1
黒塗りのワンボックスカーが、第六位と
その瞬間、彼が取った行動は単純だ。
義手の拳を握りしめて、振り返りざまに大きく振るった。
それだけで、ワンボックスカーが
バゴン!! というプレス機で何かを潰したような音と共に、車の前部分が大きくひしゃげる。点から与えられた衝撃があまりにも凄まじすぎたのだ。
彼の義手に、刃のようなものがついていたわけではない。
そもそも、義手自体の性能ではなかった。
「ひぎゃ、ぇ……?」
運転席から見て突然真横に突き抜けてきた機械義手に、あり得ないという反応を示す運転手。
第六位は笑みを深くして、突き刺さった右手をそのまま運転手の胸倉にやり、無理矢理に引っ張った。
「いぎ、あぁッ、ぎがががッ!?」
砕けたガラスや変形した内装の突起物に身体中を引き裂かれる形で、拳が抜けた程度の小さな穴から引き摺り出された運転手。
格好は、黒色に揃えられた軍用スーツ。
わざわざ確認するまでもない。暗部の人間だ。
「なんで俺達を狙ったかは知らねぇが、てめぇどこの組織だ?」
隣の
全身に引っ掻いたような傷を走らせ血だらけとなった運転手は呻き声しか出せなかった。
彼はその反応をむしろ楽しむように続ける。
「いやいいよ。クソどもの溜まり場ってぇのは上下関係厳しいもんな。悪りぃ悪りぃ。
バガン!! という破裂音にも似た音が炸裂した。
彼の鉄板入りの靴が男の腹を捉えたのだ。
蹴るだけでは鳴り得ないような音を生み出した蹴りによって、男はハラワタをばら撒きながらたっぷり四回転ほどきりもみして吹き飛ばされた。
「……筋力を上げる能力だっけ?相変わらず破壊力えぐいねえ」
彼自身は『
『己の筋肉に加わるエネルギーを際限なく上昇させる能力』。
一見大したことは無さそうであるが、注目する箇所は「際限なく」という点である。
彼の能力は、その出力に「ここまで」という上限がない。
試したことはないが、その気になれば窓のないビルにも深刻な損害を与えられるだろうし、惑星も真正面から破壊できるほどの力を出せるだろう。
人間が演算を行って能力を行使する性質上、自ずと限界は見えてくるが、そうにしても大きすぎる力だ。
問題は肉体の強度である。
上述したような常軌を逸した行動をもしするとしても、こちらの腕がもげて終わりだろう。
筋力を硬化、出力を上昇させる彼の怪力は、その破壊力に自身の耐久力がついていけない。
能力の副作用としてそこらの格闘選手を軽く上回る強度はつくものの、能力の出力はかなり
彼が主に義手による打撃を利用するのは、生身の体よりも強度があり、激突時に生じる痛覚を神経遮断・無視できるという大きな利点があるからだ。
だが、言ってしまえばそれだけ。
応用性皆無の突き抜けた破壊性。
彼の力は発現後『
彼は車をまっすぐ貫いた穴の入り口に両手を添え、横開きの扉をこじ開けるように左右に広げた。強化された筋肉が金属の抵抗を無視して、ゴムでも伸ばすかのように軽々と開かれた。
目線が車体後部の荷物を彷徨う。
(装備のレベルはそこそこ。誰の思惑が絡んでるのかはわかんねぇが……あん?)
