最新話から飛んだ方はご注意ください
1
エリザリーナ独立国同盟。
単独独立では物資・人員の移動などが困難で、ロシアからの間接的に支配されてしまう。その課題を解決する為、東西300キロメートルに領地を伸ばすことで独自にロシアの外、即ち東ヨーロッパ周辺にまでルートを繋いでいる。
その独立時の立役者こそが、この国の名称ともなったエリザリーナという女性だった。
ヨーロッパ方面に糸口が出来たことで、逆に周りを囲うロシアからは疎んじられているが、彼女は政治的な国家独立の基盤を作ると共に、裏では魔術師を育てる魔導師としての側面も持っており、実際にロシア政教の面々を退けたばかりか、同盟内の宗教基盤を調整することで、戦闘面において実践的な魔術師の量産に成功。国を守るための戦力も作り上げたのだ。
一体どんな魔女なのかと想像を膨らませていた第六位だが、実際に会うことでその空想は崩れ去った。
エリザリーナは線の細い女だった。暖かそうな防寒着を着用しているが、それでも痩せ細っているのはわかった。顔もどことなく不健康そうで、例えば水着姿を見ても、性的興奮よりも先に体調を心配してしまいそうな感じだった。
彼女は忙しそうにしていたようだが、第六位と
「時間はあるか」
「ないと言いたいところだけれど、わざわざここまで来た客人を放っておく訳にはいかないわね。見たところ東洋人のようだけど、あなたたちも、誰かの治療のために来たのかしら?」
第六位はなんでもないことのように言った。
「魔術は必要ない。俺が欲しいのは住居環境だ」
彼は軽く事情を説明した。
探し人がこの周辺にいるということ。
何日かかるかわからないということ。
自分を追って学園都市から襲撃されるリスクがあるということ。
ただし、自分がいる間は、その戦力を自由に扱ってもいいということ、など。
「……」
エリザリーナは顎に手を当てて思考していた。
彼女が懸念しているのは、そのリスクの大きさだ。
学園都市から襲撃されるかもしれないというリスク。
ロシアの上空で現行の兵器群を次々と駆逐して行く様子は、彼女もいくつか目撃していたし、噂も聞いている。時速7000キロメートルだとか、航空力学では考えられない80メートルというサイズ、そして宙空を浮遊しあらゆる角度・方向から標的を貫く遠隔式レーザー・ユニットなど。学園都市はあくまで自衛に徹していたらしいが、一部地域では即席の前線基地を構築されてしまったという。ロシアの物量を退ける科学の本領がこのエリザリーナ独立国同盟を襲えば一溜まりもない。
エリザリーナはしばらく考え、ゆっくりと答えた。
「……残念だけれど、あなたたちを匿うことはできないわ」
「そうか」
第六位の返事は軽かった。
或いは、最初から予測できていたのかもしれない。
「ちょっと、いいの?」
「そもそも俺は実力を開示していないからな。一人で東西300キロを防衛できる保障もねぇ」
「じゃあ、どうしてわざわざここまで来たのよ……」
肩を竦めながら呟く
彼は、まるでこちらが本題だ、とでも言うかのように、懐から何かを取り出した。
札と、紙のような何か。
「……?」
目の下に隈ができているエリザリーナは首を少し傾げながらそれを見て、直後にハッとしていた。
「これが何かわかるか」
「……こっちの札は、通信用術式と言ってわかるかしら?」
「ああ。こいつを寄越したヤツもそう言っていた」
「でも、見たことのない方式だわ。魔力の込め方も何やら特殊なようだし」
「おっと、使うなよ。使用は一度きりだそうだからな。まぁ、通信用だとわかればもういい」
また蚊帳の外か……と
「学園都市出身だそうだけど、魔術を使っているの?」
「俺の体が不老不死だからな。生命力を魔力に変換できるカラクリは、超能力っていう異物が混じっているせいだと言われた」
「それは誰から?」
「言っても信じられんだろう」
「……、」
エリザリーナはそちらについて触れるのはやめ、絵や文字が書かれた紙のような何かに目を移した。
「こっちについてはわからないわね」
「ならいい。……
紅茶を飲んでいた
第六位は二つの紙切れをポケットに突っ込むと、何の躊躇もなく外へ出てゆく。
2
エリザリーナ独立国同盟はダメだった。
拠点を構えられるのがベストだったが、エイワスは周辺、と言っていた。
だが、あくまで必要なのは捜索することだろう。居住するのは十分条件に過ぎない。そこで駄々をこねるくらいなら、一秒でも早く
そう考えた彼は、高級車を走らせ国境を跨いだ。
その瞬間。
ゴパッッッ!! という爆発音とともに、真横から戦車砲のようななにかで後部座席を丸ごと叩き潰された。
車両は停止する。
爆発を危惧した第六位は即座にエンジンを切り、
よく見る茶色がかった髪だった。
その背丈はよく知る少女と同じような高さだった。
のっぺらとした白い仮面と、同じく服装も似たようなものを着用していて、体格は厳密にはわからないが。
(
『それ』は言った。
「久し振り、でいいのかな?」
そのソプラノは。
ずっとずっと聞きたくて。
けれど、今この瞬間だけは聞きたくない声だった。
「会いたかったよ」
3
その少女は。
あまりにも不気味すぎる光景だった。
そもそも、どうしてこんなタイミングで?
エリザリーナ独立国同盟へ向かい、対した収穫はなく、国境から出た途端にこれだ。
「ミサカ……お前、今まで」
どこに行ってやがった、と言おうとした彼だが、彼女はそれを遮った。
「何言ってんの」
「あなたがミサカを置いてったんでしょ」
「あなたが置いてったせいで、学園都市の上層部とやらに捕まっちゃったんだよ。はは、情けない? 怒る? そんな訳ないよね」
相変わらず、どこまでいっても感情の欠如したような声色だった。
仮面の下の表情がどうなっているかはわからない。
想像もしたくなかった。
「全部あなたのせいなんだから。全部、全部、全部」
ジリリ、バリバリと彼女の体には電気が迸っていた。
「ミサ──、」
彼が何かを言おうとした瞬間だった。
「ッ!!」
第六位は右手を掲げる。
「……、お前、
「いつも通りでしょ。培養器に入れられて脳味噌弄くってさ。勘弁して欲しいよほんと。これもあなたのせいでこうなったんだよ?」
二発目。
バチバチィ!! と帯電していた電撃が、今度は複数の軌跡を描いて彼を襲う。第六位は自ら前へ出て叫んだ。
「離れてろ!!」
彼の後ろにいた
「オマケに、ミサカの代わりに別の女連れてるんだ?ミサカのこと、散々胸がないって言っていた癖に、趣味は同じなんだ。あは、もしかして、ミサカみたいなのってタイプだったり?」
金髪の怪物、エイワスは、
やるべきことはわかる。
駄々をこねるひねくれ女の目を覚まして、連れて帰るのだ。
だが、一体どうやって?
「……話を聞け」
雷撃の槍を避けたタイミングで対話を試みる。
しかし、
「話すことなんてないよ。あなたは何をやっても死なないし、とりあえず
まあ、あなたにミサカが殺せるならの話だけどさ、と
まるで自分の生死などどうでもいいと言っているかのようだった。
いいや、学園都市のことだ。どういう理屈で自分を狙うかは分からないが、たとえ彼女が勝っても今後生きて行くことはできないだろうと、彼は簡単に悟った。
「……クソったれ」
絶望的な戦いが始まる。
「…………クソったれ!!」
負けたらゲームオーバー。
勝ってもゲームオーバー。
事実と現実は、容赦無く彼の心を苛む。