学園都市の第六位   作:さかき(ヒロタカリュウ)

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本日4/6日は、二話投稿しています。
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第二章 雷神と軍神、或いは全能神と最高神_Thor_vs._Tyr

  1

 

 勝負というより、それは喧嘩に近しかった。

 ただただ、お互いの力をぶつけ合うだけの闘い。

 

 そこにあるのは、単純に「どちらが強いか」という興味本位と闘争本能。それだけのために、互いは力をだし尽くさんとしていた。

 

 

 通称『ラジオゾンデ要塞』を建造したアイスランド地下の巨大な空間。

 つい先ほど浮上した要塞がぽっかりと無くなれば、無限に広がるような錯覚さえ覚える灰色の世界。

 数百平方キロメートルに及ぶだだっ広いその中に、神の名を冠した人間が二人向かい合っていた。

 

 

「『相打ち術式』は使わない。お前を殺しちまったら、グレムリンには大打撃だしな」

 

「それは暗に、その術式を使えば簡単に俺を殺せるとでも言っているようで気に喰わねえが……ま、仕方ないか。俺の方は、不老不死のテメェに気を遣う必要はねえよな?」

 

「ああ」

 

 条件は整った。

 

「それじゃ」

 

 喧嘩を始めよう。

 

 

 

 

 ボン!! という爆音が、トールのほうから生じた。

 彼の右手の五指それぞれから、アーク溶断ブレードが伸びた音だ。

 

 一方、対面20メートルに位置するテュールは、外見上変化はない。彼は静かに己の内側に能力を発動し、瞬時に高速移動を行えるように身構えていた。

 

 

 トールと、テュール。

 ともに北欧神話の軍神。

 

 火蓋は切って落とされた。

 戦いを司る破壊の神々は、直後に激突する。

 

 

 ブォン!! と風切り音が発生したときには、既に溶断ブレードはその進行上のもの全てを両断していた。

 しかし、今しがた斬り裂いたのは空気だけ。

 そこにテュールの肉体はなかった。

 

「避けたか!」

 

 テュールは未元物質(ダークマター)の右手を地面に叩きつけることで莫大な反作用を生み出し跳躍していた。

 雷光のような刃を避け、空中に構築した未元物質(ダークマター)の塊を蹴り飛ばし、新たな反作用を得たテュールは一気に肉薄する。

 

 彼の武器は、その拳。

 

 ガガガゴガッッッ!! と、大地が割れた。左手に生やした溶断ブレードで足下の地面を四角くくり抜いたトールが、力任せにそのコンクリートの塊を上空のテュールに叩きつけた。

 そこに、純白の拳が降り注ぐ。

 

 次には破裂音が生じた。粉々に弾けたコンクリートの粉塵越しに、視線が交錯する。

 二人はどちらからともなく後ろに飛び退いて互いに距離を取った。

 

 

 面白い。

 ぶつかり合いというのは、心底楽しい。

 

 

「やっぱ、70センチ程度の腕じゃ本体であるお前には届かねぇか」

 

「ならどうする?」

 

「こうするだけだ」

 

 テュールは右の拳を前に突き出した。

 その行動自体に意味はない。

 次に彼は、とある電気信号の命令を右手に送った(・・・・・・・・・・・・・・・・・)

 

「……へぇ」

 

 それを見て、トールは目を見開き思わず口角を上げて笑った。

 

 

 テュールの腕が、三本になっていたのだ。

 

 厳密にいうならば、右腕。その二の腕から、全長2メートル近い巨大な『腕』が出現したのだ。

 

「ベルシと共同開発の、破壊性に射程を追加した代物だ」

 

 ベースとなるのは、あの大戦で世界を席巻した、右方のフィアンマの第三の右腕。あれが姿を現した時のイメージだ。

 テュールはその話を聞いて、自分の義手に採用した。未元物質(ダークマター)を利用した『破壊のための巨大な腕』。無論、能力の『噴出点』を持つそれは、たかだか「人の腕を模したサイズの義手」の破壊力を大きく上回るだろう。

 相手の切り札を見受けたトールも、やがて同じように呟いた。

 

「『投擲の槌(ミョルニル)』、接続確認。終了次第供給開始。……そこまで形を変えて見せてくれたんだ、あっさり終わるんじゃねえぞ!!」

 

「こっちの台詞だと言っておこうか!!」

 

 たっぷり20メートル伸びた溶断ブレードと、2メートル程度の剛腕。

 ただし、その破壊性は後者の方が上。

 『射程』か『破壊力』か。

 この勝負は、そこに収束する。

 

 

 

 十本の指を纏めて振るわれた巨大なブレードが、地面のコンクリートを容赦無く斬り裂いた。いくら分厚いと言えども、やり過ぎれば海水が浸水してきそうだが、そちらに気を遣うつもりは毛頭ないようだった。

 

 右腕から2メートル近い巨大な腕を生やしたテュールは、その巨腕で地面を叩いて反作用でジグザグに移動しつつ距離を詰める。

 

