまで下がるぞ!!もう持たない!!」
「まだ……まだもう少し耐えれる!!」
「無理だP7!!下がれ!下がれ!!」
戦闘が開始して1時間、既に限界だった、最終ポイントに下がったところで一瞬の内に突破されるだろう、全人形の力をもってしても全く無意味だった。
どんなに強くても、数の暴力には勝てない、それは指揮官が一番最初に教えてくれた事だ、ならばどうして彼はこの負け戦に彼女達を向かわせたのだろう?そんな疑問が何人かの頭に浮かんだ。
グレイブス率いるゴースト分隊≪141≫は敵陣地のど真ん中を進み、敵の指令部を目指して武器の引き金を引く。
「リロード、カバー!」
「コピー…」
45がマガジンを抜き、その瞬間すれ違い様に45のポーチからマガジンを抜いて代わりに装填する。
それを読んでいた45はマガジンが装填される時には構えを完了させて装填と同時に撃ち始めた。
「フラッシュバン、アウト!」
「コピー」
「コピー…」
二人の前を抜けて9の閃光手榴弾が投げ込まれる。
激しい閃光によって動きが一瞬だけ止まった鉄血人形を撃ち弾き、枝分かれする迷路のような基地内を走り回っていると、基地内に設置されてる放送マイクから不協和音が流れ始める。
擦りきれたレコードを流しているような特定の人間にとっては嫌いな類いの音が激しく響き渡った。
グレイブスも思わず片耳を塞いで目を瞑ってしまう程の音量で流れ続けていた音はいつの間にかピタリと止み、辺りは電気が消えて暗闇と沈黙に包まれた。
「ッッ………何だったんだ…?」
グレイブスはP226ハンドガンのマガジンを交換し、腰に下げたAUGサブマシンガンのマガジンもリロードする。
「………大丈夫か二人とも」
暗闇の中でフラッシュライトをポーチから取り出し、P226を構えながら通路の先を照らし、背後の二人に問いかける。
だが答えは帰ってこず、ただグレイブスの残響が鳴いているだけだった。
「………おい、45、9、どうした………………っ」
不審に思って振り返ると、グレイブスの目の前にあったのは無惨にもズタズタに切り刻まれて殺されていた二人の姿がそこにあった。
「………………これは……」
足元に転がってきた45の首を見下ろしながら、その視線を眼球が抉り出された9の方に向ける。
「………………………45……9………」
グレイブスは冷静だった、あまりにも惨く、凄惨な光景を目の当たりにしても恐怖一つ感じなかった、グレイブスの顔は冷静に、だがとても冷たく淡白ないつもの表情を保ったまま通路の方に向き直って二人の残骸を残して先に進む。
慎重に罠を警戒しながら歩いていると、さっきの放送からノイズが流れ、聞き慣れた声が聞こえた。
≪………指揮官≫
「………………………」
≪返事をしてよ指揮官、45だよ?≫
「………………………」
≪どうして私達を殺したの………?≫
「………………殺した……?」
その時、グレイブスは自分の両手が深紅の流血に染まっているのに気が付いた。
≪ひどいよ指揮官……45姉と私を殺して………どうして?どうして殺したの………?≫
「………………………どうなってる?」
いつの間にか、あの凄惨な惨殺死体の場所に戻っていた。
そして足元に転がる生首の眼球がグレイブスを睨み付ける。
≪殺した………私達を殺した………どうして?どうして?≫
「………………………」
悲しく嘆く9の声を無視してグレイブスは再び通路の先に向かう。
だが今度はグレイブスの前に二人の死体が立ち塞がった。
≪どうして無視するの……?私達を惨たらしく殺しておいて≫
≪答えてよ指揮官………どうして殺したの?≫
「………………………」
何の躊躇も無くP226の引き金を引いて死体の脳天をぶち抜く。
≪イヤァァァァァァァア!!痛い!イタイ イタイ イタイ!!!≫
≪止めて指揮官!!痛いよぉ!!痛いィィ!!!!≫
「………………………」
倒れる死体を乗り越え、グレイブスはただ無言で先へ先へと進む。
