学園都市の第六位   作:さかき(ヒロタカリュウ)

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第二章 入国_Encounter

  1

 

 手荷物を失った。

 そのことに心理定規(メジャーハート)が気付いたのは、第六位が試験機のプロトタイプ・ファイブオーバーを駆り、長い時間をかけてようやくロシアへ上陸した直後だった。

 彼はもちろんとっくにわかっていたらしい。用意周到な彼も少なからず荷物があったが、今は技術漏洩対策として自壊した旅客機の中で原型もとどめていないいだろう。ひとまず、ロシアで使う紙幣は用意してあるの、防寒具や食糧は現地調達でいい。

 

「うぅ。あれ着るの楽しみだったのに……」

 

「空中分解に巻き込まれたかったなら止めねぇが、上着なんてどこでも買えんだろうが。問題はロシア内でのアシだ」

 

 二人はロシアの南東に居た。結局、海路で日本海を横断したのだ。

 上空では、学園都市製の最新鋭の戦闘機……と表現してもいいのか、ともかく空中を飛行する物体が多数飛び回っていて、既にロシアでの衝突は始まっているらしかった。

 

「これを使えばいいんじゃない?」

 

 傍に待機する、コクピット剥き出しのファイブオーバーを指で差しながら彼女は言った。しかし、第六位はそれを否定する。

 

「そいつは余りにも目立ちすぎる。最悪、ロシア軍とぶつかって無駄な手間がかかるし、ガトリングレールガンは俺が潰しちまったからな。携行している兵装は左腕の爪みたいなパーツだけだ。……そもそも、機械に脳を覗かれるようなこの操縦方式は気持ちが悪い」

 

「ふぅん、じゃあどうするの?」

 

 そういうからには、何か策でもあるのだろう。

 そう考えた心理定規(メジャーハート)は、いつものように軽く問うた。

 だが、彼はやれやれ、お手上げだとばかりに両手を挙げて、首を振った。

 

「車を買えるぐらいの額は用意してある。だが、金さえ出せばそれでオッケー、身元は問いませんなんて販売形態の店は無いだろう。学園都市の出身ってバレると面倒なことになる」

 

「じゃあ……」

 

 ネガティブな雰囲気に心理定規(メジャーハート)も巻き込まれる。が、彼は次にこう言った。

 

「ちっとは頭を使えよ。お前の心理定規(メジャーハート)は、確か人と自分の心の距離を調節できる能力なんだろう?」

 

 つまり。

 優しい優しいロシアの紳士(・・・・・・・・・・・・・)から、アシとなる車をプレゼントしてもらうことにした。

 

 

 そうして、ちょっと反則技だが、ともかくロシア内でのアシは手に入った。

 ここで、状況を整理しよう。

 

 まず、最優先目標はミサカ00000号(フルチューニング)の保護だ。彼女がどこで何をしているかは知らないが、金髪の怪物はロシアへ行けば会える、と言っていた。この発言自体もどこまで信用できるのかは曖昧だが、何の指標もなく学園都市、さらにそこを飛び出し世界を探し回るよりは、目的地を絞った方がいいことは当然だ。彼はロシアに賭けることにした。

 そして、ロシアというのは広い。エイワスの話では、エリザリーナ独立国同盟という場所へ向かえばいいらしい。

 ミサカ00000号(フルチューニング)は、衰弱している可能性が高い。ともかく、一刻も早く合流するために、彼はエリザリーナ独立国同盟へと向かうことにした。

 

「というかあなた、車の免許なんて持っているの?」

 

「必要なのはカードじゃない。技術だ」

 

 右の助手席に座る心理定規(メジャーハート)はげんなりとした。

 外では彼女の虜となったロシア人が何かを言っているが、気にもしていない。

 適当なところで能力を切り、暖房の効いた高級車はロシアの雪原を走行する。

 

 

  2

 

 最寄りの国境に辿り着いた。

 エリザリーナ独立国同盟は、東西に300キロメートル伸びる、細長い小国群だ。ロシアに囲まれた中で小規模な独立を掲げても長くは続かない。そこで、東西に領地を繋ぎ、外との物資の流通を可能とすることで、なんとか存在している。

