学園都市の第六位   作:さかき(ヒロタカリュウ)

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第三章 介入者_Encounter_Ⅱ

  1

 

 エリザリーナ独立国同盟。

 単独独立では物資・人員の移動などが困難で、ロシアからの間接的に支配されてしまう。その課題を解決する為、東西300キロメートルに領地を伸ばすことで独自にロシアの外、即ち東ヨーロッパ周辺にまでルートを繋いでいる。

 その独立時の立役者こそが、この国の名称ともなったエリザリーナという女性だった。

 ヨーロッパ方面に糸口が出来たことで、逆に周りを囲うロシアからは疎んじられているが、彼女は政治的な国家独立の基盤を作ると共に、裏では魔術師を育てる魔導師としての側面も持っており、実際にロシア政教の面々を退けたばかりか、同盟内の宗教基盤を調整することで、戦闘面において実践的な魔術師の量産に成功。国を守るための戦力も作り上げたのだ。

 

 一体どんな魔女なのかと想像を膨らませていた第六位だが、実際に会うことでその空想は崩れ去った。

 エリザリーナは線の細い女だった。暖かそうな防寒着を着用しているが、それでも痩せ細っているのはわかった。顔もどことなく不健康そうで、例えば水着姿を見ても、性的興奮よりも先に体調を心配してしまいそうな感じだった。

 彼女は忙しそうにしていたようだが、第六位と心理定規(メジャーハート)の姿を視界に入れると、すぐに作業をやめた。

 

「時間はあるか」

 

「ないと言いたいところだけれど、わざわざここまで来た客人を放っておく訳にはいかないわね。見たところ東洋人のようだけど、あなたたちも、誰かの治療のために来たのかしら?」

 

 第六位はなんでもないことのように言った。

 

「魔術は必要ない。俺が欲しいのは住居環境だ」

 

 彼は軽く事情を説明した。

 探し人がこの周辺にいるということ。

 何日かかるかわからないということ。

 自分を追って学園都市から襲撃されるリスクがあるということ。

 ただし、自分がいる間は、その戦力を自由に扱ってもいいということ、など。

 

「……」

 

 エリザリーナは顎に手を当てて思考していた。

 

 彼女が懸念しているのは、そのリスクの大きさだ。

 

 学園都市から襲撃されるかもしれないというリスク。

 ロシアの上空で現行の兵器群を次々と駆逐して行く様子は、彼女もいくつか目撃していたし、噂も聞いている。時速7000キロメートルだとか、航空力学では考えられない80メートルというサイズ、そして宙空を浮遊しあらゆる角度・方向から標的を貫く遠隔式レーザー・ユニットなど。学園都市はあくまで自衛に徹していたらしいが、一部地域では即席の前線基地を構築されてしまったという。ロシアの物量を退ける科学の本領がこのエリザリーナ独立国同盟を襲えば一溜まりもない。

 

 エリザリーナはしばらく考え、ゆっくりと答えた。

 

「……残念だけれど、あなたたちを匿うことはできないわ」

 

「そうか」

 

 第六位の返事は軽かった。

 或いは、最初から予測できていたのかもしれない。

 

「ちょっと、いいの?」

 

「そもそも俺は実力を開示していないからな。一人で東西300キロを防衛できる保障もねぇ」

 

「じゃあ、どうしてわざわざここまで来たのよ……」

 

 肩を竦めながら呟く心理定規(メジャーハート)

 彼は、まるでこちらが本題だ、とでも言うかのように、懐から何かを取り出した。

 札と、紙のような何か。

 

「……?」

 

 目の下に隈ができているエリザリーナは首を少し傾げながらそれを見て、直後にハッとしていた。

 

「これが何かわかるか」

 

「……こっちの札は、通信用術式と言ってわかるかしら?」

 

「ああ。こいつを寄越したヤツもそう言っていた」

 

「でも、見たことのない方式だわ。魔力の込め方も何やら特殊なようだし」

 

「おっと、使うなよ。使用は一度きりだそうだからな。まぁ、通信用だとわかればもういい」

 

 また蚊帳の外か……と心理定規(メジャーハート)はげんなりとする。しょうがないので、部屋の隅にあったティーセットで勝手に紅茶を作りにいった。

 

「学園都市出身だそうだけど、魔術を使っているの?」

 

「俺の体が不老不死だからな。生命力を魔力に変換できるカラクリは、超能力っていう異物が混じっているせいだと言われた」

 

「それは誰から?」

 

「言っても信じられんだろう」

 

「……、」

 

 エリザリーナはそちらについて触れるのはやめ、絵や文字が書かれた紙のような何かに目を移した。

 

「こっちについてはわからないわね」

 

「ならいい。……心理定規(メジャーハート)、追っ手が来る前にここから出るぞ」

 

 紅茶を飲んでいた心理定規(メジャーハート)が慌ただしく立ち上がった。

 第六位は二つの紙切れをポケットに突っ込むと、何の躊躇もなく外へ出てゆく。

 

 

  2

 

