第一章 おかえりなさい、ヒーロー_From_"GREMLIN"
1
「……なぁ、トール」
「あん? どうした」
「何やってんだろうなぁ、俺達は」
「……。喋る暇があるなら手を動かせよ。それだけ勝負は
「チッ。面倒臭ぇ」
学園都市の第六位、またの名を軍神テュールは、巨大な要塞の一角にそびえる岩石の前で、赤い塗料をスプレーで振りかけていた。
「つーかよ、20キロメートルだろ?なんで細々としたとこは手作業なんだよ……」
そんな面倒臭いことを始めるに至った経緯を語るには、少々時間を巻き戻さなくてはならない。
2
グレムリン。
『機械の誤作動を誘発する妖精』の名を冠したその魔術結社は、世界の裏でヒソヒソと『準備』を進めていた。
アイスランド近海に来た時点で、そこは既に巨大な……部屋と表記してもいいのかと迷うような空間だった。
まさに気が付けば、コンクリートに囲まれたその空間に足を踏み入れていた。
また異常事態かと既に悟りを開いた彼は、目の前の光景を受け入れ、飛行のために展開していた
そこは地下施設だった。本来は地球には存在しないのだが、オティヌスが創り上げたらしい。20平方キロメートル近くあるこの施設は、その限界を使ってあるものを製造していた。
「上条当麻の捜索?」
「そうだ。あちこちで囁かれているヤツの目撃情報だが、いちいち信憑性を議論にかけている暇などない。そこで要塞を打ち上げ、
テュールは続きを促す。
「……厳密には、地脈や龍脈に流れる力を
テュールは巨大な地下世界に侵入してからすぐにオティヌスを見つけ、彼女の話を聞いていた。どうやら目の前に広がる『大陸を丸ごとくり抜いた』ようなモノは、宙空を浮遊し特殊な技術で上条当麻を捜索するための代物らしい。
どうしてここまで大掛かりにする必要があるのか。
それを聞いてみると、少女は博識さを表に出しながら適当に答えた。
「別に。ただのインパクトだよ。ベースとなるのは、かの大戦とやらの中心に居た男、『神の右席』の右方のフィアンマが出現させた『ベツレヘムの星』。そこに科学と魔術をごちゃ混ぜに組み込んで、こちらの真意の解析を困難にさせる」
要するに、大掛かりな仕組みで小さな目的を達成するのが狙いのようだ。
「流石にこれだけの質量だからな。目標とする高度も正攻法では維持が難しい。だから浮力は魔術と科学、約半々にするつもりだ。お前は学園都市の出身だったな。なら、ベルシと合流して指示に従え」
「へいへい……」
「それから」
「?」
「他の正規メンバーについてだが。交流するのは勝手にすればいいが、あまり深く関わるな、とだけ言っておく」
「……りょーかい」
言われっぱなしだが、ここは組織。オティヌスは上司で、テュールは部下。
リーダーに歯向かえるだけの力は、まだない。
3
ベルシとやらを見つけるのには、かなりの時間を要した。
その男は、約20平方キロメートルの大部屋ではなく、そこに幾つか繋がっている小部屋の一つに居たのだ。
わかりにくいところに居やがってと小言でも言いたかったが、一概に人のせいでもないので口を噤む。
「誰だ?」
開口一番、黒髪の男は作業用チェアに座り、パソコンを睨んだまま言った。
年齢は20代中頃と言った程度だろうか。
「俺はテュール。今日からグレムリンに参加した、学園都市出身の者だ」
男はテュールの発言に僅かに驚きを見せ、白衣を揺らして立ち上がる。
「私はここではベルシと名乗っているが……木原と言えば、私の出自はわかるかね」
「木原だと?」
木原と言えば、最近、木原病理とともに『Equ.DarkMatter』の研究をした、と彼の記憶が脳裏に浮かんだ。
「木原加群だ。グレムリンでは主に科学技術の根幹を担っている。宜しく頼む」
「……ああ、宜しく。それで? 俺達『科学側』は何をすればいいんだ?」
「下面に設置するガスタンクの製造及び設置だが、既に完了している」
「あん? さっき忙しそうにパソコンと睨めっこしてなかったか?」
「アレはプライベートなことだ」
「ああそう……」
大陸のような要塞は基礎部分がかなり出来上がっていたから、恐らく完成間近なのだろう。
出て行ってサボろうと考えたテュールだが、その前にベルシが言った。
「その右手は……」
「ん? ……
「……そうか。木原病理と、か」
「そんで、コイツがどうした? 便利ではあるが、専用の肩パーツを体に移植してサイボーグ化しないと扱えねぇぞ」
「いいや。少し気になっただけだ。想像通り、面白い話が聞けた」
「……?」
「しかしなるほど。戦闘時に多種多様に攻撃手段を形成する、か。確か、学園都市の第六位だったな」
その言葉に、テュールは驚きの表情を浮かべた。ベルシはそんな彼のリアクションに小さく笑うと、続きを紡ぐ。
「魔神から聞いた前情報だよ。『
「本当か?」
「まあ、あくまで『かもしれない』というレベルだが。その右腕の詳細について、聞いても構わないかね?」
3
それから数時間経ってベルシのもとを離れたテュールは、金髪の二人組みに声をかけられた。女みたいな風貌の髪の長い男と、こっちはホストで働いていそうな風貌の金髪の男。
髪の長いほうの男が言う。
「お、噂の新入りちゃんか?」
「……テュールだ」
彼は慣れない口振りで、一言自己紹介した。
ホスト男のほうが、先に返事をする。
「俺はウートガルザロキ。学園都市出身だそうだが、大丈夫なのかよ?」
「敵に回してもいいのかという意味なら、別に問題はねぇよ。正式な籍なんて無いんだからな」
テュールは適当に答えながら、トールのほうへ目を向けて促す。
「ああ、俺は雷神トール。オティヌスの野郎が一目置く力の持ち主だってもんで、期待させてもらうぜ」
「あ? そうなの? 学園都市製は魔術なんか使っちまったら一発なんじゃなかったか」
「何でも体が不老不死なんだと。あー、燃えてきたわ。なあテュール、コイツを打ち上げ終わったら勝負しねえか?」
雷神トールは背面に広がる巨大な要塞を後ろ手に指しながら言った。
テュールは怪訝な顔をしながら思わず呟くように復唱する。
「……勝負?」
「あー、コイツの癖だ。強そうなヤツと出会うとすぐケンカってな。ま、どうせ死なねえなら相手してやりゃいいんじゃねえの」
話が盛り上がってきたところで、しかし三人の脇から声がかかった。
「おい」
「……っ」
魔女のような格好をした少女。
魔神オティヌスだった。
ウートガルザロキが、取り繕ったように前に出て言う。
「っと、オティヌスじゃねえか。俺たちがやるトコは終わったぜ」
「幻覚ごときで仕事を終わらせた気になるな。さっさとやってこい。トールとテュール、お前たちはスプレー缶でメッセージを記して来い。文面は──」
それから、数日後。
イギリス清教より『ラジオゾンデ要塞』と呼称されるその空中要塞が完成し、アイスランド上空へ浮上する。
「俺は不老不死のテメェに気を遣う必要はねえよな?」
──『グレムリン』直接戦闘担当・雷神トール
「届けェッ!!」
──『学園都市』
今日中に次話を投稿します。