彼はあるものに反応を示すと、車の背面に周り、がががぎぎゃ、と音を立てながら能力で軽々しくバックドアを千切り取り『それ』に近づく。
大きな黒いバックだ。
中を見ると、細長い棒状のパーツを持つ道具が出てきた。
彼はそれを知っている。
(こいつは嗅覚センサー……ってことは、『
「なんかわかったの?」
「……さてな。クソの種類なんてわざわざ覚えてねぇが、動機が不明なのは面白くねぇ」
「つまり?」
「追撃に備えて情報を得る」
彼がそう宣言するのと増援の車体が到着するのは、ほぼ同時だった。
彼は先程ちぎり取ったバックドアを
「アサルトライフルくらいならそれでなんとかなる。いざって時はネットワークから戦術プランを引き出して対応しろ」
「りょーかい」
「『モニター』に護衛がいるなんて聞いてないぞ!?」
飛び出てきた単語の推測は後回し。彼は義手内部の人工筋肉に設けられた噴出点から能力を展開し、足元のアスファルトに思い切り叩きつけた。
聖人ほどの耐久性は生身の足には期待できない。義手による地面への衝撃の反作用を利用して、彼の身体がロケットのように飛び上がった。
降下地点は最寄りのワンボックスカー。
宙空で器用に体勢を整えた彼は、位置エネルギーも借りて一気に拳を叩き込んだ。
一瞬だけ、音が消えた。
爆発したはずの車はまだ中にいた人間もろとも姿を消しており、煙の中にはクレーターの中央に立つ『彼』しか居なかった。
これが、第六位の
怪物による捕食が始まる。
2
戦闘は一方的だった。
第六位が三次元移動を駆使しながら拳を振るう。
最後の一人にまで至るのに、時間はかからなかった。
「ひ、く、くそがぁっ!」
手持ちのアサルトライフルの残弾が尽きた。男は銃を投げ捨てて車から新たな装備を探そうとするが、どこをみても廃車しか転がっていない。ベコベコに歪んだ扉をこじ開けても武器が無事という保障はないし、それまでに自分は潰されるだろう、と男は判断した。
「クソはどっちだ。お前が最後の一人だな?特別に生かしておいてやるから、聞かれたことを答えろ」
男は振り返り、しかし動けない。下手に何かアクションをとれば、『彼』から放たれる肉弾が自らの体に叩き込まれることを知っているからだ。
「……、」
「目的は俺か?それともあっちの女か?」
「……ぅ」
「『モニター』ってのはなんだ?」
「……、」
口を割らない男に、彼はため息をついた。
そして。
躊躇なく。
男の膝を踏み潰した。
ぐちゃり、という異音とともに、人肉が飛び散り、骨が砕けた。
「が? あっ、あああああぁぁぁぁぁアアアッ!!!」
「指なんて甘いことは言わねぇ。
「……ッ」
「火炙り、電気ショック、鼻の穴にドリルを突っ込んで頭蓋に穴ぁ開けるのもいいかもな。おいクソ野郎、拷問道具は何がお好みだ?」
「……ひ、ぃ」
精神的にも肉体的にも追い詰めたところで、甘い蜜をやる。
彼は耳元で囁く。
「……今ならまだ、イイ医者を紹介してやれる」
「は、話すッ!話しますぅ!!」
男は痛みも忘れて飛びついた。
「さっさとしろ。渋るごとにぐちゃぐちゃの膝へ電気を流すぞ」
「話すって!目的は女の方だよ。俺たちは木原さんの指示であの女を攫うことになったんだ!」
男は焦りながら早口で答えた。
「『モニター』ってぇのは?」
「その女のことだよ。何を意味するのかは俺たちにも知らされてねぇ。本当だ、信じてくれ!!」
「チッ」
情報を聞き終えると、彼は端末を取り出し、とある番号に連絡を入れた。
『今日はよく電話がかかるね?』
「あん?何かあったのか」
『君の方こそ。彼女から聞かなかったかい?』
「後で聞く。それより、救急車をよこせ。足が潰れたクズが一人いる」
『現在僕たちは避難準備中だから即時対応とはいかないけど、それでも構わないのかい?』
「避難だと? ……何があった」
『
「……、」
彼が何か言うのを遮って、
「なんかネットワークが騒がしいんだけど。
彼は再び電話に意識を向け、
「……第七学区に馬鹿高い高級マンションがあるだろう。そこから北へ1キロ近くに、銀行と服屋が並んでる。その辺りに救急車を回せ。猶予は割とある」
『わかった。君が何をするのかおおよそ予測はできるが、くれぐれも彼女を巻き込まないようにね?』
