第一章 快適な空の旅を_Welcome_to_the_Jaws_of_Death
1
第六位と
「……独自のルートって、これ?」
「学園都市のはちょっと前に誰かがハイジャックだかで勝手に持って行きやがったんだと。第二十三学区は信用ならねぇからな。こっちに手配させた」
二人の前、巨大なガラス張りのその先にあったのは、どこにでもあるような旅客機だった。
学園都市の外の技術ならこんなものだろう。そう思った
「外見こそそこらの旅客機に酷似したもんだが、勿論内部は学園都市製、全部ファーストクラスの代物だ」
「へえ、粋なことをするじゃない。出発はいつ?」
「この俺が乗るんだぞ。一般客なんざ乗せられるか。好きなタイミングで出られる。つっても、もう準備は終わったからすぐ搭乗するが、何かやることでもあんのかよ?」
「行き先はロシアでしょう?なら、防寒具はしっかり買っておかなきゃ」
そういう
「……それ以上何をどう防寒するんだよ」
「どれぐらい滞在するかもわからないのに、ずっと同じ上着なんて着ていられないでしょう。ここで少し見て行ってもいいかしら」
「それを言うなら買って行ってもいいか、だろう。……好きにしろよ。ただ、前みたいにあんまり買いすぎんなよ。荷物は最低限だ」
「ええ、わかっているわ」
30分後。
五着もの上着を買って来た
2
空の旅は快適だった。
高級ホテルの一室かと見間違うような、豪華でいて落ち着いた内装。トイレ・バスルームも完備していて、ソファ、テーブル、指定座席、仮眠用ベッドなどが備わっている。
航空機内部ということで部屋の大きさはそこまででもないが、それでも学園都市の一般的な学生寮のワンルームほどの大きさはあった。それが航空機内部に三部屋存在する。乗客は彼ら二人なので、普通に二部屋に別れようと考えたが、
「あら、赤ワインなんて置いているのね」
とりあえず飲み物でも、と彼女はソファの上で機内食のメニューを眺めながら呟いた。
第六位はベッドの上に転がったまま、気だるそうに言う。
「ガキが背伸びしてんじゃねぇ。そんなだからペチャパイなんだよ」
「は、はぁ!? 関係ないでしょう!?」
「いいや。未成年はアルコールの代謝が少ないどころか、そもそも日本人はアセトアルデヒド脱水素酵素が極端に少ない、あるいは欠損しているケースが多い。身体的な成長は勿論、思春期以降の人格形成にも悪影響だぞ」
「うわ、何よその変な博識キャラ。見た目は高校生、中身はおっさんな時点でバランスがメチャクチャなのに」
「おっさんじゃねぇ!!」
「飲食しないはずのあなたが
ふん、とでも言いたげに、上半身だけ起こした彼は再びベッドに体を沈める。
再びメニューに目を落とした
その瞬間。
バガン!! と。
機体の後方で金属の板が凹むような音が鳴ったと思えば、直後には何かの破裂音が響いた。
機体が揺れる。厳密には、叩きつけられたように機体全体の高度がガクンと下がった。
悲鳴を上げる暇もなく、
「後部ユニットをまるごと
返答はなく、代わりに機内アナウンスが鳴った。シートベルトを締めろという合成機械音。どうやらブースターの点火も出来ず、機体の制御もできない状態らしい。
「……チッ」
第六位は一つ舌打ちし、背中を支える
「まさか……っ!」
そのまま、拳を航空機の壁面に叩きつける。
破裂音で花が咲いたように壁が開いた。
彼は躊躇なく、高度約三万フィートの大空へ体を投げ打つ。
ソプラノの絶叫と、一枚の白い翼が空を覆った。
3
学園都市からの追っ手が来た。
そう判断したのは、その襲撃者を見る前からだ。
第六位は少女を抱えたまま、右手から不恰好に一枚の翼を展開させた。正体不明の翼は謎の浮力と推力を有し、彼の制御下で体を降下させる。この高度では酸素が薄いだけではなく、気温も低い。彼は問題ないが、長時間留まれば傍らの
襲撃者の確認も怠らない。
彼は不恰好に生える翼を調整しながら、その瞳を大空へ向けた。
襲撃者は、