 国境には警備隊のようなものは配置されていなかった。少し奥に行くと、ようやく周辺を警備しているらしい男を発見する。話を聞くと、スパイ容疑にかけられたものたちが多く、現在警備が手薄であるらしい。

 

 第六位はロシア語で会話を続けた。

 

「エリザリーナ独立国同盟だったな。本部みてぇなのはどこにある?そこに、ここの長であるエリザリーナってのがいるだろう」

 

 エイワスの話を信じるのならば、この周辺を捜索すればミサカ00000号(フルチューニング)に会える。

 そして、ここに滞在するならば、ある程度の事情を話しておくべきだろう。

 戦争中に不法入国者のレッテルを貼られるのは一緒に来た心理定規(メジャーハート)に悪い、彼は思った。

 

「……あんたたちは何者なんだ?」

 

 若い男は警戒の色を強めながら言った。

 まあ、スパイが多く検挙されたのなら無理もないだろう。

 

 彼はなんでもないことのように言った。

 

「学園都市から来た。人を探している。そして、このエリザリーナ独立国同盟の付近で目撃情報があった。そいつを見つけるまで、俺たちはこのあたりに潜伏しようと考えている」

 

 ロシア語に疎い心理定規(メジャーハート)は小首を傾げていた。

 男は第六位の話を聞いて複雑そうな表情を見せる。

 

「……なんだ?」

 

「いいや。今日は学園都市の人が随分やってくるんだな、と思って」

 

 どうやら、他にも同郷から来た奴らがいるらしい。

 

 第六位は少し考えて、

 

「一応、そいつらに接触したい。もしかしたら、俺たちが探している奴が紛れているかもしれねぇからな」

 

 男は首肯し、また車で暫し移動することとなった。

 

 

  3

 

 二人はエリザリーナがいるという家屋まで辿り着いた。

 早速中へ入ろうと思ったが、そこで思わぬ接触があった。

 

「……あン?」

 

 ロシアでは珍しい東洋人を見たその怪物(・・)は、赤い瞳を細めながら二人を見た。

 傍らには、茶髪の高校生ぐらいの少女と、似たような小学校高学年程度の少女が居た。

 

 高校生のほうは、ミサカ00000号(フルチューニング)に似ていた。だが、目付きが違う。よからぬことを企んでいそうで、野戦的で挑戦的な目だった。骨が折れているのか、左腕にはギプスをはめていた。

 

 小さいほうは知っている。

 

 第六位の斜め後方にいる心理定規(メジャーハート)は顔をしかめていた。まるで会いたくない相手に会ってしまったような感じだ。

 

「……一方通行(アクセラレータ)か。こんな所で会うとはな」

 

「誰だオマエは」

 

 杖をつく第一位は、しかし華奢な感じはあっても弱さは感じなかった。むしろ、相手が怒らないように無意識のうちから気を遣ってしまいそうだ。

 第六位は、その威圧感に臆することなく簡単に言った。

 

「誰でもないさ。目的はお前と同じ、妹達(シスターズ)の救出だ」

 

 ピクリ、と怪物の白い眉が動く。

 釣れたのを見て、第六位は続けた。

 

「知り合いはロシアに行けと言った。そいつの話では、どうやら俺の探している妹達(シスターズ)には、上位個体(ラストオーダー)の不具合状況をフィードバックしてしまう機能があるらしい。……見たところ、体調はよくはないらしいな」

 

「ソイツの検体番号(シリアルナンバー)は?」

 

ミサカ00000号(フルチューニング)。……今はネットワークから隔絶された個体だ」

 

 へえ、と高校生の姿をした妹達(シスターズ)は呟いた。

 

「……どォやら、ココが争乱の中心になりつつあるっていうのは本当らしいな。となると、オマエの知り合い(・・・・)、ヤケに物知り顔な怪物じゃなかったか」

 

 グループも『ドラゴン』に辿り着いたのか、と彼は理解した。

 

「そっちのは?」

 

 ついでに、ミサカ00000号(フルチューニング)に酷似した少女へ目を向ける。第一位は横目でそちらを見ながら、

 

「こっちは番外個体(ミサカワースト)だ」

 

 彼が言ったのはその名だけだった。

 まあ、ミサカ00000号(フルチューニング)とは別人だとしっかり証明できたならいいだろう。

 接触しているなら違った反応が得られただろうから、逆説的に彼らはミサカ00000号(フルチューニング)とは接触していないはずだ。

 