 エリザリーナ独立国同盟はダメだった。

 拠点を構えられるのがベストだったが、エイワスは周辺、と言っていた。一方通行(アクセラレータ)に対しては、そこが争乱の中心になるとも言ったという。

 だが、あくまで必要なのは捜索することだろう。居住するのは十分条件に過ぎない。そこで駄々をこねるくらいなら、一秒でも早くミサカ00000号(フルチューニング)を捜索しに行く方がいい。

 

 そう考えた彼は、高級車を走らせ国境を跨いだ。

 

 その瞬間。

 

 

 

 ゴパッッッ!! という爆発音とともに、真横から戦車砲のようななにかで後部座席を丸ごと叩き潰された。

 

 車両は停止する。

 爆発を危惧した第六位は即座にエンジンを切り、心理定規(メジャーハート)の手首を右手で掴み能力でドアを蹴破る。そのまま彼女ごと車から飛び退いて、襲撃者を確認する。

 

 よく見る茶色がかった髪だった。

 その背丈はよく知る少女と同じような高さだった。

 のっぺらとした白い仮面と、同じく服装も似たようなものを着用していて、体格は厳密にはわからないが。

 

(まさか(・・・)……)

 

 『それ』は言った。

 

「久し振り、でいいのかな?」

 

 そのソプラノは。

 

 ずっとずっと聞きたくて。

 

 けれど、今この瞬間だけは聞きたくない声だった。

 

 

「会いたかったよ」

 

 

  3

 

 その少女は。

 ミサカ00000号(フルチューニング)はただそこに佇んでいた。

 あまりにも不気味すぎる光景だった。

 

 そもそも、どうしてこんなタイミングで?

 

 エリザリーナ独立国同盟へ向かい、対した収穫はなく、国境から出た途端にこれだ。

 

「ミサカ……お前、今まで」

 

 どこに行ってやがった、と言おうとした彼だが、彼女はそれを遮った。

 

「何言ってんの」

 

「あなたがミサカを置いてったんでしょ」

 

「あなたが置いてったせいで、学園都市の上層部とやらに捕まっちゃったんだよ。はは、情けない? 怒る? そんな訳ないよね」

 

 相変わらず、どこまでいっても感情の欠如したような声色だった。

 仮面の下の表情がどうなっているかはわからない。

 想像もしたくなかった。

 

「全部あなたのせいなんだから。全部、全部、全部」

 

 ジリリ、バリバリと彼女の体には電気が迸っていた。

 

「ミサ──、」

 

 彼が何かを言おうとした瞬間だった。

 

 ミサカ00000号(フルチューニング)から放たれた雷撃の槍が、真正面から第六位の体に襲いかかった。

 

「ッ!!」

 

 第六位は右手を掲げる。未元物質(ダークマター)によって作られた新物質は既存の電気を遮断する。右拳を蒼白い光の矢に叩きつけ分散させてそれを防ぎ、彼は目付きを変えて彼女と相対した。

 

「……、お前、何をされた(・・・・・)?」

 

「いつも通りでしょ。培養器に入れられて脳味噌弄くってさ。勘弁して欲しいよほんと。これもあなたのせいでこうなったんだよ?」

 

 二発目。

 バチバチィ!! と帯電していた電撃が、今度は複数の軌跡を描いて彼を襲う。第六位は自ら前へ出て叫んだ。

 

「離れてろ!!」

 

 彼の後ろにいた心理定規(メジャーハート)は、ハッとして慌てて離れる。その光景に眉をひそめながら、ミサカ00000号(フルチューニング)は再び口を開いた。

 

「オマケに、ミサカの代わりに別の女連れてるんだ?ミサカのこと、散々胸がないって言っていた癖に、趣味は同じなんだ。あは、もしかして、ミサカみたいなのってタイプだったり?」

 

 金髪の怪物、エイワスは、打ち止め(ラストオーダー)の負荷が伝播して危機的状況にあるかもしれないと言っていたが、特に苦しんでいる様子もない。二本の足で立ち、ただ彼らを感情の篭っていない冷めた目で見やっているだけ。

 

 やるべきことはわかる。

 駄々をこねるひねくれ女の目を覚まして、連れて帰るのだ。

 

 だが、一体どうやって?

 

「……話を聞け」

 

 雷撃の槍を避けたタイミングで対話を試みる。

 しかし、ミサカ00000号(フルチューニング)の態度はそっけない。興味がないでもなく、寧ろ蔑むような悪感情を彼に叩きつけている。

 

「話すことなんてないよ。あなたは何をやっても死なないし、とりあえず電撃百万回ぐらい受けて(・・・・・・・・・・・)もらおうかね。あなたの心が折れればミサカの勝ち。ミサカを殺せばあなたの勝ち」

 

 まあ、あなたにミサカが殺せるならの話だけどさ、とミサカ00000号(フルチューニング)は淡々と付け加えた。

 まるで自分の生死などどうでもいいと言っているかのようだった。

 いいや、学園都市のことだ。どういう理屈で自分を狙うかは分からないが、たとえ彼女が勝っても今後生きて行くことはできないだろうと、彼は簡単に悟った。

 

「……クソったれ」

 

 絶望的な戦いが始まる。

 

「…………クソったれ!!」

 

 負けたらゲームオーバー。

 勝ってもゲームオーバー。

 

 事実と現実は、容赦無く彼の心を苛む。

 

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