光には存在しない者達   作:ペペロンチーノ伯爵

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第二話『訳あり家族』

前哨基地奪還戦は141分隊の活躍あって予定よりも少ない犠牲で無事に制圧することが出来た、だが楔の誓約により141分隊の正体とゴーストの存在がグリフィン、IOP、正規軍の三つの派閥に完全に認知されてしまった。

 

≪ッッ……グレイブス、聞こえるか?≫

 

「聞こえてる」

 

≪お前が制したグリフィンのAR小隊だが、こちらで捕獲させてもらった≫

 

「?………何故だ?」

 

≪ゴーストが提示した条件は一時的なAR小隊と141分隊の停戦、そしてAR小隊の無期限拘留だ≫

 

「なるほど、141分隊の正体、そしてゴーストの存在を引き換えにその二つか」

 

≪その通りだ、彼女達は本部で預かる、だが決定権はお前に譲ろう、作戦を終わらせて帰投次第決めてくれ、それまでは空いてる部屋に詰めておく≫

 

「了解した」

 

通信を終え、グレイブスは制圧した前哨基地の隅で保存食のブロック栄養食を囓る45と9に視線を送る。

 

「………ん、行く?」

 

「ああ、ゴーストの増援が到着するのは夜明けだ、今のうちに経路を確保して増援分隊に送ろう」

 

「了解………指揮官~あの保存食美味しくないよー」

 

「文句を言うな9、確かにゴーストのレーションより旨くはないが栄養価は高いハズだ、ほら、水だ」

 

「ありがとう指揮官……んっ………んく……っはぁー……あのブロック食べたら口の中の水分無くなっちゃうよー」

 

三人は装備を確認し、グレイブスの掛け声でゲリラ兵に見付からないように正規軍の中継地を目指して前哨基地を出発した。

 

「気を付けろよ、この時間はそろそろ夜明けに向けて寒波が到来する頃だ」

 

「寒いのは慣れてるからなんとかねー」

 

「そうだね、もう慣れっこ」

 

「そうか……ん、待て」

 

ハンドサインで141分隊は横一列に陣形を変え、錆び付いた赤いセダンの陰に隠れる。

 

「……正規軍の戦術人形の巡回部隊か……」

 

「どうするの?」

 

「残りの弾薬も少ないし……ちょっと厳しいかも」

 

グレイブスが使用しているAK-47の弾丸は製造が簡単でこの世界でも補給できる、だが45と9が使用しているUMP系統の武器に使われている弾はグリフィンで支給されている弾薬とは違ってゴーストによって量産されている旧世界の弾薬を使用している為、前哨基地での補給が出来なかった。

故に本格的に戦闘出来るのは残り2回が限度であろう。

 

「………………避けて行こう」

(他の銃が使えれば良いのだが……いくら教えてもうまく使いのこなせていないのは刻印システムのせいなのだろう、不便な……)

 

「……ごめんね指揮官、コレ(U M P)以外うまく使えなくて……」

 

「気にするな45、仕方ない事だ………行くぞ」

 

少しずつ気温が低下していき、何度か巡回部隊を避けて忍んでいると、いつの間にか雪が振って来た。

そして瞬く間に風が吹き荒れ、周囲は一瞬で猛吹雪に曝される。

 

「指揮官、あのローブはどうしたの?」

 

「AR小隊との戦闘で失った、だが必要ない。先に進むぞ」

 

「それじゃ凍っちゃうよ指揮官、わたしローブ羽織ってても凍え死んじゃいそうなのに………!」

 

なるべくビルの中を伝い伝いに進むように心掛けているが、それでも寒波の吹雪はビル内部にまで雪のつぶてを侵入させてくる。

 

「指揮官……大丈夫?」

 

「問題ない、それよりも夜中にこの吹雪で視界が悪い、警戒を怠るなよ」

 

「………分かった」

 

問題ない。

その言葉の真意は分からない、二人の目に見えている指揮官はいつもと変わらないが、その身体に大量の雪を纏い、払い除ける素振りも見せない。

指揮官の少し伸びた黒髪に積もった雪は髪の毛を凍らせ、頬に染み付いた寒気は綺麗な頬に青紫色の霜を付けて凍傷の痕を残す。

 

「ねぇ指揮官、何処かで一度休憩しよ?ほんの数分で良いから!」

 