≪酷い酷い酷い酷い酷い酷い酷い酷い酷い酷い酷い酷い酷い酷い酷い酷い酷い酷いひどいひどいひどいひどいひどいひどいひどいひどいひどいひどいひどいひどいひどいひどいひどいひどいひどいひどいひどいひどいヒドイ ヒドイ ヒドイ ヒドイ ヒドイ ヒドイ ヒドイ ヒドイ ヒドイ!!!!!!!≫
≪死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ねしねしねしねしねしねしねしねしねしねしねシネシネシネシネシネシネシネシネシネシネシネシネシネシネシネシネシネシネシネシネシネシネシネシネシネ!!!!!≫
「………………………」
そんな絶叫を聞きながら進み、気が付くとグレイブスは指令部と思われる大広間に立っており、広間の隅っこに9が縮こまり、ガタガタと震えているのを見つけた。
「……9か?」
「ごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさい!!!」
「9、おい……大丈夫か」
虚ろな目をした9は何かに向けて何度も『ごめんなさい』と呟いており、完全に恐怖に支配されていた。
「私が指揮官と45姉を殺した私が指揮官と45姉を殺した私が指揮官と45姉を殺した殺した殺した殺した殺したごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさい」
「これは……おい、もう大丈夫だ、戻ってこい9!おい!起きろ!!」
「イヤァァァア!!??指揮官!?ああぁごめんなさいもうやめて……もうやめて………本当にごめんなさい!ごめんなさい!!ごめんなさい!!だからもう許して指揮官……許して……」
「大丈夫、大丈夫だ……お前は誰も殺してない、全て幻覚だ9」
「ゆるし………あ………指揮官………生きてるの……?本物……本物………??」
「そうだ、もう大丈夫だ……しっかりしろ」
手を伸ばす彼の手を取ったのは9では無く、デコイの幼い手のひらだった。
「指揮官!!だめぇ!!」
「気付いて指揮官!!幻覚に掛かってるのは指揮官なのよ!!」
「フフフ……」
あの時の不協和音は人間にのみ作用し、音を聞いた人間に好きなように幻覚を見せてその精神を支配して操ることが出来る、デコイの能力は自身という情報を『視覚』『嗅覚』『聴覚』『感覚』で認識した人間を幻覚状態にする能力を持っている。
だがこの能力は人間のみに有効であり、人形相手は一瞬で幻覚作用が切れて無力化してしまう。
つまり幻覚を見ていたのはグレイブスだけであり、45と9は幻覚を見ていたその一瞬で捕縛されてしまったのだ。
「お願い指揮官目を覚まして!!」
「その女は私じゃない!!殺されちゃう!!」
「無駄よ、私が幻覚を解除しない限りあんたらの声は届かない」
事実、グレイブスに二人の声は聞こえておらず、聞こえているのは安堵し、泣きじゃくる9の姿と声だけだった。
「よし、さぁ立て、45を探すぞ」
「うん♪ありがとう指揮官………」
デコイは完全に幻覚を見せられているグレイブスに抱き付いて見せた、そして幻覚を見せられているグレイブスはそれを簡単に受け入れる。
「ッッッ………!!!!指揮官に触るなクソ野郎!!!離れろゴミ畜生!!!!」
「クソ!お前!!絶対に殺してやるグズ鉄女!!!!スクラップにしてやる!!!」
9と45は激しく怒り狂い、両手に付けられた拘束具をギチギチと引き延ばしながら怒鳴り散らす。
「フフ………………怖いわ指揮官……凄く怖かった………」
「そうか、だがまだやるべき事がある、まずは45を探すぞ、そう遠くには行っていないはずだ」
「そうだね、45姉を探そう!」
背を向けて歩きだしたグレイブスに、9の姿をした幻覚を見せるデコイは無音で懐からナイフを取り出す。
「指揮官!やめろッ!!」
「クソ!!クソ!!!!指揮官!!!」
「………………」
「アッハ……」
(チェックメイト……これでアクシス様の目的の一つが達成され、私を誉めて下さー)