 トールはそこで趣向を変え、五指をそれぞれ交互に叩きつけることで隙を無くす。

 

 しかし、今度はテュールが右手から多量の未元物質(ダークマター)を出力し、『衝撃を受けるたびに無数の白い羽に変換して質量攻撃』させることで、溶断ブレードから身を守る。無限に分裂した結果二人の間には純白のカーテンが敷かれ、一瞬に近い時間互いが互いの場所を補足できなくなる。

 

 当然、二人はその隙を逃がさない。

 

 アークブレードをさらに倍。40メートルに近い長さとなった雷光の刃。10の指を全て広げ、トールはそれらを引っ掻くように斜めに振り下ろし、未元物質(ダークマター)のカーテンをあっという間に切り裂いてしまった。

 

 テュールは身を屈めてそれを回避していた。

 そして、至近距離から右拳を地面に叩きつけ、前方方向に加速する。

 

「届けェッ!!」

 

「ッ!!」

 

 未元物質(ダークマター)の砂のようなカーテンを突き破った右肩の剛腕が、雷神トールを捉える。

 

 その一瞬前。

 

 

 

 

「……仕方ねえな」

 

 そんな呟きが聞こえて。

 

 

 轟!! という衝撃が、低空を駆けるテュールに襲いかかった。

 

 

 

 

 

「やっぱりテメェは科学で育ったんだとわかるな。分かっちゃいねえ(・・・・・・・・)。まあ、ある意味では当然だが」

 

「……、」

 

 気が付けば、テュールは地面に仰向けに倒れていた。

 全身に傷があり、魔術を使用した訳でもないのに、血液が決壊したダムのように流れ出ていた。

 右肩から生やしたベルシ特製の『第三の右腕』は、その根元からベコベコに破損している。同じく従来の右腕は肘から先どころか、二の腕部分も少し損傷していた。これでは未元物質(ダークマター)をあと一度でも出力すれば自壊してしまいそうだ。

 

 溶断ブレードを用いた傷痕ではなかった(・・・・・・・・・・・・・・・・・・)

 

「北欧神話にしっかり触れてりゃ、割と簡単に知ることができるような話だ。……トールってのはな、今の文献では雷を司る軍神、となっちゃいるが、初期の伝承では、色んなものを司ってた全能神としての側面もあるんだよ」

 

 普段の力なんて、それを最大限に押し込めた程度に過ぎない。

 

「……」

 

 第六位の薄い息を確認しながら、トールは続けた。

 

「ま、このトールさんから全能としての力を引き出せただけでも中々のモンだ。その力の強さは証明できると思うぜ。なんたって今まで──、」

 

 ぐちゃり、と。

 テュールのほうから生じた音が、トールの言葉を掻き消した。

 

「……あ?」

 

 不老不死と言っても、痛みは感じるし、疲労は溜まる。許容量を超えたダメージは容赦無く意識を刈り取ってしまうし、精神的ダメージは心を苛む。

 全身血だらけに、右腕を粉砕したこの状態。隻腕となったテュールに、まだ何かできるとは思えなかった。

 

 しかし。

 そんな中で。

 

 隻腕の軍神は立ち上がり、笑っていた。

 

「……おいおい、無理はしない方がいいぜ。お前がどんなに頑丈だろうが、少なくとも丸一日は休まねえといけねえような、」

 

うるせぇな(・・・・・)

 

 左手一本の彼は、裂けたような笑みを浮かべながら、低く言った。

 ひどく不気味な光景だった。

 

 強度問題を解消する右腕は破壊した。

 射程問題を解消する第三の右腕も根元から潰した。

 

 もし『相打ち術式』が機能していれば怪しかっただろうが、これはルールを設けた上での勝負。

 

 残っているのは、両足と左手。

 学園都市製の能力をどんな風に使っても、この状況で全能の力を解放したトールに逆転できるはずがない。

 

 だが。

 しかし。

 テュールは言った。

 

「わかってねぇだと?それはトール、お前のほうだ。影が薄すぎたから知らなかったか?科学の出身だからって見向きもしなかったか? そんな訳ねぇだろ」

 

 そもそも。

 トールが古くは全能神としての側面を持ち合わせていたように。

 

 今でこそ軍神であり勇敢な神だったとされている隻腕のテュールも、そもそも最初期はそんな地位(・・・・・)では収まらなかった。

 

 それはまさしく、神の領域。

 

 魔神と並ぶような。

 

 テュールは言う。

 決定的な言葉を。

 

 

「右手を失って信仰をオーディンやトールに奪われた隻腕のテュールだが、これでも最初期の北欧神話では『主神(最高神)』を担っていた存在なんだよ」

 

「……、」

 

「なんせ不老不死だ。科学の出身だろうが、考える時間は今まで幾らでもあった。多分、お前が雷神トールを名乗る前から、いいや、お前が生まれる前から俺は神話を紐解き、オリジナルの魔術ってのを作り上げてきた。番犬ガルムをフェンリルに据えた相討ち術式もその一つ。そして」