「弱音を吐くな9、時間がない、中継地の偵察を終わらせたら何処かで身を隠してゲリラ兵と増援分隊の到着を待とう」

 

「そうね、さっさと先に進みましょ」

 

「45姉………」

 

「分かってるわ9、でもいくら言っても指揮官は止まらないわ、なら早く偵察を終わらせた方が良いでしょ?」

 

「………そうだね、分かった」

 

そうして暫く進んでいると、正規軍の中継地と思える管制塔が見えてきた。

赤く光る照明灯を目視したグレイブスはハンドサインを送って二人を急かせる。

中継地の近くにある廃れたしたビルの上に登り、オフィスの窓から双眼鏡を使って中継地の中を確認しようとレンズを覗き込んだ瞬間。

 

「ッ……グッッ!?!?」

 

「ッッ!!!」

 

「指揮官ッー!」

 

間一髪の所で躱したグレイブスの眉間を鋭く太く長いスパイクのような一本の針が音速で通過した。

だがスパイクは一本だけではなく、中継地から放たれた複数のスパイクがグレイブスの左肩に一発、右腕に一発、腹部に三発ほどその身体を貫く。

床に倒れ込み、傷口からあふれでる鮮血を抑えながらポーチから取り出した一本の手のひらサイズの小さな注射器を右腕に打ち込んで素早く起き上がる。

 

「視線探知か……!」

 

「視線探知!?」

 

「ゴーストの防衛システムをどうして正規軍なんかが使ってるの!?」

 

「分からない、だが今は逃げるのが先決だ、正規軍の巡回部隊が来るぞ!」

 

受けた傷の処置をせずにそのまま武器を持って階段を掛け降りる。

 

「指揮官!さっきの怪我は!?」

 

「重症じゃない、治療薬を使ったから大丈夫だ」

 

「この音……もう正規軍が!?」

 

ビルの下まで降りると、既に正規軍の戦術人形が侵入し始めていた。

グレイブスは裏口に視線を向け、二人にサインを送って裏口へと走らせる。

AKを構えて戦術人形に応戦しながら柱の陰に隠れると、戦術人形は全身に内臓された兵器の一つを取り出し、榴弾を撃ち込んで柱を吹き飛ばす。

 

「指揮官!早く!!」

 

「ッッ……!」

 

刹那、戦術人形から放たれた強力な大口径弾が二発、グレイブスの右肩と脊髄に命中した。

 

「ッッーあ………!!」

 

「指揮官!!!!」

 

「行っちゃダメ!!9!!!」

 

その火力は到底人間に使用するような賜物ではなく、グレイブスの身体は宙に投げ出されて飛び出そうとした9とそれを抑える45の二人の前に無惨に叩きつけられた。

 

「う……あぁ………!」

 

「そんな………ッッ………」

 

グレイブスは耐え難い痛みに歯軋りしながらポーチを探り、さっきの治療薬とは違ったもう一本の注射器をその手に握りしめ、苦渋の表情を見せながら胸の中央に強く打ち付ける。

 

「ヌゥ………アァァ……!!」

 

「ッ!?指揮官!」

 

「45姉!指揮官は!?」

 

応戦してくれていた9の腕を引き、二人を裏口に押し込んでグレイブスも裏口へと飛び込んで扉を閉めて鍵を掛けた。

 

「大丈夫っ!?」

 

「私は……なんとか!」

 

「移動するぞ、さぁ速くー」

 

時間稼ぎにもならない、裏口の扉はグレイブスの目の前で炸裂し、吹き飛ばされる。

グレイブスが受けていた傷は全て焼けるように塞がり、手の平に突き刺さった破片を抜き捨て、二の腕にも同じように刺さった釘を口で噛み、引き抜く。

 

「45!」

 

「分かってる!!」

 

45は煙幕を張り、それに紛れて三人はビルの外に逃げ出し可能な限り遠くまで離れる。

 

「ここまで逃げれば……………っ」

 

「……………」

 

「指揮官………大変っ!」

 

9の声でグレイブスは自分の身体を見渡すと、炸裂したドアの破片の殆どがグレイブスの身体を切り刻んで身体に刺し込まれていた。

頬を貫通していたガラス片を抜き、全身に入り込んだ破片を全て直に取り除いた。

 