両手に構えたナイフをグレイブスの心臓部に向けて突き立てようと刺し込んだ瞬間、突き立てられたナイフは身体を反らしたグレイブスによって躱され、P226のマズルをデコイの喉に殴り込み、フラッシュライトを手放して左手だけで巧みに彼女の緩んだ両手からナイフを奪い取って容赦なく首元に突き刺した。
「えヒュッ……ゴポ……」
「ッッ……指揮官!?」
「目が覚めた……!?」
「………………………」
「ゴフ………ヒュー……」
(あり得ない……私の幻覚に一度嵌まれば私が解除しない限り目覚めるなんてあり得ない……あり得ないのに………)
「………弱いな9」
「……は?」
「え………」
「指揮官………?」
否、グレイブスは幻覚から目覚めてはいなかった、そしてデコイはグレイブスを幻覚に掛けることは出来ても、グレイブスを知らない、それが彼女の敗因であろう。
彼は首に突き立てたナイフを引き抜くと同時に脚を蹴りあげて9を横転させる。
9は首を押さえながら身体をビクビクと震えさせるが、グレイブスはそんな姿を冷やかな眼で見下ろす。
「ゴホ……ゴホ……ッッ……ひっ!!」
9の幻覚に成り代わったデコイに映るグレイブスの眼差しはとても人間のソレではなかった。
彼の眼には意志を感じなかった、強い目的も、何らかの感情さえ感じ取れない、まるでいつもの日常をこなすかの如く、早朝に目が覚めて朝食を取り歯を磨くような極々当たり前で何の感情も湧かない……そんな目をしている。
「………………」
何も言わず、何も感じず、全てを見て、グレイブスはP226の銃口をもがき苦しむ9に向ける。
「たす……けて………45……姉………」
刹那、近接戦闘に特化した鉄血人形のブレーダーが背後からグレイブスに斬りかかる。
だがその人形もグレイブスの眼には憎悪に歪む45の姿に見えていた。
「………………」
一言も発することなく、グレイブスはブレーダーの攻撃を避け、腹に膝蹴りを喰らわせて髪の毛を掴んで引き回し、顔を殴って壁に仰け反らせてからナイフを45の心臓部に抉り込む。
グレイブスは決して幻覚に気が付いた訳ではなく、ゴーストとしての任務をこなしているだけだった、どれだけ一緒に生死を共にしようと、愛情を注いだ家族同然の仲間であろうと、ゴーストを裏切った時点で殺傷対象、つまり敵となる。
ならば殺さなければならない、どんな理由があろうとも、例え脅されたとしても、裏切った時点でゴーストに呪い殺される運命がある。
「………………………」
「ッッ……!!」
(コイツ……イカれてる……裏切ったとはいえさっきまで一緒に隣り合わせで戦っていた仲間をこんなにも簡単に殺すなんてどうかしてる……!!コイツ………こ………壊れてる、人間じゃない……)
デコイにはグレイブスの姿が歪んで見えていた、それは涙だろうか、それとも狂ってしまいそうな恐怖からだろうか、どちらにせよ、それを表現することは簡単だった、グレイブスが再び9の元に立ち、P226の引き金に力を入れ始めた時、デコイは言葉を捻りだした。
「ッッ……ぼ………亡霊………アクシス……様」
「亡霊……そんなものはこの世に存在しない」
9の頭を撃ち抜き、弾倉を交換したその時に9の死体が崩れ始め、デコイの姿が現れた。
「………………なるほど、そういう事か」
ナイフを投げ捨て、グレイブスはP226をホルスターにしまう。
「指揮官!!」
「む……」
「私達はここにいるよ!!」
「45……9………」
グレイブスはデコイの姿と壁にもたれ掛かって停止するブレーダーに視線を向け、溜め息を吐いた。
「まんまと幻覚に見せられた訳か……」
二人に近付き、手首に付けられた拘束具を切断して解放する。
「怪我は無いか?身体に異常は?」
「ううん、大丈夫……ありがとう」
「奴は……?」
「多分殺した……それに、奴が死んだことで指揮系統が壊滅したのか、他の鉄血人形も活動を停止したようだ」
「停止……どうして分かるの?」
グレイブスは指令部のディスプレイを指差す。
映像には崩壊寸前の難民集落を攻め続けていた鉄血人形が全てその機能を失い、停止していた。
「………アクシス」
「……なに?」