通話を切ってから、彼は言った。
「……そんなことは、決まってる」
3
移動を始めて数分が経過した。静寂な空気に耐えきれなかったのか、
「これから……っていうか、いろいろとどうするの?」
彼は淡々と答える。
「
「ふんふん、それで?」
「闇雲に街を徘徊してるだけじゃ、奴らの嗅覚センサーを撒けない。こっちにどれだけの人員を回せるかがわからない以上、常に受け身で迎撃するのも骨が折れる。まずは家に帰って
そういうわけで、二人は一度マンションに戻って来た。
彼の主な部屋である1201号室とは別の、1209室へ。
そこには、リビングの半分ほどの面積を持つ巨大な設備が存在していた。
足元にはそれとは別個に、加湿器や電気ヒーター、頭上にはクーラーがあり、電化製品を集めたような感じだ。
「なにこれ?」
「表向きは500平米の範囲を浄化する広域空気清浄機として開発されたモンだ」
「裏向きは?」
「あらゆる細菌だのナノデバイスだのを吸収、または破壊するための空気清浄機。この部屋の中だけなら『滞空回線《アンダーライン》』も駆除できるし、一度匂いの分子構造もバラバラにしちまうから、嗅覚センサーも多少誤魔化せる」
「あんだーらいん?」などとクエスチョンマークを浮かべる
「ふうん、でもこの部屋だけってことは」
「ああ。玄関先までは追ってこれるだろうな。センサーを誤魔化しているうちに、そろそろ到着するであろう犬コロを奇襲する」
「ううん、ミサカはどうしたらいいの?」
「狙われてるのがお前である以上、俺と別行動を取るのはアウトだ。相手は腐っても暗部組織だからな。ここのセキュリティぐらい突破して踏み込んで来るだろ。お前は周囲を警戒しながら俺から見える範囲に突っ立っていればいい」
彼は言いながら、巨大な空気清浄機の横にある棺桶のような、これまた大きな箱を取り出した。
「?」
「ま、こっちが拳一つじゃ不便だからな」
開けてみると、中には無造作に大量の拳銃が詰め込まれていた。中隊クラスに分配できそうな量だ。
彼はその中から適当に一つ選んで、腰のベルトに指した。
「シャワーを浴びてる時間はねぇ」
「服は乾いたし、いいよ」
彼はそう言う
「ならいい。行くぞ」
「了解であります」
反撃が始まる。
第六位が第六位たる所以は何か。
結構頭を悩ませました。
削板軍覇が「よくわかんないから最下位ね」として第七位である以上、第六位の能力には『序列最下位』たる「使いづらさ」のようなものがあると思いました。
一方通行のような能力としての『本質』はもちろん、未元物質のような莫大な利益も、電撃使い頂点のような幅広い応用性も、原子崩しが秘める0次元の極点のような可能性も、精神面なら何でもできる心理掌握のような便利さも、なにもない。
ただの破壊。
一方通行が世界中のベクトルを束ねて攻撃転用しても、その総量を上回れる破壊性を持つ。
ただしそんなことをすれば自分が壊れるという、変な使いづらさです。
本編では窓のないビルや惑星を例えに出していますが、現状では不老不死の特性を利用しても無理矢理突破することは不可能です。
演算能力については、初期時代から超能力者として君臨していた通り、第一位や第二位ほどではないですがかなりのものを持っています。
多分、能力だけで戦うことを前提とすると、超能力者の中では一番弱いんじゃないでしょうか。
第一位と第二位は言わずもがな、筋肉を麻痺させる電撃というのは相性が最悪ですし、原子崩しは触れた物質を吸い込むように溶かすあのバリアがある時点で殴れません。心理掌握についても抗う方法はないでしょう。
地面を殴って反作用で飛び上がるのは、スク○イドの主人公みたいな感じです。
聖人と違って足腰がしっかりしてるわけではないので、速度ゼロから地面を蹴って移動しようとすると、足の骨が折れます。
筋力は補強できても骨は硬くなりませんので。
お前こそカルシウム摂るために牛乳飲めよと思うかもしれませんが、彼はそういった栄養分が体に一切吸収されません。
話が逸れましたが、第六位の能力はこのような形になりました。
第五章については、展開をどこに落ち着けるか少し迷っているので間隔が空くかもしれません。
あるいはひょこっと解決策が浮かぶかもしれません。