「はぁ……ハァー……これで全部か………」

 

「早く止血しないと!そこの物陰に行こう!」

 

「あぁ……分かった…」

 

「ほら指揮官、肩かして」

 

壁に背中を預けてグレイブスは無線機に手を掛ける。

 

「………こちらゴースト」

 

≪イェソドだ、聞こえているぞ≫

 

ケガをした手の平を45に預けながら話を進める。

 

「作戦に失敗……中継地にはゴーストの防衛システムが使われていた、視線探知システムだ」

 

≪どういう事だ……?それはつまり………いや、ひとまず了解した。141分隊は情報を増援分隊に送り帰投しろ≫

 

「………了解」

 

きっとイェソドは俺が傷を受けていることを察したのだろう、それに45と9にも補給させなければ。

 

「………とりあえず応急処置は終わったよ指揮官、大丈夫?」

 

「ああ、ありがとう2人とも、すまないな」

 

「ううん……ねぇ指揮官、さっきのは?」

 

「あの注射か、あれは再生剤だ」

 

「再生剤……?なにそれ」

 

グレイブスはゆっくりと起き上がり、イェソドが指定してくれたランディングゾーンに視線を向ける。

 

「大量の血液を使う代わりに傷口を強制的に塞ぐ薬だ」

 

「それって……指揮官は大丈夫なの?」

 

「もちろん代償は大きい、あの一本でかなりの血液を失った……しばらく戦闘は無理だな」

 

増援分隊に尻を叩かれ、見送られながら作戦区域を離れてゴースト本部に帰還した。

念のためにと無理やり医務室に連れていかれ、鎮痛剤の投与と痛み止めを受け取ってイェソドの元に訪れる。

 

「ハッ、これはまたひどくやられたなグレイブス?」

 

「そうだな……再生剤まで使ってしまったからな、危うく死にかけたよ」

 

「さて、いろいろと聞きたいところだが、その前にもっとも重要な事を任せたい」

 

「AR小隊のことか」

 

「その通り、現在拘留中のグリフィンの戦術人形の処遇を決めなきゃならん」

 

「そうだな……」

 

「直接彼女に伝えるか?」

 

「出来るのか?」

 

「拘留した時はなかなかに暴れたが、ここ1日は大人しくしているからな、問題ないだろう」

 

「なら部屋に案内してくれ、お前たちも来るか?」

 

後ろに控える2人に振り向く。

 

「心配だし、一緒に行くわ」

 

「私も行くよ指揮官」

 

「分かった、なら行こう」

 

イェソドの背中を付いていき、AR小隊が拘留されている部屋の前まで案内される。

 

「この部屋だ、鍵はコレを」

 

「ああ、ありがとうイェソド」

 

「それじゃあな、問題が起きても三人いれば大丈夫だろ」

 

そういって去っていくイェソドを横目に、グレイブスは受け取った鍵をドアノブに差し込み、ドアの鍵を開ける。

 

「……………」

 

迷い無くドアノブを捻って扉を開ける。

後ろで警戒心MAXで構える45と9の予想とは裏腹に、部屋の中にいたAR小隊はとても落ち着いた様子で椅子やベッドの上に座っており、グレイブスの顔を見ると同時に立ち上がった。

 

「指揮官……」

 

「ふむ、怪我は完治しているようだな」

 

グレイブスに続いて45と9が部屋に入ってきた。

 

「416は元気?M16」

 

「相変わらず私には噛み付いてくるよ45」

 

「SOPⅡちゃん?ジュニアは元気してるー?」

 

「うん!最近レスポンス悪いけど元気だよー!」

 

普通に話してはいるが、45と9は相変わらず殺気を隠すのは下手だった。

グレイブスは空いている椅子に腰を落ち着かせ、話し始めようとした時、先に口を開いたのはM4だった。

 

「指揮官……質問良いですか?」

 

「………なんだ?」

 

「そのケガは……?」

 

「は?そんなのアンタが気にすることじゃないでしょ?」

 

「構わん45、これは作戦遂行中に受けた傷だ、今さっき帰って来たばかりだからな」

 

落ち着くよう45に視線を送るが、45はどこか納得できないような顔でそっぽを向いてしまう。

 

「まずはお前たちの状況を説明しよう、お前たちは現在、我々ゴーストに無期限に拘留されている」

 