「アクシス、その名前は知っている」
「それって何なの?」
グレイブスは仮面を外し、デコイの死体を眺めながらゆっくりと話し始める。
「アクシスは……自律したAIだ」
「それって、私達や鉄血とは違うの?」
「全くの別物だ、奴はAIでも機械に組み込まれたAIシステムじゃない、アイツは『AIネットワーク』だ……ネットワークが接続されてあれば何処にだって現れるし何だって内部から操れる感情と意志を持った悪質なAI、自分の事を
「そんな奴が………でもどうして指揮官はそれを知ってるの?」
「それは………いや、この話は後だ、ひとまずここから離脱して帰るぞ」
「………彼女達はどうするの?せめて何か…」
「9、俺達がどういう存在か忘れたか?存在せざる者が現世にいてはならない……分かるな?」
「………うん、分かった……」
M4は指令室の机を叩き、ヘリアンに抗議していた。
「一体どういう事なんですか!?ヘリアンさん!」
「どうもこうもない、今回の作戦は全て君たち141部隊の成果だ、そしてその『臨時指揮官』を努めたM4A1に新たな権利と勲章を与える」
「それが納得出来ないと言ってるんです!!今回の作戦は全て指揮官が居たからこそ!!」
「指揮官………?おかしな事を言うなM4、この指令部はもう長らく指揮官を着任させてない」
ヘリアンは首を傾げて憤怒するM4に語り掛ける。
「そんな……!!作戦報告書を作ったのは紛れもなく指揮官が!!グレイブス・フェニックス指揮官が作成したものです!!」
「報告書……これのことか?」
引き出しから出された報告書は確かに指揮官によって作成されたそのままの文書が書かれている。
「これです!!作成者名に指揮官の名がちゃんと……ッッ!?」
指差す先に表記された作戦報告書の名前記入欄にはハッキリと『M4A1』と記入されており、彼女が全ての作戦を立案し、実行したことになっていた。
「実によく出来た文句の付けようの無い素晴らしい作戦計画だ」
「………そんな………そんな………まさか………」
その後指令室を飛び出したM4はデータベースを洗いざらい調べ上げ、全て確認したが、グリフィンのあらゆる情報から指揮官のこと、グレイブス・フェニックスについての全てが抹消されていた。
作戦計画書も、無線通信内容も、拘留情報も、そして彼がグリフィンの裏切り者だった事実でさえ消されている。
そもそもそんな人物が存在していたことが無かったことになっているのだ。
「そんな……指揮官の事が何処にも………全部無くなってる……」
キャッシュを大量に消費して疲弊仕切っていたM4を見つけ、その姿に見かねたM16が優しく問い掛ける。
「大丈夫だ……」
「……M16姉…さん?」
「お前が指揮官の事を知りたがっているように、他の人形達も彼が背負っているものを知りたがっている、でもどうしてその為の行動をしないか分かるか?」
「………いずれ会えるから……?」
「そうだ、みんなそれを確信しているから何もしていない、会えたその日に、答えを聞けると信じてー」
「それじゃダメなんです!!!」
「……………」
「いつかとか、いずれじゃダメなんです………もしもその日が来ずに指揮官が何処かで死んでしまったら何も!!!」
その時、M16がM4の顔を本気でひっぱたく。
「いい加減にしろM4!!お前だけが苦しんでると思ってるのか!?みんなだ!!みんな苦しんでる!!皆が答えを求めてる!!!それなのにお前はいつまでも有りもしない痕跡を探し回って!何のつもりだ!?」
「じゃあ16姉さんは指揮官に会いたくないの!?」
M16は情けなくしゃがみこむM4の髪を引っ張って壁に叩き付け、涙を流しながら彼女の両肩を掴む。
「会いたくないわけ無いだろうが!!私だって指揮官に会いたいさ!!もう一度会って今度は胸ぐら掴んで殴り飛ばしてやりたいよ!!でも現実はそうじゃないだろ!?指揮官は私達が思っていたよりもずっと遠くにいたんだ!!45も9も!!今は待つしか無いんだM4!」
「ッッ…………」
