1
その現象を端的に表現するならば。
第六位が持つ不老不死の性質によって内蔵が自動修復される光景を、
右腕と化し、本物とは隔絶された
そして、そこに意識が宿る。
それは、或いは、限りなく本物に近いだけの、作られた偽物であるかもしれない。
しかし。
学園都市第二位の意識は、確かにここに顕現した。
普段の『彼』なら、誰かのために何かをすることはないだろう。
ただ、これは結果的に誰かのためになるだけであって、その目的の本質は別にある。
(……始めるか)
第六位の身体を掌握した
能力噴出点のラインを拡げたのだ。
「ふむ」
杖を振る一瞬前。
突如そんな動きをした彼を前に、アレイスターは興味深げに彼を見据える。
「反撃の時間だ、アレイスター」
言葉を合図とするように、背中の二つの六角形から、一対の真っ白な翼が発生する。
『
「ほう?」
今だに彼をただの第六位と捉えているらしい。
いや、無理もない。外見も声も彼そのままなのだから。
彼の体を借り、そして能力使用において最適化を済ませた彼は、口を横に裂いて笑みを浮かべながら呟くように言った。
「
「その余裕そうなツラに、
2
正攻法では、この怪物は倒せない。
何の根拠もない。悔しいことだがしかし、それだけは理解できていた。
既存の法則では通用しない。ならば、未知なる法則ではどうだろうか。
だから。
当然のように。
最初の一撃は右腕だった。
彼は肘から先が
アレイスターは。
怪物はそれを億劫そうに、
たった一つの動作だけで。
不可視の爆発的な衝撃波が、全方位に襲いかかる。
「チッ」
垣根は一つ舌打ちし、背中の六角形から伸びた一対の翼をクロスして彼の前面を覆う。『衝撃を受けるごとに分裂する』という性質を与えた
理論上はそれで攻撃を相殺できたはずだが、波が逸れて右腕の肘から先を消し飛ばされてしまった。
しかし、上腕の本体である進化した『Equ.DarkMatter』さえあれば問題はない。即座に数秒前の腕を再構築し、今度は翼を大きく
「……」
アレイスターはただ杖を振るった。
謎の衝撃波と、惑星をまるごと破壊せんとする拳がぶつかった。
初めに、光が消えた。
厳密には、ありとあらゆる光が一気に発生し重なった結果、一瞬だけ白が世界を覆った。
次に、音が消えた。
謎と謎のぶつかりあいを世界が処理できなかった、とでもいうかのように、音もなく白い拳と不可視の衝撃波が拮抗した。
そして、その直後。
連鎖的な爆発が発生した。
第六位に体を借りた垣根は、まっすぐ雪原へと吹き飛ばされた。
アレイスターは、ただその場に佇んでいる。
「もうじき600秒か。そろそろ限界だが」
「逃がすと思うか」
全身に傷跡を作り、さらにそこから無限に鮮血を垂れ流し、右腕の肘から先が欠けた少年は、何事もなかったかのように立ち上がった。
体に絡んでいたパラシュートの拘束具のようなものは跡形もなく消失し、同じく肩甲骨付近に配置された翼の出力器も消えていた。
「そろそろ飽きた。
トドメのための杖が揺れる。
次の一撃で、今度こそ彼は昏倒する。幾度となく内蔵を消し飛ばされ、ダメージが限界に至って気絶する。
そのはずだった。
少年の体は。
不可視の致命的な衝撃波を、ただ一歩左にずれるだけで回避してしまった。
「……、」
アレイスターの眉が一瞬だけ動いたような気がした。
垣根帝督はほくそ笑みながら言う。
「
「……、」
「確かにテメェの攻撃は見えないし、五感で完全回避できるような領域を超えているし、一撃は五臓六腑をまとめて叩き潰すぐらいの破壊力がある。だが、
彼は笑みを絶やさず続けた。
「攻撃パターンは標的から半径10メートルに生じる一つだけ。人一人が入れるぐらいの安全地帯は七箇所で、最も正面に近いのがこの地点。針の穴に糸を通すような作業も、
「……ここで私の肉体を壊したとしても、それは意味のないことだが」
「問答無用だよクソ野郎」
その言葉が最後だった。
右腕の肘から生えた、20メートル近い『
3
目が覚めた。
珍しく丸太の木造建築の小屋、ログハウスのような場所だった。
そのベッドの上で、彼は警戒し目線だけを周囲にやる。
「ようやくお目覚めか」
体を起こすと、すぐに声がかかった。
「……、」
見たことがある女だった。
9月30日に出会った異質な存在。
魔神オティヌス、とか言ったか。
「二度目だな、『隻腕のテュール』。渡した霊装が不自然に壊されたので様子を見に来れば、倒れていたものでな。こちらで回収した」
第六位は眉をひそめながら、言葉を選んで絞り出す。
「……俺の近くに、茶髪の女と金髪の女がいなかったか?」
「おいおい、開口一番でいきなり別の女の話か。デリカシーというものがないな」
「まともな女として見て欲しいなら、その露出狂みたいな格好はやめておけ」
チッ、と舌打ちが聞こえた。
第六位は無言で魔神を睨むと、彼女は参ったよと言わんばかりに両手をあげ、適当な調子で語り出した。
「お前が危惧している茶髪の小娘だが、一応命は繋がっている。だが、アレは傷を媒介にした魔術的な呪いの一種だ。今は白い物質で傷口を埋めることで現状維持しているようだが、アレでは数年保てばいいほうだろう」
そもそもクローンの寿命がどこまでかは知らんがな、とオティヌスは付け加えた。
彼は嫌な顔を見せないように顔面の表情を固定し、言う。
「……お前の要件はなんだ?」
「
オティヌスは何でもないように言った。
「お前の利用価値はそこにある。学園都市のような科学から生まれたとは思えないような魔力の質と量もそうだが、お前の生身の右腕は、昔
確かに、ロシアでアレイスターと相対したとき、自分ではない何者かが、勝手にそんなことを言った。
そして、アレイスターに右手が奪われたことも思い出した。
それ以前に何をしていたかは、相変わらず思い出せないが。
(……となると、俺の記憶喪失は、そいつを隠すために不老不死と一緒に施したってことか?)