「それは言われなくてもわかってるわよ」

 

「そうか、なら話は早い、こちらの作戦を円滑に進める為に拘留しているわけだが、別に痛め付けたり解剖したりはしない、尋問もな」

 

「……なにもしないってこと?」

 

「そうだ、お前らが持ってる情報は今の俺達には価値なきものだからな、しばらくの間大人しくしててくれればそれでいい………そこで……」

 

「??………」

 

「お前達は捕虜や人質ではなく単なる客だ、しばらくここで生活する上で何か必要な物はあるか?出来る限り用意しよう」

 

「………それは本気で行っているのですか?」

 

「本気だRO、俺達は不必要な労働はしない、言っただろう?お前達は客だ、もてなす以外の事はしない、だから要望があれば言ってくれ」

 

「……………それなら」

 

M16は不敵に笑いながらグレイブスに視線を向ける。

 

「私たちAR小隊をあんたらゴースト部隊に編成するってのは?」

 

「……なるほど」

 

「M16……!」

 

「………指揮官?」

 

「分かってるさ45、さてM16A1、お前たちがゴーストに入ったところでお前達にどんなメリットがある?」

 

「アンタに嘘は通用しない、だから全部正直に話すよ、まずメリットとしてはこのまま閉じ込められるよりはゴーストに協力して外の状況を知っておける。そして次に、解放される時までゴーストの内部構造を調べておけば、グリフィンに情報提供が出来る」

 

「姉さん……!」

 

「嘘を付いてもどうせ後で指揮官に悟られるのがオチだM4、なら洗いざらい吐いてから交渉したほうが良いだろ」

 

「……それで?お前達のメリットはそれだけか?」

 

「最後に……指揮官に付いていけば、私達の知らない世界が分かる」

 

「…………………それが本音だな」

 

「流石だな指揮官……今までの会話がブラフだってことも気付いてたのか?」

 

「さぁな……」

 

「で?どうする?私達をゴーストに入れてくれるのかい?」

 

グレイブスはM16から視線を逸らし、45に向けると、45は明らかに嫌そうな顔をしながらムスッとしており、彼は少しため息を付いた。

 

「分かった、AR小隊がゴーストに臨時編隊するのを認めよう」

 

「………む」

 

「これでまた家族が増えるね~!」

 

「……随分と簡単に認めるんですね指揮官、逆にゴースト側にメリットはあるんですか?」

 

「編隊した後のお前達の価値はゴーストが決める、心配しなくても上手く使ってやるさ」

 

「相変わらず、読めないわね指揮官は」

 

「指揮官、ありがとうございます」

 

「礼を言うのは間違っているぞM4、そもそもゴーストはどんなヤツでも入隊希望者は拒まない」

 

「そうなの?」

 

「ああ……ひとまず今日はこれでお開きにしよう、他に要望があれば言ってくれ」

 

するとやけに物静かだったSOPⅡが急に元気良く手を上げる。

 

「………SOPⅡ、言ってみろ」

 

「指揮官と久しぶりにお風呂はいりたーい!!」

 

「は?(殺気)」

 

「お?(殺る気)」

 

「え?(困惑)」

 

「んん?(怒り)」

 

「あ?(呆れ)」

 

「へっ!?(恥らい)」

 

「別に構わんぞ、後ででもいいか?」

 

「は?(殺気)」

 

「お?(殺る気)」

 

「え?(困惑)」

 

「んん?(怒り)」

 

「あ?(呆れ)」

 

「へっ!?(恥らい)」

 

「いいよー!」

 

そして部屋を後にして141分隊の部屋に向かう途中。

 

「………何を怒ってるんだ二人とも」

 

「うるさい、指揮官のバカ………!」

 

「べーっだ!指揮官のにぶちん!鈍重!朴念仁!!」

 

「にぶ……なんだって?」

 

むちゃくちゃにグレイブスへ罵詈雑言を叩き付けると二人は先に部屋に入っていってしまった。

だがいつもの事なのであまり深く考えずグレイブスは自室に入ってある程度装備の手入れと整備を終わらせてから部屋を出る。

 

「………ふん♪ふふーん♪」

 

「………まさか全部オレにやらせるとはな………」

 

AR小隊が使っている部屋にある風呂場の中で、グレイブスは鼻歌混じりにご機嫌なSOPⅡの長い髪の毛を洗い流す。

 