脚のようなものが六本生えた、カマキリみたいな外見だった。
背中には大きなドラムマガジンを背負い、右の前脚には巨大な銃身があり、左の前脚には赤熱したクローのようなパーツが備わっていた。
背中には透明な羽が高速振動しており、降下する二人との距離を一定に保って追随していた。
知っている。
彼は実験の一つとして、かつてそれと戦闘テストをしたことがある。
それの側面の装甲には、このような文字列があった。
FIVE_Over.Modelcase“RAILGUN”。
「第三位のファイブオーバー……そのプロトタイプか」
確か、最新の更新で採用されるものは、両腕にガトリング砲を備えていると彼は資料か何かで見た情報を思い出す。
海面が見えてきたところで減速するが、二機とも二人から2、30メートルほどの距離を保ったまま攻撃はしてこない。ガトリングレールガンの精度が悪く、空中で不可思議な軌道で降下する二人への命中は難しいのだ。
幸い、岩石か何かがせり出ている小さな陸地のようなものがあった。着地して安全を確認し、
「ど、どうするの?」
海に囲われた本当に小さな陸地に降ろされた
右手を天へ突き出す。白く無機質な拳が一瞬球体に変換され、そこを中心に、傘のように
「ターゲットは恐らく俺だ。万が一お前に来た場合、やばいと思えば海に飛び込め。初弾さえ交わせば援護できる」
「うるっせぇな」
第六位は呟き、近くの海面を思い切り叩きつけた。放射状に巨大な波が発生し、彼の体は反作用を受けて大きく浮かび上がる。
「ガラ空きだよ」
右手の
狙い通り。
あとは
身体中の血管が破裂するのも構わず、彼はそれを起動する。
そして。
バガァァン!! という音とともに、ファイブオーバーの構造がばらばらに砕け散った。
相討ち術式。
彼が長い年月をかけて実装した、『右腕の破損をトリガーに、その原因と問答無用で相討ちになる』というもの。
相討ちするなら意味がないと思うかもしれないが、彼は不老不死なのだ。一度絶命し、心臓が停止しても、すぐに何事もなかったかのように動き出す。
彼は空中で意識を取り戻し、即座にEqu.DarkMatterから
敵はまだいる。
落下して行く中身の搭乗者を片手間で殴り殺し、
近づくのは危険だと判断したのか、ファイブオーバーは透明な羽を大きく動かし後退を開始した。
だが、幸い目標は第六位に設定されているらしい。地上に放置された
「遠距離は苦手なんだがな」
彼は翼を大きく広げた。そして、台風クラスの巨大な烈風を叩きつけるように発生させた。
ただの風ではない。
脳の処理で計算し、ピタリと空中に静止できるファイブオーバーとて、
機体が揺れ、ガトリングレールガンの砲身も大きく揺れた。ただでさえ命中精度が悪く、『致命傷を多く叩きつければいつかは当たる』戦術は一瞬だけ停止する。
その隙に。
右腕全体を、巨大な槍に変換する。槍は杭打ち機のように射出された。厳密には、先端が超高速で伸びることで、射出されたように見えた。突き出された先端が、その僅かな隙を突き、ガトリングレールガンを備える右腕のジョイントを貫いた。
金属が歪むような音が響き、砲身は欠落する。これでファイブオーバーに遠距離攻撃はない。
「ば、馬鹿な!! 試験機とはいえ、第三位を模した兵器だぞ!?」
そんな男の声が聞こえた。
恐らく、また下請けのクソったれな暗部の人間だろう。
だが、その男は勘違いをしている。
そもそも。
「そもそも、第三位の本質は
第三位と第六位。
そして、その物理攻撃方面をいくら強化したところで、第六位には勝てない。
「
「──、」
プロトタイプ・ファイブオーバーの搭乗者は、何か言葉を返す暇もなかった。
相討ち術式のためではない。絶対的な強度による
4
ロシアへの足を失った。流石にこの時期に日本海を泳ぎたくはない。ということで、コクピットハッチを破壊したファイブオーバーから操縦用の
快適だった旅は終わった。
本番はこれから。
ロシアを主戦場とした第三次世界大戦が幕を開ける。