「時間がねェ。こっちは行くぞ」

 

「時間が無いってんならこっちも同じだ」

 

 打ち止め(ラストオーダー)の崩壊は、最悪ミサカ00000号(フルチューニング)の崩壊に繋がりかねない。

 

 二人は最後に目線を合わせて、言った。

 

「必ず救え」

 

「互いにな」

 

 怪物たちは別々の道を歩む。

 ともに、似たような少女を救う為に。

 

 

 

 家屋の中に入ってみると、これまた東洋人の面子があった。

 彼は顔を知らないが、隣の心理定規(メジャーハート)はまたもや顔をしかめた。

 

 そして、入った瞬間は希望に溢れた顔をしていたのに、彼女と顔を合わせた瞬間、中にいたチンピラみたいな男も微妙な表情を浮かべた。

 

「……」

 

「知り合いか?」

 

「逆に、あなたは彼らを知らないの?」

 

 チンピラ風の男と、物静かな女。

 見覚えは……女の方はうっすらと記憶に残っていた。

 

「ああ、こいつら『アイテム』の残党か」

 

「ええ。浜面仕上と、滝壺理后、だったかしら?」

 

「な、なんだよ、お前ら」

 

 チンピラ男こと浜面は、滝壺という少女を庇うように前に出てきた。

 

「……はまづら、この人、超能力者(レベル5)だよ」

 

「はぁ!?」

 

 何で知っているんだ!?と、第六位を含める三人は思ったが、彼は直後に納得した。

 

「誰かと思えば、能力追跡(AIMストーカー)か」

 

「た、滝壺、お前能力を使ったのか?」

 

「ううん。この人のAIM拡散力場が結構特殊で、勝手に感じ取れるだけ」

 

 高レベルの電撃使い(エレクトロマスター)は、不可視な電気の流れ、電磁波などを目で追えたり、体で敏感に感じ取れる。そして、その体も電気に耐性ができるのだという。

 似たような現象が、滝壺という少女にも起きているのだろう。

 

超能力者(レベル5)っつったら……ええと、第何位なんだ?」

 

 チンピラは生意気な感じがしたので、とりあえず能力を付随させたデコピンをお見舞いしてやった。

 バチン!! と気持ちのいい音が部屋の中に響く。

 

「いってぇぇ!? 何でだよ! 理不尽過ぎる!!」

 

「チッ。そんなことより、この周辺で第三位のクローンを見なかったか。第一位が連れている二人とは別の」

 

「見てないよ」

 

 未だに痛い痛いと喚きうずくまる浜面の代わりに、滝壺が首を振りながら答えた。彼はふぅ、と息を吐き、悪態をつきそうになるのを抑えて、まともな返事を捻り出す。

 

「そうか」

 

「本当にここに滞在するの?向こうから接触してくれると思っているの?」

 

 言ったのは心理定規(メジャーハート)だ。彼も、そのことについては考えていた。

 エイワスの言葉の信憑性は、ここにきてある程度のものになっていた。第一位もどうやらエイワスに接触し、打ち止め(ラストオーダー)を救う為にロシアに向かわされたらしいのだ。

 

 流石に、ぼーっとしていたらあちらからやってくる、と楽観視できる状況ではない。上位個体(ラストオーダー)を見る限り、仮に一人でロシアの雪原にいた場合など、体の不調よりも前に凍死してしまう可能性もある。ここまで来て、そんな結末で終わらせる訳にはいかない。

 

 第六位は少し考えて返答した。

 

「拠点はあくまでここにするが、もちろん捜索もする。お前は軽く腹ごしらえでもしていろ。俺はエリザリーナってのと話をしてくる」

 

「そうね。飛行機が落ちてから何も食べていないし、そうさせてもらおうかしら」

 

 ともかく、ミサカ00000号(フルチューニング)を捜索するにあたって土台作りが必要だ。本当はすぐにでも開始したいが、もし今日が徒労に終わり帰ってきて、いざ宿を提供できないと言われると困る。

 彼は衛兵らしき男を探して適当に事情をでっちあげ、エリザリーナのいる部屋へと向かった。

 




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