「えへへー♪指揮官に全部お世話してもらうの好きー」

 

「そうか………良かったな」

 

「あ、もちろん後は私が指揮官の身体を洗ってあげるね!」

 

「いや、それは遠慮しておこうか」

 

髪を洗い終わり、背中もしっかり流してやると、SOPⅡはこちらに身体を振り向けた。

 

「おいおい……」

 

「前やってよ!まーえ!」

 

「その髪の長さでいきなり振り向くな、当たると以外と痛い」

 

「あ、ごめんなさい………」

 

「顎を上げろ、首から洗って行くぞ」

 

「はーい!」

 

本当に最後の最後まで任せっきりだったSOPⅡと風呂から上がり、彼女に服を着せてやる。

 

「……あれ?指揮官、ドライヤーは?」

 

「いや、そこにあるだろ」

 

「えー!やってよ~!」

 

「そこまでやらなきゃ行けないのか?」

 

「す、すいません指揮官、後は私がやりますのでー」

 

「ROは黙っててよ!!私は指揮官にやってほしいのー!!」

 

パワフルに駄々をこね始めたSOPⅡにグレイブスとROは肩を並べてため息を吐いた。

SOPⅡの髪の毛を乾かし、整えてやると彼女は満足そうに髪を靡かせ、満面の笑みでリビングに翔けていった。

 

「………ふう」

 

「あの、本当にすいません指揮官」

 

「気にするなRO、それはそうと、皆をリビングに集めてくれるか?」

 

グレイブスの指示でROは部屋の別室にいた他のAR小隊を呼び、リビングルームに集めた。

 

「もう夜に差し掛かっていてすまない、だがせっかくもう一度部屋に来たんだ、今後について説明しようと思ってな」

 

「今後について………ですか?」

 

「要はゴーストの活動内容についてだ」

 

「……………」

 

「基本的にゴーストの出撃条件は他者からの依頼要請で動く」

 

「依頼?仕事をもらってるのか?」

 

「てっきり自己で動いてるものかと……」

 

「もちろんゴーストの独断で出撃することもあるさ、だがそれは今回の様にゴーストに対して脅威になりうる事例が発生した場合のみ、それ以外は普段、偽装した傭兵組織を名乗って依頼を貰う」

 

「どんな依頼でも受けるって事?」

 

先程から椅子に座るグレイブスにしがみついたまま離れないSOPⅡに頷く。

 

「受ける依頼は基本的にグレーゾーンの仕事ばかりだ………事例を上げるとすれば、凶悪な少年兵組織が難民達から物資の強奪、殺人を繰り返しているとの依頼を被害者の難民からもらう、そしてそれはゴーストで受領される」

 

「………相手は子供だぞ?」

 

「その通りだM16、だがこの依頼がもしもお前達グリフィンや正規軍から送られたものであるならば受領されない、なぜなら自分達で解決できる問題だからだ」

 

「それはどういう事ですか?」

 

「抵抗する術を持たず、無力な者の願いは受けとる、だが力の有るものにゴーストは現れない」

 

グレイブスはゴーストについて具体的かつ簡潔に説明した。

ゴーストの本質は怨念意(しねんたい)になることであり、正規軍などの組織的な計画には手を貸さない、ゴーストにとっての依頼の定義は、誰かが強く恨み、妬み、拒み、怒りの増幅を鎮めることであり、個人の依頼主自身の『願い』ではなく『思念』を受け持つのだ。

それ故にゴーストに送られてくる依頼は全て法で裁けない灰色の悪が多く、誰にも認められない汚れた仕事が9割以上を占めている、逆に言えば、ゴーストが絶対的悪と対峙することはない。

 

「だから絶対的悪に位置していると思われる鉄血工造のやつらと正面衝突はせず、奴等の情報を内部潜入にて確保、グリフィンやその他の司令部に受け渡すのが俺達の役割だ」

 

「……そう言うことですか」

 

「灰色の悪ね、ならゴーストにとってグリフィンは何色?」

 

「今のところは灰色だ、世間的には白だがゴーストにとっては脅威になる可能性があるからな」

 

「もしも私達が今ここでアンタを殺そうとしたらどうなる?」

 