 

 彼は二の腕しか存在しない真っ白な右腕の断面に左手を突っ込んだ。

 四次元ポケットにでも消失したかのように、左の拳は手首から前腕の途中まで深くはまった。

 

テュール(軍神)テュール(最高神)たるための霊装の精製だって、俺には不可能じゃなかった」

 

 それを、一気に引き抜く。

 

 その左手に握られていたものは、一本の真っ白な剣だった。

 全長は1メートル半程度だろうか。剣としてみると少し大きいほうであり、パッと見ただけでは、細長い、西洋あたりで開発されたただの両手剣にも見える。

 

 しかしその剣の付け根に、『T』と刻まれているのが目についた。

 

 そのルーンの刻印が示す意味は。

 トールは叫ぶように言った。

 

「まさか……ッ!!」

 

 手にすれば世界の覇者になれると呼ばれる剣。

 

 或いは、その戦で確実に勝利を掴むことができるとされる剣。

 

 未元物質(ダークマター)によって製造されたその霊装は、少ない文献の中でそのままこう記されている。

 

 即ち、『(テュール)の剣』と。

 

 

  2

 

 まだ、トールやオーディンが北欧神話の信仰の対象となっていないころ。

 

 最初期の北欧神話では、テュールは法と豊穣と平和を司る天空神であり、同時に最高神としての地位を持っていた。

 フェンリルに右手を噛みちぎられて以来、その信仰心はトールやフレイ、オーディンへと流れて行ったが、軍神に堕ちてもなお、テュールは隻腕で勇敢に戦い続け、頭文字にあたる『T』のルーン文字は戦にて確実に勝利をもたらすとさえ言われていたほどだ。

 そうした経緯からか、古ノルド語では『テュール』とは『神』を表す一般名詞でもあった。

 

 そんなテュールは。

 今日の火曜日(Tuesday)の語源ともなった軍神は。

 

 ここで一度、剣を媒介に『主神(最高神)』としての力を取り戻す。

 

 

 トールは震えていた。

 己が前に立つ敵が強大すぎて怖じ気づいた訳ではない。

 これはむしろ、互いの高すぎる力をぶつけ合う瞬間を想像して起きた武者震いだ。

 

「く、はは……。面白えじゃねえか……!!」

 

 霊装に魔力を込める過程で、「能力者が魔術を使用した反動」を受けたのだろう。テュールは全身から止めどなく流れ続ける血液を億劫そうに払いながら、激痛に表情を歪めることもなく、片腕しかない左手で剣を携えていた。

 

 

「正直舐めてたぜ、テュールちゃんよ。テメェの言うとおり、科学出身のヒヨッコ魔術師だと勝手に思っていた」

 

 もしも、戦闘能力を視覚化できるような能力者が今の二人を視界に入れれば、即座に卒倒してしまうことだろう。

 

 物理的ではないそれが、物理的に作用しかねないようなオーラが二人を包んでいた。

 

「俺は強くなりすぎたせいで個人の喧嘩が『戦争』レベルに発展しちまうが、テメェはそれだけの力がありながら、今まで使ってこなかったんだな」

 

「別に隠していたつもりはねぇ。理論が完成したのは最近だし、俺だってここでコイツを使う羽目になるとは思わなかったよ」

 

 次の交錯で、戦争は終わる。

 決着がつく。

 

 全能神と最高神。

 

 一歩で加速し、二人は激突した。

 

 

 

 

 勝敗は明確だった。

 (テュール)の剣は、一振りでその正体も明確にわからない『全能』の力をねじ伏せた。

 

 

 




Column:
第三の右腕_From.DarkMatter
右方のフィアンマの話を聞いて遊び半分でベルシと共に開発した右腕。
二の腕のEqu.DarkMatterを利用して展開しており、中身は人工筋肉を適量敷き詰めただけ。電気信号によって自らの腕さながらの動きが可能で、全長2メートルに及ぶ剛腕は、その能力と高い親和性を持つ。
圧倒的な破壊力はしかし、全能を解放したトールに二の腕部分ごと破壊された。

(テュール)の剣
北欧神話の軍神、隻腕のテュールが携えていたとされる剣の霊装のレプリカ。テュールが神話上の話であまり出てこないことも含め、その伝承から得られる情報は少なく、実際に存在したかどうかもあやふや。
刻まれた『T』のルーン文字(厳密には『↑』という形が近しい)には勝利の加護が与えられるとされ、戦では数々の武器に同じようなルーンが刻まれたという。英語の火曜日を指すTuesdayはこのテュールから来ているとされる。
実在するかどうかは曖昧であり、少ない伝承を紐解きながら未元物質(ダークマター)で調整・精製されたが、即席のものであったため、一度振った時点でトールの意識を消し飛ばして同時に消滅した。
その本質は謎に包まれている。
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