「私達が生きている限り、必ず指揮官に会える、それに指揮官はそう簡単に死なないさ、それはお前が一番よくわかってるだろ?」
「………そう………ですね」
亡霊と関わってしまった対価は余りにも大きく、またその成果は世界の均衡を保つほど強力だった。
グリフィンの人形達によって核は使用される事なく廃棄され、新たな規制の構築によって大規模殺戮は防がれた、鉄血を殺すための兵器が鉄血に奪われるのを阻止できた。
鉄血のボス、デコイの計画によれば山岳地帯の集落を制圧して立地を確保、そこから核を撃つ算段だったがこれもグリフィンの策略により破綻させたと公に公表され、ゴーストの存在をほのめかす情報は一切なく、ゴースト部隊である141分隊の三人に贈られるものは一つもない。
それどころかその中でもグレイブスは常人ならば自壊しているほどの精神汚染に曝されていた。
「………………………っ」
141分隊用の部屋で45と9の二人と一緒に眠っていると、グレイブスはいつもの悪夢を見る、だがその悪夢は血塗れの椅子に座るグレイブスにあの時の映像を見せた。
椅子に座ったままずっと45と9がズタズタの死体になっていく工程を永遠とループして見せられる。
身体は動かない、何も出来ない、何もしてやれない。
それがどれほど恐ろしいかグレイブスは知っている、必死に椅子から立ち上がろうともがき、眼に焼き付けられるその凄惨な光景へ向かおうと目を見開くと同時に、グレイブスは悪夢から覚めて勢いよく身体を跳び起こした。
「ッッーーハッ………!!」
「………んん………にゅう………指揮官………??」
「なに………どうしたの………?」
グレイブスの動きに気付いたのか45と9が眠気眼で目を覚ました。
「はぁ………はぁ………ッッ………あぁ……」
言葉が詰まって何も言い出せない彼の異常を察知して二人は完全に意識をハッキリさせてもう一度声を掛ける。
「どうしたの?何かあった?」
「もしかして、怖い夢を見たとか~?」
ふざけ半分で馬鹿にしたような言葉を並べた45だが、グレイブスが彼女の手を自分から強く握り締めた時にその余裕がいろいろな意味で消えた。
「そうだ……45…………」
「え………?」
「恐ろしい夢を見た……とても……とても恐ろしい夢を………俺は……ただ見てることしか出来なかった……」
グレイブスの声は震えており、その顔は恐怖に染まっていた。
「身体が動かないんだ、それで俺は………お前達が目の前でズタズタにされる光景を……ずっと見ていただけで………なにもしなかった……何も出来なかった………ッッ………」
「指揮官………」
「大丈夫だよ指揮官、私達はここにいるからね……」
指揮官の言葉は支離滅裂で何を言っているのか分からなかったが、恐怖と孤独の中に取り残された指揮官を二人は優しく身体を寄せて抱き締める。
「俺にとって何よりも恐ろしい事は、自分がそこに居ないことなんだ……」
「……うん………うん」
「何も出来ない、何もしてやれないほど恐ろしい事はない、何もしないくらいなら憎まれた方がマシだ、孤独の方がマシだ、裏切られた方がマシだ、あらゆる全てが敵に回った方がずっとマシだ………クソ………クソ………」
二人の腕の中で震える指揮官はとても小さく、とても無力に感じた、でも、それ以上に愛らしく、嬉しかった。
自分達に全てをさらけ出してくれた事に喜びを感じると共に、怯える愛しいヒトを安心させたい気持ちでいっぱいになった。
「大丈夫だよ指揮官……もう何も怖くないよ」
「私達がずっと一緒にいるから、指揮官の家族はここにいるから………大丈夫」
「ッッ…………」
グレイブスは少しずつ落ち着きを取り戻し、ずっと傍に居てくれた二人に身を委ねながらポツリポツリと呟いた。
「あぁ……すまなかったな二人とも………もう大丈夫だ」
「落ち着いた?」
「もう怖くない?」
「心配ない……大丈夫だ」
今回のように指揮官が取り乱すのはこれが初めてだったが、
そして、141分隊のUMP姉妹からの指揮官に対する好感度は滑車を掛けて上昇したという。