「グリフィンに攻め入りはしないが、そうだな………この時間なら、今おれを襲えば8分後にはAR小隊の記録は全て消失し、お前たちはゴーストの部品になってる」

 

「そいつは困るな」

 

「まぁ、それはお前達の自由だ、誰も咎めないし誰も止めない、ゴーストに入ったからと言って裏切るなとは言わない」

 

「そうなんですか?」

 

「ゴーストは元々そういう奴等の集まりだ、元軍人もいれば単なる難民も、世間で働く社会人や政治家、あらゆる人種、職種の人間で構成されている」

 

「………それは、どうして?」

 

「ゴーストに入れば全てを失う、ゴーストの入隊者が築いてきた人生記録は消される、国籍や名前なんかだ、そして完全にこの世から消えた存在になることと引き換えに正式なゴーストになれる」

 

「じゃあ私達は?」

 

「お前達は単なる臨時編隊だ、何一つ失うこと無くゴーストで働いてもらう」

 

「それって……ダメなんじゃない?」

 

「いいや?何一つ問題ない、お前達は生きてる、なら俺達ゴーストを視認することも認知することもできない」

 

「何を言って………」

 

M4はハッと思い返した。

この場所に拘留された時から、誰の話し声も足音も、ましてや食事をドアの隙間から送られてくる時に気配すら感じなかった事を。

 

「今日からゴースト内部を自由に利用してくれ、明日には具体的な詳細が書いてある書類が届く、それじゃあな」

 

「っ、待ってください!」

 

部屋を出ていこうとするグレイブスを引き留めたM4は顔を俯かせながら、少し苦しそうに話し始める。

 

「私達がグリフィンに解放された後……もしも私達がまた指揮官のゴースト部隊を狙ったら………」

 

「次は無いと言ったはずだM4」

 

「ッッ………」

 

「だがその選択は間違っていないし正しい事だ、誰も恨まない、お前がその道を選ぶなら好きにしろ、その選択に誰かが文句を言う資格も義務もない、後悔だけはするなよ」

 

部屋を出ていった指揮官を見送ると、M4は胸に添えた手を握りしめる。

そしてその日の夜、自室のベッドで横になっていたグレイブスは一つの問題を抱えていた。

 

「………なぁ45」

 

「ヤダ……」

 

「まだ何も言ってないぞ」

 

「どうせ退けって言うんでしょ?」

 

「その通りだ、分かってるならー」

 

「ヤダ」

 

「おい……」

 

AR小隊の部屋を出て自分の部屋に帰って来たと思ったら9が号泣しながらごめんねコールを連発してきて慰めるのに時間が掛かり、やっと眠れると思えば45が自室に入って来てこの始末。

俺はなんとか45を部屋に戻らせようとするが、彼女は断固として俺の身体に張り付いたまま離れない。

 

「このベッドはシングルだ、お前の隙間はないぞ」

 

「前に約束したじゃん」

 

「あれは事前に一緒に寝ると伝えなければ無効だと言ったろう?」

 

「………………」

 

「おい」

 

「ヤダ」

 

「む………………」

 

このままでは埒が開かない、そもそも45が何をしたいのかが分からない。

 

「ねぇ指揮官」

 

「なんだ?」

 

「どうしてアイツらをゴーストに入れたの?」

 

「………言ったはずだが?ゴーストは入隊希望者を拒まない」

 

「本当に………本当にそれだけ?」

 

「…何を疑ってるんだ45、本当にそれだけだ、別に何か特別な理由があるわけじゃない」

 

「………彼女達をこれからどうするの?」

 

「そうだな……いつもと変わらない、普通にゴーストの任務に就かせる」

 

「私達141分隊が普段担ってる任務よりも難しい?」

 

「何を言ってる、俺達の任務に危険度なんて関係ない、等しく同じだ」

 

「……………そう」

 

「一体どうしたんだ?たかだか新しい仲間が入ってきただけだ」

 

「………私達よりもAR小隊の方が信用できる?」

 

「どっちが良いとかじゃない、彼女達の能力は個々とチームを含めて評価してる、能力は信用できると思うが」

 

「………あっそ」

 

「ああ……………まて……まさか嫉妬してるのか?」

 

「………………………………ちょっとだけ」

 

「はぁ………勘弁してくれ」

 

「だって、ずっと私達と一緒にいるのに、いきなりAR小隊なんかに指揮官を取られたら嫌よ」

 