「第三次世界大戦で、上条当麻が消えた」
オティヌスの言葉が、彼の思考を打ち切らせた。
「何?」
「死んだかどこかの誰かに匿われたか。どっちでもいいが、どうせあの性質は私には扱いづらい。お前を引き入れ、その右手に移したほうが良さそうだと考えた訳だ」
「俺に、お前の配下になれとでも?」
「
「は、ン?」
そこで彼はようやく気付く。
自分の右腕が、Equ.DarkMatterが消失している。
厳密には、二の腕部分が地面に埋まる鉱石のように少量だけ肩パーツに張り付いていて、それ以外の箇所は破損していた。
これではもう、腕を生成できないだろう。
彼女が先程わざと『隻腕』と付けたのは、神話の名ではなく、第六位の状態そのものだったからか。
「お前の家にはその義手の予備ぐらいあるんだろうが、さてこの空間で私に逆らう方法はあるかね」
古風なログハウス。
外界から全てが遮られているため、場所も時間もわからない。
ニヤニヤと笑うオティヌスはやがて笑みの質を変えて言う。
「まあ、私も鬼じゃない。考える時間ぐらいは与えてやる」
オティヌスはいいながら、どこからともなく白い紙の札を彼へ突き出した。
「選べよ、テュール。私に付いて対価を得るか。私を切り捨てて絶望するか」
対価。
魔神とやらは、何でもできるらしい。
例えば、不老不死を
例えば、記憶喪失を元に戻す、とか。
例えば、現状維持でとどまっている
しかし、そんな目先の利益に囚われる前に、聞いておくことがある。
「オティヌスとか言ったな。……お前の目的は?」
「……、」
問うと、魔神は僅かに黙った。目を少し細め、第六位を審査するように睨む。
そうして、口を開く。
「私が魔神であるというのは、以前に話したな」
彼は一つ頷く。
「魔神っていうのは、無限の可能性だ。プラスもマイナスも含んでいる。簡単に言えば、成功する可能性と失敗する可能性を丁度50%ずつ内包している。私は世界を壊す力を持つが、同時に子供とのジャンケンに敗北する可能性が半分もあるんだ」
彼は言葉を飲み込みながら、続きを促す。
「目的は一つ」
オティヌスは言う。
「『
……恐らく、それが全てではないと、第六位は瞬時に悟った。
彼女の言葉は手段であって、目的は別のところにあるように思えた。
成功100%を手に入れて何をするつもりか。
しかし、そんなことはどうでもよかった。
彼の目的のためにも、成功100%は必要だと思えた。
全てが手遅れだった、なんて後悔はしたくない。
彼女の言葉全てを鵜呑みにするわけではないが、その過程で
能力は失うが、不老不死の呪いも消え、もしかしたら記憶喪失も治るかもしれない。
過去の自分に固執しているわけでもないが、そう考えると利益が見えてくると彼は考えた。
ならば、あとは即決だ。
「わかったよ」
「俺は、魔神オティヌスについて行こう」
そうして、彼は『グレムリン』に合流することとなる。
Column:
Equ.DarkMatter_ver.R_Arm
垣根帝督から製造された
形は人の二の腕を模した円柱型で、表面は真っ白。
従来の機械義手(肩パーツ)に接続することで稼働する。
仮面が翼を噴出できるように、こちらは人の右腕の形をした
右腕内部には
二の腕部分は
電気信号で命令を飛ばすため、思考を実行するまでのラグは生身と同等。
仮面の装着とは異なり、電気信号を介して第六位という生命と接続することで垣根帝督の意識が宿った。その際には右腕を多彩な形に変化させ、本物の