「取られる?俺は誰のモノにもならないさ、心配するな」

 

「でも指揮官にとって私とアイツらは同じなんでしょ?」

 

「そうだ、俺からすればお前達は家族だ、そのランクが変わることはない」

 

「……私は指揮官の『特別』になりたい」

 

「45………」

 

「たまに思うことがあるの。指揮官にとって何でも平等なら私、どんな事でもいいの、指揮官の平等から差別されるならなんだっていい……恋人だなんて求めない、本当に何でもいい」

 

「……………」

 

「本当よ、単なる道具に見てくれても構わない、それで指揮官の平等から外れた存在になれるなら、どんな事でもする、ダッチワイフ見たいに何の感情もなく私を性道具として使い回してくれてもいいの、何でもいいから指揮官の特別になりたい………ずっとそうやって考える時間がたまにあるの」

 

「………………」

 

「でもね、そう思ってると最後に必ず私を止めてくれる言葉があるの、思考がグルグル回っておかしくなりそうになると、『後悔するな』って頭に浮かぶの」

 

「……………」

 

「指揮官の特別になりたいけど、それで指揮官に嫌な思いをさせたら必ず私は後悔する、取り返しの付かないことをしてしまったら、一生その先の人生を後悔する」

 

「………………」

 

「……優しいね指揮官は、すごいむちゃくちゃな事を言ってるのは分かってる。でも指揮官は黙って全部聞いてくれる………ありがとう」

 

「………………むちゃくちゃじゃないさ、それはきっと正しい事なんだ」

 

「え………?」

 

指揮官は優しく、とても暖かい笑顔を見せながら、光の無い悲しい目を私に向けて答える。

 

「俺には理想も、思想も、幻想も無い、自由欲望も、戦闘の為の力や道具を欲している、この感覚、この感情に違和感を覚えた事は無いし、後悔もしていない、むしろこれが正しいと思ってるんだ」

 

「うん………」

 

「そんな俺が唯一自分の中で捨てきれないのは、あらゆるモノは正しいそれだけだ」

 

「いっつも指揮官が私達に言ってる言葉だよね?」

 

「ああ、どんな事があろうとも、それは必ず正しいんだ、どんなに残虐非道な行いをしようとも、それは正しい、たとえこの世からから悪だと言われても、正しいんだ、悪だが正しい」

 

「………………」

 

「だから45が欲望に呑まれてもそれは正しいし、その欲望を振りきったとしても正しい、あるのは結果だけ、その結果に後悔だけはするな、この世に概念がなるならば、それは正しさとその結果だけだから」

 

「正しさと結果………」

 

「お前は俺の特別になりたいと言っていたな、それは正しい事だが、それが実現することはない45」

 

「………………」

 

「何故なら、俺にとって最も特質して優れているもの、もしくは平等の上に立つモノは既にあるからだ」

 

「っ………それは……?」

 

「それは、この世界だ」

 

「世界………」

 

グレイブスは両腕を45の背中に回して力強く抱き締める。

 

「俺にとってこの世界は何よりも特別だ、だからこそ、その特別を守りたいんだ、この世界と平等な存在は何一つ無い、俺達が現存する世の中にこれほど特別な存在はあり得ない、それと比べたら世界に現存する全てが等しく見える」

 

「だから指揮官にとっては………全て平等なの?」

 

「そうだ、ゴーストの隊員も、正規軍も、IOPも、ありとあらゆる正義も絶対悪も、それぞれ同じ正しさを持ち、違うのは結果だけ、平等だ」

 

「……でも………」

 

「お前の言う特別というのは、俺の平等から秀でたモノだと言ったな?だがそれは絶対に越えられない、何故なら……俺の平等に差は無いからだ」

 

「それは知ってる……」

 

「いや知らない、知ってるならそもそもこんな話にはならない」

 

「……??」

 

「AR小隊とお前が平等と言ったが、それは俺の平等にそれ以上の点数が存在しないからだ、100点満点のテストで全ての者が100点を取ったら平均点数は何点になる?」

 

「………100点……バカにしてる?」

 

「そう、100点だ、ならそれ以上にもそれ以下にもならない、評価の点数が101点ならば点数はあげられるし、減点要素があるならば平均点を下げることはできる、それはすなわち俺の平均から外れるというお前の理想だが、もしも100満点のテストでどんな結果を出しても100点以外オレが付けられなかったら?」

 

「……点数を上げることも………下げることも出来ない………」

 

「俺の言う平等というのはそういうことだ、この世の全てが正しい時点で、どんな結果になろうとも俺の点数は変わらず100点のままだ」

 

「………………少し……分かった気がする」

 

「お前達は等しく俺の家族だ………だから等しく愛するし、等しく接する」

 

「………なら愛して……………私は………家族に愛して欲しい」

 

「ああ……もちろん」

 

上目遣いでグレイブスを見上げる45の愛しいそのつむじに唇を添え付け、彼女の髪の匂いをゆっくりと吸い込み、肺に入っていく麗しい空気を溜め、唇をそっと触れさせたまま、額までおり、愛情がこもった息を鼻から吐く。

 

「んん………指揮官好き……」

 

「………………ああ、俺もお前を愛してる………」

 

その言葉は等しく平等であり、きっとAR小隊にも同じ事を言うし、同じように愛するだろう、でもそれ以上もそれ以下もないなら、それでいいや。

私は指揮官のちょっと不思議な愛情表現に全身を委ね、その愛をもっともっと、求めた。

グレイブスは45の額にキスをすると、次に彼女の左目に刻まれた古傷に口付けし、そのまま瞼に唇を添える。

ゆっくりと、じっくりと、なめらかに、グレイブスの焦らすかのような愛を彼女は全身で感じていた、それは心でも、身体でも。

 

「っ………………っっ……」

 

「………………」

 

音はなく、感じるのは質感だけ、でもそれがとてつもなく心地よい、そしてついにグレイブスは45の頬に添えた手に優しく力を入れ、彼女の愛しいく生気に溢れる柔らかな唇を塞いだ。

 

 

ー≪翌朝≫ー

 

 

部屋の中、ベッドから転がり落ちた衝撃で起きたSOPⅡは激しく打ち付けた後頭部を抑えながらゆっくりと起き上がる。

 

「痛ったた………あれ、皆おきてたの?」

 

SOPⅡが起きた頃には他のAR小隊は全員起床していた。

 

「1日でも貴女が誰かより早く起きたことあります?」

 

他の姉達と同じように武器を一から分解して整備していたROが呆れたように呟く。

 

「………………ないっけ?」

 

他の姉達に振り向いてみる。

 

「ないわよ」

 

「ないですね」

 

「ない、うん」

 

「………うぅ……」

 

普段着に着替え、彼女も自分の武器に手を伸ばすと、その時に武器の異変に気が付いた。

 

「あれ……何かピカピカになってない?」

 

「貴女も一応、中身を確認しておいたほうがいいわよSOPⅡ」

 

よく見るとこの場にある全ての装備品が新品同様に変化していることに気が付いた。

 

「え?え?なんで!?」

 

「分からない、私が起きたときにはこんな感じに全部入れ替わった見たいに新しく綺麗になってたの」

 

「でもすり替えられた訳じゃなさそうだ、私達が使っていた武器に間違いない、のは確かなんだが……こりゃどういう………」

 

その時、部屋のドアノブが傾いて扉が空いた。

 

「全員、起きてるか………ん?」

 

グレイブスはバラバラになった部品を一つ一つじっくりと眺めるAR小隊に首を傾げる。

 

「説明してくれますか指揮官?」

 

「逆に説明して欲しいんだが、何してるんだ?」

 

「何って……朝起きたら私達の武装が完璧に手入れされていたのです、ガワはなにも変わってないのですが、部品が幾つか新品、もしくはそれよりも高性能な物に取り替えられていて………」

 

「んぅ???………………………あー……」

 

グレイブスは心当たりを一つ思い浮かべるが、それを告げぬまま手を叩いて部品を並べる彼女達に手を叩いてこちらに集中させる。

 

「書類が届いてる事に気が付いていたか?4分で武器を元に戻して30分で書類の内容を頭に入れ、2分以内に中の地図を見ながら指定の場所に来い」

 

「え、ちょっ」

 

扉が閉じると、彼女達は血眼になって一斉に部品をはめ直し始めた。

何とか時間内に指定の場所である食堂にたどり着き、両扉を開け放つ。

 

「………来たか」

 

「……っ………全員、集合しました」

 

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